スターバックスは、誰に、どのような価値を提供しているのでしょうか。STP分析の視点で見ると、商品や価格だけでなく、利用する場面や顧客が求める体験から、その戦略を整理できます。
たとえば、仕事の合間にひと息つきたい人と、移動中にコーヒーを受け取りたい人では、同じスターバックスを利用していても求める価値が異なります。こうした違いを捉えると、店舗空間やモバイルオーダーなどの施策が、どのようなニーズに応えているのかが見えてきます。
本記事では、日本市場を中心に、公開情報をもとにスターバックスの取り組みをSTPの枠組みで分析します。以下は同社が公式に公表したSTP分析ではなく、取り組みを理解するための当社の分析例です。
スターバックスのSTP分析を一覧で確認
| 分析項目 | スターバックスの分析例 | 分析のポイント |
|---|---|---|
| セグメンテーション(市場の細分化) | カフェを利用する人を、休息・交流・移動中の購入などの利用場面や、品質・空間・利便性といった重視する価値で分ける | 年齢や職業だけでなく、「何のために利用するか」に注目する |
| ターゲティング(対象の選定) | コーヒーの品質や心地よい時間を重視する人を軸に、利用場面に応じてスムーズな購入を求める人にも対応していると捉える | 来店する人を列挙するだけでなく、どのニーズに応えるかを整理する |
| ポジショニング(競合との違い) | コーヒーに加え、空間や接客を含む体験を、選ばれる理由として位置づける | 価格や商品の比較にとどまらず、顧客が感じる価値を考える |
この分析で押さえたいのは、S・T・Pをつなげて考えることです。顧客をどのように分け、その中の誰に、競合と比べてどのような価値を届けるのか。そのつながりを、具体的な取り組みとともに見ていきましょう。
スタバのターゲット層は誰か?利用目的から考える
スターバックスのターゲット層は、年齢や職業だけで一括りにするよりも、「コーヒーにどのような価値を求めているか」で捉えると理解しやすくなります。本記事では、コーヒーの品質に加え、心地よい空間や接客、自分の好みに合わせて選べる体験を重視する人を、ターゲットの軸として考えます。
ただし、同じ人でも利用する場面によって求める価値は変わります。休日には店内でゆっくり過ごしたい人が、平日の朝には短時間で商品を受け取りたい場合もあるでしょう。ターゲットを具体化するときは、顧客の属性と利用目的を組み合わせて整理することが大切です。
| 利用場面から考えるターゲットの例 | 求める価値 | 対応する商品・サービスの例 |
|---|---|---|
| 仕事や買い物の合間にひと息つきたい人 | 気持ちを切り替えられる、心地よい時間と空間 | 店内の座席や空間、接客、ドリンク |
| 友人や家族と会話を楽しみたい人 | 一緒に過ごせる場所、それぞれの好みに合う選択肢 | ドリンクやフード、カスタマイズ |
| 通勤や移動の途中に購入したい人 | 注文・決済の手間やレジでの待ち時間の軽減 | モバイルオーダー&ペイ、持ち帰り |
| コーヒーの味や新しい商品を楽しみたい人 | 品質への納得感、好みの発見や選ぶ楽しさ | コーヒーのラインアップ、季節限定商品 |
※上表は、公開されている商品・サービスをもとに整理した当社の分析例です。同社が公表したターゲット区分や、利用者の構成比を示すものではありません。また、商品・サービスの提供状況は店舗によって異なります。
「ターゲット層」と「実際の客層」は分けて考える
ターゲット層は、企業が価値を届けようとする顧客のまとまりです。一方、客層は実際に利用している人々を指します。学生やビジネスパーソンの利用が見られることだけを根拠に、その属性を企業の主要ターゲットと断定することはできません。
実際の客層を年齢・性別・職業などで説明するには、対象地域、調査時期、調査方法が明らかな利用者データが必要です。STP分析では、確認できる事実と、そこから読み取った仮説を分けて示しましょう。
STP分析とは
STP分析は、マーケティング戦略を効果的に立案するための基本的なフレームワークです。STPは「セグメンテーション(Segmentation)」「ターゲティング(Targeting)」「ポジショニング(Positioning)」の頭文字を取ったもので、顧客にアプローチする3つのステップを示しています。簡単にいえば、「顧客層を分けて(S)、狙う相手を決めて(T)、どんな印象を与えるかを設定する(P)」という流れです。
セグメンテーション(Segmentation)
市場には多様なニーズを持つ顧客が存在するため、一律のアプローチでは効果的な訴求が難しくなります。
たとえば、MAツール市場を例に考えてみましょう。顧客の多くが共通して関心を持つのは「マーケティング業務の効率化」ですが、顧客層は中小企業、大企業、さらに製造業や金融業界など多岐にわたり、それぞれ必要とする機能や価値も異なります。
