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マズローの欲求5段階説とは?
BtoBマーケティング・営業での活用法を図解で解説Column

2025.09.12

マズローの欲求5段階説とは?BtoBマーケ・営業での活用法を図解で解説

マズローの欲求5段階説とは、人間の欲求を「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現の欲求」の5つの階層で説明した心理学の理論です。下の欲求がある程度満たされると、次の欲求が行動の動機になると考えます。

「表彰より雇用の安定を求める社員が多い」「成果より失敗しないことを重視する顧客がいる」。こうした違いは、その人がどの欲求をいちばん強く抱えているかで説明できます。そのため、マーケティングや営業、組織マネジメントで広く使われています。

この記事では、次のことを図解とともに解説します。

  • 5つの欲求の意味と具体例、6段階目の「自己超越欲求」
  • 理論への批判と、使うときの注意点
  • ペルソナ設計やコピー作り、BtoBの購買・営業での活用法

商談が社内で止まる理由を「関わる人・心理・伝え方」の3段で見分け、役割ごとに納得する材料をそろえる。対応表とチェックリストつきのガイドを、無料でダウンロードいただけます。

マズローの欲求5段階説とは?

マズローの欲求5段階説は、アメリカの心理学者アブラハム・マズロー(Abraham Maslow)が提唱した、人間の動機づけに関する理論です。1943年の論文「A Theory of Human Motivation」、1954年の著書『Motivation and Personality』(邦訳『人間性の心理学』)で広く知られるようになりました。

「欲求階層説」「欲求段階説」とも呼ばれます。人は自己実現に向かって成長する存在だと考えることから、「自己実現理論」と呼ばれることもあります。

マズローの欲求5段階説のピラミッド図(6段階目の自己超越欲求と、欠乏欲求・成長欲求の区分つき)

理論のポイントは次の3つです。

  1. 欲求には低次から高次まで5つの階層がある
  2. 低次の欲求がある程度満たされると、ひとつ上の欲求が強くなる
  3. ただし「完全に満たされないと次に進めない」わけではなく、複数の欲求は同時に存在する

3つ目は見落とされがちです。マズロー自身も、各欲求は「ある程度」満たされればよく、一般の人はどの欲求も部分的に満たされた状態で暮らしていると述べています。大切なのは、「いまその人の心をもっとも強く占めているのはどの欲求か」です。

なお、よく知られたピラミッドの図はマズロー自身が描いたものではなく、後の解説者が広めたものです。

5つの欲求を段階ごとに解説

5つの欲求を、下の階層から順に解説します。それぞれ「顧客として」と「働く人として」の両面から例を挙げます。

第1段階:生理的欲求(Physiological needs)

生理的欲求とは、食事・水・睡眠など、生きるために欠かせないものを求める欲求です。もっとも土台にあり、これが満たされないと他の欲求はほとんど意識されません。

  • 顧客として:空腹を満たせる量と価格の食事を選ぶ
  • 働く人として:生活できる給与、十分な休憩と睡眠を求める

第2段階:安全の欲求(Safety needs)

安全の欲求とは、身の安全や健康、経済的な安定など、不安のない暮らしを求める欲求です。日本のような先進国では、「仕事を失いたくない」「将来が不安」といった形で現れることが多くあります。

  • 顧客として:無添加の食品、保険、セキュリティの高いサービスを選ぶ
  • 働く人として:雇用の安定、ハラスメントのない職場を求める

第3段階:社会的欲求(所属と愛の欲求)

社会的欲求とは、家族や友人、職場などの集団に受け入れられ、つながりを感じたいという欲求です。「所属と愛の欲求」とも呼ばれ、満たされないと孤独感や疎外感につながります。

  • 顧客として:友人と同じブランドを選ぶ、ユーザーコミュニティに参加する
  • 働く人として:チームの一員として認められたい、相談できる同僚がほしい

第4段階:承認欲求(Esteem needs)

