近年はカスタマーマーケティングという仕事が、マーケティング領域のトレンドとして注目されています。米国LinkedInが2022年1月に公表した「アメリカで急成長中の仕事トップ8[2022年版]」では「カスタマー・マーケティング・マネージャー」が浮上するなど求人も急増している模様です。
筆者の前職であるHubSpotの米国本社でも、数年前に複数のチームで分散していたカスタマーマーケティングを統括した「カスタマーマーケティングチーム」ができました。日本でも花王、サイボウズ社など「カスタマーマーケティング」に力を入れる企業が増えつつあります。
米国のSaaSプロバイダーInfluitive社が、世界7カ国200社のBtoB企業に調査した「2020 State of Customer MarketingReport」によると、約62%の企業が「過去12カ月間にカスタマー・マーケティングによって、中程度または大幅な収益向上があった」と回答しています。
また、93%が「カスタマーマーケティングを重要または非常に重要」と分類しています。収益を上げている企業の割合の高さを見ると、カスタマーマーケティングが非常に実効性のあるマーケティングだとわかります。
そこで本記事では、カスタマーマーケティングとは何か? カスタマーマーケティングの考え方、歴史、具体的な手法などを紹介します。
カスタマーマーケティングとは?
カスタマーマーケティングとは、「既存顧客に対するマーケティング活動」を指します。
以下は、米国Productmarketingallianceの定義です。
「カスタマー・マーケティングとは、現在のお客様を対象としたマーケティング活動やマーケティング・キャンペーンを指す言葉です。企業は顧客維持率の向上、解約の減少、顧客ロイヤルティの向上、ブランド・アドボカシー、コミュニティへの参加などを目的として、顧客マーケティング活動に多額の投資を行っています。(Productmarketingalliance.comより和訳)」
カスタマーマーケティングは比較的新しいトレンドワードなので、使用者によって定義に多少ばらつきが見られますが、概ねこの定義に近い内容が記載されています。
カスタマーマーケティングの考え方の発展の背景
カスタマーマーケティングの定義を読むと、長くマーケティングに携わってきた方なら「リレーションシップマーケティングと同じでは?」と感じるかもしれません。
正直、現状のカスタマーマーケティングの定義をすべて抱合しているので、今のところはカスタマーマーケティングとリレーションシップマーケティングの意味は、ほぼ同じと言えるでしょう(今後差異が大きくなることはありえますが)。
リレーションシップマーケティングとは、1980年代に提唱された、既存顧客との関係性にフォーカスしたマーケティングの概念及び手法です。
リレーションシップマーケティングとカスタマーマーケティングの歴史を、ざっとつなぎあわせてみると以下の流れです。
【1983年】
米国のLeonard L. Berryが「リレーションシップマーケティング」を提唱
【1980年代】
リレーションシップマーケティングの学術的研究が進み発展(アメリカン学派、欧州のIMPグループ、ノルディック学派等)し、ビジネス領域でもサービス業界を中心に、さまざまな企業で実践される。
【1990年半ば】
インターネットが世界に普及し始める
【2000年前後】
新しいビジネスモデル SaaSが登場。最初のSaaSベンダー、セールスフォース社は1999年設立。企業のCRMの導入が進むなか、米国で顧客のセグメントごとにマーケティング施策を実施するべきという「カスタマー・マーケティング・メソッド」が提唱される。
【2010年代】
SaaS業界で既存顧客をアシストする「カスタマーサクセス」導入企業が増加。
米国LinkedIn「最も有望な仕事2017」で「カスタマーサクセスマネジャー」が3位に。さらに、既存顧客に特化した「カスタマー マーケティング」という概念が普及し、カスタマーマーケティングチームを作る企業が増加。
【2020前後】
日本でも「インサイドセールス」「カスタマーサクセス」導入企業が増加。カスタマーマーケティングに取り組む企業が少しずつ出ている状況。
2022年、LinkedInの「アメリカで急成長中の仕事トップ8[2022年版]」で「カスタマー・マーケティング・マネージャー」が第3位に上昇。
リレーションシップマーケティングという概念は、1980年代にサービス業で生まれ、数々の研究が進められつつ、昔も今もビジネス領域で活用されています。
一方、2000年前後にSaaS業界が生まれ、CRMの普及に伴いCRMの活用実践手法としてカスタマーマーケティングという考え方が登場します。
あるいはSaaSベンダーでカスタマーサクセス部門の強化がリテンション・収益性の向上につながる事例が増加し、顧客維持の重要性がより認識されたことで、その延長線上に「カスタマーマーケティング」という考え方が出てきたのかもしれません。提唱者が正確にはわからないのですが、いずれにせよ注目されるようになりました。
このような背景から、カスタマーマーケティングの議論はSaaS業界で特に活発であり、内容も実践的です。実務上はどちらの定義から入っても問題ありません。ただ、知識を掘り下げたいとき、研究ではどのような知見があるのかをリサーチしたいときは、「リレーションシップマーケティング」で検索するとよいでしょう。
カスタマーマーケティングの根本的な考え方とは?