このように、市場をセグメント化することで顧客の多様なニーズや特性を把握でき、自社の独自優位性を明確にしやすくなります。異なるニーズを持つ顧客に対して一律のマーケティングを行っても効果は薄いため、共通の特徴を持つ顧客グループを見つけ出し、ターゲットを設定するための基礎を作ることが重要です。

市場を特定の基準で細分化し、共通のニーズや特性を持つグループに分けることがセグメンテーションの目的です。以下のような基準で市場を細分化します。
【一般的基準】
- 地理的基準:国、地域、気候、都市規模など、居住地域による細分化
- 人口統計的基準:年齢、性別、所得、職業、家族構成などの人口特性
- 心理的基準:価値観、ライフスタイル、趣味、性格といった心理的な要素
- 行動的基準:購買行動、ブランドロイヤリティ、使用頻度、利用シーンなどの行動特性
【BtoB向け基準】
- 企業規模:従業員数、年間売上、事業規模
- 業種・業界:製造業、医療業界、金融業界、小売業、IT業界、教育機関など、業界ごとのニーズに応じた細分化
- 購買意思決定プロセス:意思決定に関与する人数や階層
- 導入目的・課題:コスト削減、効率化、生産性向上、売上増加、法規制対応など、企業が抱える課題や期待する成果に基づく細分化
- 技術環境とリテラシー:企業内のITリテラシー(高、低)、既存のシステム環境(オンプレミスかクラウドか)、IT担当部署の有無
- 予算規模と価格感度:導入予算やサブスクリプション料金に対する価格感度
セグメンテーションを行うことで市場が見えやすくなり、どの顧客層が最も自社の価値と合致するかを見極めるための手がかりが得られます。
ターゲティング(Targeting)
市場をセグメント化した後、すべての顧客層に一斉にリーチしていては、セグメンテーションを行った意味がありません。ターゲティングにより、自社にとって最も価値の高いセグメントを選定し、リソースを効率的に投入することで、成果を最大化するための基盤を作ります。
ターゲティングには、以下の4つのアプローチがあります。
- 無差別型ターゲティング:市場全体に一律の製品やメッセージを提供する方法で、特に製品特性が汎用化しやすいコモディティ商品に適しています。
- 差別型ターゲティング:複数のセグメントに対して異なる製品やメッセージを用いる方法です。異なる顧客ニーズに対応することで、広範な顧客の満足度を向上させられます。
- 集中型ターゲティング:特定のセグメントに絞り込んでマーケティングを展開する方法です。特にスタートアップやリソースの限られた中小企業に適しており、ニッチ市場での成功を目指します。
- ミクロマーケティング:個々の顧客ニーズに合わせて製品やメッセージをカスタマイズする手法で、デジタル技術の進化により細やかな対応が可能になっています。
適切なターゲティングを行うことで、リソースを価値の高い顧客層に集中させ、効率的にマーケティング効果を高められます。
ポジショニング(Positioning)
ポジショニングは、ターゲット層に対して自社の製品やブランドをどのように伝え、競合と差別化するかを決定するステップです。
セグメンテーションとターゲティングを終えた段階で、顧客のニーズや競合の状況を把握できるため、自社の特徴を最も効果的に伝えるポジションを明確にできます。
- 差別化ポイントの特定:他社にはない自社の強みや価値を明確にします。
- ポジショニングマップの作成:競合他社と自社の位置関係を視覚化し、差別化の方向性を見定めます。これにより、競合が少ない領域に自社を配置し、独自の市場ポジションを築く戦略を立てます。
- 価値提案の明確化:ターゲット層に響くメッセージを策定します。
- 一貫したブランドイメージの構築:製品やサービス、広告などあらゆる接点で一貫したブランドメッセージを提供します。これにより、顧客はブランドに対する信頼感を形成し、結果としてロイヤリティが高まります。
先にターゲットを明確にすることで、ポジショニングに一貫性が生まれ、顧客にとって「自分に最適なブランド」という認識を築きやすくなります。また、ターゲット層のニーズに基づいたメッセージを設定できるため、顧客が自社を選ぶ理由を強く訴求できます。
STP分析のマーケティング戦略上の位置付け
STP分析は、自社の強みを活かして競争力を高め、ターゲット顧客に適切なアプローチを構築するための基本プロセスです。そのためにはまず、自社の現状や市場環境を正確に把握するためにSWOT分析を行います。SWOT分析では、企業の「強み」「弱み」だけでなく、「機会」「脅威」を整理することで、どの市場領域で競争優位を発揮できるかが見えてきます。