承認欲求とは、他者から認められたい、自分で自分を評価したいという欲求です。「尊重の欲求」とも訳され、マズローは次の2種類があるとしています。

  • 他者からの承認:地位、名声、称賛、注目を求める
  • 自己尊重:自信、自立、能力の習得など、自分で自分を認められる状態を求める

他者からの承認だけに頼ると、評価されないとすぐに満たされなくなります。自己尊重のほうが、より安定した満足につながります。

  • 顧客として:高級ブランドや、周りに「いいものを選んだ」と思われる商品を選ぶ
  • 働く人として:成果を評価されたい、昇進したい、専門性を高めたい

第5段階:自己実現の欲求(Self-actualization)

自己実現の欲求とは、自分の可能性を発揮し、「なりうる最高の自分」になりたいという欲求です。何を目指すかは人によって異なり、満たされるほどさらに強まるのが特徴です。

  • 顧客として:語学や資格の学習、創作のための道具に投資する
  • 働く人として:裁量のある仕事、新しい挑戦、将来のキャリアにつながる経験を求める

5つの欲求の一覧

段階 欲求 ひとことで 顧客の例 働く人の例
5 自己実現の欲求 なりうる自分になりたい 学習や創作への投資 裁量、挑戦、キャリア
4 承認欲求 認められたい 高級ブランド 評価、昇進
3 社会的欲求 つながりたい コミュニティ、共通の趣味 チームへの帰属感
2 安全の欲求 不安なく暮らしたい 保険、無添加、セキュリティ 雇用の安定
1 生理的欲求 生きていきたい 食事、住まい 生活できる給与

6段階目「自己超越欲求」とは

自己超越欲求とは、自分のためではなく、他者や社会、より大きな目的のために力を尽くしたいという欲求です。マズローは晩年、1960年代後半の論文で、自己実現のさらに上にこの欲求を位置づけました。このため「欲求6段階説」と呼ばれることもあります。

自己実現が「自分を完成させること」だとすれば、自己超越は「自分を超えて他者とつながること」です。心理学者マーク・コルトコ=リベラは2006年の論文で、この段階では「個人自身の欲求は大部分脇へ置かれ、他者への貢献が優先される」と整理しています。

ビジネスでは、次のような場面に現れます。

  • 経験豊富な社員が、若手の育成やメンター役にやりがいを感じる
  • 社会課題の解決を掲げる会社のビジョンに共感して、働く会社を選ぶ
  • 環境や地域に配慮した商品を、価格が高くても選ぶ(エシカル消費)

なお、よく知られた「5段階」の図には、この6段階目は含まれていません。ただし、マズロー自身は晩年、自己実現ではなく自己超越こそが人間の欲求の頂点だと考えていました。

欠乏欲求と成長欲求の違い

マズローは5つの欲求を、下の4つの「欠乏欲求」と、いちばん上の「成長欲求」の2つに分けました。違いは、満たされたあとに動機が弱まるか、強まるかです。

分類 含まれる欲求 満たされると
欠乏欲求(D欲求) 生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求、承認欲求 動機が弱まる(おなかがいっぱいになれば、食事への関心は薄れる)
成長欲求(B欲求) 自己実現の欲求 動機がさらに強まる(学ぶほど、もっと学びたくなる)

欠乏欲求は「足りないものを埋めたい」欲求で、満たされないと不安や不満につながります。成長欲求は「もっとよくなりたい」欲求で、終わりがありません。

ビジネスに当てはめると、欠乏欲求に応える商品は「不安や不便を解消する」ことで選ばれます。成長欲求に応える商品は「なりたい自分に近づける」ことで選ばれ、継続利用につながりやすいのが特徴です。

マズローとは何をした人か

アブラハム・マズロー(1908〜1970年)は、人間の成長や可能性に焦点を当てる「人間性心理学」を確立したアメリカの心理学者です。それまでの心理学が心の病や刺激への反応を中心に研究していたのに対し、健全な人がどう成長するかを問いました。

