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ウェビナーとは?Web会議・対面セミナーとの違いと開催までの8工程を解説Column

2026.08.21

ウェビナーとは?Web会議・対面セミナーとの違いと開催までの8工程を解説

「研究会もオンラインでやってほしい。会場費も浮くし、参加者も増えるだろう」——上層部からそう言われて、ウェビナーという言葉を調べ始めた方は少なくありません。対面での運営経験はあり、段取りには自信がある。それでも配信の実務は経験がなく、専任の担当者もいない。何から確かめればよいのかが分からない、という状態です。

オンラインで仕事をすること自体は、すでに珍しくなくなりました。総務省「令和8年版 情報通信白書」(通信利用動向調査、2025年 n=2,488)によれば、テレワークを導入している企業の割合は2019年の20.2%から2020年に47.5%へ跳ね上がり、その後は50%前後で推移しています(2025年は50.1%)。ただし、この数字が示しているのは「オンラインで仕事をする前提が定着した」ところまでです。そこから先、オンラインでの開催がうまく回るかどうかは、別の話になります。

テレワーク導入率

(出典:総務省「令和8年版 情報通信白書」データ集 図表47「テレワーク導入率の推移」

ウェビナーとは、インターネット経由で開催するセミナーや講演会のことです。ただし、対面セミナーをそのまま画面に移したものではありません。会場費が浮く一方で、これまで無かった作業と判断が新しく発生します。「オンラインにすれば楽になる」という前提のまま着手すると、工数は減るどころか増えます。

この記事は、これから開催する側の視点で書いています(参加する側の参加方法や操作は扱いません)。専任の担当者がおらず、兼務でチームを組み、新しく人を採る予算もない。そうした状況を前提に、次の5つを整理します。

  • ウェビナーの定義と、Web会議・対面セミナーとの違い
  • 配信形式の4種類と、自組織に合う選び方
  • オンライン化で「浮くもの」と「新たに必要になるもの」の内訳
  • 開催までの8つの工程
  • 自組織でやるべきか、対面のままのほうが良いかの判断軸

 

1.ウェビナーとは — Web上で開催するセミナーのこと

ウェビナーとは、インターネット経由で開催するセミナー・講演会・説明会のことです。特別な技術の名前ではなく、開催のかたちを指す言葉です。製品名だと捉えていると「まずどの製品を買えばいいのか」から考えてしまいますが、実際には開催のかたちを先に決め、それに合う道具を後から選ぶ順番になります。

ウェビナーの意味と語源 — 「Web」と「Seminar」を組み合わせた造語

ウェビナー(英語表記: webinar)は、「Web」と「Seminar」を組み合わせた造語です。日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)の用語解説「インターネット用語1分解説〜ウェビナーとは〜」(JPNIC News & Views vol.1903、2022年2月15日発行)でも、Webを使ったセミナーを指す言葉として説明されています。

言葉自体は2020年より前から存在していました。同解説によれば、急速に広まった背景には2つの条件が重なったことがあります。ひとつは、ウェビナー向けツールや動画配信プラットフォームの利用コストが下がったこと。もうひとつは、感染症の流行による外出制限で、対面でのセミナー開催が難しくなったことです。つまり、2020年に新しい技術が生まれたわけではありません。もともとあった選択肢が現実的になっただけで、どう組み立てるかは開催する側に残ったままです。

案内文や設定画面にある「ウェビナー形式」は何を指すのか

「ウェビナー形式」は、製品名でも特別な技術でもありません。登壇者が話し、参加者は基本的に見る・聞くことに専念する、という開催のかたちを指す言葉です。対になる言葉は「ミーティング形式」で、こちらは参加者も顔を出して発言することを前提とします。配信ツールでは開催の設定をするときにこの2つのどちらかを選ぶ仕様が多く、設定画面ではじめてこの言葉を知る方もいます。

案内文に「ウェビナー形式で開催します」と書くのは、「あなたの映像や音声は配信されません」と事前に伝える意図があります。主催する側にとっては、参加者が話さない前提なので進行を組み立てやすい一方で、反応がこちらに返ってきません。