SWOT分析を通じて理解した自社の立ち位置をもとに、STP分析を行い、具体的なターゲット層を決定し、その顧客に最適なメッセージを構築しましょう。まず、顧客層の特徴を踏まえてセグメント化し、リーチしたいターゲット層を絞り込みます。その後、競合と差別化できる自社の「強み」や「価値」をポジショニングで明確化し、顧客に響くメッセージを設定します。
こうしてターゲット層と価値提案が明確になったら、具体的なマーケティング施策として4Pや4Cを使ったマーケティングミックスを組み立てると効果的です。
たとえば、4Pの「製品」ではターゲット顧客に求められる機能や特徴を強化し、「価格」ではその価値に見合った設定を行うことで魅力を引き出します。さらに、「流通」ではターゲットがアクセスしやすいチャネルに絞り込み、「プロモーション」では響くメッセージを用いて効果的に訴求します。4Cでは、ターゲット顧客が求める「価値」や「利便性」に基づいて提案を整え、顧客とのコミュニケーションを図ることで、一貫したブランド体験を提供できるようになります。
このように、STP分析で明確化したターゲットに沿った4Pや4Cの最適化によって、ターゲット顧客のニーズに応えながら、自社の価値を最大限に伝えられるマーケティング戦略が構築できます。
スターバックス(Starbucks)について

(出典:スターバックス)
スターバックスは、1971年に米国・シアトルで創業したコーヒーブランドです。日本では1996年8月、東京・銀座に第1号店となる銀座松屋通り店をオープンしました。同店は、スターバックスにとって北米以外で初めての海外店舗でもあります。
出典:スターバックス公式「アメリカでのスペシャルティコーヒーのはじまりと歴史」
日本の事業を担うスターバックス コーヒー ジャパンは、コーヒーストアの経営と、コーヒーおよび関連商品の販売を事業内容としています。マーケティングの観点では、商品そのものに加え、店舗での接客や空間、注文・受け取りの方法まで含めて、顧客との接点を捉えることが重要です。
出典:スターバックス コーヒー ジャパン「会社概要」
本記事のSTP分析では、こうした事業やサービスを前提に、「どのような利用場面を捉えているか」「誰のどのニーズに応えているか」「顧客がほかの選択肢ではなくスターバックスを選ぶ理由は何か」を考えます。店舗数や知名度だけで成功を説明するのではなく、顧客に届ける価値と、それを実現する取り組みのつながりに注目していきましょう。
スターバックス(Starbucks)のブランド哲学
スターバックスのブランドを理解するうえでは、コーヒーの品質だけでなく、人とのつながりや地域社会との関係にも目を向ける必要があります。公式のミッションでは、コーヒー体験を通じて人々の心を豊かにすることを掲げ、顧客に加えて、従業員、生産者、地域社会、環境などに対する約束を示しています。
出典:スターバックス コーヒー ジャパン「Our Mission, Promises and Values」
本記事では、この考え方と公開されている取り組みを「コーヒーの品質」「空間と人とのつながり」「調達と社会・環境への責任」の3つの観点から整理します。これはSTP分析の前提を理解するための当社の整理であり、同社が公式に定めた「3つの柱」ではありません。
コーヒーの品質を支える仕組み
スターバックスは、コーヒーの調達に品質基準を設けています。公式の説明によると、コーヒーの専門チームが購買前にテイスティングを行い、自社の基準を満たすかを確認しています。
出典:スターバックス公式「コーヒーのエシカルな調達―C.A.F.E. プラクティス」
マーケターが注目したいのは、「高品質」という訴求を支える具体的な仕組みです。品質基準や確認の工程を示すことで、企業が何を大切にし、その価値をどう実現しようとしているかを説明できます。
ただし、品質管理の仕組みがあることと、顧客が競合より高く評価していることは別です。ポジショニングを考える際は、企業が提供しようとする品質と、顧客が実際に感じている違いの両方を確かめる必要があります。
空間と人とのつながりを含む体験
スターバックスは、日本上陸25周年の公式発表で、顧客が安らげる「サードプレイス」の提供や、地域の文化・歴史、人々とのつながりを育む姿勢を説明しています。商品を購入する場にとどまらず、そこで過ごす時間や人との関係も重視していることが読み取れます。
出典:スターバックス公式「スターバックス日本上陸25周年」(2021年)
この観点からは、店舗空間や接客も、ブランドが目指す価値を届ける接点として分析できます。たとえば、休憩や会話を目的とする人にとって、座席の使いやすさや接客は、飲み物の味とともに利用体験を形づくる要素になります。
ここで大切なのは、すべての顧客が長時間の滞在を求めているわけではないことです。店内で過ごす人と持ち帰る人では必要な体験が異なります。ブランドとして大切にする価値を保ちながら、利用場面に合わせてどう届けるかが分析のポイントです。