ここでは、カスタマーマーケティングの根本的な考え方を解説します。
前述のとおり、カスタマーマーケティングは、リレーションシップマーケティングの考え方がベースになっていると考えます。ただ、いずれも根底にあるのは「お客様との関係が大事」という商売の基本的な概念であり、企業の営業、マーケティング、開発、サポート部門などの活動すべてに、機能横断的に反映させるべきものです。
基本的な考え方は、既存顧客との関係性を重視し、良好なコミュニケーションを醸成し、顧客満足度や顧客エンゲージメントの向上を促進することで、企業収益を最大化すること。また、顧客の製品・サービスに対する意見を、開発やサポート体制に反映させ、より顧客が満足する製品・サービスを提供するなど、WinWInの関係性を創り上げることです。
アクイジションマーケティングの考えとの違い
アクイジションマーケティング(Acquisition Marketing)とは、Acquisition=取得という意味なので、いわゆる顧客獲得に特化したマーケティングのことを指します。簡単に言えば新規のリード創出?契約までに力を入れる従来型のマーケティングです。
一方、カスタマーマーケティングは契約後の顧客に対するマーケティングです。
以下の図で説明すると、アクイジションマーケティングの考え方は、左側のいわゆる「ファネル」と言われるもの。カスタマーマーケティングの考え方は、右側のフライホイールが該当します。循環型なのです。
(参照元:フライホイール)
世の中には、「新規顧客獲得も既存顧客維持も両方とも大事」と考える企業が多数派です。SNSや口コミによる影響力も、多くの企業が理解しているでしょう。
しかし、なぜか企業は既存顧客に向けたマーケティングにあまり積極的に予算を投下しない傾向があります。実際にある調査によれば、企業の44%が顧客獲得を優先している一方、顧客維持に重点を置いている企業は16%に過ぎないと判明しています。
おそらく理由のひとつは、契約後の仕事は営業部門の管轄・売上げとなるため、マーケティング部門がノータッチになりやすいからだと考えます(それ以前にマーケティング部門がないケースも多々あります)。
さらに営業部門においては、一度契約した顧客へのフォロー・既存顧客からの売上げは「当然」とみなされる傾向があります。その上で新規開拓をせよという指令が飛ぶため(分業の場合は別ですが)、営業スタッフも新規開拓に目が向きがちです(営業担当者によってばらつきが生じます)。
既存顧客に対するマーケティング、既存顧客との関係強化は、どの企業にもお題目としてはあるものの優先順位の下位になりやすく、盲点になりやすいのです。結果、顧客離れが起きやすくなるのが、アクイジションマーケティングの物足りないところです。
カスタマーマーケティングのメリット
それでは、既存顧客を対象にマーケティング活動を行うことで、どのようなメリットを得られるのでしょうか。ここでは、カスタマーマーケティングの4つのメリットを見ていきましょう。
顧客維持率・LTVの向上
継続的な収益を確保するためには、既存顧客の維持が重要になります。特にSaaSを含む多くのBtoBビジネスにおいては、顧客の初回購入はスタートラインにすぎません。顧客に自社製品やサービスを長期にわたり活用し続けてもらうことで、大きな売上げが実現するのです。
そこで、カスタマーマーケティングが大きな役割を果たします。既存顧客との関係を深め、きめ細かなフォローアップを行うことで、再購入やアップセル、クロスセルの機会が増えます。定期的なコミュニケーションやパーソナライズされたオファーの提供などにより、顧客は他社製品を検討する必要性を感じなくなり、安心して自社製品を継続利用してくれるようになるのです。
カスタマーマーケティングを通じて、既存顧客との絆を深め、顧客の目標達成をしっかりとサポートすることが、結果として顧客維持率の向上とLTV(顧客生涯価値)の最大化につながります。
紹介・口コミの増加