「Zoomウェビナー」とは何か

Zoomウェビナーは別の製品ではなく、Zoomという製品の中に用意されている開催のかたちのひとつです。普段の少人数の打ち合わせで使うミーティングとは、別の機能として分かれています。分かれている理由は、双方向で話し合う会議と、登壇者が話して大勢が聞く配信とでは、必要な作りが違うためです。

ウェビナー・Webセミナー・オンラインセミナーは同じものか

この3つは、実質的に同じものを指します。JPNICの用語解説でも、ウェビナーは別名としてオンラインセミナーとも呼ばれると記されています。呼び方が分かれているのは、業界や社内の慣習の違いによるものです。支援の現場で見てきた範囲では、使い分けに次のような傾向があります。

呼び方

よく使われる場面

ウェビナー

ツールの設定画面、社内の運営資料、業界内の会話

Webセミナー

社外向けの案内、募集ページ

オンラインセミナー

社外向けの案内、参加者への説明

「ウェブセミナー」「オンライン講演会」「オンライン説明会」も、おおむね同じ範囲を指します。実務上は、社内で呼び方を先に統一しておくと、検討の途中で「それは別の話ですか」という確認が発生せずに済みます。

ウェビナーの登場人物 — 主催者・パネリスト・出席者

ウェビナーには「主催者」「パネリスト」「出席者」という3つの立場があります。対面セミナーの主催者・講師・聴衆にほぼ対応すると考えると、理解が早くなります。

ウェビナーの役割

対面セミナーでの相当

何ができるか

主催者(ホスト)

主催者・事務局

開催を作り、進行と配信を管理する

パネリスト

講師・登壇者・司会

映像と音声を出して話す。質疑に答える

出席者

聴衆・参加者

見る・聞く。チャットや質問の機能で反応する

研究会にあてはめるなら、事務局が主催者、報告者と座長がパネリスト、会員が出席者にあたります。注目したいのは、役割が分かれているという事実そのものです。対面では順番に担当できたことが、オンラインでは同時に走ります。言葉について理解できたところで、読者の方が最も混同しやすい「Web会議との違い」と「対面セミナーとの違い」を見ていきます。

2.ウェビナーとWeb会議・対面セミナーは何が違うのか

ウェビナーは、Web会議とも対面セミナーとも別のものです。Web会議との違いは「話し合う場」か「届ける場」かという構造の違いにあり、対面セミナーとの違いは「場」が無くなることによって得るものと失うものがある点にあります。

「社内にZoomもTeamsもあるのだから、それでやればいいのでは」——この段階で誰もが持つ疑問です。まず3つを一覧で比べたうえで、順に見ていきます。

ウェビナー・Web会議・対面セミナーを一覧で比べる

3つは「目的」「参加者の立場」「申込と記録の残り方」「準備の負荷」が違います。

比較の軸

ウェビナー

Web会議

対面セミナー

主な目的

登壇者の話を届ける

参加者どうしで話し合う

登壇者の話を届ける

想定する参加人数

多い

少ない

会場の収容人数まで

参加者が話すか・映るか

基本的に話さない・映らない

全員が話し、映る

話さない(質疑を除く)

申込の取り方

事前登録が前提

招待URLを共有するだけ

事前申込または当日受付

参加者の情報が手元に残るか

申込時点でデータとして残る

残らない

紙の名簿を転記すれば残る

当日の記録が残るか

録画として残せる

録画は可能だが用途が違う

別途収録の手配が必要

準備の負荷

重い(配信の設計と告知が要る)

軽い(URLを送るだけ)

重い(会場と当日運営が要る)

当日に必要な人手

複数の役割が同時に走る

不要

役割が時間で分かれる

この表で押さえておきたい点は2つです。ひとつは、ウェビナーとWeb会議の違いが参加人数の多い少ないではないこと。目的も、参加者の立場も、申込の取り方も違います。

もうひとつは、ウェビナーと対面セミナーは目的こそ似ているものの、準備の負荷と当日の人手の中身が入れ替わることです。目的が同じだからこそ「置き換えればいい」と考えたくなりますが、私たちが支援の現場で見てきた限り、最も見誤られやすいのがこの2つです。