調達と社会・環境への責任
スターバックスは、倫理的なコーヒー調達の基準として「C.A.F.E. プラクティス」を導入しています。この取り組みは、品質基準、経済的な透明性、社会的責任、環境面でのリーダーシップという4つの構成要素から成り立っています。
出典:スターバックス公式「コーヒーのエシカルな調達―C.A.F.E. プラクティス」
これは、店頭で提供する商品の背景に、生産者や環境への取り組みがあることを示す事例です。マーケティングでは、こうした企業姿勢が顧客の価値観とどう結びつくかを考えられます。
一方、取り組みを実施しているだけで、顧客の共感や購買につながるとは限りません。顧客がその取り組みを知っているか、選ぶ理由として重視しているかを調査することで、訴求に活かせる価値を見極めやすくなります。
これらの観点を踏まえ、次のSTP分析では、企業が目指す価値と顧客が求める価値の接点を考えます。ブランドの方針を紹介するだけでなく、どのニーズに応え、競合と比べて何が選ばれる理由になるのかを整理していきましょう。
スターバックス(Starbucks)のSTP分析事例を解説
ここでは、スターバックスの事例を通してSTP分析の理解を掘り下げましょう。
スターバックスのセグメンテーション(Segmentation)
スターバックスの顧客をセグメンテーションの視点で捉える際は、地域や属性に加え、価値観や利用行動にも注目します。たとえば、同じ会社員でも、出勤前に持ち帰りで利用する場合と、休日に店内でくつろぐ場合では、求める価値が異なります。
ここでは、地理的・人口統計学的・心理学的・行動的という4つの切り口から、スターバックスの顧客をどう分類して考えられるかを整理します。それぞれの切り口を組み合わせ、顧客のニーズを具体化するための分析例として見ていきましょう。
地理的セグメンテーション
地理的セグメンテーションは、地域や立地によって市場を分ける方法です。スターバックスを分析する場合は、「都市部か郊外か」だけでなく、オフィス街、住宅地、商業施設など、店舗周辺の環境に注目すると利用場面を具体的に考えられます。
たとえば、オフィス街では出勤前や仕事の合間の購入、商業施設では買い物中の休憩、車で訪れる立地では持ち帰りの需要が考えられます。これは立地から想定したニーズの例であり、実際の客層や利用目的は店舗ごとに確かめる必要があります。
分析では、地域名や都市の規模に加え、店舗周辺の施設、顧客の移動手段、来店する時間帯を組み合わせて捉えましょう。同じ都市部でも、駅前と住宅地では想定される利用場面が異なります。
自社に応用する際は、立地から考えた仮説を、店舗ごとの購買データや顧客の声で確かめます。そのうえで、営業時間や商品構成、注文・受け取り方法などを検討すると、地理的な分類を具体的な施策につなげやすくなります。
人口統計学的セグメンテーション
人口統計学的セグメンテーションは、年齢、職業、所得、家族構成などの属性で市場を分ける方法です。スターバックスの事例を考える場合も、こうした属性は顧客を理解するための切り口になります。
ただし、年齢や職業だけで、利用目的や好みが決まるわけではありません。同じ年代でも、新商品を楽しみたい人、休憩したい人、持ち帰りで利用したい人では、求める価値が異なります。
分析では、属性と利用場面を組み合わせて考えると、ニーズを具体化しやすくなります。たとえば「通勤途中に購入する会社員」と「休日に家族で来店する会社員」では、同じ職業でも、受け取りのスムーズさと店内で過ごす時間のどちらを重視するかが変わる可能性があります。
これらは分析のための仮説です。実際にどの年代・職業の利用が多いのか、各層が何を重視しているのかを述べる場合は、調査対象や時期が明らかなデータで確かめる必要があります。
心理学的セグメンテーション
心理学的セグメンテーションは、価値観やライフスタイル、関心などをもとに市場を分ける方法です。スターバックスの事例では、「気持ちを切り替える時間を大切にしたい」「自分の好みを楽しみたい」「企業の社会・環境への姿勢を重視したい」といった価値観を、分類の切り口として考えられます。
行動的セグメンテーションとの違いは、実際に何をしたかではなく、その選択の背景にある考え方に注目する点です。たとえば、同じ店内利用でも、一人で落ち着く時間を求める人と、人との交流を大切にする人では、重視する体験が異なります。
ただし、利用者の価値観を、購入商品や年齢だけで判断することはできません。以下の分類は顧客を理解するための仮説として捉え、アンケートやインタビューで、実際に何を重視しているかを確かめることが重要です。
| 価値観による分類例 | 重視する体験の例 | 顧客理解のために確かめたいこと |
|---|---|---|