経歴

  • ニューヨークのブルックリンで、ユダヤ系移民の家庭に生まれる
  • ウィスコンシン大学で心理学を学び、サルの社会的な支配行動を研究する
  • コロンビア大学を経て、ブルックリン大学で約14年間教える
  • 1951年にブランダイス大学に移り、『人間性の心理学』などの著作で名声を高める
  • 1967年にアメリカ心理学会の会長に就任し、1970年に心臓発作で亡くなる

経営学への影響

欲求5段階説が経営の世界に広まったきっかけは、経営学者ダグラス・マグレガーが1960年に提唱した「X理論・Y理論」です。人は本来怠け者だと考えるX理論に対し、Y理論は「条件が整えば人は自ら働き、自己実現を目指す」と考えます。この前提にあるのがマズローの理論です。

X理論とY理論の比較(人間観・マネジメント・動機づけ・対応する欲求)

また、マズローは同時代のピーター・ドラッカーのマネジメント論に対し、「安全の欲求が満たされていない企業には当てはまらない」と批判しています。ドラッカーは著書『マネジメント』でこの批判に触れており、当時の経営学におけるマズローの影響力の大きさがうかがえます(参考:ドラッカー『マネジメント』における「マズローの批判」)。

欲求5段階説への批判と注意点

欲求5段階説は直感的にわかりやすい一方で、学術的には「階層の順番は実証されていない」という批判があります。ビジネスで使うときは、厳密な法則ではなく、人を理解するための「考える枠組み」として扱うのが安全です。

階層の順番は実証されていない

1976年にワハとブリッドウェルが関連研究をレビューしたところ、欲求の分類や順位を調べた研究では部分的な支持しか得られませんでした。さらに、「下の欲求が満たされると上の欲求が強まる」という考えを時間を追って検証した研究では、支持は得られていません(Wahba & Bridwell, 1976)。

一方、2011年にイリノイ大学のテイとディーナーが123か国の調査データを分析した研究では、次の結果が出ています(ScienceDaily)。

  • マズローが挙げた欲求の充足は、文化を問わず幸福感につながっている
  • ただし、どの順番で満たされたかは、幸福感にほとんど影響しない
  • 生活の基盤が十分でなくても、良好な人間関係や自己実現を感じている人はいる

つまり、「5つの欲求がある」という部分は支持されているものの、「下から順に満たされる」という部分は弱いということです。

文化によって重視される欲求は異なる

マズロー自身は、この理論を文化を問わず当てはまるものと考えていました。しかし早い時期から、文化によって欲求の優先順位が変わる可能性が指摘されています。たとえば、仕事が欲求を満たす場としてどれほど重視されるかは国によって異なり、「アメリカ社会にこそ当てはまりやすい理論ではないか」という議論もありました(Barling, 1977)。海外の事例や理論をそのまま日本の顧客や社員に当てはめるときは、注意が必要です。

ビジネスで使うときの注意点

  • 「この人は第2段階」のように、人を1つの段階に決めつけない。複数の欲求が同時にある前提で、いちばん強いものを探る
  • 同じ人でも、状況によって強い欲求は変わる。平時は自己実現を求める人も、不況や組織変更の時期には安全を優先する
  • 仮説を立てる道具として使い、顧客インタビューやデータで確かめる

マーケティングでの活用法

マーケティングでは、「顧客がいまどの欲求をいちばん強く抱えているか」を仮説として置くと、表に出にくい顧客インサイトに近づきやすくなり、訴求の軸が決まります。代表的な使い方は次の3つです。

ペルソナ設計に活かす

ペルソナを作るとき、どの欲求が強い層かを当てはめると、商品コンセプトや訴求がはっきりします。たとえば食品メーカーなら、次のように整理できます。

強い欲求 顧客が重視すること 訴求の例
生理的欲求 量、価格、味 「大盛りでこの価格」
安全の欲求 無添加、産地、品質管理 「子どもにも安心して食べさせられる」
社会的欲求 地元産、みんなで楽しめる 「家族で囲む食卓に」
承認欲求 ブランド、パッケージのおしゃれさ 「手土産に喜ばれる」
自己実現の欲求 自分の価値観に合うか 「プラントベースで、理想の食生活を」

