2024年現在、日本のBtoBマーケティングシーンではカスタマージャーニーの重要性について、Googleトレンドの検索数推移からも、ここ10年で広く認知され出していると感じられます。
しかし、実際にカスタマージャーニーマップを作成するとなると、マーケターにとってはハードルが高いタスクらしく、マーケティング先進国の米国ですら、カスタマージャーニーを計画的に活用できている企業は36%程度とのこと。おそらく日本ではもっと少ないでしょう。
たしかに、「マーケティングの成果に繋がる」「顧客体験が向上する」「収益に繋がる」などの恩恵があるとは知っていても、「日々目の前の業務で忙しく、時間もかかりそうで、そもそも上手く作れそうにない」と感じる気持ちは大いに理解できます。
実際問題として、マーケターは4割以上が重要業務に時間を割けていないというデータもあるように多忙を極めており、自身がリソースを割くべき業務を取捨選択しなければならない状況も珍しくありません。
もしリソースが不足しているのなら、カスタマージャーニーの作成支援をしてくれるデジタルツールを使用するのが有効です。ツールは購買心理学や統計をもとに各ベンダーが最適化したソリューションですので、専門知識がなくとも一定以上のクオリティのカスタマージャーニーが作成できるようになっています。
本記事では、カスタマージャーニーを手軽に作成したい方向けに、おすすめのカスタマージャーニー作成ツールを6選紹介します。無料のものも紹介しますので、まずは使って慣れるところからはじめましょう。
カスタマージャーニーとは、見込み客が製品やサービスを認識し、それを購入し、使用するまでのプロセス全体の流れを指します。自社が定義したペルソナ(理想の顧客像)が購入するまでの一連の流れを旅(ジャーニー)に見立てて可視化することで、見込み客が購買に至るまでの態度・ニーズの変遷を可視化できます。
BtoB SaaSでは、長期的な顧客関係が重要であるため、各ステップにおいて顧客のニーズと期待に応えることが不可欠。カスタマージャーニーを定義すると、顧客が各購買フェーズで必要とする情報やサポート内容などがわかるため、マーケティング活動のROIを高めつつ、成約率アップを実現可能です。
実際に、米marketing chartが2021年に発表した1150人を対象にした調査では、78%が自社にとってカスタマージャーニーを基にしたアプローチが重要であり、以下のメリットがあると回答しています。
(出典:marketing char「How Can A Journey-Based Strategy Help You?」)
BtoB SaaSビジネスにおいてカスタマージャーニー作成が重要な理由は「顧客理解の促進」にあります。
見込み客の製品の購入前から購入後のサポートやアフターサービスに至るまで、各フェーズで顧客の考えやニーズなどを把握できます。そこから得られるインサイトを基に、最適な顧客コミュニケーションを実現しつつ、見込み客の疑問や懸念を解消すれば、「成約率」「顧客維持率」「アップセル・クロスセル」などの上昇に繋げられます。
特に、BtoB SaaSはサブスクリプションのビジネスモデルですので、持続的に自社事業を成長させていく上では、顧客の定着度合いは極めて重要。実際に、成長期SaaS企業の売上成長能力は、顧客の維持率に相関するとのデータもあります。
(出典:SaaS CAITAL「New Data on SaaS Company Growth Rates and Retention」)
カスタマージャーニーには、成約後のサポートやフィードバック収集・反映も含まれますので、顧客維持に繋がる重要なインサイトも得られるのです。
さらに、カスタマージャーニー作成を通じて、見込み客の購買行動を共有すれば「施策の最適化」「情報共有と迅速な意思決定」「部門間連携の強化」など、さまざまなシーンでプラスの影響があります。
カスタマージャーニーは社内共有や内容編集の効率を考えると、作成ツールを用いて製作するのが効率的です。カスタマージャーニー作成ツールは、見込み客がさまざまなタッチポイント経由で購買に至るまでのジャーニーを定義し、視覚的に表現できるデザイン機能があるツール全般を指します。