知人からの紹介や、実際の利用者による評価は、企業が発信する情報よりも遥かに信頼性が高く、購買意欲を左右する大きな要因となっています。ニールセンの調査でも、92%の人が「知人の紹介を信頼する」、70%が「オンラインレビューを信頼している」と回答しています。
(出典:ニールセン)
満足度の高い既存顧客は、自発的に自身の体験を周りに語り、製品やサービスを積極的に推奨してくれます。このような口コミや紹介が増えれば、企業は新規顧客の獲得コストを大幅に削減できます。なぜなら、何百万円も予算を費やして企業が一方的に宣伝するよりも、実際の利用者からの生の声の方が、潜在顧客への訴求力が格段に高いためです。
先のニールセンの調査でも、テレビCMや伝統的な新聞記事などよりも、顧客の声のほうが圧倒的に多くの信頼を獲得していると判明しています。
紹介・口コミを増やすために有効な施策が、紹介プログラムの導入です。商品割引などのインセンティブを紹介者に提供することで、積極的な紹介活動が期待できます。また、顧客の成功事例を公式サイトやSNSで取り上げ、口コミ投稿を後押しすることも重要な取り組みです。
こうした施策を通じて、潜在顧客は実際の利用者の体験を知ることができ、企業の信頼性を確認しやすくなります。結果として、口コミや紹介がさらに加速度を増し、新規顧客の獲得が飛躍的に促進されるのです。優れた製品・サービスの提供はもちろんですが、戦略的な口コミ・紹介マーケティングが、新規顧客獲得の大きな原動力になるでしょう。
顧客理解が進む
カスタマーマーケティングは、顧客データに基づく意思決定が肝心です。顧客の購買履歴、Web上の行動、問い合わせ内容などのデータを収集・分析し、一人ひとりの顧客に最適なコミュニケーションを実現できます。
この取り組みを重ねていくことで、顧客に共通する課題やニーズ、行動パターンが見えてくるはずです。こうした深堀りから、製品開発の方向性やマーケティング施策の最適化につながる重要な示唆が得られます。
さらに顧客理解が進めば、パーソナライズされたアプローチが可能になります。マッキンゼーの調査でも、76%の回答者がパーソナライズされたコミュニケーションを求めており、この重要性が高まっていることがわかります。
カスタマーマーケティングでは、こうしたデータに基づく一人ひとりへの最適化を追求します。それにより、顧客がブランドに対して不満を抱くリスクを最小限に抑え、より深い絆を築くことができるのです。顧客理解の深化は、パーソナライズ体験の実現を通して、顧客ロイヤリティの向上にもつながります。
顧客満足度の向上
顧客満足度の向上は、カスタマーマーケティングにおける最重要課題のひとつです。満足度の高い顧客は、ブランドに対する強い愛着とロイヤリティを持ち、長期にわたり継続して製品やサービスを利用し続けてくれます。
しかし、顧客満足を実現するには、単に顧客の期待値に応えるだけでは不十分です。企業は顧客の期待を上回る卓越した顧客体験を提供する必要があります。そのためには、丁寧な顧客理解に基づいたパーソナライズされた施策の実行や、顧客からの貴重なフィードバックを確実に反映させる改善が不可欠となります。
こうした顧客志向のアプローチを徹底することで、顧客満足度は格段に向上し、結果として顧客離れのリスクが大幅に低減されます。企業は高いロイヤリティを持った顧客基盤を確立でき、安定的な収益確保につながるのです。
カスタマーマーケティングの取り組みの考え方
カスタマーマーケティングは、顧客との接触方法に応じて異なるアプローチを取ります。具体的には、ハイタッチ、テックタッチ、ロータッチの3つの方法が含まれ、それぞれが異なる顧客ニーズに対応します。これらの方法を効果的に組み合わせることで、顧客に最適なマーケティング戦略を構築することができます。
ハイタッチ
ハイタッチとは、顧客一人ひとりに対して個別対応を行うパーソナライズ体験を重視するアプローチです。高価値顧客やBtoB企業などの大口顧客など、自社に多くの価値をもたらしてくれる顧客を対象にします。