必ずしも5つに分ける必要はありません。商材によっては、「欠乏欲求型」と「成長欲求型」の2つで分けるほうが使いやすいこともあります。

顧客が購入に至るまでの道のり(カスタマージャーニー)を描くときも、各フェーズで顧客が抱える不安や期待を「どの欲求から来ているか」という視点で整理すると、打つべき施策が見えやすくなります。

コピーや訴求軸を決める

同じ商品でも、相手の強い欲求に合わない言葉は刺さりません。特に、安全の欲求が強い相手に自己実現向けのメッセージを届けると、「自分には関係ない」どころか反感を買うこともあります。

強い欲求 響きやすいメッセージの方向
安全の欲求 不安の解消、実績、保証、「失敗しない」
社会的欲求 仲間、共感、「みんな使っている」
承認欲求 評価、ステータス、「選ばれた人の」
自己実現の欲求 成長、挑戦、「自分らしく」

広告コピーだけでなく、営業トークや資料の構成を考えるときにも使えます。

同じ商品を欲求別に書き換えた例

例として、営業管理ツール(SFA)の資料請求ページの見出しを、狙う欲求ごとに書き分けてみます。商品は同じでも、訴える欲求が変わると、刺さる相手も変わります。

狙う欲求 見出しの例 刺さりやすい相手
安全の欲求 導入から定着まで専任担当が伴走。はじめての営業管理でも失敗しません 初めてツールを導入する会社、過去に導入で失敗した会社
社会的欲求 チーム全員が同じ情報を見られる。「あの案件、どうなった?」をなくす営業管理 部署内の連携や情報共有に悩むチーム
承認欲求 部下の頑張りを、数字で正しく評価できる営業管理 評価の不公平感をなくしたい営業マネージャー
自己実現の欲求 勘と経験の営業から、データで勝ちパターンをつくる営業へ 営業のやり方を変えたい経営者や事業責任者

どれが正解ということはありません。ターゲットのいちばん強い欲求に合わせて選び、迷うときは広告やメールで複数の案を比べると、自社の顧客がどの欲求で動くかが見えてきます。

セグメンテーションに活かす(VALS)

VALS(Values and Lifestyles)は、マズローの欲求階層説をもとに、米国スタンフォード研究所(SRI)のアーノルド・ミッチェルが1970〜80年代に開発した消費者分類のフレームワークです。価値観やライフスタイルで消費者をタイプに分け、現在も改良版が使われています。日本市場向けには「Japan-VALS」もあります。

米国版VALSの8タイプ(主な動機と資源の多さによる分類)

自社で大がかりな調査をしなくても、「自社の顧客はどの欲求が強い層が多いか」を仮に置き、既存顧客の声や購買データで確かめるだけでも、ターゲットの解像度は上がります。

BtoBの購買・営業での活用

BtoBの購買でもっとも強く働くのは、多くの場合「安全の欲求」です。担当者は「成果が出るか」より前に、「導入して失敗したら誰が責任を取るのか」「社内で説明がつくか」を気にします。個人の買い物と違い、その判断が自分の評価や立場に直結するからです。

関わる人ごとに強い欲求は違う

BtoBの購買には、DMU(購買意思決定ユニット)と呼ばれる複数の人が関わり、それぞれ強い欲求が異なります。窓口の担当者が前向きでも商談が社内で止まるのは、他の人の不安に答える材料が足りていないことが多いためです。購買に関わる役割や、購買に働く心理法則については、「マーケティング担当者が知っておくべき「購買心理学」とは?」でも解説しています。

BtoB購買に関わる4つの立場と、強く働きやすい欲求(マズローの欲求5段階説)