| くつろぎを重視する人 | 日常から少し離れ、落ち着いて過ごす時間 | どのような空間や接客に心地よさを感じるか |
| 人との交流を重視する人 | 友人や家族と会話し、一緒に過ごす時間 | 会話を楽しむ場所を選ぶ際に、何を重視するか |
| 自分の好みや新しい体験を重視する人 | 好みに合う味を選ぶことや、新しい商品を試す楽しさ | 慣れ親しんだ味と新しさを、それぞれどのような場面で求めるか |
| 社会・環境への配慮を重視する人 | 自分の価値観に合う企業や商品を選ぶ納得感 | 企業の取り組みを知っているか、購入先を選ぶ理由になっているか |
※上表は心理学的セグメンテーションを考えるための分類例であり、スターバックスが公表した顧客区分や、利用者調査の結果ではありません。
行動的セグメンテーション
行動的セグメンテーションは、利用頻度や購入方法、商品を選ぶ行動などをもとに市場を分ける方法です。年齢や職業が同じでも、日常的に利用する人と、新商品が出たときに利用する人では、来店のきっかけや必要な情報が異なります。
スターバックスの事例では、次のような軸で顧客の行動を整理できます。
| 分類の軸 | 顧客の行動の例 | 分析で確かめたいこと |
|---|---|---|
| 利用頻度 | 日常的に利用する/ときどき利用する/初めて利用する | 継続利用や初回来店のきっかけは何か |
| 購入・受け取り方法 | 店頭で注文する/モバイルオーダーを使う/ドライブスルーで受け取る | 注文や受け取りのどこに手間を感じているか |
| 商品の選び方 | 定番商品を繰り返し選ぶ/季節限定商品を試す/カスタマイズを楽しむ | 安心感、新しさ、自分好みの味のうち、何を重視しているか |
※上表は分析のための分類例であり、同社が公表した顧客区分ではありません。同じ人が複数の行動を取ることもあります。
行動変数で分類する際は、利用頻度や注文方法といった実際の行動から、顧客ごとの違いを捉えます。たとえば、同じモバイルオーダーの利用者でも、いつも購入する商品が決まっている人と、季節限定商品を試す人では、利用の背景が異なる可能性があります。
行動の記録だけで動機を決めつけず、アンケートやインタビューと組み合わせて確かめることで、顧客のニーズに合う施策を検討しやすくなります。
スターバックスのターゲティング(Targeting)
ターゲティングでは、市場を分けたうえで、どの顧客のニーズに応えるかを選びます。スターバックスの取り組みを分析する際も、顧客の属性を挙げるだけでなく、提供する価値と具体的な施策をつなげて考えることが重要です。
ここでは、冒頭で整理した利用場面をもとに、ニーズと施策の関係をまとめます。
| 対象とするニーズ | 提供する価値 | 対応する施策の例 | STP分析での読み取り |
|---|---|---|---|
| 店内でひと息ついたり、人と会話したりしたい | コーヒーとともに心地よく過ごせる時間 | 店舗空間や接客 | 飲み物だけでなく、過ごす時間も選ばれる理由になる |
| 通勤や移動の途中で、注文をスムーズに済ませたい | 注文・決済の手間やレジでの待ち時間の軽減 | モバイルオーダー&ペイ | 店内に滞在しない利用場面にも、利便性を提供する |
| 自分の好みに合う一杯を選びたい | 味や飲み方を選ぶ楽しさ | 商品のラインアップやカスタマイズ | 同じ商品でも、好みに応じた選択肢が価値になる |
| いつもと違う味や季節感を楽しみたい | 新しい商品を試すきっかけ | 季節限定商品 | 定番を求めるニーズとは異なる来店動機に応える |
※上表は、公開されている商品・サービスをもとに整理した当社の分析です。同社が公表したターゲット区分や、施策の効果を示すものではありません。商品やカスタマイズの提供条件は、店舗・時期によって異なります。
たとえば、モバイルオーダー&ペイについて、日本の公式発表では、レジでの待ち時間の削減や、自分のペースで注文できる利便性が説明されています。サービスの機能を列挙するだけでなく、「誰の、どのような不便を減らすか」まで考えると、ターゲティングと施策のつながりが明確になります。
出典:スターバックス コーヒー ジャパン「モバイルオーダー&ペイ」の全国展開に関する発表(2020年11月30日)
自社に応用するときは、まず優先して応えたいニーズを選び、その価値を商品・価格・販売方法・情報発信でどう実現するかを検討しましょう。STPで決めた方針と実際の施策をつなげることで、分析を具体的な行動に移しやすくなります。
スターバックスのポジショニング(Positioning)
ポジショニングでは、ターゲット顧客がほかの選択肢と比較したときに、自社を選ぶ理由を明確にします。スターバックスの場合、本記事では「コーヒーの品質に加え、空間・接客・選ぶ楽しさを含む体験を提供すること」を、位置づけを考える軸とします。