そのため、Googleスプレッドシート/スライドのようなシンプルなデザイン機能を持ったツールでも十分作成可能です。より複雑なデザインでカスタマージャーニーを作成したい場合は、フローチャートを用いたデザインが可能なツールもあります。
さらにツールによっては、提供企業側によりカスタマージャーニーマップのテンプレートが公開されていることも。テンプレートでは最初からカスタマージャーニーに必要なレイアウトなどが整えられていますので、作成の経験がなくてもみやすく、わかりやすいジャーニーマップを製作できます。
このように、カスタマージャーニー作成ツールにはテンプレートが提供されているものもありますが、実際に使っていく上では自社ビジネスにあわせてカスタマイズするとより使いやすくなります。
当社(株式会社LEAPT)でも、HubSpotが公開しているものをベースにしつつ、Googleスライドを活用して以下のように直線的なカスタマージャーニーマップのテンプレートを作成しています。
上記のように横軸に向かって進んでいく直線型のカスタマージャーニーは、シンプルであるため製作しやすく、内容も一見してわかりやすくなっています。
横軸に「気づき→認知→検討→導入→利用」という5つのステージを配置し、縦軸にはペルソナの「課題」「行動」「情報ニーズ」「情報リソース」「次の段階へのモチベーション」という5つの要素を設定しています。
このようなシンプルなカスタマージャーニーマップは業界や部署の特性にかかわらず、幅広く活用可能です。必要に応じて特定の業界や部門のニーズに合わせて柔軟にカスタマイズできますので、まずはシンプルなデザインからカスタマージャーニーの活用をはじめましょう。
ここからは、前述したシンプルなカスタマージャーニーの作り方について、作成ツールの使用を前提に以下の3ステップで解説します。
以下より、個別にみていきましょう。
カスタマージャーニーでは「特定の個人」を想定して行動予測を行っていくため、まずはペルソナを作成します。ペルソナとは、自社の半架空の見込み客プロフィールであり、一般的には「自社にとっての理想の顧客像(個人)」を設定します。
ペルソナは、顧客インタビューや既存の顧客データ、営業担当へのヒアリングを基に作成します。ペルソナを作成するにあたって考えるべき項目例としては、以下のとおりです。
ペルソナを詳細に設定することで、よりリアリティあるカスタマージャーニーを作成できます。
次に、ペルソナ目線でカスタマージャーニーの縦軸と横軸を設定します。
ペルソナの「横軸 = カスタマージャーニーの長さ(購買活動のステージ)」は、作成目的によって変わるものです。
たとえばマーケティングプロモーションの成果を高めるためなら、「気づき」「認知」「検討」の3項目でもよいでしょう。しかし、カスタマージャーニーの作成を通して「リテンション率を上げたい」「顧客からの紹介や売上げまで増やしたい」といった場合は、「購入」「オンボーディング」「活用中」「シェア」といった項目も追加するのが有効です。
「縦軸=ペルソナの考えや行動」については、見込み客が各フェーズでとる具体的なアクションと捉えましょう。当社では、カスタマージャーニーの縦軸に「ペルソナの課題」「ペルソナの行動」「情報ニーズ」「情報リソース」「次の行動へのモチベーション」を設定しています。
縦軸の設定により、ペルソナが各ステージでどのように感じ、行動し、どのような情報を求めているかを深く理解できます。そのため、見込み客のニーズに即したアプローチ(例:気づきの段階で、ペルソナが潜在的に抱えている課題に気づかせるコンテンツを作成するなど)が可能です。
横軸・縦軸の内容を決定したら、それぞれの項目を埋めていくために情報を整理する必要があります。
まず、顧客とのタッチポイントや以前に収集したフィードバック、既存のマーケティングデータなどから、見込み客の行動や感情に関連する情報を収集し、整理します。そこで、出てきた情報・要素をカスタマージャーニーの縦軸と横軸の該当する項目に合わせて当てはめていきましょう。