関わる人 強く働きやすい欲求 抱えやすい不安・期待 納得する材料の例
窓口の担当者(起案者) 安全・承認 上司に説明できるか、提案して評価されたい 稟議にそのまま使える比較表や費用対効果
上司・決裁者 安全 投資が無駄にならないか、失敗したときの責任 同業種の導入実績、段階的な導入計画
情報システム・法務などの審査部門 安全 セキュリティ、契約、運用リスク セキュリティチェックシート、運営会社の情報
現場の利用者 社会的・安全 使いこなせるか、仕事のやり方が変わる不安 導入後のサポート体制、利用者の声

マーケティング・営業での使い方

  • コンテンツを「失敗しないための材料」として作る:機能や成果の訴求だけでなく、導入事例、比較資料、よくある質問など、不安を消す材料を用意する
  • 商談では「誰が何を不安に思っているか」を聞き出す:担当者本人だけでなく、決裁に関わる人それぞれの懸念を把握する
  • 担当者の承認欲求にも応える:社内で提案しやすい資料を渡し、「いい提案をした」と評価されるよう後押しする

顧客の発言から欲求を見分ける早見表

商談や問い合わせでよく聞く発言には、その人が強く抱えている欲求が表れます。発言の裏にある欲求がわかれば、次に渡すべき材料も決まります。

顧客の発言・質問 背景にある欲求 効く返し方・材料
「他社さんではどれくらい導入されていますか?」 安全 同じ業界・同じ規模の導入事例
「最低契約期間は?途中でやめられますか?」 安全 契約条件の明示、小さく始めるプランの提案
「セキュリティの資料はありますか?」 安全 セキュリティチェックシート、認証の取得状況
「上に説明する資料をもらえますか?」 安全・承認 稟議に使える比較表、費用対効果の試算
「現場が使いこなせるか心配で……」 社会的・安全 導入研修、サポート体制、利用者の声
「同じ業界の会社はどう使っていますか?」 社会的 業界別の活用例、ユーザー会やコミュニティ
「うちでも成果は出せますか?」 承認 成果が出た事例、短期間で見える指標
「将来的に他の業務にも広げられますか?」 自己実現 拡張性、今後の機能展開、活用の幅を示す事例

1つの発言に複数の欲求が混じることもよくあります。たとえば「上に説明する資料」を求める担当者は、否決されたくない(安全)と同時に、よい提案だと評価されたい(承認)とも考えています。

BtoBでは「得をする」より「失敗しない」が選ばれる理由になります。欲求階層の土台に近い「安全の欲求」から顧客を見ると、提案の何を補えば商談が進むかが見えてきます。

組織マネジメントでの活用

組織では、「自社の社員はどの欲求が強い人が多いか」を把握したうえで施策を選ぶと、空振りを防げます。たとえば、雇用や人間関係に不安を抱える社員が多い職場で、厳しい成果主義や表彰制度だけを導入しても、意欲は上がりにくいでしょう。

欲求 満たされないときのサイン 施策の例
生理的欲求・安全の欲求 疲弊、離職、将来不安の声 適正な給与と労働時間、雇用の安定、ハラスメント対策、健康支援
社会的欲求 孤立、部署間の壁、エンゲージメントの低下 メンター制度、1on1、サンクスカード、社内コミュニティ
承認欲求 「頑張っても評価されない」という不満 納得感のある評価制度、表彰、成果の社内共有
自己実現の欲求 成長の実感がない、優秀層の離職 裁量の拡大、社内公募、新規事業の提案制度、副業の容認

外資系やベンチャーのように自己実現を求める人が集まりやすい会社と、安定した環境で長く働きたい人が多い会社では、合う人事制度も変わります。他社の成功事例をそのまま取り入れる前に、自社の社員の状態を確かめましょう。

欲求階層で読み解くブランドの事例

有名ブランドのメッセージも、どの欲求に訴えているかという視点で読み解けます。ここでは、筆者が欲求階層の観点から整理した3つの例を紹介します。

Apple:「Think Different.」で自己実現に訴える

Appleは「Think Different.」のキャンペーンで、アインシュタインやピカソなど「世界を変えた人たち」を打ち出しました。製品の性能ではなく、「自分らしく創造する人」という自己像に訴えることで、自己実現の欲求を刺激した例です。

パタゴニア:環境への姿勢で自己超越に訴える

アウトドアブランドのパタゴニアは、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む。」を企業理念に掲げています。商品を買うことが環境への貢献につながると感じさせ、自己実現や、その先の自己超越の欲求に応えています。同じ価値観を持つ顧客のつながりが生まれる点では、社会的欲求にも応えています。

Duolingo:学習を続ける仕組みに複数の欲求を組み込む

語学アプリのDuolingoは、「新しい言語を身につけたい」という自己実現の欲求に応えるサービスです。そのうえで、連続学習の記録や他のユーザーと競うリーグなどで、承認欲求や社会的欲求にも訴え、学習を続けやすくしています。

プロダクトや新規事業を企画するときも、「主にどの欲求に応えるか」「継続してもらうためにどの欲求を組み合わせるか」を考えると、価値の設計が明確になります。

よくある質問

マズローの欲求5段階説は何学の理論ですか?

心理学(人間性心理学)の理論です。その後、経営学やマーケティング、看護、教育など、人の動機づけを扱う幅広い分野で使われています。

承認欲求とは何ですか?

他者から認められたい、自分で自分を評価したいという欲求で、欲求5段階説の第4段階にあたります。他者からの承認と自己尊重の2種類があり、マズローは後者のほうが安定した満足につながると考えました。

マズローとアドラーの違いは?

マズローは「人にはどんな欲求があり、どう成長するか」を階層として説明しました。一方、アルフレッド・アドラーは、人の行動を「目的」と「共同体感覚」から説明しました。日本では『嫌われる勇気』で知られるように、アドラー心理学は他者からの承認を求めることに否定的です。なお、マズローはアドラーと交流があり、尊敬する師のひとりとしていました。

「マズローのハンマー」とは?

マズローが1966年の著書『The Psychology of Science』で述べた、「持っている道具がハンマーだけなら、すべてが釘に見える」という言葉です。使い慣れた方法ばかりに頼ってしまう偏りを指し、欲求5段階説とは別の概念です。

まとめ

マズローの欲求5段階説は、人の欲求を生理的欲求から自己実現の欲求までの5つの階層で捉える理論です。階層の順番には学術的な批判もありますが、「相手はいまどの欲求をいちばん強く抱えているか」を考える枠組みとしては、いまも十分に役立ちます。

  • マーケティングでは、ペルソナ設計、コピーや訴求軸、セグメンテーションに使える
  • BtoBでは、関わる人それぞれの「失敗したくない」という安全の欲求に答えることが商談を進める
  • 組織では、社員の状態に合った施策を選ぶことで空振りを防げる

1つの段階に人を当てはめるのではなく、仮説を立てて顧客や社員の声で確かめる道具として使うのが、この理論を活かすコツです。

BtoBの買い手は、「得」より「失敗しないこと」で選びます

マズローの欲求階層では、「安全の欲求」が土台に近い位置にあります。BtoBの購買でも、担当者は成果への期待より、「社内で説明がつかない」「あとで責任を問われる」ことへの不安を強く抱えがちです。

窓口担当は前向きなのに、商談が社内で止まっていませんか?

資料「BtoBの買い手は、こうして決める」では、関わる人それぞれの「失敗したくない」に答える材料の整え方を整理しました。

  • 商談が社内で止まる理由の見分け方
  • 起案者・決裁者・審査部門など、6つの役割ごとの恐れと納得する材料
  • 稟議で見られる5つの問いと、社内説明パックの中身

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

※ この記事はLEAPTブログから移行されました。詳しくはこちらをご覧ください。