ただし、比較される相手は利用場面によって変わります。短時間でコーヒーを購入したいときと、誰かと会話しながら過ごしたいときでは、顧客が重視する条件も異なります。同じコーヒーを扱う企業だけを並べるのではなく、顧客がその場面で検討する選択肢を捉えることが重要です。
以下は、利用場面ごとの比較を考えるための例です。各業態の優劣や、顧客調査による評価を示すものではありません。
| 顧客の利用目的 | 比較対象になり得る選択肢 | 選ぶ際に重視する条件 | スターバックスの分析で注目する点 |
|---|---|---|---|
| 移動中にコーヒーを購入したい | コンビニ、駅周辺のカフェ、自動販売機など | 価格、立地、受け取りまでの時間、好みの味 | 商品の選択肢や注文方法が、購入のしやすさにつながっているか |
| 休憩や会話のために店内で過ごしたい | ほかのカフェ、喫茶店、飲食店など | 座席、混雑、雰囲気、接客、予算 | 飲み物と店内で過ごす体験を合わせて、どのような価値を提供しているか |
| 好みの味や新しい商品を楽しみたい | 専門店、ほかのカフェチェーンなど | 味、商品の独自性、選択肢、カスタマイズ | 定番商品と季節限定商品が、それぞれどのニーズに応えているか |
このように整理すると、「高品質」「居心地がよい」といった言葉だけでは、ポジショニングを十分に説明できないことが分かります。誰が、どの場面で、何と比較して価値を感じるのかまで具体化する必要があります。
たとえば、休憩を目的とする顧客に対しては、飲み物の価格だけでなく、店内で過ごす時間を含めて価値を考えられます。一方、移動中の購入では、店舗空間よりも立地や受け取りのスムーズさが重要になる可能性があります。これは、スターバックスのブランド哲学と、個々の利用場面を結びつけるための分析です。
ポジショニングマップを作る場合も、顧客が選ぶ際に重視する基準から軸を設定します。休憩目的の利用を分析するなら、「同じ条件の商品を購入した場合の価格」と「店内で過ごす快適さ」などが候補になります。ただし、価格は商品やサイズなどの条件をそろえ、快適さは顧客調査などで評価する必要があります。印象だけで競合を配置し、自社が優位になる図を作らないことが大切です。
マーケターが自社に応用する際は、企業が伝えたい強みと、顧客が実際に選んでいる理由を照らし合わせましょう。その一致やずれを確かめることで、訴求だけでなく、商品やサービスの改善点も見つけやすくなります。
「Back to Starbucks」から考えるポジショニングの強化
スターバックスが2024年に打ち出した「Back to Starbucks」は、コーヒーや接客、人が集まる店舗体験を改めて重視する取り組みです。ここでは、日本市場の分析を補う海外事例として、公式発表で確認できる施策を紹介します。
たとえば、2024年11月7日から、米国・カナダの直営店舗では、植物性ミルクへの変更に伴う追加料金が撤廃されました。これは、顧客が好みに合わせてドリンクを選びやすくする施策です。
出典:Starbucks公式「植物性ミルクの追加料金撤廃に関する発表」(2024年10月30日)
また、2025年1月には、米国・カナダのカフェで、店内利用時のおかわりサービスや、ミルク・甘味料などを置くコンディメントバーの取り組みが案内されました。店内で過ごす時間の価値を高める方向性が読み取れます。
出典:Starbucks公式「Starting today, there are more reasons to stay awhile」
STPの視点では、これらを「顧客に選ばれる理由を、商品だけでなく店舗体験や選びやすさでも具体化する取り組み」と捉えられます。心地よい時間を提供するという価値を、接客やサービスなどの接点で実現することが、ポジショニングを支えると考えられます。
これは公開施策に基づく当社の解釈であり、同社が公式に示したSTP分析ではありません。また、ここで紹介した米国・カナダ向けの施策は、日本での提供条件を示すものではありません。
スターバックス(Starbucks)のSTP分析以外の
マーケティング分析・戦略の解説
スターバックスのマーケティングをより深く理解するには、STP分析をほかの分析や施策と結びつけて考えることが有効です。ここでは、SWOT分析、4P分析、ブランド戦略、コミュニケーション戦略の4つの観点から整理します。
SWOT分析では、対象市場を選ぶ前提となる自社の強み・弱みや市場環境を捉えます。4P分析では、選んだ顧客に価値を届けるための商品・価格・流通・プロモーションを検討します。さらに、ブランド戦略とコミュニケーション戦略を通じて、選ばれる理由を顧客との接点でどう表現し、伝えるかを考えます。
スターバックス(Starbucks)のSWOT分析