パレートの法則(80:20の法則)を応用すれば、自社の売上げの8割は2割のハイタッチ顧客がもたらします。つまりハイタッチに属する顧客を失えば、大きな損失を被ることになるため、ハイタッチの顧客維持率は100%を目指しましょう。
具体的な取り組みは以下の通りです。
- 専任アカウントマネージャーの設置
- 電話や対面でのアップセル/クロスセルの提案
- 更新日前の連絡
- VIPイベントの招待
- カスタマイズしたトレーニング
ハイタッチモデルでは、ビデオ通話や対面を通して直接顧客とのやり取りが行われるため、人件費をはじめとした多くのリソースが費やされます。そのため、自社が投下するコストに見合った顧客を選定しなければいけません。
テックタッチ
テックタッチは、テクノロジーを活用して多数の顧客と効率的に接触するアプローチです。自動化されたメールキャンペーンやチャットボット、オンラインサポートを通じて、多くの顧客に同時にリーチします。コスト効率が高く、大規模な顧客ベースを持つ企業にとって有用です。
テックタッチのポイントは、顧客データを活用し、各顧客にとって最適なタイミングで、最適なメッセージを届けることです。たとえば、顧客アンケートで特定の機能に低評価をした顧客に、機能改善を知らせるメールを送信するなど。このように、顧客と直接やり取りをしなくても、パーソナライズ化した人間味を持たせることが重要です。
テックタッチは、顧客のライフサイクル全体にわたって継続的にコミュニケーションを図ることができるため、顧客の満足度とエンゲージメントを維持しやすくなります。
ロータッチ
ロータッチは、ハイタッチモデルとテックタッチモデルの中間に属します。すなわちハイタッチモデルほど個別にコミュニケーションはとらないものの、必要に応じて個別対応するというものです。
具体的な項目は以下の通りです。
- 半年または四半期ごとのミーティング
- ヘルプセンター
- チュートリアル動画
- ウェビナー
このように顧客との接触頻度を抑えつつ、必要なサポートの提供をします。基本的な情報提供やセルフサービスツールの利用を促進することで、顧客が自分で問題解決できるよう支援することが重要です。ロータッチは、製品やサービスが比較的シンプルであり、顧客が自力で利用できる場合に適しています。
特に、中小企業やリソースが限られている企業にとっては、効率的かつ効果的な顧客対応を実現するための重要な手段となるでしょう。
カスタマーマーケティングの手法
カスタマーマーケティングの手法には、多岐にわたるアプローチが存在します。これらの手法を効果的に組み合わせることで、顧客との関係を強化し、長期的な成功を収めることができます。以下に、代表的な手法を詳しく掘り下げて説明します。
導入事例・お客様の声
導入事例やお客様の声は、カスタマーマーケティングにおいて重要な手法です。実際の顧客がどのような課題を抱え、どのように自社製品やサービスを利用して成功を収めたかを具体的に示すことで、他の潜在顧客に対して信頼性と説得力を醸成できます。
導入事例には、主に以下の要素が含まれます。
- 顧客が抱えていた課題
- 導入プロセス
- 自社を選んだ理由
- 具体的な施策と成果(数値を用いる)
また、顧客の声を引用し、満足度や成功体験を強調することで、よりリアルなイメージを伝えられます。新規顧客は自身のビジネスにも同様の成果が期待できると感じ、購買意欲が高まるでしょう。
(出典:株式会社SEデザイン)
株式会社SEデザインの調査によれば、64%の企業が導入事例を参考にしている、そのうち72%が自社に近い業界の事例を求めていると判明しています。この調査結果を踏まえると、業種や企業規模、課題などでセグメント分けして事例記事を提供するとよいでしょう。
(出典:HubSpot)
HubSpotの場合、業種や導入製品、企業規模、目的などで事例検索が行える仕様です。これにより顧客は、自社と類似した業種や課題などの事例を効果的に探せます。
