月に数百件しか検索されないキーワードに、広告費を投じる意味はあるのか。あるいは、少額で試しに出稿してみたら資料ダウンロードは増えたのに、商談は1件も生まれなかった——中堅のシステム受託開発やソフトウェア販売で新規開拓を任されている方から、よく伺うお話です。
調べても出てくるのは「CPA(顧客獲得単価)を下げる」「CVR(コンバージョン率)を上げる」といったBtoC前提の話ばかりで、自社に当てはめてよいのか判断がつかない。一方で役員からは「それで何件受注できるのか」と問われる。この状態で稟議を書くのが気の重い作業になるのは当然です。
一方で、この判断を先送りしにくい変化も起きています。HubSpot Japanが2026年に公表した「日本のBtoB購買に関する意識・実態調査2026」によると、売り手に接触する時点で、検討が複数候補のリストアップ以降まで進んでいる買い手は63.5%にのぼります。営業が最初に声をかけるより前に、候補に入れるかどうかの大勢は、検索と情報収集の段階で決まりつつあるということです。BtoBでリスティング広告の実施可否が改めて問われているのは、この購買行動の変化があるためです。
この記事では、BtoBリスティング広告の基本とBtoCとの4つの違いを整理したうえで、メリットと注意点、向いている商材の見極め方、そして成果につなげる設計要件を4つの柱(KPI・キーワード戦略・LP/CVポイント・営業連携)にまとめます。読み終えたときに、自社商材で成り立つかを自分の数字で試算でき、役員や営業に説明できる評価軸が手元に残る状態を目指します。
リスティング広告(検索連動型広告)は、GoogleやYahoo!などの検索結果に連動して表示される、クリック課金型の広告です。BtoBリスティング広告とは、この仕組みをBtoB商材の見込み客獲得——資料請求や問い合わせの獲得——に使うことを指します。仕組みそのものは、BtoCでもBtoBでも変わりません。変わるのは、何をもって成功とするかという評価軸と、そこから逆算した設計のほうです。
入札や掲載順位が決まる仕組みなど、リスティング広告そのものの基本は、リスティング広告の仕組みと基本を解説した記事をご覧ください。
結論からいえば、BtoB商材でもリスティング広告は成り立ちます。運用開始後の調整も成果を左右しますが、成否の土台となるのは出稿前の設計です。検索される量、1クリックの単価、購入を決めるまでの期間、意思決定に関わる人数。この4つがBtoCとは構造的に違うため、BtoCで通用する「安いCVをできるだけ多く集める」という前提が最初から成立しないからです。
この記事で扱うのは、出稿前に決めておくべき設計と評価軸です。管理画面の設定手順や、運用を始めたあとの数値分析・改善施策は扱いません。設計を飛ばして運用テクニックから入ると、後半で紹介する失敗パターンをそのままなぞることになります。
検索数が少なくても、1件の受注価値が大きいBtoB商材であれば、月に数件の商談で投資は成り立ちます。検索ボリュームの少なさは前提であって、障害ではありません。
私たちが支援の現場で見てきた限り、BtoB商材の中心的なキーワードは、月に数十件から数百件という規模がほとんどです。「経費精算システム」のような商材そのものを指す語より、「経費精算 とは」のような一般語のほうが検索数が多い、という逆転もよく起こります。
ただし、検索数が少ないことだけで、検索している人の検討度が高いとは判断できません。少ない検索の中にも、学生や求職者、競合、情報収集だけの人は含まれます。「外注」「比較」「乗り換え」のように発注の意図が表れやすい語句に絞ることで初めて、少ない検索の中から商談に近い見込み客へ接触できる可能性が生まれます。
そのうえで、成り立つかどうかは2つに分けて考えます。採算が合うかは、受注単価と歩留まり(リードが商談・受注になる割合)で判断します。必要な商談数を確保できるかは、検索ボリュームで判断します。受注1件の価値が数百万円規模であれば、必要な商談数はもともと月に数件であり、数万回の検索は要りません。この計算の型は、後半のKPI設計の章で数値例とともに扱います。
BtoBとBtoCでは、検索ボリューム、クリック単価、検討期間、購買関与者の4点が構造的に違います。この差を無視した運用が、失敗の源になります。
※BtoC側は一般的な傾向、BtoB側は私たちの支援経験と後述の調査データに基づく整理です。
大切なのは、差そのものよりも「だから設計がどう変わるか」です。以下、4つの差を1つずつ、含意とセットで確認します。
BtoB商材のキーワードは検索の母数が小さく、「表示回数を増やして量を最大化する」という発想が前提から成立しません。
先に触れたとおり、業務システムや受託開発のような商材では、中心的なキーワードの検索は月数十件から数百件にとどまります。管理画面を開いて表示回数の少なさに驚き、設定を間違えたのではないかと疑う方は珍しくありませんが、私たちが運用をお預かりしている範囲では、多くの場合それが正常値です。
量が取れないことが分かっている以上、設計の力点は「どれだけ多く集めるか」から「1クリックをどれだけ商談に近づけるか」に移ります。広告文とリンク先の内容を検索意図に精密に合わせる、対象外の検索には出さない、といった調整の価値が、BtoCより大きくなるということです。
まずは、自社の主要な商材名やその周辺の言葉が、月にどれくらい検索されているかを確認してみてください。その数字が、この後の設計すべての出発点になります。
BtoBの商用キーワードは、クリック単価が高くなりやすい構造があります。私たちが支援している案件でも同じ傾向が見られますが、理由は単純です。同じキーワードを狙う企業が、いずれも高単価の受注を見込んでいるためです。
受注1件で数百万円が動く商材であれば、1クリックに数千円を払っても計算は合います。競合も同じ計算をしているため、限られた検索の奪い合いになり、単価が押し上げられます(数千円という金額は感覚をつかむための仮の例です)。市場が小さいから安く買える、とはならないのがBtoBの特徴です。
ここで重要なのは、クリック単価の絶対額で判断しないことです。見るべきは、受注単価とのバランスです。1クリックが高いかどうかではなく、そのクリックの積み重ねが商談1件をいくらで作れているか。この見方への転換が、後半のKPI設計につながります。
BtoBの購買は、検討が始まってから発注が決まるまでに時間がかかります。クリックされた直後のコンバージョンだけで、広告の成果を判断することはできません。
序文でも取り上げたHubSpot Japanの「日本のBtoB購買に関する意識・実態調査2026」によると、検討開始から購入・契約・発注の決定までに1カ月以上かかったケースは50.9%と、過半を占めています。この調査は、日本国内の従業員50名以上の企業で購買に関与した1,573名を対象に、2026年6月11日から16日にかけて株式会社マクロミルが実施したものです。
半数以上の購買が1カ月以上をかけて決まるということは、広告をクリックした人の多くは、その日には決めないということです。検討段階に応じた受け皿の設計と、CV後に検討期間へ伴走する仕組みが必要になるのは、この構造があるためです。
さらに、決めるのは1人ではありません。同じ調査では、情報収集・比較・稟議・承認・決裁に関与した社内関係者が自分を含めて5人以上いたケースが46.9%と、半数近くにのぼっています。
つまり、広告をクリックした担当者は、多くの場合その先の関係者へ情報を渡す立場にあります。担当者が資料をダウンロードし、それを上司と情報システム部門に転送して社内の議論が始まる——BtoBではごく普通の流れです。
この前提に立つと、広告のリンク先に置くべき情報も変わります。具体的な設計は、後半のLP・CVポイントの章で扱います。
4つの違いを踏まえたうえで、BtoBにとってのメリットと注意点を整理します。
BtoBにおけるリスティング広告のメリットは、一言でいえば「今まさに解決策を探している見込み客に、最短で会えること」です。
展示会やテレアポは、まず母集団を作り、そこから見込みのある企業を探し出す進め方です。これに対して検索広告は、課題が言語化された瞬間に接触できます。「基幹システム 刷新 外注」と検索している担当者は、少なくともその時点で社内に課題が存在し、外部への発注を検討しています。この温度感の相手に、こちらから探しにいかずに出会える。リード獲得の手段として見たときの、検索広告ならではの構造上の利点です。
たとえば、展示会で500枚の名刺を集めて商談3件と、検索経由でリード10件から商談3件では、同じ3件でもかかる手間と時間がまったく違います(いずれも説明のための仮の対比です)。母集団の大きさではなく、商談までの距離で比べるのがBtoBの見方です。
一方で、BtoBならではの注意点が3つあります。
1つ目は、1クリックの単価が高いため、「とりあえず少額で試す」だけでは判断材料が集まりにくいことです。試すこと自体は現実的な始め方ですが、その金額で何件の商談が期待できるのかを先に置いておかないと、成果の判断ができません。
2つ目は、成果の評価に時間がかかることです。検討期間が1カ月以上の購買が過半である以上、出稿から受注までにはそれ以上の時間がかかります。検討期間の長さを踏まえると、3〜6カ月単位で判断するのが現実的だと考えられます(この期間はデータからの推論であり、商材や検討の複雑さによって変わります)。最初の1カ月の数字だけで結論を出さないことを、社内でも先に合意しておくと安全です。
3つ目は、獲得できる商談数に検索市場の上限があることです。検索の母数が小さい以上、広告だけで新規商談を何倍にも増やすことはできません。事業計画上の商談目標が検索市場の規模を超える場合は、SEOや展示会など他のチャネルとの併用を前提に計画します。
すべてのBtoB商材がリスティング広告に向いているわけではありません。向き不向きは、次の3つの軸で判断できます。
軸1:顧客が検索で解決策を探す商材か
そもそも顧客が検索という行動を取らなければ、検索連動型の広告は届きません。紹介や既存の取引関係、入札で案件が動く業界では、意思決定者が課題をキーワードにして検索する場面がほとんどありません。判断の目安は、直近の受注案件で「顧客が自力で情報収集していた形跡があるか」です。問い合わせ時点で他社を数社比較していた案件が一定数あるなら、軸1は満たしています。
軸2:受注単価・LTVが十分に大きいか
BtoBの商用キーワードはクリック単価が高くなりやすいため、受注1件あたりの価値が小さいと歩留まりの計算が合いません。単発の受注額が小さくても、保守・運用や追加開発で取引が続くのであれば、LTV(顧客生涯価値)で判断します。受託開発、SaaS、業務システムのように、初期費用と継続収益の両方があるビジネスは、この軸を満たしやすい形です。
軸3:CV後に対応する営業体制があるか
資料ダウンロードや問い合わせが発生したときに、誰がいつ対応するかが決まっているか。ここが空白のまま出稿すると、獲得したリードがそのまま滞留します。後半で詳しく扱いますが、「CVは取れるのに商談にならない」の原因の多くは、広告ではなくこの部分にあります。
3軸すべてを満たすなら、実施を前向きに検討して問題ありません。軸1が立たない場合は、リスティング広告よりも展示会や既存顧客の深耕、業界メディアへの露出のほうが投資効率は高くなります。軸3だけが欠けている場合は、出稿を諦める必要はありません。出稿と並行して対応の体制を決めれば足ります。
BtoBのリスティング広告がうまくいかないとき、BtoCの評価軸をそのまま持ち込んだ設計に原因があるケースがほとんどです。CPAの安さとCV数を目標に据えた瞬間に、その後の判断がすべてBtoBの実態からずれていきます。
以下の3つは、私たちが支援の現場で繰り返し見てきた失敗の型です。
1つ目は、CPAを下げることを目標にした結果、商談につながらないCVばかりが増えるパターンです。
CPAを下げようとすると、選択は自動的に「安く取れるCV」へ寄っていきます。安く取れるのは、多くの場合、まだ検討に入っていない情報収集層や、そもそも対象外の人たちです。結果として、資料ダウンロードの件数は目標を達成しているのに、商談化はゼロという状態が生まれます。件数だけを見ている限り、この失敗は成功に見えてしまいます。
現場で見かけるのは、ダウンロード者の一覧に個人名義のメールアドレスや学生、同業他社が並んでいるケースです。CPAは下がっています。しかし、営業が追える相手は1人もいません。防ぐ方法は、評価軸を最初から商談に置くことです。具体的な形は、次の設計要件①で扱います。
2つ目は、1つ目の裏返しです。CPAが高いキーワードを「効率が悪い」と判断して止めてしまい、商談の入口そのものを閉じてしまうパターンです。
たとえば、CPA3万円の課題解決型キーワードを止め、CPA8千円の情報収集型キーワードに予算を寄せたとします。CPAの数字は改善します。しかし数カ月後、商談が消えていることに気づく——これは仮の例ですが、構造としてはよく起こります。
CPA基準では高すぎたキーワードが、商談単価の基準では最も割安だった、という逆転はしばしば起こります。「〇〇 外注」「〇〇 乗り換え」といった、まさに発注を検討している人が使う言葉は、単価は高くても商談への距離が近いためです。評価の物差しを変えないまま止める判断をすると、その瞬間から機会損失が始まります。
3つ目は、広告の外側で起きる失敗です。CVは取れているのに商談にならない、という相談の多くは、実際には広告の問題ではありません。
よくあるのは、資料をダウンロードした人に対して、数日後にまとめて「資料はご覧いただけましたか」と電話をかける運用です。相手はすでに他の業務に戻っており、多くの場合そこで会話が終わります。あるいは、MAツールに取り込んだまま何のシナリオも設定されず、リストとして眠り続けるケースです。
BtoBの購買には時間がかかる以上、資料を受け取った人がすぐに動かないのは自然なことです。問題は、すぐに動かない人を前提にした受け皿と、動き始めた人を捕まえる仕組みが用意されていないことにあります。原因が広告の外にあると気づかないまま管理画面の設定を触り続けても、状況は変わりません。
3つに共通しているのは、判断の物差しがCV単位になっていることです。ここからは、この物差しを商談単位に置き換えるところから、成果につなげる設計要件を4つの柱で見ていきます。
1つ目の設計要件は、評価軸をCV単価から「商談1件をいくらで作れたか」へ置き直すことです。前章の3つの失敗は、すべてこの1点から生まれています。
CVはあくまで途中経過であり、事業として意味を持つのは商談と受注です。商談・受注から遡って考えれば、検索数の少ない商材でも成り立つかどうかを自社の数字で試算できます。
計算の型は単純です。リードが商談になる割合と、商談が受注になる割合を掛け合わせ、受注単価を乗じるだけです。
説明のために、仮の想定で置いてみます。
この場合、月あたりの期待受注額は300万円という計算になります。年に換算すれば7件強の受注です。ここで使った商談化率30%・受注率20%・受注単価500万円は、すべて説明のための仮の想定です。業界平均でも目標値でもありません。
もう1つ、試算を受注金額で止めないことも大切です。広告に投じられる金額を決めるのは、売上ではなく利益だからです。受注額が500万円でも、原価率が高ければ広告に使える金額は大きくありません。少なくとも次の2点を加味してください。
この範囲で置き直した数字が、投資判断に使える期待値です。そのうえで、手元にあるはずの3つを確認してください。
この3つを掛け合わせれば、「リード1件がいくらの受注期待値を持つか」が出ます。あとは、その期待値と投じる広告費を並べれば、投資として成り立つかどうかが見えます。
なお、この計算で判断できるのは「採算が合うか」です。「必要な商談数を確保できるか」は別の問題で、こちらは検索ボリュームが上限を決めます。単価と歩留まりの計算が合っていても、検索市場が小さすぎれば目標の商談数には届きません。その場合は、キーワードの広げ方(設計要件②)や、広告以外のチャネルとの併用を含めて計画します。
また、歩留まりの数字がすぐに出てこない場合、それ自体が先に手をつけるべき課題です。広告の前に、商談と受注の記録を営業と揃えるところから始めたほうが、結果的に早く進みます。
試算ができたら、次は社内で使う報告の型に落とします。使う指標は「商談単価」、計算式は広告費÷商談数です。
この指標のよいところは、他の施策と同じ土俵で比較できることです。展示会の商談単価も、テレアポの商談単価も、同じ式で出せます。営業会議で「今月の広告経由の商談単価は◯万円、展示会は◯万円でした」と並べれば、役員は広告だけを特別扱いせずに判断できます。CPAで報告している限り、比較対象がないため「高いのか安いのか分からない」という反応で止まります。
ただし、比較には条件があります。費用の範囲を揃えることです。広告側に媒体費・運用代行費・制作費まで含めるなら、展示会側も出展費だけでなく、ブースの制作費・人件費・移動費まで含めて商談単価を出します。範囲の揃っていない比較は、役員への説明の場でかえって信頼を損ないます。
もう1つの効用は、撤退・見直しの基準を事前に握れることです。「商談単価が◯万円を超え続けたら見直す」と先に合意しておけば、成果が出ない期間があっても感情的な打ち切りになりません。検討に時間のかかる商材である以上、短期の数字だけで判断するのは実態に合いません。
なお、比較の際に他の施策を否定する必要はありません。目的は優劣をつけることではなく、同じ物差しで並べて配分を決められる状態にすることです。
商談単価を評価軸にするには、「広告経由のどのリードが商談・受注になったか」を追える状態が前提になります。評価軸だけ決めて計測が整っていないと、月末に商談単価を計算できず、結局CPAでの報告に戻ってしまいます。
最低限、次の流れが途切れずにつながっている必要があります。
具体的には、フォーム送信の時点でどの広告・どのキーワード経由かをパラメータとして記録し、CRM上のリード・商談・受注の記録と結びつけます。SalesforceやHubSpotのようなCRM/MAを使っているなら、広告経由のリードに流入元の情報が残る設定を出稿前に済ませておきます。広告経由のリードが手作業でスプレッドシートに転記されている状態では、リードが増えるほど追跡が破綻します。
計測の目的は、管理ではなく判断です。「どのキーワードが商談を生んでいるか」が分かって初めて、次のキーワード戦略での取捨選択が機能します。
予算の決め方も、順番は同じです。売上目標から遡ると、必要な受注件数、必要な商談件数、必要なリード件数、必要な広告費という順に決まっていきます。
「まずは少額で試す」場合も同じで、その金額で期待できる商談数を先に置いてから始めます。具体的な金額の相場や計算式は、別記事で詳しく扱います。
評価軸と計測が決まると、買うべきキーワードの優先順位も変わります。次はその話です。
2つ目の設計要件はキーワード戦略です。商談単価で評価すると決めた時点で、狙うべきキーワードの順番は「安く取れる順」から「商談になりやすい順」に並び替わります。少ない検索を、商談に近い順に取る。これがBtoBの基本方針です。同じキーワードリストを見ていても、評価軸が違えば結論が逆になる、というのが失敗②で起きていたことです。
BtoBのキーワードは、商談への距離で3つに分けて考えると整理しやすくなります。
指名キーワードは、すでに自社を認知している相手が使う言葉です。件数は多くありませんが、商談化率が最も高く、他社に広告を出されると横取りされる可能性もあります。最優先で押さえます。
課題解決型キーワードが、BtoBの主戦場です。「外注」「刷新」「乗り換え」「代行」といった言葉が付くキーワードは、課題を解決する手段を具体的に探している段階を示します。1クリックの単価は高くなりますが、商談への距離が短いため、商談単価で見れば最も効率がよいことが多い領域です。
情報収集型キーワードは、「〇〇とは」に代表される、まだ検討の入口にいる層が使う言葉です。検索数は多い一方で商談への距離が遠いため、初期配信では優先度を下げ、課題解決型キーワードから検証します。ただし、一律に対象外というわけではありません。受注単価が大きくクリック単価が低い場合や、CV後のナーチャリング体制が整っている場合は、検証の対象に加える価値があります。この層に広く届けたいのであれば、広告よりもコンテンツやSEOのほうが向いています。
キーワード戦略でもう1つ決めておくべきなのが、「広げない」という判断です。
表示回数の少なさを見ると、関連する言葉を追加し、対象範囲を緩め、より多くの検索に表示させたくなります。この判断は自然ですが、そのまま進むと失敗①に戻ります。広げた先にいるのは情報収集層であり、CVは増えても商談は増えにくいからです。
広げてよいかどうかの判断基準は1つです。広げた範囲から得られたリードが、商談単価の基準を満たしているか。満たしているなら広げる価値があり、満たしていないなら、それは規模の拡大ではなく単なるコストの増加です。数字が少ないこと自体は問題ではなく、少ない数字を商談に変換できているかどうかが問題です。
キーワードが決まったら、次はクリックの受け皿です。
3つ目の設計要件は、クリックした人が最初に見るページと、そこに置くコンバージョンポイントの設計です。
先に見たとおり、BtoBの購買では検討開始から発注決定まで1カ月以上かかるケースが過半を占めます。それにもかかわらず、遷移先のページに「今すぐお問い合わせ」しか置かれていなければ、その日に決めない大多数の人には行き場がありません。問い合わせ一本足の設計は、検討期間という構造差を無視した状態だといえます。
必要なのは、検討の段階に応じたコンバージョンの階段です。
具体的には、問い合わせと並べて、より心理的なハードルの低いコンバージョンポイントを用意します。ホワイトペーパー、導入事例集、比較用のチェックリストといった資料のダウンロードです。こうした小さなコンバージョンを、マイクロCVと呼びます。
役割は明確に分かれます。問い合わせや見積依頼は、具体的な比較・相談に進んでいる顕在層のためのものです。マイクロCVは、課題は認識しているがまだ社内で議論を始めたばかりの検討中層を受け止めるためのものです。BtoBでは後者のほうが多数派である以上、こちらを空けておくのは機会損失になります。
たとえば、導入事例集をダウンロードした担当者が、1カ月後に社内の合意を得て問い合わせてくる。この動線は、資料が置かれていなければ生まれません。
ここで注意したいのが、マイクロCVの位置づけです。マイクロCVは商談ではなく、商談への中間指標です。設計要件①で扱ったとおり、評価はあくまで商談単価で行います。資料ダウンロードの件数が増えたこと自体を成果として報告すると、失敗①に逆戻りします。
もう1つ、ページに載せる情報の中身も見直しが必要です。先述の調査のとおり、BtoBの購買には複数の関係者が関わります。クリックした担当者は、決裁者ではないことのほうが多いと考えておくべきです。
そうであれば、ページに置くべきは「担当者を説得する情報」だけではありません。担当者が社内で使える情報です。具体的には、費用対効果を説明できる材料、導入の体制と期間、自社と近い規模・業種の導入事例。理想は、ダウンロードした資料がそのまま社内会議の説明資料になる状態です。担当者にとっては資料を作り直す手間が省け、こちらにとっては、社内の議論の場に自社の情報がそのままの形で届きます。
また、広告文とページの内容が一致していることも前提になります。「外注先を探している」という検索に対して、汎用的な会社紹介ページに着地させると、その時点で離脱します(この点は経験上の見立てですが、検討の入口が絞られている分、BtoBでは影響が出やすいと考えられます)。
ここまでで、クリックを受け止める設計はできました。しかし、CVはまだ商談ではありません。
4つ目の設計要件は、CVの後です。失敗③で見た「CVは取れるのに商談にならない」状態を防ぐには、CV後の対応スピード、検討期間への伴走、そして営業からのフィードバックという3つの仕組みが要ります。
広告の管理画面だけを見ていると、この領域は視界に入りません。しかし、リスティング広告の成果を左右する比重でいえば、ここは前章までと同じかそれ以上に大きい部分です。
まず、初動のスピードです。資料ダウンロードや問い合わせが発生したら、原則としてその日のうちに次の接点を作ります。相手が課題を意識しているのは資料を探した瞬間であり、そこから日が空くほど、記憶も温度も下がるためです。
「その日のうち」といっても、いきなり電話をかける必要はありません。関連する資料の案内をメールで送る、担当者の連絡先を伝えておく、といった軽い接点で十分です。相手がまだ社内で議論を始めていない段階での電話は、かえって心証を悪くします。
次に、すぐに動かない人への伴走です。ここでMA/CRMが役割を持ちます。設計要件①で整えた計測環境がここでも効いてきます。広告経由のリードがCRMに自動で流れ、流入元が分かる状態になっていれば、資料をダウンロードした人にその後どんな情報を届けるかを設計できます。関連する事例の案内、ウェビナーへの招待、定期的なメールマガジン。半年後に問い合わせが来る、という形の成果は、この伴走がなければ生まれません。
もう1つの仕組みが、営業からのフィードバックです。
現場の営業が「広告のリードは質が低い」という印象を持っているケースは、決して珍しくありません。そしてその印象には、たいてい根拠があります。過去に対象外のリードを渡された経験があるからです。この先入観を精神論で覆すことはできません。仕組みで変えるしかありません。
やることは単純です。月に1回、営業と一緒に「商談にならなかったリード」を10件程度レビューする場を作ります。見るのは1点だけ、なぜ商談にならなかったかです。
理由が分かれば、キーワードや広告文、ページの内容にそのまま反映できます。逆に、この情報が戻ってこない限り、広告側は何を直せばよいのか分かりません。
なお、ここで扱ったのは運用を始める前に決めておく仕組みの話です。運用を始めたあとの数値分析や、指標ごとの改善施策については、別記事で扱います。
設計の全体像が揃いました。最後に、これを誰が回すのかという話をします。
ここまでの設計を、自社で回すか、外部に任せるか。どちらを選んでも構いません。判断の軸は、コストの多寡ではなく「商談から逆算した設計を作り、回しきれるか」です。
自社で運用する場合、日々の調整そのものは、慣れれば短時間で回せることが多いと感じています。難所はむしろ設計側です。キーワードの選定、資料の準備、CV後の対応フローの整備、営業との合意形成。これらは通常業務と並行して進める必要があり、兼務体制では時間の確保が最大の制約になります。
外部に任せる場合も、判断軸は同じです。見るべきは、その会社がBtoBの設計を理解しているかどうかです。CPAの改善だけを提案してくる相手であれば、この記事で見てきた失敗パターンをそのまま再現することになります。商談単価での評価を提案してくるか、CV後の営業連携まで話に含めてくるか。この2点を最初の打ち合わせで確認すると、判断がつきやすくなります。
なお、設計だけを外部と作り、運用は自社で行うという分け方もあります。どちらか一方を選ばなければならないわけではありません。
Q. BtoBリスティング広告の費用相場はどれくらいですか?
A. 相場から入るより、必要な商談数から逆算することをおすすめします。必要な商談数に想定の商談単価を掛けた金額が、その商材で最低限必要な広告予算の目安になります。費用相場と予算の決め方の詳細は、別記事で扱います。
Q. 検索ボリュームがほとんど無いキーワードしか見つからない場合は?
A. まず、商材名以外の言い換え——「〇〇 効率化」「〇〇 外注」のような、読者の課題側の言葉——で検索されていないかを確認してください。それでも検索市場が小さい場合、広告で確保できる商談数には上限があるため、リスティング広告単体ではなく、SEOや展示会など他チャネルとの併用を前提に計画します。
Q. リスティング広告とSEOはどちらを優先すべきですか?
A. 役割が異なります。比較・発注の段階にいる顕在層には即効性のあるリスティング広告が、情報収集段階の層には時間はかかるものの資産になるSEOが向いています。予算と体制が許すなら、顕在層向けの広告から始めて、SEOを並行して育てる順番が現実的です。
BtoBのリスティング広告は、クリックやCVをいくら安く買うかではなく、商談・受注から逆算した設計で成否が大きく変わります。採算が合うかは受注単価と歩留まりで、必要な商談数を確保できるかは検索ボリュームで判断する——この2つを分けて考えることが出発点です。
設計要件は4つでした。評価軸を商談単価に置き直し計測をつなぐKPI設計、商談に近い順に取るキーワード戦略、検討段階に応じたCVの階段を作るLP設計、そしてCVを商談に変える営業連携。この4つは独立した施策ではなく、1つ目の評価軸から順に派生する関係にあります。だからこそ、順番を守って設計する意味があります。
最初の一歩は、自社の数字で試算してみることです。KPI設計の章で挙げた3つの数字(商談化率・受注率・平均受注額、できれば粗利ベース)を掛け合わせるだけなら、1時間もかかりません。この数字があれば、役員への説明も「やってみないと分かりません」から「リード1件あたり◯万円の受注期待値があります」に変わります。
そのうえで、この記事だけでは決めきれない論点が残ります。自社の商材・検索ボリューム・商談単価でリスティング広告が成り立つかは、商材と営業体制によって変わるということです。同じ業種でも、受注単価が違えば結論は変わります。営業が数名の組織と十数名の組織でも、追えるリード数の上限が違います。ここは自社の数字を見なければ判断できません。
え方は本記事のとおりですが、自社の受注単価と歩留まりで採算が合うのか、どのキーワードを主戦場に置くのか、CV後の対応を今の体制で回せるのかは、貴社の数字と営業体制を見ないと判断できません。
ビズブーストでは、BtoBの広告運用からMA/CRM(Salesforce・HubSpot)への接続、インサイドセールスによる初動対応までを一貫してご支援しています。30分の無料オンライン相談では、この記事の歩留まり試算をそのままお持ちいただき、貴社の商材で成り立つかどうか、始めるとしたらどこから設計するかを一緒に整理します。発注のご相談ではなく、稟議を書く前の判断の壁打ちとしてご利用ください。