SWOT分析とは、「強みと弱み」のような内部要因と、「機会と脅威」のような外部要因を整理することで、自社の立ち位置や現状の課題、将来の可能性を総合的に理解するためのフレームワークです。初めにSWOT分析を行うことで、自社の強みや弱み、市場の状況が明確になるため、効果的にSTP分析を行えるようになります。
以下は、本記事で紹介した取り組みを踏まえたSWOT分析の例です。内部要因である強み・弱みと、外部要因である機会・脅威を分け、検証すべき仮説とともに整理しています。
| 区分 | スターバックスの分析例 | 検証すべきポイント |
|---|---|---|
| 強み(内部要因) | コーヒーの品質管理、店舗空間や接客、商品を選ぶ楽しさなど、体験を提供する仕組み | これらのうち、顧客が競合との違いとして評価しているものは何か |
| 弱み(内部要因) | 価格設定や、混雑時の座席・商品提供への対応が、利用の障壁になる可能性 | どの店舗・時間帯・顧客層で、価格や待ち時間への不満が生じているか |
| 機会(外部要因) | デジタル注文を求める利用者や、企業の社会・環境への姿勢を重視する顧客が増えれば、新たな需要に応えられる可能性 | 対象市場で、こうしたニーズが実際に増えているか |
| 脅威(外部要因) | 他のカフェやコンビニなどの選択肢、消費者の節約志向が、利用先の変更につながる可能性 | どの利用場面で他の選択肢に流れやすいか、価格感度がどう変化しているか |
※上表は当社による分析例です。機会・脅威に挙げた市場変化の有無や程度は、対象地域・時期を定めたデータで確認する必要があります。
SWOT分析は、要素を列挙するだけでなく、STPで対象市場や提供価値を検討するための材料として活用します。たとえば、店舗空間や接客を強みとして捉えるなら、それらを重視する顧客は誰か、どのような利用場面で選ばれる理由になるかを考えます。一方、価格や混雑が利用の障壁になるという仮説があれば、対象となる顧客や店舗を絞って確かめる必要があります。
前述の「Back to Starbucks」も、企業が重視する価値と施策のつながりを考える材料になります。ただし、施策を実施したことだけで、弱みが解消されたとは判断できません。待ち時間や顧客満足度など、目的に対応する指標で効果を検証することが重要です。
スターバックス(Starbucks)の4P分析
4P分析は「製品(Product)」「価格(Price)」「流通(Place)」「プロモーション(Promotion)」の4つの視点から、マーケティング戦略を考える方法です。スターバックスの4P分析の結果は以下の通りです。
| 分析項目 | スターバックスの取り組みを整理する例 | STPとのつながりを考える視点 |
|---|---|---|
| 製品(Product) | コーヒーやフード、季節限定商品、カスタマイズ、接客を含む利用体験 | 品質、好み、新しさ、心地よい時間など、どのニーズに応えるか |
| 価格(Price) | 商品・サイズ・カスタマイズなどに応じた価格設定 | 対象とする顧客が、商品や体験に対して価格をどう評価するか |
| 流通(Place) | 店舗の立地、店内利用・持ち帰り・ドライブスルーなどの提供方法、モバイルオーダーによる注文接点 | 顧客が利用したい場所や場面で、購入・受け取りがしやすいか |
| プロモーション(Promotion) | 公式サイトやSNSでの商品情報の発信、店頭での案内、リワードプログラム | 商品を知る、試す、再利用するなど、目的に合う情報やきっかけを届けているか |
※上表は、公開されている商品・サービスを4Pの視点で整理した当社の分析例です。各施策は複数の要素に関係する場合があります。商品・サービスの提供条件は、店舗や時期によって異なります。
4P分析では、各要素を個別に整理するだけでなく、STPで定めた顧客と提供価値に合っているかを確認します。たとえば、店内でくつろぐ時間を重視する顧客を考えるなら、ドリンクやフード(製品)、その体験に対して納得できる価格(価格)、利用しやすい立地や店舗空間(流通)、過ごし方の魅力を伝える情報発信(プロモーション)を、一貫した組み合わせとして検討できます。
一方、移動中の購入を重視する顧客では、注文・受け取りのしやすさが重要になります。同じ商品でも、対象とする利用場面によって4Pで重視する点は変わります。スターバックスの施策を自社に応用する際も、個々の施策をまねるのではなく、誰にどのような価値を届けるための組み合わせなのかを考えましょう。
スターバックスのブランド戦略
ブランド戦略では、企業が大切にする価値を、商品や店舗、接客、情報発信などの接点で一貫して表現することが重要です。スターバックスの事例では、前述のブランド哲学が、顧客の目に触れるものや実際の体験にどう反映されているかに注目します。
