コラム|ビズブースト株式会社

【IT業界】市場分析のやり方4ステップ|勝てる領域を見極める実践手順

作成者: 吉國 美涼(よしくに みすず)|26/06/03 7:57

「これまでの紹介や電話営業だけでは、新規の引き合いが安定して生まれにくくなってきた」——。IT受託開発やソフトウェア販売を担う営業責任者の方から、このような相談をいただく機会が増えています。

背景にあるのは、IT市場そのものの構造の変化です。ITRの調査では、国内ERP市場における2024〜2029年度の年平均成長率について、パッケージ市場がマイナス0.9%と予測される一方、SaaS市場は20.0%とされています。また、IDC Japan株式会社の調査でも、国内パブリッククラウドサービス市場は拡大傾向にあることが示されています。つまり、IT投資そのものが縮小しているわけではありません。顧客の選択肢がSaaSやクラウドサービスへ広がるなかで、従来型の個別開発やソフトウェア販売の延長線上だけでは、選ばれる理由を示しにくくなっているのです。

だからこそ、Webサイトやコンテンツでも、自社が勝負すべき領域と提供価値を明確に打ち出す必要があります。しかし、どの市場を狙い、自社のどんな強みを打ち出すべきかが曖昧なままでは、具体的な施策に落とし込めません。役員や経営層に対しても、「なぜこの領域を狙うのか」「どのような成果が見込めるのか」を説明できる根拠が求められます。

市場分析は、スライドを整えるための「お勉強」ではありません。競合との消耗戦を避け、自社が勝ちやすい領域を見極め、営業・マーケティングの判断基準をそろえるための実務的な手段です。本記事では、市場分析と市場調査の違いを整理したうえで、TAM/SAM/SOM、5Forces、3C、SWOT・クロス分析をどの順番で使い、Web・MA・Salesforceの施策へ落とし込むかを解説します。一般的な市場分析の基本を押さえながら、特にIT受託開発・ソフトウェア販売会社の営業責任者が、役員説明や施策実行に活用しやすい形でまとめました。

市場分析とは?|「やり方」を学ぶ前に整理すべき市場調査との違い

市場分析とは、市場規模、顧客ニーズ、競合環境、自社の強みなどを整理し、自社がどの市場・顧客・商材に注力すべきかを判断するためのプロセスです。

市場分析に取り組む前に、まず整理しておきたいのが「市場調査」と「市場分析」の違い。市場調査は、判断材料となる事実を集める作業です。一方、市場分析は、集めた事実をもとに「自社はどの市場を狙うべきか」「どの顧客に、どの価値を訴求すべきか」を判断するプロセスです。この違いを曖昧にしたまま作業を進めると、データは集まっているのに、営業戦略やWeb施策に反映できないという状態になりやすくなります。

IT受託開発やソフトウェア販売における市場分析は、単なる情報整理ではありません。限られた営業リソースや開発予算を、どの市場・顧客・商材に集中させるかを決めるための判断材料です。

事実を拾う「市場調査」、示唆を出す「市場分析」

市場調査とは、市場規模、競合の動き、顧客属性など、判断材料となる事実を集める作業です。例えば、「SaaS市場が伸びている」「競合A社が新機能をリリースした」「特定業界でDX投資が増えている」といった情報は、調査によって得られる材料です。一方、市場分析とは、集めた事実をもとに「だから、自社はどう動くべきか」という示唆を導き出すことです。例えば、「中堅企業のDX予算が増えている」という事実があったとします。そこで終われば、単なる情報共有です。分析では、その事実をもとに「自社の受託実績が豊富な製造業向けDX支援を強化し、来期の注力ターゲットに設定する」といった判断まで落とし込みます。

つまり、分析とは「So What?(だから何なのか)」に答えることです。この問いに答えられない資料は、どれほどデータが豊富でも、役員を動かす判断材料にはなりにくいでしょう。

B2Bマーケティングにおいて「分析」が投資判断の鍵を握る理由

B2Bビジネス、とりわけIT業界で市場分析が重要なのは、一度の投資判断が利益に与える影響が大きいからです。

IT受託開発やソフトウェア販売では、特定の領域へ注力するだけでも、営業資料の作り直し、Webサイトの刷新、エンジニアの教育、導入支援体制の整備などが必要になります。もし「なんとなく伸びそうだから」という曖昧な理由でターゲットを選べば、営業担当者の工数を浪費し、最終的には「案件は獲れるが利益が出ない」という状態になりかねません。

私たちは、市場分析を単なる調査作業ではなく、限られた経営資源をどの市場・顧客・商材に投じるべきかを判断するためのプロセスだと考えています。

その背景には、データやインサイトを活用する企業ほど、成果を出しやすいという知見があります。McKinsey & Companyの調査(要会員登録)では、顧客分析を集中的に活用する企業は、そうでない企業に比べて、新規顧客獲得で競合を上回る可能性が23倍、平均以上の収益性を達成する可能性が約19倍高いとされています。またForresterの調査でも、高度にインサイトを活用する企業は、前年比20%以上の売上成長を報告する可能性が、初心者レベルの企業の8.5倍以上であるとされています。

もちろん、これらのデータは「市場分析をすれば必ず成果が出る」という意味ではありません。しかし、勘や経験だけに頼るのではなく、データに基づいて市場・顧客・投資領域を選ぶことが、成果につながる可能性を高めることは示唆しています。つまり、市場分析の価値は、客観的なデータをもとに、勝てる市場、狙うべき顧客、避けるべき投資を見極め、営業・マーケティング・経営判断の精度を高めることにあります。

市場分析によって「勝てる根拠」を明確にすることは、投資判断を支える材料になります。

  • リスクの回避
    収益性が低い、あるいは自社に勝ち目がない市場への参入を防ぐ
  • 説得力の向上
    役員から「なぜこの市場なのか」と問われた際に、客観的なデータをもとに説明できる
  • 現場の迷いの削減
    営業担当者が、どのターゲットに、どの訴求でアプローチすべきかを判断しやすくなる

市場分析の目的は、営業・マーケティング・経営判断の前提をそろえ、成果につながりやすい市場へリソースを集中させることにあります。

なぜ市場分析は「お勉強」と「資料作成」で終わってしまうのか?

「3C分析やSWOT分析に取り組んでみたものの、結局、営業現場の何が変わるのかが見えてこない」

これは、IT受託会社やソフトウェア販売会社の営業責任者が、市場分析に取り組む際に直面しやすい課題です。

市場分析は、本来、営業戦略やマーケティング施策の判断材料になるものです。しかし実際には、フレームワークを埋めること自体が目的になり、営業活動やWeb施策に結びつかないまま終わってしまうケースも少なくありません。なぜ、時間をかけて作成した分析レポートが、実務に活かされないのでしょうか。主な理由は2つあります。

フレームワークの「空欄」を埋めることが目的になっていないか?

もっとも多い失敗は、「調査」と「分析」を混同してしまうことです。たとえば、「クラウド市場が伸びている」「競合が新しいサービスを出した」「自社には開発実績がある」といった情報を集めることは、重要な調査です。しかし、それだけでは役員から「だから、当社はどこで勝つのか」「どの市場に投資すべきなのか」と問われたときに、明確に答えることはできません。

営業責任者に求められるのは、集めた事実をもとに、「だから、自社はこのターゲットに、この訴求で営業をかけるべきだ」と言える状態まで落とし込むことです。つまり、市場分析とは、事実を集める作業ではなく、集めた事実から意思決定に使える示唆を導き出すことです。

国内IT市場では、SaaSやクラウドサービスの活用が広がり、顧客の選択肢は増えています。その変化を前に、「市場が伸びている」「クラウド化が進んでいる」と把握するだけでは不十分です。重要なのは、その変化の中で、自社がどの領域に立てば選ばれやすいのかを見極めることです。この「自社はどう動くべきか」という解釈がなければ、分析結果は役員会議で単なる情報共有にとどまってしまいます。

IT業界特有の「技術力ありき」が招くポジショニングの罠

もう一つの理由は、IT業界特有の「技術起点」の考え方です。

市場分析を行う際、自社の強みを「高い技術力」や「豊富な開発実績」と定義することは少なくありません。もちろん、技術力や実績は重要です。しかし、顧客が知りたいのは、技術そのものではなく、その技術によって「自社のどの業務課題が、どのように解決されるのか」です。

「何でも作れます」「あらゆる業種に対応できます」という表現は、一見すると強みに見えます。しかし、顧客から見れば、どの課題に強い会社なのかが分かりにくく、競合との違いも伝わりにくくなります。

競合が多い市場で選ばれるためには、「自社がどの領域なら選ばれやすいのか」を具体的に絞り込む必要があります。たとえば、単に「開発実績が豊富」と伝えるのではなく、「製造業の基幹システム刷新において、現場定着まで支援できる」と表現することで、顧客は自社の課題と結びつけて理解しやすくなります。

技術力を起点にするだけでは、顧客の悩みや市場の不満を見落としやすくなります。市場分析を実務に活かすためには、自社の技術や実績を「誰の、どの課題を解決するための手段なのか」という顧客視点の言葉へ変換することが欠かせません。

市場分析で使うフレームワークの順番

市場分析では、最初から3C分析やSWOT分析を埋めるのではなく、まず市場規模を測り、次に収益性の構造を確認し、そのうえで自社が選ばれる理由を整理します。最後に、分析結果をWeb・MA・CRM・営業活動へ落とし込むことで、調査結果を実行可能な戦略に変換できます。

順番 確認すること 使うフレームワーク 主な出力
1 市場規模と投資余地 TAM/SAM/SOM ターゲット・売上見込み
2 収益性の構造 5Forces 避ける市場・攻める市場
3 選ばれる理由 3C 重点顧客・訴求軸
4 具体的な攻め筋 SWOT・クロス分析 Web・MA・CRM・営業への反映


この順番で整理すると、「市場が大きいから狙う」のではなく、「市場規模があり、収益性が見込め、自社が選ばれる理由があり、施策へ落とし込める領域」を見極めやすくなります。

やり方1:TAM/SAM/SOM分析で市場を測る|投資の妥当性を示す

市場分析の第一歩は、自社が狙う市場の大きさを正しく測ることです。

役員会議で「新しい領域に注力したい」と提案すると、必ず問われるのが「どの程度の売上が見込めるのか」という投資対効果です。この問いに対して、官公庁や調査会社が公表している大きな市場規模をそのまま示しても、実際の売上見込みとしては十分ではありません。

私たちは、市場規模を「大きく見せるための数字」ではなく、投資判断に使える売上予測へ落とし込むための材料だと考えています。

そこで有効なのが、TAM/SAM/SOM分析です。TAMは市場全体の可能性を示しますが、それだけでは「自社が実際にどれだけ売上化できるのか」は分かりません。業界・地域・顧客規模・課題・競合状況・営業体制などを踏まえてSAMへ絞り込み、さらに現在のリソースで現実的に獲得できるSOMまで落とし込むことで、売上予測の精度を高めることができます。

SalesforceもTAM/SAM/SOMについて、TAMを市場全体の収益機会、SAMを競合・地域・提供能力・顧客属性などを踏まえて現実的に提供できる市場、SOMを営業・マーケティング体制や予算、期間などを踏まえて現実的に獲得できる市場と説明しています。つまり、TAM/SAM/SOMは、市場全体の可能性から、自社が現実的に売上化できる範囲までを段階的に絞り込む考え方です。

市場全体が大きく見えても、自社が実際に届けられる顧客層に明確なニーズがなければ、投資は成果につながりません。CB Insightsの分析でも、プロダクトマーケットフィット(PMF)の不足は、スタートアップの主要な失敗要因として挙げられています。だからこそ重要なのは、いきなりTAMという大きな市場を狙うことではなく、まずはSOMで「自社が現実的に獲得できる市場」を明確にすることです。これにより、役員に対しても、実現可能性を踏まえた投資判断であると説明しやすくなります。