その際に、テンプレートがあることで、どの位置に記載したらよいのかが視覚的に分かり、情報をマッピングしやすくなります。
カスタマージャーニーを作成するツールを選定する場合、以下のポイントに着目しましょう。
それぞれ詳しく解説します。
カスタマージャーニーの作成において、PowerPointなどでの複雑なデザイン(例:スライドレイアウトや装飾など)に多くの時間を費やす必要はありません。重要なのは、関係者が理解しやすい形で情報を整理することですので、ジャーニーの内容の作成と深堀りに焦点を当てるべきでしょう。
デザインはジャーニーの内容をサポートするためのものであり、内容自体よりも優先されるべきではないのです。そのため、まずはシンプルで直感的なデザインを行えるツールを選定し、カスタマージャーニーの内容そのものの質を高める意識を持ちましょう。
カスタマージャーニーを作成する際には、一人で作業することもあれば、複数の関係者が編集することもあります。そのため、誰でも操作できるような直感的で使いやすいツールを選ぶことが重要です。
さまざまなスキルレベルの担当者が使えるように、編集機能は柔軟で簡単にアクセス可能であることが望ましいでしょう。使いやすく、直感的なインターフェースを持っているツールを選定することで、専門的な知識がなくともジャーニーマップを編集することが可能です。
オンラインベースのツールの場合、どこからでもアクセスでき、作業の進捗を自動的に保存してくれます。これにより、作業の途中でのデータ損失も防ぎつつ、さまざまな場所やデバイスで作業できるようになります。
カスタマージャーニーは、マーケティング部門だけでなく、セールス、カスタマーサクセスなどの複数部門にわたる認識のすり合わせが求められるため、共有機能は不可欠です。
そのため、カスタマージャーニーの作成で使用するツールは、異なる部門間でのスムーズな情報共有と協力を促進する機能を備えている必要があります。たとえば、後述するGoogle スプレッドシート/スライドは【共有】メニューを選ぶだけで、メールアドレスさえあれば誰でも簡単にファイル共有を行えます。
(出典:Google Sheets)
オンラインでのリアルタイム共有と編集機能を持つツールは、複数の関係者が同時にジャーニーマップに対してフィードバックやアップデートを行えるため、チーム作業の効率アップに繋がるでしょう。
ここでは、おすすめのカスタマージャーニー作成ツール・テンプレートを6つ紹介します。
それぞれ個別にみていきましょう。
(出典:Google Sheets)
Googleスプレッドシート(Google Sheets )はExcelと互換性があり、操作も似ているため、多くのビジネスマンが抵抗なく使えるクラウドベースのツールです。顧客フィードバックや行動データなど、カスタマージャーニー作成に必要な情報をスプレッドシートに集約しつつ、データ整理や並べ替えを行えば、重要なインサイトを抽出するのに役立ちます。
ネット上にはExcelの無料テンプレートが多数公開されています。Excelのほうが使いやすい方ならそれをもとにカスタマージャーニーを自作し、Googleスプレッドシートにアップデートして共有してもよいでしょう。
ただし、スプレッドシートは表やグラフを作るためのツールです。視覚的にわかりやすいカスタマージャーニーを作成したいなら、Googleスライド(Slides)がおすすめ。こちらは、MicrosoftのPowerPointと互換性があり、機能の呼び名は違えど操作方法も似ています。
(出典:Google Slides)
Googleスライドはカスタマージャーニーの各段階を視覚的に表現するための図形、アイコン、テキストを使用できますので、チームや各ステークホルダーに対してカスタマージャーニーの意図やポイントを明確に伝えられるでしょう。
Google スプレッドシート/スライドともにオンラインでファイルを共有し、同時閲覧・編集も可能です。利用も基本的には無料ですので、まずはこの2つのツールでカスタマージャーニーを作成してみましょう。