以下の表は、ブランド戦略を考えるための観点を整理したものです。それぞれの取り組みが、STP分析で捉えた「顧客に選ばれる理由」とどうつながるかを確認しましょう。
| ブランド戦略の観点 | スターバックスの事例で注目する接点 | 分析のポイント |
|---|---|---|
| 心地よく過ごせる場所 | 店舗空間、座席、接客 | 休憩や交流など、顧客が求める過ごし方に合っているか |
| コーヒーの品質と選ぶ楽しさ | コーヒーのラインアップ、季節限定商品、カスタマイズ | 品質へのこだわりや選択肢が、顧客にどう伝わり、評価されているか |
| 社会・環境への責任 | コーヒーの調達、生産者への支援、環境への取り組み | 取り組みが顧客に認知され、ブランドを選ぶ理由になっているか |
| 地域とのつながり | 地域の文化や歴史を取り入れた店舗づくり | 地域らしさと、ブランドとして共通して大切にする価値が両立しているか |
| 接点を通じた一貫性 | 店舗、公式サイト、アプリ、SNSなど | 発信する内容と実際の利用体験が、同じブランドの約束としてつながっているか |
※上表は、本記事で紹介した取り組みをもとに、当社がブランド戦略の観点から整理したものです。顧客からの評価や施策の効果を示すものではありません。
自社に応用する際は、伝えたいブランド像と、顧客が実際に経験することを照らし合わせます。たとえば「心地よく過ごせる場所」を掲げるなら、広告の表現だけでなく、座席の使いやすさや接客まで、その約束に合っているかを確認します。顧客の声から期待と体験のずれを見つけ、各接点を改善することが、ブランド戦略を具体化するうえで重要です。
スターバックスのコミュニケーション戦略
コミュニケーション戦略では、対象とする顧客に、どのような情報を、どの接点で届けるかを考えます。スターバックスの事例でも、発信する媒体を列挙するだけでなく、商品を知ってもらう、利用方法を伝える、継続的な関係を築くといった目的と結びつけて整理することが重要です。以下では、その接点と取り組みを見ていきます。
| 接点・取り組み | 伝える内容・提供する機会の例 | 目的 | 検証する指標の例 |
|---|---|---|---|
| 公式サイト・SNS | 商品の特徴、季節限定商品の発売情報 | 商品を知り、関心を持ってもらう | 情報の到達数、商品ページの閲覧数、商品認知率 |
| ブランドの取り組みに関する発信 | コーヒーの調達、生産者への支援、社会・環境への取り組み | 企業の姿勢や商品の背景を理解してもらう | 取り組みの認知率、内容の理解度、ブランドに対する評価 |
| 店頭での接客・案内 | 商品の説明、好みに応じた提案、注文方法の案内 | 選びやすさや安心感につなげる | 案内の分かりやすさ、接客満足度、顧客からの意見 |
| アプリ・リワードプログラム | 商品や特典の情報、利用方法の案内 | 継続的な接点を持ち、再利用のきっかけをつくる | 情報の閲覧率、特典の利用率、一定期間内の再利用率 |
※上表は当社による整理です。「目的」と「検証する指標の例」は分析のために示したもので、スターバックスが公表した施策目標・評価指標や、実際の成果を示すものではありません。
自社に応用する際は、STPで選んだ顧客の関心や利用場面に合わせて、伝える内容と接点を組み合わせます。たとえば、新しい商品を楽しみたい人には商品の特徴や発売情報を、初めて利用する人には注文方法や選び方を伝えるなど、顧客が必要とする情報を具体化しましょう。
効果を評価するときは、閲覧数や反応数だけでなく、目的に応じて来店・購入・再利用などの指標を確認します。情報発信を行ったことと、顧客の行動が変わったことを分けて捉え、改善につなげることが重要です。
まとめ
STP分析は、市場を細分化するセグメンテーション、対象とする顧客を選ぶターゲティング、競合と比較した自社の位置づけを明確にするポジショニングを通じて、マーケティング戦略の方向性を定めるフレームワークです。
スターバックスの事例では、年齢や職業だけでなく、「店内でひと息つきたい」「移動中にスムーズに購入したい」「好みの一杯を楽しみたい」といった利用場面やニーズに注目することで、商品・サービスと顧客への提供価値のつながりを整理できます。コーヒーの品質に加え、空間や接客、選ぶ楽しさ、購入の利便性をどう組み合わせているかが、分析のポイントです。
自社に応用する際は、顧客を分類するだけで終わらず、優先して応えるニーズを選び、その顧客がほかの選択肢と比較して自社を選ぶ理由を明確にしましょう。そのうえで、商品・価格・販売方法・情報発信に落とし込み、顧客の反応を確かめることが重要です。
なお、本記事で紹介したSTP分析は、公開情報をもとにした当社の考察です。事例の結論をそのまま当てはめるのではなく、分析の視点を自社の顧客理解や施策の検討に役立ててください。