Web会議との違いは「話し合う場」か「届ける場」かという構造の違い

Web会議は全員が話し合う前提で作られていて、ウェビナーは登壇者が届ける前提で作られています。

Web会議は、参加者が対等に発言することを想定した道具です。少人数の打ち合わせであれば、誰がいつ話しても支障はありません。一方でウェビナーは、登壇者が話し、大勢が聞くことを想定しています。参加者は基本的に発言せず、質問はチャットや質問機能を通じて届きます。この構造の違いがあるため、Zoomのようなツールでは、ウェビナー用の機能が普段のWeb会議機能とは別に用意されています。

では、Web会議で代用するとどうなるか。全員が話せる状態のままだと、進行の秩序と参加者名簿の管理を人手で押さえることになります。道具が担ってくれない部分を、当日その場にいる人が肩代わりする形です。

対面セミナーとの違いは「場」が無くなること — 何を得て、何を失うのか

対面セミナーとの最大の違いは、物理的な「場」が無くなることです。移動と会場の制約から解放される代わりに、その場でしか起きなかったことが失われます。得られることとしては、参加者と登壇者の移動が不要になり、会場の収容人数に縛られなくなり、遠方の方や当日会場に来られない方にも届くようになります。一方、失うものは次のようなものです。

  • 開始前後の雑談と名刺交換
  • 休憩時間に生まれる、その場限りの相談
  • 会場の空気(うなずき、ざわめき、笑い)が登壇者に伝わらないこと
  • 登壇者が客席の反応を見ながら話し方を調整する余地
  • 「わざわざ足を運んだ」という参加者側の関与の強さ

研究会であれば、報告のあとに廊下で交わされていた議論が無くなります。事業会社であれば、セミナー後の立ち話から商談につながっていた流れが無くなります。社内に「オンラインは手抜きだ」という受け止め方があるとき、その言葉が指しているのは、多くの場合この喪失です。これは意欲や気合いの問題ではなく、場が無くなれば必然的に起きることです。「手抜きだから起きる」のではないと整理したほうが、社内の議論は前に進みます。

そして、失われたものは精神論では取り戻せません。反応を受け取る仕組みをどう用意するか、参加者に話してもらう時間をどこに作るか、開催後の接点をどう設計するか。補えるかどうかは、これらをあらかじめ工程に組み込むかどうかで決まります。

次は、その工程を考える前提となる「配信形式」を確認します。形式によって、必要な準備も当日の人手も変わるためです。

3.ウェビナーの配信形式は4種類 — ライブ・オンデマンド・疑似ライブ・ハイブリッド

ウェビナーには4つの配信形式があり、選び方は「質疑をその場でやる必要があるか」と「当日に何人割けるか」でほぼ決まります。私たちが支援の現場で見てきた限り、この4つから選べること自体を知らないまま、いきなりライブ配信を前提に準備を始めてしまうケースが少なくありません。初回で最も負荷の高い形式を選ぶと、当日の事故のリスクをそのまま背負うことになります。

fig2_four-formats

ライブ配信

決まった日時に、その場で配信する形式です。質疑がその場で成立する代わりに、当日のトラブルがそのまま本番に出ます。良い点は、質疑応答がその場で成立すること、登壇者と参加者に「同じ時間を過ごした」という感覚が残ること、日時が決まっているため申込を促しやすいことです。注意点は、当日の通信や機材のトラブルが本番に直結すること、そして登壇者と運営メンバーが同じ時間帯に拘束されることです。

オンデマンド配信(録画・アーカイブ)

あらかじめ収録した映像を、期間を決めて好きなときに見てもらう形式です。当日の事故が起きず、見逃した方にも届きます。良い点は、当日の配信トラブルが起きないこと、参加者の都合に左右されないこと、一度作れば繰り返し使えること、そしてライブ開催の録画をそのままアーカイブとして二次利用できることです。注意点は、質疑がその場でできないこと、視聴の期限を切らないと後回しにされること、そして見てもらえたかどうかを別途確認する必要があることです。

たとえば研究会の報告を収録し、会員向けに1か月限定で公開するといった使い方ができます。実務では、ライブ開催とアーカイブ公開を組み合わせる形が多く見られます。

疑似ライブ配信

収録済みの映像を、決めた日時に流す形式です。当日の配信事故を避けながら、日時のある開催として告知でき、質疑だけ人が受けられます。良い点は、映像の中身が事故らないこと、登壇者を当日長く拘束しなくてよいこと、日時があるため告知しやすいことです。たとえば、大学教授に事前収録を依頼し、当日は質疑の15分だけ同席してもらう、という組み立てができます。注意点は2つあります。収録した映像であることを隠すと信頼を損なうため、案内文に明記すること。そして、質疑を受けるのであれば、その時間には人が必要になることです。

紹介されることの少ない形式ですが、外部の著名な登壇者に当日の長時間拘束を頼みにくい場合の現実解になります。

ハイブリッド開催

会場とオンラインを同時に開く形式です。両方の良さを取れる代わりに、工数は足し算ではなく二重になります。会場に人を集めながら、同時にオンラインへも配信するため、対面での交流を残しつつ遠方の方にも届けられます。ただし会場側とオンライン側で進行・機材・担当がそれぞれ必要になり、「対面のやり方に少し足す」では収まりません。

どの形式を選ぶか — 質疑の必要性と、当日に割ける人手で決まる

「質疑をその場でやる必要があるか」「当日、運営として動ける人が何人いるか」という冒頭の2つの問いに答えると、次のように整理できます。

fig3_format-selection

質疑をその場でやる必要

当日に割ける人手

向いている形式

ある

確保できる

ライブ配信

ある

限られる

疑似ライブ配信

ない

オンデマンド配信

ある(対面の交流も残したい)

会場側とオンライン側の両方に確保できる

ハイブリッド開催

迷ったときの現実的な出発点をひとつ挙げるなら、オンデマンドから始めることです。初回から当日の配信事故のリスクを負わずに済み、運営の型を作ってからライブへ移れます。たとえば年6回の研究会なら初回をオンデマンドで試して2回目からライブに移す、月1回の頻度で開催するなら回数がある分だけ習熟しやすいので最初からライブを基本に置く、といった具合です。

4.ウェビナーのメリット・デメリット

ウェビナーのメリットは、場所の制約が外れることと、記録とデータが手元に残ることです。デメリットは、参加者の反応が見えないことと、運営に必要な技能が増えることです。一般的に語られる内容と重なる部分もありますが、実務で効く順番は少し違います。そこも含めて簡潔に整理します。

メリット

移動が不要になり、収容人数に縛られず、遠方の方にも届く。こうした分かりやすいメリットは前章で挙げたとおりです。そのうえで、運営の負担に対して最も効くと私たちが考えるのは次の2点です。

  • 記録が残り、再利用できる。アーカイブとして公開する、次回の教材にする、欠席した方に共有するといった使い方ができます
  • 申込データが手元に残る。対面の紙の受付では、名簿に転記する手間がかかるうえ、そもそもデータとして残らないことも多くありました。オンラインでは、申し込まれた時点でデータになります

Excelに手入力していた申込者名簿が、フォームの回答としてそのまま残る。この差は、兼務で運営している方ほど大きく効いてきます。集客できる範囲が広がるという話に目が向きがちですが、実務の負担を左右するのはこの2点です。

デメリット

デメリットは、参加者の反応が見えないこと、通信と機材のリスクが本番に直結すること、そして運営に必要な技能が増えることです。反応が見えないことは、前章で触れたとおりです。うなずきも表情もざわめきも届かないため、登壇者は手応えのないまま話し続けることになります。通信と機材のリスクは、対面とは性質が異なります。会場の設営であれば、当日の朝に不備が見つかってもやり直しが効きます。しかし配信が止まれば、開催そのものが止まります。途中離脱も起きやすくなります。会場では席を立つのに心理的なコストがかかりますが、オンラインでは画面を閉じるだけで済みます。

そして、見落とされやすいのが最後の1点です。対面の段取りに加えて、配信の操作、申込データの扱い、配信中に複数の画面を同時に見る進行が加わります。つまり、運営に求められる技能そのものが増えます。このデメリットは「不便になる」という話ではなく、「求められる仕事が変わる」という話です。だからこそ、次章では何が浮いて何が増えるのかを、内訳として見ていきます。