(出典:HubSpot)
HubSpotは、顧客管理ツール(CRM)として広く知られており、マーケティングや営業、カスタマーサービスなど、各領域で役立つ製品群を提供しています。
カスタマージャーニーの作成において、HubSpotの中で特に役立つツールはMA(マーケティング・オートメーション)である「Marketing Hub」です。
たとえば、リード生成ツールを使用すれば、カスタマージャーニーの初期段階である潜在顧客を特定可能。顧客データに基づいてターゲット層を細分化し、カスタマージャーニーに必要な異なる顧客層を明確にできます。
ジャーニー作成後も、ツールを介して見込み客の各購買ステージでのリアクションなどを計測できますので、横軸・縦軸の内容をより最適なものに調整できるでしょう。
加えて、HubSpotでは全7種のカスタマージャーニー・テンプレートを無料で公開しています。
(出典:HubSpot)
テンプレートにはそれぞれ特徴や用途の解説つきで、カスタマージャーニーの作成手順について説明された全36ページのPDFコンテンツも提供されているのが特徴。「これから本格的なカスタマージャーニーの作成を行いたい」という場合は、HubSpotの関連ソリューションが役立つでしょう。
(出典:Figma)
Figmaはクラウドベースのコラボレーション・デザインツールであり、カスタマージャーニーの各段階でのユーザー体験を視覚的に表現し、フィードバックとレビューを効率的に取り入れることが可能です。
共有ライブラリや再利用可能なアセットを活用すれば、一貫性のあるデザインを維持しつつ、メンバー・部門間のコミュニケーションが促進されるでしょう。
Figmaにも無料のカスタマージャーニーマップのテンプレートがあります。
(出典:Figma)
Figmaのテンプレートは、色彩豊かにデザインされており、編集して自社用にカスタマイズも可能。操作も簡単で、ダブルクリックするだけで色の変更やテキストの編集、新しいコンテンツの追加が可能です。
(出典:UXPRESSIA)
UXPRESSIAはCX(カスタマーエクスペリエンス)を包括的に管理するためのツールです。カスタマージャーニー作成においても、CX関連機能と直感的なユーザーインターフェースで大いに役立ちます。
UXPRESSIAでは、全てのカスタマージャーニーマップを共通の仮想空間に保存し、チームメンバーや関係者と共有可能です。
ジャーニーマップには、ビジネスKPIやウェブ分析データを統合でき、デザインプロトタイプやビデオなどのコンテンツも組み込めます。プレゼンテーション機能を通じて、作成したマップをリアルタイムで共有・更新できますので、カスタマージャーニーのブラッシュアップを行いやすいのが特徴です。
100種以上のさまざまなテーマや業界のテンプレートが用意されています。視覚的に優れたデザインツールもあるため、初めての方も自社のペルソナのカスタマージャーニーをイメージしやすく、スムーズに作成できるでしょう。
(出典:FlowMapp)
FlowMappは、Webサイトやアプリケーションの計画、開発、および最適化のための視覚的なデザインツールです。このツールの主な機能は、Webサイトやアプリの計画、UX設計、コンテンツ管理などですが、これらの機能はカスタマージャーニーの視覚化にも有効です。
カスタマージャーニーを俯瞰図で視覚化し、全体像を理解しつつ、ジャーニーの各ステージにおける各項目のモックアップを作成し、顧客体験を具体化できます。
FlowMappでは、トップページの「Try Demo Project」をクリックすると、さまざまなテンプレートが表示されます。「Email Flow」「B2B Online Marketing」など、BtoBビジネスの各領域に即したものが用意されているのが特徴です。
(出典:FlowMapp)
ただし、テンプレートはチャート式になっており、カスタマージャーニー作成用という訳ではありません。そのため、やや上級者向きではあるものの、「自社ビジネスの特性に合わせて細かくジャーニーマップを定義したい」と考える場合は活用してみましょう。
(出典: