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トラクションとは? スタートアップビジネスでトラクションが重要な理由と具体的な獲得チャネルを紹介Column

2025.09.18

トラクションとは? スタートアップビジネスでトラクションが重要な理由と具体的な獲得チャネルを紹介

スタートアップにおける「トラクション」とは、現状の財務状況と今後の成長性を示し、投資家が投資先を選ぶ際の有力な基準を指します。

スタートアップにとって、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルから支援を受けられるかどうかは、事業成長に向けたひとつの関門です。事業の成功可能性や、自社が投資に値する企業であることを簡潔・明確に伝えなければなりません。

そのために、スタートアップ企業の経営者は、投資家へのピッチ(プレゼンテーション)内に、「トラクション」の現状や、今後の行方のアウトラインをしっかりと盛り込むことが重要です。

本記事では、BtoBスタートアップ企業が知っておくべきトラクションについて、重要性から指標例、トラクションを獲得する手法、トラクション確立後の注意点まで詳しく解説します。投資家に向けたピッチを作成中の方や、ピッチ大会参加に向けて準備を進めている方は、ぜひ参考にしてください。

トラクションとは?

トラクション(traction)とは、直訳すると「牽引する力」という意味です。

Traction= 「引っぱること、牽引(けんいん)、牽引力、(道路に対するタイヤ・滑車に対するロープなどの)静止摩擦、交通輸送、収縮、(骨折治療などの)牽引」(出典:Weblio

ビジネス英語では、get  tractionでプロジェクトなどがどんどん進行している様子、gain tractionでビジネスが勢いにのっている、支持されていることなどを表します。

スタートアップ企業にとってのトラクションの意味

ただスタートアップの世界では、トラクションは「牽引力」という意味だけでなく「事業成長の可能性を示す初期の実績」という意味合いでも用いられます。

米国では投資家への説明資料(ピッチ)に、トラクションが盛り込まれることは一般的であり、テンプレートの必須項目といってもよいでしょう。トラクションのテンプレート

(出典:Slide members -Traction Template

例えば、SaaSスタートアップの初期実績としてのトラクションには、以下があります。

  • トラクション例:顧客数、成長率、MRR ARR CAC LTV CS 、etc

スタートアップ企業は、実績豊富とまではいかない段階で投資家に説明することも多いので、必ずしも明確な指標というわけではなく「成長の兆し」「可能性を示す初期指標」という解釈まで含まれます。

トラクションが重要な理由としては、以下のCB INSIGTSのデータでわかるように、マーケットニーズがないことがスタートアップがうまくいかない要因になっているからです。

スタートアップの失敗理由

(出典:Entrepreneur「Infographic: The 20 Most Common Reasons Startups Fail and How to Avoid Them」)

トラクションは、その製品・サービスのニーズが市場にあるかどうかを示す指標。投資家が投資先企業を選ぶときの有力な基準になります。もちろん起業家にとっても、Go to marketに移行するために必ず意識すべき重要事項です。

スタートアップがトラクションを意識する重要性

スタートアップにとって、トラクションは単なる流行りのビジネス用語ではなく、ビジネスの成功と持続可能性を測るための重要な指標です。トラクションは、新しい顧客を引き付け、一貫した成長を示すことに大きく関連します。

つまり、スタートアップにとってトラクションは会社の将来を築く基盤であり、自社のビジネスモデルの価値を証明し、市場内で際立った存在へと成長するために欠かせない要素です。

ここでは、スタートアップがトラクションを意識すべき重要性を5つの視点からみていきましょう。

収益性の評価

ARRの成長率を示したグラフ

(出典:medium

スタートアップにおいて収益性の評価は、市場での製品やサービスの受容度、ビジネスモデルの実効性、そして企業の持続可能性を示す重要な指標です。収益性は、顧客が製品やサービスに対して実際に支払う意欲があるかどうかを反映し、ビジネスモデルの実効性を証明します。