カスタマーマーケティングは顧客に対する深い理解があるからこそ、積極的に事例取材をお願いし、導入事例を充実させましょう。
紹介プログラム
紹介プログラムは、既存の顧客が新しい顧客を紹介することで、両者に報酬や特典を付与する施策です。
紹介プログラムの成功には、インセンティブの設定が重要です。紹介者と被紹介者の両方にメリットがあるようなインセンティブを提供することで、プログラムの効果を最大化できます。また、紹介活動の成果を測定し、定期的にプログラムを見直すことで、継続的な改善が図れます。
(出典:みんなの銀行)
たとえば、みんなの銀行では「お友だち紹介プログラム」という、紹介する人とされた人が現金1000円をもらえる紹介プログラムを実施しています。銀行側としては、2000円の投資で1人の顧客を獲得できるため、高い費用対効果を実現できているのではないでしょうか。
海外企業Ambassadorによれば、BtoBソフトウェア企業はリファラルプログラムを通じてeコマースブランドの3倍の収益を上げており、平均ROIは350%にもなるとのことです。
(出典:Ambassador)
単価の高い商材を扱う場合、紹介プログラムで安価に新規顧客を獲得し、カスタマーマーケティングで維持率を高めることで、多くの収益を挙げられるでしょう。
インフルエンサー・推奨者(Advocate)
インフルエンサーや推奨者を活用する手法は、彼らの影響力を通じてブランド認知度を高め、新規顧客を獲得するための手段です。インフルエンサーは、フォロワーに対して信頼性の高い情報を提供するため、その推薦は高い信頼を得ることができます。
インフルエンサーマーケティングは、BtoC向けと思われる方が多いかもしれませんが、BtoBでも活発に使用されています。
たとえば、世界最大のソフトウェア企業SAPは、毎年開催されるSAPPHIREカンファレンスで新製品Leonardoを革新的な技術ビジョンとして打ち出すため、「The Path to Digital Innovation」と呼ばれるインタラクティブな体験を創り出しました。
この体験では、SAPのCEOであるBill McDermott(ビル・マクダーモット)氏と32人のトップインフルエンサーが、IoT、機械学習、AI、ブロックチェーン、アナリティクス、ビッグデータ、クラウドなどの革新的技術に関するインサイトを共有したのです。
参加したインフルエンサーの全員が「The Path to Digital Innovation」のコンテンツをシェアしたことで、驚異的なリーチを達成し、2100万回以上のビューの獲得に成功しました。
専門家やインフルエンサーにイベントへの登壇やブログへの寄稿、有名企業に事例登場などしてもらうことで、BtoB企業でもインフルエンサーマーケティングに取り組めます。
ユーザー生成コンテンツ (UGC)
ユーザー生成コンテンツ(UGC)は、SNS投稿やレビュー、ブログ記事などの顧客自身が作成したコンテンツのことです。ロイヤリティの高い顧客はポジティブなUGCを投稿し、新規顧客を引き寄せてくれます。
まず、UGCを生み出す大前提として顧客満足度を高めなければいけません。ロイヤリティの低い顧客がポジティブな投稿をすることはないでしょう。そのうえで、顧客にコンテンツを投稿してもらえるように積極的に促しましょう。
(出典:Notion)
たとえば、Notionはボランティアのアンバサダー制度を用意しています。アンバサダーには新機能への早期アクセスや限定ノベルティなどの特典を付与する代わり、Notionの活用方法を共有することをお願いしています。
国内のNotionアンバサダーは、X(旧Twitter)やYouTube、noteなどで情報発信を行い、ユーザー拡大に貢献しています。その他、企業イベントやウェビナーでリアルタイム中継を促すなどの施策も有効です。
ユーザーコミュニティ(イベント/サイト)
ユーザーコミュニティは、顧客同士が情報交換やサポートを行う場を提供することで、エンゲージメントを高める手法です。リアルイベントやオンラインフォーラムなど、さまざまな形で構築できます。
世界的に著名なマーケターMark・Schaefer(マーク・シェーファー)氏は著書「Belonging to the Brand」の中で、コミュニティはユーザーとつながる有益な方法で、顧客がコミュニティに属すれば営業職の強い広告やマーケティングメッセージでの接触が不要になると述べています。
また、マーク氏はコミュニティの効果を証明するために、以下の研究結果も紹介しています。
- コミュニティメンバーの66%が、そのブランドに高いロイヤルティを持っていると回答
- 顧客の27%が、ブランドに所属していることがそのブランドと取引する意思決定に影響を与えると答えている
- 66%の企業が、コミュニティが顧客維持に影響していると回答
このようにユーザーコミュニティは、ブランドと顧客のつながりを強める重要なチャネルです。
効果的なコミュニティ運営には、定期的なイベントの開催や有益なコンテンツの提供、活発な交流を促すモデレーションなどが重要になります。これにより、顧客は製品知識を深め、他のユーザーとのつながりを実感できます。
(出典:HubSpot)
実際、HubSpotはオンラインコミュニティを設け、顧客・パートナーとの情報交換の場を提供しています。加えて、年次の大規模イベントも開催しており、最新情報の共有やUGCの創出の場となっています。こうした取り組みを通じて、HubSpotはユーザーとのつながりを強固なものにしているのです。
顧客満足度調査
顧客満足度調査は、顧客の意見や感想を収集し、製品やサービスの改善に役立てるための手法です。定期的な調査を行い、顧客の期待やニーズを把握し、改善に反映させることで収益増加や顧客満足度の向上などを見込めます。
たとえば5:25の法則が示すように、既存顧客の離脱率を5%改善すれば、収益の25%が増加するといわれています。継続的に顧客満足度調査を実施し、既存顧客の課題や不満を特定して、効果的に改善できれば収益が伸ばせるわけです。
顧客満足度調査を効果的に実施するためには、簡単かつ迅速に回答できるアンケート設計が重要です。また、顧客のロイヤリティを測定するNPS?(ネットプロモータースコア)も合わせて実施するとよいでしょう。
ニュースレター
ニュースレターは、最新情報や有益なコンテンツを定期的に配信し、信頼関係や購買意欲を高める手法です。
カスタマーマーケティングで効果的にニュースレターを活用するためには、パーソナライズしたメール配信が重要となります。顧客の行動や興味関心に基づいて、カスタマイズされた情報を提供しましょう。
たとえば、自社製品の強みとなる新機能を試したことがない顧客には、ニュースレターで活用法を紹介する。顧客満足度調査で得られたフィードバックを基に、改善点や新たな取り組みをニュースレターで共有することで、顧客の声が反映されていることを示し、信頼関係を強化するなどです。
このように顧客データに基づいて、パーソナライズ化したニュースレターを配信しましょう。ニュースレターは配信インフラさえ整えば、低コストで多くのユーザー層にアプローチできるため、費用対効果の高い施策です。
オンボーディング施策
オンボーディング施策は、新規顧客が製品やサービスをスムーズに利用開始できるよう支援するプロセスです。
オンボーディングの目的は、早い段階で顧客に自社製品の価値を実感してもらうこと。極端な例ですが、価値を実感するまでの期間が、導入から2カ月の場合と11カ月の場合では、11カ月のほうが更新率が低下するでしょう。
それでは、どうすれば早い段階で顧客に価値を提供できるのでしょうか。
ポイントは、オンボーディング段階でいくつかの実現可能性が高い具体的な指標を顧客に示すことです。顧客に指標を選んでもらったうえで、オンボーディングに取り組むことで、顧客に迅速に価値を提供できるようになります。