5.オンライン化で「浮くもの」と「新たに必要になるもの」— 入れ替わるコストの内訳

オンライン化は、コストが消える話ではありません。コストの種類が入れ替わる話です。浮くのは「お金で買っていたもの」、増えるのは「人が判断し、手を動かすこと」です。上層部への説明でつまずくのは、多くの場合ここを言葉にできていないからです。浮くものから順に見ていきます。

浮くもの — お金で買っていたもの

会場に関わる費用と、人が移動することに伴う費用は、実際に浮きます。

  • 会場費(会場使用料、付帯設備の利用料)
  • 設営と撤収の作業、机と椅子の配置
  • 会場までの移動と交通費(参加者・登壇者・運営メンバーの全員分)
  • 当日の受付に立つ人手
  • 紙の資料の印刷と配布
  • 飲み物や弁当などの手配

研究会であれば、会場費と、遠方から来る会員の交通費がここに含まれます。

新たに必要になるもの — 人が判断し、手を動かすこと

新たに必要になるものは、主に7つです。そして、そのほとんどが「人が決めること」と「人が手を動かすこと」に分類されます。

  1. 配信の設計 — 誰が何を話し、誰が画面を切り替え、質問を誰が拾うのかを事前に決めます
  2. 配信ツールと機材、安定した回線 — 何を使うかを選び、当日動く状態にしておきます
  3. 申込フォームと名簿の管理 — 申込を受け付け、視聴用のURLを届け、名簿を管理します
  4. 案内とリマインドの連絡 — 申し込んだ方に、開催日まで複数回連絡します
  5. 当日の複数役割の同時進行 — 進行、配信操作、チャットと質問の受け、参加者からの問い合わせ対応が同時に走ります
  6. トラブルが起きたときに誰が判断するかという決め事 — 配信が止まったとき、続けるのか、切り替えるのか、中止するのかを、その場で誰が決めるのかを決めておきます
  7. 事後の録画整理と報告 — 録画を扱えるかたちに整え、何が起きたかを社内に報告します

これらはいずれも、対面の運営には無かったものです。当日の司会と配信操作を同じ1人が兼ねると、質問を拾う人がいなくなる。こうしたことは、対面の研究会では起きませんでした。ここで区別しておきたいことがあります。7つのうち、(1)配信の設計と(6)トラブル時の判断の決め事は、「作業」ではなく「判断」です。作業は手順を覚えれば誰でもできますし、外に出すこともできます。しかし判断は、自組織に残ります。

上層部の「会場費が浮いてすぐ参加者が増える」— どこが正しく、どこが間違っているのか

上層部の期待には、正しい部分と、そうでない部分が混ざっています。切り分けると次のようになります。

正しい部分

間違っている部分

会場費と、会場までの移動の制約は実際に外れる

「すぐ」ではない。会場が無くなっても、告知先が自動的に増えるわけではない

地理的な制約が外れるので、申込の母集団は広がりうる

「浮いた分が丸ごと余る」わけではない。浮いた費用の一部は、ツール・機材・回線と、人の時間に置き換わる

記録が残り、再利用できるようになる

「申込が増えれば成功」ではない。申し込まれた数と、当日実際に聞いてもらえたか、内容が伝わったかは別の話になる

「すぐではない」という点には補足が要ります。会場という制約が外れることと、新しい参加者に情報が届くことは別のことです。届く範囲が広がるのは、あくまで届ける手段を作った場合に限られます。加えて、初回はどうしても仕組みを作る負荷が集中します。2回目以降は軽くなりますが、その分を初回の見通しに織り込んでおかないと、「思ったより大変でした」と後から報告することになります。

上層部に説明するときは、次の型が使いやすいはずです。

  1. 浮く費目を先に並べる(期待の正しい部分を認める)
  2. 新たに必要になる作業と判断を並べる
  3. そのうえで、初回に何を用意するかを提案する

この順番であれば、期待を否定する話にはなりません。「会場費は確かに浮きます。そのうえで、こちらに置き換わります」という構造で伝えられます。

入れ替え表と、モデルケースへの当てはめ

浮くものと新たに必要になるものを1枚に並べると、オンライン化が「安くなる話」ではなく「仕事の中身が変わる話」だと見えてきます。

浮くもの(お金で買っていたもの)

新たに必要になるもの(人が判断し、手を動かすこと)