TAM/SAM/SOM分析で見るべきなのは、市場の大きさそのものではありません。投資判断に使える「自社が勝てる市場の範囲」です。次に、IT受託・販売のビジネスモデルに当てはめながら、それぞれの市場の捉え方を整理していきます。

IT受託・販売会社におけるTAM/SAM/SOMの考え方

IT受託・販売会社の場合、TAM/SAM/SOMは「市場全体」から「自社が現実的に獲得できる市場」へ絞り込むための考え方として使います。例えば、在庫管理システムの開発・導入支援に強みがある会社であれば、次のように整理できます。

●TAM(Total Addressable Market):市場全体の可能性

国内のITアウトソーシング市場や、業務システム開発市場など、自社のサービスが理論上アプローチできる最大の市場です。ここでは、将来的な事業拡大の可能性を把握します。

●SAM(Serviceable Addressable Market):自社が提供できる市場

TAMのうち、自社の実績や得意領域を踏まえて、実際に価値を提供しやすい市場です。例えば、「製造業・物流業における在庫管理システムの刷新需要」のように、業界や業務課題で絞り込みます。

●SOM(Serviceable Obtainable Market):現実的に獲得できる市場

SAMのうち、現在の営業体制、マーケティング予算、開発・導入支援のリソースを踏まえて、直近で獲得を目指せる市場です。たとえば、「営業担当者3名で1年間にアプローチできる企業数」「年間に対応できる導入案件数」などから算出します。

このように整理すると、市場規模を大きく見せるだけではなく、「自社はどの市場で、どの程度の売上を現実的に狙えるのか」を説明しやすくなります。役員に対しても、単なる市場の魅力ではなく、実現可能性を踏まえた投資判断として提示できます。

営業リソースから逆算する「現実的なSOM」の算出法

市場分析を実務に活かすうえで重要なのは、SOMを「市場の中で取れそうな割合」として見積もらないことです。SOMは、現在の営業・マーケティング体制で、現実的に売上化できる上限として捉える必要があります。市場規模の数字だけを積み上げてSOMを算出すると、実態とかけ離れた売上見込みになりやすくなります。B2Bの営業現場では、「実際に動ける営業担当者の数」「対応できる商談数」「受注後に納品できる案件数」といった制約を無視できません。

例えば、営業担当者が3名の場合、アプローチできる企業数や商談化できる件数には物理的な限界があります。営業人数だけで売上可能性を判断するのではなく、実際に販売活動へ使える時間や、受注後の提供体制まで含めて見ることが重要です。

SalesforceもSOMについて、マーケティング到達力、営業チーム、予算、期間などを踏まえて現実的に獲得できる市場と説明しています。また、Salesforceの調査では、営業担当者が1週間のうち実際に販売活動へ使っている時間は28%にとどまるとされています。そのため、SOMを算出する際は、「市場に何社あるか」だけでなく、次のように営業・提供体制から逆算します。

SOMの目安は、「アプローチ可能社数 × 想定商談化率 × 想定受注率 × 平均案件単価」で試算できます。ただし、IT受託開発やシステム導入支援では、受注後に対応できるPM・エンジニアの稼働上限も必ず確認します。

1. ターゲットリストを特定する

まず、SAMの中から、現在の営業担当者が現実的にアプローチできる社数を特定します。たとえば、対象市場に1,000社が存在していても、営業体制や優先順位を踏まえると、初年度にアプローチできるのは300社に限られるかもしれません。

2. 平均案件単価を掛け合わせる

次に、自社の平均案件単価を掛け合わせます。例えば、平均案件単価が500万円であれば、ターゲット社数や想定受注件数と組み合わせることで、売上規模の試算ができます。

3. 商談・受注・納品のキャパシティを考慮する

最後に、年間に対応可能な商談数やプロジェクト稼働数を踏まえ、現実的に受注できる金額を算出します。例えば、年間で対応できる受注件数が20件であれば、500万円 × 20件 = 1億円が、現時点の体制で見込めるSOMの目安になります。

特にIT受託開発やシステム導入支援では、営業が案件を獲得できても、エンジニアやPMの稼働が不足していれば売上化できません。SOMは営業リソースだけでなく、受注後に提供できる開発・導入リソースも含めて見る必要があります。このように、動員できる人数や対応可能な案件数から逆算すると、SOMは実態に近い売上見込みになります。もし算出したSOMが会社の売上目標に届かないのであれば、それは単なる営業努力の問題ではありません。

「現状のリソースでは目標達成が難しい。だからこそ、採用予算の追加、営業支援ツールの導入、外部パートナーの活用が必要である」といった、リソース投入の提案につなげることができます。SOMは、売上目標を小さく見積もるための数字ではありません。現実的な制約を可視化し、目標達成に必要な体制を明らかにするための判断材料です。

▼関連記事:TAM/SAM/SOMの詳しい考え方はこちら

やり方2:5Forces分析で業界の脅威を知る|消耗戦を回避する

5Forces分析は、市場の魅力度を「需要の大きさ」だけでなく、利益が残りやすい構造かどうかから判断するためのフレームワークです。市場規模がどれほど大きくても、利益が出なければビジネスとして持続できません。特にIT受託・販売の現場では、「案件は獲れているのに、外注費や工数が増えて利益が残らない」という事態が起こり得ます。

投資の妥当性を判断する第2ステップは、5Forces(ファイブフォース)分析を用いて、業界全体の「収益性の構造」を把握することです。5Forces分析は、単に「競合が多いか少ないか」を確認するためのものではありません。業界の中で利益がどこで削られやすいのかを見極めるための分析です。

Harvard Business Schoolも、5Forces分析を、業界内で作用する競争要因を理解し、経済的価値が業界関係者の間でどのように分配されるかを把握するための枠組みと説明しています。つまり、市場規模が大きくても、買い手の交渉力が強い、代替品が増えている、エンジニアの確保が難しいといった構造があれば、利益は残りにくくなります。

実際、IT業界ではこうした構造的な圧力が強まっています。経済産業省の「IT人材需給に関する調査」では、2030年にIT人材が最大78.7万人不足すると試算されています。エンジニアの採用費や外注費の上昇は、IT企業にとって収益を圧迫する要因になり得ます。また、IDC Japanの予測では、国内クラウド市場は2024年の9兆7,084億円から、2029年には19兆1,965億円へ拡大するとされています。SaaS・クラウド化は新たな成長機会である一方、従来型の個別開発やオンプレミス前提の提案を代替する脅威にもなります。

つまり、IT市場は「伸びているから参入すべき」と単純に判断できる市場ではありません。成長市場であっても、代替品の台頭、競合の増加、エンジニア不足、買い手の価格交渉力といった構造的な圧力が強ければ、売上は伸びても利益が残らない可能性があります。だからこそ、5Forces分析によって、参入前に収益性の構造を見極めることが重要です。

IT業界を脅かす「5つの力」の正体

IT業界特有の環境に当てはめると、収益性を押し下げる「5つの力」は次のように整理できます。

1. 既存競合との敵対関係
類似した受託開発会社や販売代理店との競争です。機能や価格のみで比較されると、値引き競争に巻き込まれやすくなり、利益率は下がりやすくなります。

2. 新規参入者の脅威
大手コンサルティングファームのシステム実装領域への進出、低価格なオフショア開発、ノーコード・ローコードツールの普及などにより、従来の開発・導入支援モデルは競争環境の変化にさらされています。

3. 代替品の脅威
注意すべきなのは、SaaS・クラウドサービスの台頭です。これまで個別開発で対応していた業務システムが、月額課金型のクラウドサービスに置き換わる可能性があります。クラウド化の流れは成長機会である一方、従来型の受託開発やオンプレミス前提の提案にとっては代替圧力にもなります。

4. 売り手(供給者)の交渉力
IT受託・販売会社にとっては、エンジニアや外部パートナーの確保が大きな論点になります。必要な人材を確保できなければ、受注後の開発・導入体制を組めません。確保できたとしても、採用費や外注費が上昇すれば、利益率を圧迫する可能性があります。

5. 買い手(顧客)の交渉力
IT知識を持つ顧客が増え、複数社への相見積もりやサービス比較がしやすくなっています。顧客側の選択肢が増えるほど、価格や条件面での交渉力は強まり、提供側は利益を守りにくくなります。

これらの力を整理すると、利益が残りにくい原因が、単なる「自社の努力不足」ではない可能性が見えてきます。競合の多さ、代替手段の増加、人材確保の難しさ、顧客の価格交渉力といった業界構造そのものが、収益性に影響している場合があるのです。

「レッドオーシャン」を見抜き、利益率を守るポイント

5Forcesで見たときに、代替品の脅威が強く、エンジニア確保の難易度が高く、買い手の価格交渉力も強い市場は、たとえ需要が大きくても利益が残りにくい市場です。私たちは、こうした市場を「努力しても利益が削られやすい市場」と捉えます。重要なのは、営業量を増やすことだけではありません。構造的に利益が残りやすいポジションを選ぶことです。

利益率を守るための判断基準は、主に以下の3点です。

1. 「代替品(SaaS)」と共存できるか
既存のSaaSと正面から競合するのではなく、SaaSの導入支援、カスタマイズ、外部システム連携、データ活用支援など、クラウド化の流れを活かせる領域かを確認します。

2. 「売り手(エンジニア)」への依存度を下げられるか
特定の技術者や個人の稼働に頼りすぎると、人材不足や外注単価の上昇がそのまま利益率を圧迫します。テンプレート化、自社アセットの再利用、標準化された導入プロセスを活用できる領域であれば、コスト高騰のリスクを抑えやすくなります。

3. 「スイッチングコスト」を高められるか
顧客にとって「他社に乗り換えにくい」と感じられるほど、業務プロセスに深く入り込める市場かどうかを見極めます。単なる開発・販売ではなく、業務設計、データ連携、運用改善まで関与できる領域であれば、価格だけで比較されにくくなります。

例えば、役員に対して「この市場は競合が多いものの、自社の技術アセットを再利用できるため利益率を守りやすい」「この領域はSaaSに代替されるリスクが高いため、正面から参入するのは避けるべきだ」と説明できれば、市場分析は具体的な意思決定につながります。

5Forces分析の目的は、リスクのある市場を避けることだけではありません。利益が削られやすい構造を見抜いたうえで、自社がどこに立てば勝ちやすいのかを判断することです。市場の大きさだけでなく、収益性の構造まで見極めることで、消耗戦を避け、持続的に利益を生み出せる領域を選びやすくなります。

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やり方3:3C分析で自社だけの価値を見出す|選ばれる理由を特定

市場の大きさと収益性を確認したら、次に考えるべきは「自社がどのように選ばれるか」です。ここで活用するのが、Customer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の3つの視点で整理する3C分析です。

B2BのIT実務における3C分析のゴールは、顧客が求めていて、競合が十分に満たせておらず、自社が提供できる価値を特定することです。つまり、自社だけの「選ばれる理由(バリュープロポジション)」を明確にするための分析です。

私たちは、3C分析を単なる「顧客・競合・自社の整理」ではなく、顧客が求める価値と自社の強みが重なる領域を見つけるための分析だと考えています。

Bain & Companyは、B2B顧客が評価する価値を40の要素に整理しています。そこには、機能や価格だけでなく、取引のしやすさ、リスク低減、信頼、担当者個人の評価といった要素も含まれます。つまり、B2Bにおける選定理由は、スペック表や市場データだけでは捉えきれません。顧客が実際に何を不安に感じ、何を評価し、なぜ他社ではなく自社を選んだのかを把握して初めて、3C分析は実効性のあるポジショニングにつながります。例えば、「技術力が高い」ではなく、「どの業界の、どの業務課題に対して、その技術力が評価されているのか」まで掘り下げることが重要です。

Customer分析を加速させる「既存顧客インタビュー」の価値

Customer分析で重要なのは、顧客を「市場の一部」として見るだけでなく、「なぜ自社を選んだのか」「何に価値を感じたのか」まで具体的に捉えることです。

Salesforceの調査では、73%の顧客が企業に対して、自分固有のニーズや期待を理解することを求めているとされています。また、Gartnerの調査でも、B2Bバイヤーの73%が、関連性のないアウトリーチを行うサプライヤーを避けるとされています。つまり、顧客理解が浅いまま一般的な訴求を行っても、選ばれるどころか検討対象から外される可能性があるのです。

それにもかかわらず、多くの企業では「市場データなどの二次情報だけ」で顧客を理解したつもりになってしまうことがあります。「IT投資は増えている」「DXに関心がある企業が多い」といった一般論だけでは、自社ならではの戦略は立てられません。

そこで重要になるのが、既存顧客へのインタビューです。自社のサービスを長く使い続けている顧客に、次のような質問を投げかけてみてください。

「なぜ、他社ではなく当社を選んだのですか?」
「導入前、具体的にどのような業務に困っていましたか?」
「導入後、どの点に価値を感じていますか?」
「検討時に不安だった点は何ですか?」

こうした問いを通じて、「技術力が高いから」といった抽象的な理由だけではなく、「営業担当者が現場の課題を理解してくれたから」「大手ベンダーが対応しにくい細かな保守にも対応してくれたから」といった、具体的な選定理由が見えてきます。

既存顧客から得た具体的な声は、役員会議で「なぜこのターゲットを攻めるのか」を説明するうえでも、説得力のある裏付けになります。ここで得た回答は、Webサイトのファーストビュー、導入事例の見出し、営業資料の訴求、MAメールのテーマに反映できます。顧客の声を単なる参考意見で終わらせず、営業・マーケティング施策の言葉へ変換することが重要です。

競合他社だけではない「広義のライバル」を想定する

Competitor分析では、競合を同業他社に限定しないことが重要です。

IDC Japanの予測では、国内パブリッククラウドサービス市場は2024年の4兆1,423億円から、2029年には8兆8,164億円へ拡大するとされています。クラウドサービスの選択肢が広がるほど、顧客は「個別開発を外注する」以外の方法を選びやすくなります。つまり、同業他社だけでなく、SaaS、パッケージソフト、顧客の内製化、現状維持といった選択肢も、自社の提案と比較される対象として捉える必要があります。

(出典元:「国内パブリッククラウドサービス市場予測を発表(IDC)」より)

具体的には、次のような選択肢です。

1. SaaS・パッケージソフト

個別開発や自社開発の代替手段になります。標準機能で課題を解決できる場合、顧客は月額課金型のサービスを選ぶ可能性があります。

2. 顧客による内製化・ノーコード利用

外注そのものの代替手段です。ノーコード・ローコードツールの普及により、顧客が一部の業務システムを自社で構築・改善する選択肢も増えています。

3. 現状維持

Excel管理や既存システムの継続利用など、「今は投資しない」という判断も競合になります。顧客が現状維持を選べば、どれだけ良い提案でも商談は進みません。

例えば、自社が製造業向けの在庫管理システムを提案する場合、競合A社とのスペック比較だけを見ていては不十分です。月額数万円のSaaS、ノーコードツール、既存のExcel運用も比較対象になります。

このとき、自社の強みを「何でも作れる開発力」とだけ定義してしまうと、SaaSやパッケージソフトとの価格比較に巻き込まれやすくなります。重要なのは、SaaSでは対応しにくい複雑な業務ロジック、外部システム連携、現場定着支援など、自社の技術アセットが価値を発揮しやすい領域を見極めることです。競合を広く捉えることで、SaaSと正面から競うだけでなく、SaaSを活用しながら顧客固有の課題を解決するポジションも見えてきます。

このように、Customer・Competitor・Companyを重ねて見ることで、自社が選ばれやすい領域を具体化できます。それが、営業担当者の提案に一貫性を持たせ、不必要な価格競争を避けるための軸になります。

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やり方4:SWOT・クロス分析で施策に落とし込む|攻め筋を作る

市場を測り、競合と自社の立ち位置を確認したら、最後に行うのは「具体的な攻め筋」の策定です。ここで活用するのが、SWOT分析と、それを一歩進めたクロス分析です。SWOT分析では、強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の4つの視点で、自社を取り巻く状況を整理します。

ただし、4つの項目を書き出すだけでは、営業・マーケティング施策にはつながりません。営業責任者にとって重要なのは、整理した要素を掛け合わせ、「どの市場に、どの強みを、どのように打ち出すのか」という意思決定に落とし込むことです。

私たちは、SWOT分析を「整理表を作るための作業」ではなく、営業・マーケティング施策へ変換するための前工程だと考えています。

TOWS/クロス分析は、SWOTで整理した内部要因と外部要因を掛け合わせ、具体的な行動へつなげるための考え方です。たとえば、SWOTで見つけた「強み」や「機会」は、Webサイトの訴求、営業トーク、MAのシナリオ、CRMの優先順位などに反映されて初めて、現場で機能します。

クロス分析で「受託実績」を「選ばれる提案」に変える

IT受託・販売会社がまず注目したいのは、自社の「強み(S)」と市場の「機会(O)」を掛け合わせる考え方です。例えば、自社に「食品製造業向けの在庫管理システムの開発実績」という強みがあり、市場に「原材料費高騰による在庫適正化ニーズの高まり」という機会があるとします。この場合、クロス分析によって導き出される施策は、単なる「システム開発の受託」ではありません。食品製造業の在庫ロス削減や原材料管理の高度化を支援する「業界特化型ソリューション」として、商品定義や訴求を見直すことです。

このように定義し直すことで、提案の軸は「開発できます」から「食品製造業特有の在庫管理課題を解決できます」へ変わります。その結果、機能や工数だけで比較されるのではなく、顧客の業務課題に対する理解や専門性をもとに提案しやすくなります。

これまで「過去の受託事例」として扱っていた実績も、クロス分析によって、特定のターゲットに価値を伝えるための提案材料へと再定義できます。これは、役員に対して「なぜこのターゲットなのか」「なぜこの訴求なのか」「なぜこの価格設定なのか」を説明する際の、論理的な根拠にもなります。

分析結果をWeb・MA・CRM施策へ反映する考え方

分析結果を施策に落とし込むには、クロス分析で導き出した攻め筋を、Webサイトの訴求、MAのセグメント条件、CRMのスコアリング、営業トークへ反映する必要があります。

例えば、「食品製造業向けの在庫管理支援」という攻め筋であれば、Webサイトでは「誰の、どの課題を解決するのか」を明確にします。MAでは、対象業種や閲覧行動に応じた配信条件を設計し、CRMでは、理想の顧客像に近いリードを優先できるよう、スコアリング条件へ反映します。

このように、分析結果を実行フェーズで使える設定や判断基準へ落とし込むことで、営業・マーケティングの現場で活用しやすくなります。この段階では、細かな施策を増やす前に、「どの市場に、どの強みを、どの訴求で届けるか」という攻め筋を1〜2個に絞ります。攻め筋が曖昧なまま施策化すると、Webサイト、MA、CRM、営業活動の判断基準がばらつきやすくなるためです。ここでは、分析結果を施策へ反映する考え方を整理しました。次章では、Web・MA・Salesforceへ落とし込む具体的な手順を見ていきます。

▼関連記事:SWOT分析のやり方とテンプレートはこちら

市場分析をWeb・MA・Salesforceの施策に落とし込む方法

前章では、TAM/SAM/SOM、5Forces、3C、SWOT・クロス分析を使って、市場分析の結果を施策へ落とし込む考え方を整理しました。ここからは、その分析結果をWebサイト、MA、SalesforceなどのCRMへどのように反映するのかを、より具体的に見ていきます。

市場分析で「狙う市場」と「自社が選ばれる理由」が明確になっても、それがパワーポイントの資料に残るだけでは、営業・マーケティングの成果にはつながりにくくなります。重要なのは、分析結果をWebサイトの訴求、MAのセグメント条件、Salesforceのリード管理やスコアリング、営業活動の優先順位へ落とし込むことです。

私たちは、市場分析を「考えるための作業」ではなく、Web、MA、CRM、営業活動を同じ戦略で動かすための設計図だと考えています。

SOMを「ターゲットリスト」に、強みを「Webコピー」に変換する

分析結果を施策に活かすには、フレームワークで整理した内容を、Webサイト、MA、CRM、営業活動で使える形に変換する必要があります。顧客ごとに響く訴求は異なります。McKinseyは、パーソナライゼーションによって顧客獲得コストを最大50%削減し、売上を5〜15%、マーケティングROIを10〜30%向上させる可能性があると説明しています。つまり、分析で明確にしたターゲットや課題を、Webコピー、メールシナリオ、営業トークへ反映することは、単なる表現調整ではなく、成果に関わる実行プロセスです。

STEP 1:市場規模(SOM)を「ターゲットリスト」へ

分析で算出したSOMは、SalesforceなどのCRMやMAツールにおけるターゲット条件になります。例えば、「関東圏・製造業・従業員100〜500名」というSOMの定義があれば、企業データベースから優先的にアプローチすべき企業を抽出できます。営業担当者が感覚でリストを作るのではなく、分析に基づいて対象企業を絞り込むことで、営業工数を無駄にしにくくなります。

STEP 2:自社だけの価値(3C)を「Webコピー」へ

顧客インタビューや3C分析から特定した「選ばれる理由」は、Webサイトのメインコピーに反映できます。例えば、「最新技術で社会を支える」といった抽象的な言葉ではなく、「基幹システムのリプレイス時に、現場の抵抗を最小化する運用定着支援」のように、顧客の課題に即した具体的なベネフィットへ変換します。

Webコピーは、単なる表現の問題ではありません。誰に、どの価値を、どのような言葉で伝えるかを決める、営業戦略の入口です。市場分析で明らかにしたターゲットや強みが反映されていなければ、サイトへの流入が増えても、問い合わせや商談にはつながりにくくなります。

STEP 3:クロス分析を「MAのシナリオ」へ

SWOT・クロス分析で導き出した「強み×機会」の戦略は、MAでのメール配信シナリオに変換できます。例えば、「法改正」という市場の機会に対し、自社の「専門知識」を活かしたホワイトペーパーを制作します。そのうえで、特定の業種・企業規模・閲覧行動を持つリードに自動配信する仕組みを設計します。このとき重要なのは、単にメールを送ることではありません。どの顧客に、どのタイミングで、どの情報を届けるべきかを、分析結果に基づいて設計することです。

これにより、MAは単なるメルマガ配信ツールではなく、顧客の関心度や検討状況に応じて営業活動を後押しする仕組みになります。分析結果をこうした「ツールの設定値」として制作会社や運用担当者に共有することで、戦略と実行のズレを抑え、施策を具体的に動かしやすくなります。

実際、Salesforceの調査では、83%のマーケターがパーソナライズされた双方向メッセージへの移行を認識している一方で、その瞬間を支えるデータ活用に満足しているのは4人に1人にとどまります。つまり、CRMやMAを導入していても、データや分析結果を施策に使える形へ整備できていなければ、ツールの価値を十分に引き出すことは難しいのです。

なぜ「ハコモノ」だけのデジタル施策が成果につながりにくいのか

近年、多くの企業がMAやCRM、最新のWebサイトを導入しています。しかし、期待していたほどの成果を得られていないケースも少なくありません。その理由の一つは、ツールを動かすための戦略や分析がないまま、高機能な「ハコモノ」だけを用意してしまうことです。

IPA「DX動向2024」でも、DXの具体的な取組項目別に見ると、「アナログ・物理データのデジタル化」や「業務効率化」のような取り組みは成果が出ている割合が高い一方、「新規製品・サービスの創出」や「顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの根本的な変革」は成果割合が低いとされています。

このことからも、単にツールを導入するだけではなく、「どの顧客に、どの価値を届け、どう成果につなげるのか」まで設計する必要があることが分かります。市場分析という設計図がないままデジタル施策を進めると、ターゲットや訴求が曖昧なまま、ツールだけが先行してしまいます。

例えば、次のような状態です。

  • ターゲットが不明確
    誰にメールを送ればよいか分からず、MAがメルマガ配信ツールのような使われ方にとどまってしまう
  • 強みが不明確
    サイトへの流入は増えても、競合との違いが伝わらず、問い合わせにつながりにくい
  • 投資の根拠が不明確
    役員から「このツールを導入して、いつまでにどの程度の売上を見込めるのか」と問われても答えにくい
  • 営業との連携が不明確
    どのリードを優先すべきかが分からず、営業担当者の動きが属人的になりやすい

営業責任者が優先すべきは、ツールの操作方法を覚えることだけではありません。ツールに反映すべきターゲット、訴求、優先順位を、市場分析によって整理することです。「MAを導入したが使いこなせていない」「Webサイトをリニューアルしたが引き合いが増えない」という状況があるならば、ツールの機能不足だけが原因とは限りません。その前段階にある市場分析が不足している可能性もあります。

分析結果をターゲット条件、Webコピー、MAシナリオ、CRMのスコアリングに変換することで、デジタルの仕組みは営業活動と接続されます。市場分析は、ツール導入前の単なる準備作業ではありません。Web、MA、Salesforce、営業活動を同じ戦略で動かすための土台です。

【公開事例から考える】
分析結果をCRM・MA・営業活動に落とし込むと何が変わるのか

ここまで、市場分析の進め方として、TAM/SAM/SOM分析、5Forces分析、3C分析、SWOT・クロス分析を紹介してきました。では、分析結果を実際の営業・マーケティング活動に落とし込むと、何が変わるのでしょうか。

なお、ここで紹介する公開事例は、市場分析そのものの成果を示す事例ではありません。あくまで、ターゲットや訴求を明確にし、CRM・MA・営業活動へ反映した場合に何が変わるのかを考えるための参考事例として紹介します。

SalesforceやHubSpotの公開事例を見ると、成果につながっている企業には共通点があります。それは、ターゲット、訴求、KPI、営業フォローの基準を明確にし、CRMやMAなどの仕組みに反映していることです。例えば、公開事例では次のような成果が紹介されています。

事例 公開事例から見えるポイント 本記事での位置づけ
Kaizen Platform コンテンツとMAシナリオを連動させ、営業活動につなげている ターゲットに合わせた情報提供の参考
TalentX Web行動データや流入経路を営業活動に活用している 顧客インサイトを営業へ接続する参考
LayerX リード流入から商談化、成約までを管理する基盤を整えている マーケティングと営業のKPI共通化の参考

Kaizen Platformの事例

HubSpotの公開事例では、コンテンツマーケティングとMAのシナリオを連動させ、1年でアポ数・商談数・受注件数を2倍以上に伸ばしたことが紹介されています。これは、ターゲットに合わせたコンテンツとMAシナリオを設計し、営業活動につなげる重要性を示す事例です。

TalentXの事例

Salesforceの公開事例では、Account Engagementを活用し、Webサイトの訪問履歴や流入経路、コンテンツ閲覧状況などから顧客インサイトを把握したことが紹介されています。こうした情報を営業活動につなげたことで、顧客接点数や取引量が約2倍になったとされています。

LayerXの事例

Salesforceの公開事例では、Account EngagementとSales Cloudを活用し、リード流入から商談化、成約までを管理する基盤を構築したことが紹介されています。これは、マーケティングと営業が共通のKPIで動くための仕組みづくりの重要性を示しています。

これらの事例から分かるのは、CRMやMAを導入するだけではなく、「誰を狙うのか」「何を訴求するのか」「どのリードを優先するのか」を明確にし、仕組みに反映することの重要性です。市場分析で導き出したターゲットや訴求が、LPのコピー、広告配信条件、MAのセグメント、CRMのスコアリング、営業トークにまで反映されることで、営業・マーケティングの判断基準がそろいやすくなります。

市場分析を自社だけで進めるか、外部視点を入れるかを判断する

ここまで、市場分析の具体的なステップを解説してきました。

市場分析は、自社の状況を最もよく知る社内メンバーが主体となって進めることが基本です。一方で、実務に落とし込もうとすると、「客観性の確保」と「分析に割ける時間」という2つの課題に直面することがあります。

特に、以下のような状態に当てはまる場合は、施策を増やす前に、分析の前提を見直す余地があります。

  • Webサイトの訴求が「何でもできます」に近く、自社の強みが伝わりにくい
  • リードは獲得できているものの、商談化率が伸びない
  • 営業担当者によって、提案内容や訴求ポイントがばらついている
  • 受注はできているが、外注費や工数が増え、利益が残りにくい
  • 過去の受託実績を、次の商材や訴求に活かせていない
  • MAやCRMは導入しているが、セグメント条件やスコアリングが感覚的になっている
  • 役員から「なぜこの市場を狙うのか」と聞かれると、明確に説明しにくい

これらに当てはまる場合、必要なのは新しい施策を追加することだけではありません。施策の前提となる市場分析を見直し、ターゲット、訴求、優先順位を整理することが重要です。TAM/SAM/SOMで狙う市場を絞り、5Forcesで収益性を確認する。さらに、3Cで選ばれる理由を特定し、SWOT・クロス分析でWeb・MA・CRMに落とし込む。ここまで整理できると、施策を増やす前に見直すべき前提が明確になります。

社内分析で起こりやすい「客観性」の課題

社内だけで分析を進める際に難しいのは、自社への思い入れや過去の成功体験が、判断に影響しやすいことです。例えば、次のような考え方です。

「この技術は他社に負けないはずだ」
「長年この業界を支援してきたから、今回も勝てるはずだ」
「既存顧客には評価されているから、同じ訴求で新規にも通用するはずだ」

こうした仮説は、必ずしも間違いではありません。むしろ、戦略の出発点になる重要な材料です。ただし、それを検証しないまま結論にしてしまうと、顧客ニーズや競合環境の変化を見落とす可能性があります。

市場分析では、自社の強みを否定する必要はありません。重要なのは、その強みが「どの市場で」「どの顧客に」「どの競合・代替手段と比較されたときに」本当に選ばれる理由になるのかを検証することです。社内の知見を出発点にしながらも、顧客の声や競合状況と照らし合わせて検証することで、より客観性のある判断につながります。

分析に時間をかけすぎるリスク

もう一つの課題は、分析に使える時間です。

市場分析は、TAM/SAM/SOM、5Forces、3C、SWOT・クロス分析といったフレームワークを順番に埋めれば終わるものではありません。市場データを集め、既存顧客の声を確認し、競合や代替手段を調べ、自社の営業リソースや提供体制と照らし合わせる必要があります。一方で、営業責任者やマーケティング担当者は、日々の案件対応や施策運用にも追われています。分析に時間をかけすぎると、施策の実行が遅れ、機会損失につながる可能性があります。

McKinseyの調査(要会員登録)では、回答者の54%が意思決定に自分の時間の30%超を費やしており、典型的なFortune 500企業では、意思決定に使われる時間の58%が非効率だと推計されています。これは市場分析そのものを対象にした調査ではありませんが、意思決定に時間をかけすぎることのリスクを考えるうえで参考になります。

市場分析で重要なのは、完璧な資料を作ることではありません。一定の根拠を持って仮説を立て、実行に移し、結果を見ながら改善することです。必要な分析を行いながらも、実行に移すタイミングを逃さないことが、営業・マーケティング成果につなげるうえで重要です。

外部視点を入れる意味

外部視点を入れる意味は、社内にない「正解」を持ち込むことではありません。むしろ、社内にある実績や顧客理解を客観的に整理し、施策に使える形へ変換することにあります。例えば、過去の受託実績を見直すと、自社では当たり前だと思っていた対応が、特定の顧客にとっては大きな価値だったと分かることがあります。反対に、自社が強みだと思っていた訴求が、競合と比べると差別化要素になっていないこともあります。

外部視点を入れることで、こうした仮説を検証しやすくなります。また、分析結果をWebコピー、広告配信条件、MAのセグメント、CRMのスコアリング、営業トークへ落とし込む際にも、社内の各部門が同じ判断基準を持ちやすくなります。

自社だけで進めるか、外部視点を取り入れるかは、コストだけで判断するものではありません。重要なのは、客観性のある判断基準をどれだけ早く整え、実行に移せるかです。市場分析は、検討資料を増やすための作業ではありません。自社が注力すべき市場にリソースを集中させ、Web、MA、CRM、営業活動を同じ前提で動かすためのプロセスです。

市場分析に関するよくある質問

Q:市場分析と市場調査の違いは何ですか?

市場調査は、市場規模、競合情報、顧客属性などの事実を集める作業です。一方、市場分析は、集めた事実をもとに「自社はどの市場を狙うべきか」「どの顧客に、どの価値を訴求すべきか」を判断するプロセスです。

Q:市場分析では、どのフレームワークから使うべきですか?

B2B企業では、まずTAM/SAM/SOMで市場規模と現実的な獲得可能性を把握し、5Forcesで収益性の構造を確認します。そのうえで、3Cで選ばれる理由を整理し、SWOT・クロス分析でWeb・MA・CRM・営業活動へ落とし込む流れが実務に使いやすいでしょう。

Q:市場分析に使えるツールや資料には何がありますか?

官公庁の統計、調査会社のレポート、業界団体の資料、企業データベース、CRM/SFA、MAツール、既存顧客へのインタビュー、営業担当者へのヒアリングなどが材料になります。重要なのは、ツールで集めた情報をそのまま並べるのではなく、意思決定に使える示唆へ変換することです。

Q:4P分析やSTP分析は、市場分析で使わなくてよいですか?

4P分析やSTP分析も有効です。ただし、この記事では、IT受託・販売会社が投資判断と施策化に使いやすいTAM/SAM/SOM、5Forces、3C、SWOT・クロス分析を中心に解説しています。4PやSTPは、狙う市場やポジショニングが見えた後、具体的な商品設計や訴求設計を詰める段階で活用するとよいでしょう。

Q:市場分析は自社だけで進められますか?

自社だけでも進められます。特に、既存顧客の声や営業現場の知見は社内に蓄積されています。一方で、自社の強みを客観的に評価しにくい、分析に時間を割きにくい、Web・MA・CRMへの落とし込み方が分からない場合は、外部視点を入れることも有効です。

まとめ

既存の営業手法に限界を感じ、次の一手を模索しているIT企業の営業責任者にとって、市場分析は単なる「お勉強」ではありません。競合との消耗戦を避け、自社が勝ちやすい領域を見極めるための、実務に直結する判断材料です。

本記事で解説した4つのステップを振り返ってみましょう。

1. 市場を測る(TAM/SAM/SOM)

営業・マーケティングリソースから逆算し、投資の妥当性を示す。

2. 脅威を知る(5Forces)

業界構造を見極め、利益が残りにくい市場やポジションを避ける。

3. 価値を見出す(3C)

既存顧客の声や競合比較から、自社が選ばれる理由を特定する。

4. 施策に落とす(SWOT・クロス分析)

自社の強みや市場機会を、Webコピー、MA、CRM、営業活動へ反映する。

これらのプロセスを通じて、役員に説明できる根拠と、営業担当者が優先すべき市場・訴求を整理できます。

市場分析という設計図がないままデジタルツールを導入しても、成果につながりにくくなります。まずは、自社の技術や実績を「誰の、どの課題を解決するものか」という視点で整理することから始めてみてください。

自社だけで客観的に整理する時間が取りにくい場合は、外部視点を取り入れながら、ターゲット、訴求、施策への落とし込み方を見直すことも一つの選択肢です。

最初の一歩として、TAM/SAM/SOM、5Forces、3C、SWOT・クロス分析を整理できるテンプレートを用意しています。テンプレートでは、自社が狙う市場、避けるべき市場、優先すべき訴求、Web・MA・CRMへ反映すべき判断基準を順番に可視化できます。市場分析を営業・マーケティング施策へつなげるために、ぜひご活用ください。