オンボーディング施策には、詳細なガイドやチュートリアル、ウェルカムメールの送信、初期設定のサポートなどが含まれます。特に複雑な製品やサービス、ハイタッチの場合、ウェビナーや個別サポートセッションを提供することで、顧客が円滑に利用開始できるよう支援することが重要です。
カスタマーマーケティングで重要な指標(KPI)の一部を紹介
カスタマーマーケティングにおいて、その効果を正確に測定し、戦略の改善に役立てるためには、適切なKPIを設定することが不可欠です。以下に、カスタマーマーケティングで特に重要なKPIを紹介し、それぞれの概要と計算式を説明します。
顧客維持率(リテンションレート)
顧客維持率は、一定期間内にどれだけの顧客が企業の製品やサービスを引き続き利用しているかを示す指標です。
顧客維持率を算出するうえでは、まずは期間と顧客の定義を明確にしなければいけません。月間なのか年間なのか、顧客はハイタッチなのか新規なのかなどを定義します。
たとえば、月の始めに100人の顧客がいて、その期間内に20人の新規顧客を獲得し、月の終わりに90人の顧客がいた場合、顧客維持率は [(90 - 20) ÷ 100] × 100 = 70% となります。
解約率(チャーンレート)
解約率は、一定期間内にどれだけの顧客が製品やサービスの利用をやめたかを示す指標です。
たとえば、期間の始まりに200人の顧客がいて、その期間内に30人の顧客が解約した場合、解約率は (30 ÷ 200) × 100 = 15% となります。
上記の計算式はカスタマーチャーンレートの計算式であり、その他に以下の3つの解約率があります。
- レベニューチャーンレート
- ネットレベニューチャーンレート
- グロスレベニューチャーンレート
SaaS型ビジネスにおいて、安定した収益を出すためには低い解約率を実現することが不可欠です。実際に国内を代表するSaaSであるSanSanの平均月次解約率は0.46%、マネーフォーワードは0.8%と非常に低い解約率を実現しています。
顧客生涯価値(LTV)
カスタマーマーケティングで最も重要な指標が顧客生涯価値(LTV)です。
これは、顧客が生涯にわたって企業にもたらす総利益を示します。各顧客のLTVを算出することで、自社にとっての顧客の価値が分かり、優先的にリソースを割くべき顧客が判明します。
たとえば、ある顧客の平均購入額が100万円、年間の購入頻度が1回、顧客の平均継続期間が5年である場合、LTVは 100万円 × 1回 × 5年 = 500万円 となります。
顧客基盤が固まってきたら、新規顧客の創出を維持しながら、LTVを伸ばしていく施策も重要となります。特にBtoBにおいては顧客数に限りがあるため、いかに既存顧客のLTVを伸ばせるかがブランド成長のカギとなるでしょう。
ネットプロモータースコア(NPS?)
ネットプロモータースコア(NPS?)は、顧客のロイヤルティを測定する指標で、アメリカの経営コンサルタントFred Reichheld(フレッド・ライクヘルド)氏によって提唱されました。
ネットプロモータースコアを定期的に測定することで、時系列的に顧客の愛着や信頼感を測定できます。徐々にスコアが向上すれば顧客満足度は高まっている一方、低下していれば機能やサポート体制などに原因があると考えられます。
計算方法は、顧客に「この製品/サービスを友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?」と質問し、0から10のスケールで評価してもらい、回答者を以下の3つのカテゴリーに分類します。
- プロモーター(推奨者):9-10
- ニュートラル(中立者):7-8
- ディトラクター(批判者):0-6
ネットプロモータースコアは、プロモーターの割合からディトラクターの割合を引いて計算します。
- ネットプロモータースコア = プロモーターの割合 - ディトラクターの割合
たとえば、100人の回答者のうち、50人がプロモーター、