つまり、収益性が高いということは、それだけ顧客が製品やサービスに価値を見出し、それに対して金銭的な支払いを行っていることを意味します。安定した収益の増加や高い利益率は、市場における製品やサービスの需要が高いことを証明し、成功可能性を示せるため、投資家やパートナーからの信頼を得るための鍵となります。

収益性の高いスタートアップは、市場での競争力を示し、長期的な成功への道を歩んでいるといえるでしょう。収益性の向上は、スタートアップが市場での地位を確立し、成長を続けるための基盤を築くことに直結します。

自社のビジネスの価値の証明と改善

トラクションは、スタートアップが自社のビジネスの価値を証明し、継続的にその価値を高める上で極めて重要です。市場における製品の必要性と効果を明確に示すことは、自社や自社の製品・サービスの存在意義を高めることに繋がります。

製品やサービスの価値を証明することは、市場での競争力を強化し、新たな顧客層を開拓する効果もあります。例えば、ユーザーフィードバックを活用して製品を改善し、顧客満足度を高めることは、市場でのブランド認知度を高め、製品の差別化を図ることができるでしょう。

このように、製品やサービスの価値を継続的に向上させることで、スタートアップは市場での地位を確立し、ビジネスの成長機会を拡大できます。したがって、市場の変化に対応し、常に顧客のニーズに合わせた製品開発を行うことは、ビジネスの持続的な成長に欠かせません。

投資家からの信頼

スタートアップやユニコーン企業にとって、投資家からの信頼を獲得することは、ビジネス成長と成功のために必要不可欠です。とりわけ投資家は、事業の収益性、市場での成長、製品の革新性など、あらゆる側面からビジネスを評価します。

その際、明確なビジネスモデルと実績のある市場適合性を示すことは、投資家にとって魅力的な投資先と映るでしょう。その中でもトラクションの指標、特にユーザー数やアクティブユーザー数、収益率などは、ビジネスが堅調に成長していることを示す重要な指標となります。これらの指標が高ければ、投資家はビジネスの将来性を高く評価するため、資金調達やパートナーシップの獲得に成功する可能性が高まります。

したがって、投資家からの信頼を得るために、ピッチ内にトラクションの現状や、今後の行方のアウトラインをしっかりと盛り込むことが重要です。その結果、資金調達やネットワーク拡大、そしてビジネスのスケールアップにつながるでしょう。

シリーズBの資金調達額推移を示したグラフ

(出典:medium

競争力の強化

市場内で競争力を強化することも、スタートアップの成功において重要な要素です。競争力の強化とは、市場での独自の地位を築き、競合他社と差別化を図ることに他なりません。どのように競争力を高めるかといえば、革新的な製品・サービスの開発、効果的なマーケティング戦略、顧客との強固な関係構築による市場内でのシェア拡大などが挙げられます。

例えば、ユニークな製品特性や優れた顧客サービスは、「顧客ロイヤルティ」を高め、リピート率やLTV(顧客生涯価値)の向上につながるでしょう。また、マーケットシェアの拡大は、トラクションの要素としても重要であり、競合他社との比較や市場成長率とバランスによって評価されます。このように、競争力が高いスタートアップは、市場の変動に対応しやすく、長期的に安定した事業成長を遂げる可能性が高いといえるでしょう。

優秀な人材の採用

優秀な人材の採用は、スタートアップの成長とイノベーションを推進する上で非常に重要です。新しいアイデアや専門的スキル・実績、豊富な経験を持つ人材は、ビジネスのさまざまな側面を強化するため、製品開発やマーケティング戦略、顧客サービスの向上といったあらゆる面で貢献します。

一方、労働人口の減少や価値観の多様化により、多くの業界で人材採用難がさけばれる中、大手企業ほど資金力を持たないスタートアップが優秀な人材を獲得することは容易ではありません。

高齢化の推移と将来推計

(出典:高齢化の推移と将来推計(総務省)

そのためにもトラクションを意識的に高めることで、市場内での競争優位性を示したり、将来的な成功可能性を求職者に向けて効果的に伝えたりすることが可能です。そのためにも、ネットワーキングやコミュニティ活動を通じて、関連する業界や市場での存在感を高めておくことが大切です。

優秀な人材を安定的に確保し続けることは、競争の激しい市場内でスタートアップが成功するための基盤となるでしょう。

トラクションを測定する指標例

スタートアップにおけるトラクションの測定は、その成長と市場での受容度を評価する上で重要です。トラクションを測定するためには、収益性、製品価値の向上、革新的な技術力、ユーザーエンゲージメントなど、さまざまな指標が考慮されます。

これらの指標は、スタートアップが市場でどのように受け入れられているか、どの程度の成長を遂げているかを示すため、投資家やステークホルダーにとって重要な情報源です。続いて、それぞれの指標を詳しくみていきましょう。

収益性

収益性は、ビジネスが成功しているかどうかを示す基本的かつ重要な指標です。これは、スタートアップが市場での製品やサービスに対する実際の需要を捉え、それに対してどの程度応えられているかが反映されます。

例えば、収益性が増加している場合は、市場での製品の受容度が高いことを示し、投資家やステークホルダーに対してビジネスモデルの実効性や成長性を証明することが可能です。具体的には、収益の伸び、粗利益などの財務指標を通じて収益性を評価できます。

製品価値や改善、革新的な技術力

製品価値の改善と革新的な技術力の向上は、トラクションを測定する上で重要な指標です。これらは、スタートアップ企業がいかに市場や顧客のニーズに応え、継続的・安定的に製品やサービスを改善し、革新的な技術を有しているかを示します。

技術力や商品価値を高めるには一朝一夕ではいきませんが、顧客のフィードバックをもとに課題を特定したり、時代にあった最先端の技術を導入したりすることが大切です。特に、テクノロジーの活用によってイノベーションが引き起こされ、これまでになかった新しい製品やサービスが誕生することもあります。

逆にいえば、どんなに優れた製品・サービスであっても、継続的に製品価値の向上に努めなければ、「コモディティ化」が起きてしまい、瞬く間に市場内での競争力が弱まってしまうでしょう。したがって、製品価値の向上や技術革新に挑むことは市場での競争力を保つことにもつながります。

ユーザーエンゲージメント

ユーザーエンゲージメントは、顧客が製品やサービスにどれだけ関与しているかを示す重要な指標です。この指標は、ウェブサイトの訪問数、SNS(ソーシャルメディア)でのフォロワー数といったように、オンラインでの活動などを通じて測定されます。

例えば、「登録ユーザー数」「アクティブユーザー数」など、ユーザーがプラットフォーム上で費やす平均時間(日次または月次)の指標が含まれます。つまり、ユーザーエンゲージメントが高いということは、スタートアップがユーザーに対して製品の使用を継続するよう促す魅力的な価値を提供できていることを意味します。

高いエンゲージメントレベルは、顧客が製品に深い関心を持ち、積極的に関与していることを示すため、市場での製品の受容度とブランドの認知度を反映するなど、ビジネスの成長に直結する重要な指標となるでしょう。

メディアでの露出・存在感

テレビや雑誌、インターネットなど、メディアでの露出および存在感は、スタートアップのトラクションを測定する上で重要な指標です。なぜなら、メディアに取り上げられることによって自分たちのビジネスが広く知られるようになり、社会的な関心や企業のとしての信頼度を高める効果が期待できるからです。

例えば、パンのサブスクサービス「パンスク」を展開する株式会社パンフォーユーでは、創業時から広報PRに取り組んだ結果、認知度獲得につながりました。

また、ポジティブなメディアカバレッジ(各メディアが特定のトピックに対して報道すること)やソーシャルメディアでの活発な議論は、ブランドの認知度を高め、新しい顧客や投資家の関心を引くことにもつながります。

市場への浸透や認知の獲得は、スタートアップの価値がターゲット層の共感を呼んでいることを示すため、強いトラクションの兆しといえるでしょう。このように、メディアでの露出と存在感が高いスタートアップは、市場での信頼性と影響力を確立しているため、さらなるビジネスの成長が促進されやすくなります。

パートナーシップの構築

パートナーシップの構築も、スタートアップのトラクションを測定する上で欠かせない指標です。パートナーシップとは、自社が他の企業や組織と協力関係を築き、市場での立場を強化している状態を示します。特に、業界リーダーや影響力のある企業とパートナーシップを結ぶことで、企業としての信頼性と市場での地位が飛躍的に高まります。

例えば、「NP掛け払い」サービスを展開する株式会社ネットプロテクションズは、広告費の4分割・後払いサービスを手掛ける株式会社バンカブルと戦略的パートナーシップを構築し、BtoBの決済代行市場におけるシェアを拡大および、事業成長スピードを加速させることに成功しました。

このように、強力なパートナーシップを持つスタートアップは、リソースの共有、知識の交換、そして市場での競争力が強化できるため、ビジネスの成長をより加速させることができます。

AD YELLとNP掛け払いのロゴ

(出典:株式会社ネットプロテクションズ

トラクションをまとめた参考書籍

もっとも経営者の立場としては「初期の実績が重要なことは百も承知 。トラクションを獲得するまでが大変なんだ」というところかと思います。

では、トラクションを獲得するためには具体的に何をすればよいでしょうか?

まず、トラクションを得るための手法についてまとめた書籍を紹介します。今のところ日本で出ているトラクション関連の本はこの2冊だけです。

それぞれトラクションの定義はやや異なり、1冊は「トラクション=牽引力」、もう1冊は「トラクション=初期の顧客数」という視点で書かれています。いずれも事業をスケールさせるノウハウが詰まった良書でレビューも高評価です。

『TRACTION トラクション ビジネスの手綱を握り直す 中小企業のシンプルイノベーション』

トラクション関連書籍1

(出典:Amazon

  • 著者:全世界で13万社以上の企業が導入しているEOS(Entrepreneurial Operating System)の開発者Gino Wickman(ジーノ・ウィックマン)氏。
  • 内容:事業をトラクションさせる(牽引する)ために、経営に欠かせない「ビジョン」「データ」「プロセス」「トラクション」「課題」「人」の6つのモジュールと、ビジネスの課題を解決する20のツールで構成されるEOSを紹介。EOSは米国で「大企業はMBA、中小企業の経営戦略はEOS」といわれる実績のあるメソッド。ビジョン・トラクションシートなどのツール説明をしながら、中小企業がイノベーションを起こすステップをわかりやすく解説しています。

参照:『TRACTION トラクション ビジネスの手綱を握り直す 中小企業のシンプルイノベーション』

『トラクション —スタートアップが顧客をつかむ19のチャネル』

トラクション関連書籍2.

(出典:Amazon

  • 著者:「あなたを追跡しない検索エンジンDuckDuckGo(ダックダックゴー)」の創業者Gabriel Weinberg(ガブリエル・ワインバーグ)氏、スタートアップの大成功と失敗の両方を経験した成長コンサルタントのJustin Mares(ジャスティン・メアーズ)氏の共著。
  • 内容:「トラクション推進力を得るために十分な顧客)」という視点で、トラクションを獲得するためのフレームワークと19の顧客獲得チャネルを紹介しています。トラクションを獲得するためにどのチャネルで何をすればよいかが事例つきで紹介されています。
    「モノづくりとトラクション(顧客を掴む)の重要度は50%ずつと考える」「どのチャネルに対しても、まずは等しく可能性を考える」など、スタートアップ企業に役立つアドバイスが満載です。

参照:『トラクション —スタートアップが顧客をつかむ19のチャネル

トラクションを生むためのチャネル19個を紹介

以下より、書籍『トラクション —スタートアップが顧客をつかむ19のチャネル』に紹介されているチャネルについて、日本市場向けの内容を含みつつ解説します。

1.バイラルマーケティング

バイラルマーケティング(Viral marketing)」とは「Viral=ウィルス」のように評判が速く拡散する仕掛けを事前に組み込むマーケティング手法です。一見、自然発生的に大ヒットしたかのように見えるプロダクトも、実はバイラル・マーケティングの成功だったケースは珍しくありません。

もともとは、Hotmailがメール下部に「P.S. Hotmailで無料電子メールを入手しよう」というメッセージを入れ、送信者の意図に関わらずhotmailが使われると自動的に宣伝される仕組みを採用したことが由来です。

バイラルマーケティングの目的は、過度に宣伝することなく自社の認知を拡大し、ユーザーから信頼と支持を得ることです。バイラルマーケティングは、良質なコンテンツを投稿してユーザーからの反応や拡散を待ちます。「宣伝っぽさ」のないコンテンツのシェアが広まることで、ユーザーからの信頼が自然と高まっていくのです。

  • How toコンテンツ
  • 分量が適度に多いコンテンツ
  • トレンドに乗っている
  • あからさまに宣伝であることがわかる

バイラルマーケティングは2種類に分けられます。商品自体に仕組みを埋め込む手法を「一次的バイラルマーケティング」と呼び、「紹介キャンペーン」のように口コミとインセンティブを活用して拡散させる手法を「二次的バイラルマーケティング」といいます。

成功例:AmazonDropbox(英語)Hotmail、など

一次的バイラルマーケティングの事例として、中Good Morning Technologies(早安科技)社が運営するモバイルアプリ「画音(ファーイン)」が挙げられます。画音は、テキストではなくビデオメッセージという手法でコミュニケーションを取るアプリであり、WeChatの育て親と言われるGenie氏がリリースしました。

トラクションにつながる1次的バイラルマーケティング「画音」の事例

(出典:画音

画音の特徴は「アプリは、友達が4人以上いないと使えない」ということです。これによりバイラルを起こし、ベンダー側はコストをかけずにユーザーが増えていきやすい仕組みを形成しています。

二次的バイラルマーケティングの事例としては、各種企業のSNSでのキャンペーン活動が代表的です。

例えば、無印良品のTwitterアカウントは「 #◯◯ をつけたSNS投稿を、実店舗で提示すると特別なプレゼント」といったキャンペーンを行い、認知を拡大。2023年4月現在は、フォロワー数80万人超えの巨大アカウントになっています。無印良品Xアカウント(旧Twitter)

ただし、二次的バイラルマーケティングの場合、インセンティブ目当ての利用者が増え、予定よりコストがかかりすぎて失敗する可能性も多いにあります。バイラルマーケティングについてより知りたい人は、こちらの本もおすすめです。

2.PR

PRとはパブリック・リレーションズ( Public Relations)の略で、対外的な広報業務のことを指します。具体的には各メディアに自社の事業について定期的に発信して、良好な関係性を保ち、記事としてとりあげてもらったり、自社を理解してもらったりすることでフェアな報道がされることを目指します。

パブリック・リレーションズの定義は、以下のとおりです。

『広報・パブリックリレーションズは、「関係性の構築・維持のマネジメント」である。企業・行政機関など、さまざまな社会的組織がステークホルダー(利害関係者)と双方向のコミュニケーションを行い、組織内に情報をフィードバックして自己修正を図りつつ、よい関係を構築し、継続していくマネジメント』

上記では広報とPRが分けられていますが、両者に大きな違いはありません。海外で発祥したPRという概念が戦後日本に導入されてから、日本では「PR=広告宣伝」といった解釈がされてきました。

しかし本来、「パブリック・リレーションズ(PR)」という言葉には幅広い意味があり、広告宣伝だけでなく、個人や組織が情報を管理・発信し、社会的認知に影響を与える活動も指しています。

つまり広告とは違い、有料で何かを掲載するのではなく、消費者や社会全般に有益な情報を発することでメディアに無償で記事にとりあげてもらう活動であるといえるでしょう。

例えば、ドイツビールなどを販売するハイネケン・ジャパン株式会社は、コロナ禍ならではのPRで大きな反響を獲得しました。

トラクションにつながる「ハイネケン」のPR Timesの事例

(出典:HUFFPOST「ハイネケンが店のシャッターを宣伝媒体に コロナ禍の飲食店支援」)

同社は、緊急事態宣言によるロックダウンで多くの飲食店が営業停止の苦境に立たされた際、各飲食店のシャッターに自社の広告を掲載。営業できずに困っている飲食店に「広告掲載料」を支払う取り組みを実施しました。

この「シャッターの広告」はさまざまなメディアに取り上げられ、ハイネケン自身は結果的に大幅な認知拡大を果たしました。

メディアで取り上げられることで、企業の知名度アップ、信頼度アップにつながります。オンラインのメディア、無料プレスリリースサイトなどを活用すれば、同時に後述するSEO対策にもなるでしょう。

3.規格外

規格外とは、常識的な発想を超えた型破りの事業活動、宣伝方法を指します。『トラクション —スタートアップが顧客をつかむ19のチャネル』では、以下のような内容が紹介されています。

  • will it blend? Blendtec社がブレンダーでゴルフボールとかiPhoneを次々破壊する動画 
  • zappos社 規格外で感動するほどに親身なカスタマーサポート

日本の場合、攻撃的なパフォーマンスを受け入れる土壌はあまりないため、Zappos社のけた外れに親切な接客やカスタマーサポートあたりが見習いやすいかもしれません。

Zapposについて語られる際、頻繁に取り上げられるのが「コールセンタースタッフのサービスの質」です。同社は、自分たちのことを「たまたま靴を売ることになったサービス企業」と語っているように、Zapposの中心にあるのはあくまで「サービス」であると捉えており、それがサービスの質の高さに現れています。

Zappos社

同社は、1999年の創業から2009年にAmazonに買収されるまでの10年間で、評価額12億ドルにまで事業を成長させています。突き抜けた価値の提供がトラクション獲得に貢献することは疑いの余地がないでしょう。 

4.SEM

SEM(サーチ エンジン マーケティング)とは、インターネットで検索エンジンを活用するユーザーに対してのマーケティングです。

検索キーワードに応じて広告を表示させる「検索連動型広告」、流入したユーザーのコンバージョン率を上げるための「ランディングページ最適化 (LPO)」、アクセス解析にもとづく改善などのマーケティングなどを指します。

検索連動型広告とは、ユーザーがGoogleなどの検索エンジンで、あるキーワードで検索した際、検索キーワードに連動して表示される広告のことです。

トラクションにつながるSEM「検索連動型広告」の事例

検索連動型広告は「モチベーションの高いユーザーにのみ広告を配信できる」「短期間で成果が見えやすい」などのメリットがあります。顧客の絶対数が少ないスタートアップにとっても、短期で多くのリードを獲得する上では有効な手段といえます。

LPOとは「ランディングページ最適化(Landing Page Optimization)」の略。Web広告などを経由してランディングページに訪問したユーザーの離脱率を下げつつ、コンバージョン率を上げるためにクリエイティブの質を向上させていく取り組みです。

LPOはクリエイティブの良し悪しを判断するための知見が求められるものの、コンバージョン率を大きく向上させるためには必要な施策といえます。

例えば、株式会社Kaizen Platformが公開している「楽天証券」のLPO事例をみてみましょう。ランディングページのファーストビューにおいて「条件なし、誰でも運営管理手数料が0円」というポイントをインパクトのある動画で訴求することで、申込完了率を120%アップさせることに成功しています。

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

※ この記事はLEAPTブログから移行されました。詳しくはこちらをご覧ください。