会場費・付帯設備

配信ツールと機材、安定した回線の確保

設営・撤収、机と椅子の配置

配信の設計(誰が話し、誰が切り替え、誰が質問を拾うか)

当日の受付に立つ人手

申込フォームの用意と、参加者名簿の管理

参加者・登壇者・運営の移動と交通費

視聴用URLの案内と、開催日までのリマインド連絡

紙資料の印刷と配布

当日の複数役割の同時進行

飲み物・弁当の手配

トラブル時に誰が判断するかという決め事

事後の録画整理と、社内への報告

ここからは、2つのモデルケースに当てはめて考えてみます。いずれも説明のために設定した仮のケースであり、実際に測定した数値ではありません。

モデルケースA: 職員40名の公益財団法人。定期研究会を年6回開催。運営は兼務3名。会員名簿400件。

会場費と当日の受付人手は浮きます。一方で、会員名簿400件に対する案内とリマインドの連絡が新たに発生し、当日は進行・配信操作・質問の受けという3つの役割が同時に走ります。兼務3名という体制では、この3役をどう割り当てるかが実質的な検討事項になります。年6回という頻度であれば、仕組みを作る負荷は初回に集中し、2回目以降は軽くなっていきます。

モデルケースB: 従業員200名のBtoB事業会社。ウェビナーを月1回開催。マーケティング担当1名と営業企画の兼務。ハウスリスト2,000件。

月1回の頻度があるため、仕組みを作る投資は回収しやすい条件です。案内先が2,000件と多いぶん、連絡の手作業をどう減らすかが早い段階で課題になります。当日に動ける人が限られる場合、質疑をその場で受ける形式を選ぶと無理が出ます。なお、会場とオンラインを同時に開くハイブリッド開催の場合は、この入れ替えが二重になります。会場側の準備がそのまま残ったうえで、オンライン側の準備が加わるためです。

次は、新たに必要になるものを「用意するもの」の側から整理します。

6.ウェビナーの開催に必要なもの — 人・もの・データの3つで整理する

開催に必要なものは、「人」「もの」「データ」の3つに分けて考えると抜けがなくなります。機材の話から入ると、全体像を見誤ります。対面では紙とその場のやりとりで済んでいたものが、オンラインではすべてデータになる。この変化が最も大きいためです。

分類

必要になるもの

進行役、登壇者、配信の操作、チャットと質問の受け手、申込と問い合わせの窓口

もの

配信ツール、カメラ、マイク、照明、安定したインターネット回線、静かで背景の整った場所

データ

申込フォーム、参加者名簿、案内メールの配信手段、アンケート、録画データ

この章では、それぞれ何が必要になるかの列挙にとどめます。何をどう選ぶか、誰が担うかは、それぞれ別の記事で扱います。

人 — 必要になる役割の種類

上の表に挙げた5つの役割は、当日すべてが同時に走ります。

対面のセミナーであれば、受付の時間と進行の時間は分かれており、同じ人が順番に担当できました。オンラインでは、開催中に受付(参加できないという問い合わせ)と進行と質問の受けが同時に発生します。何人でどう分担するかは、開催の形式と規模によって変わります。

もの — 配信ツールと機材

上の表のとおり、配信ツール、カメラ、マイク、照明、安定したインターネット回線、そして静かで背景の整った場所が必要になります。このうち配信ツールについては、ひとつだけ判断が要ります。社内にあるWeb会議ツールで足りるのか、配信用のツールを別に用意するのか、という判断です。

データ — 対面では紙で済んでいたもの

申込フォーム、参加者名簿、メールの配信手段、アンケート、録画データ。この5つが、増える仕事の中身を最もよく表しています。対面のときを思い出してみてください。申込はFAXや電話で受け、受付は紙の名簿で行い、資料は印刷物を配り、アンケートは紙で回収する。そして回収した紙の多くは、開催後に箱に入ったまま終わっていたはずです。

オンラインでは、これらがすべてデータになります。データになると、届ける・保管する・使うという工程が新たに発生します。紙のときのように「箱に入れて終わり」にはできません。これが、前章で挙げた「新たに必要になるもの」のうち、申込フォームと名簿の管理、案内とリマインドの連絡、事後の録画整理に対応する部分です。増える仕事の正体は、ここにあります。

では、これらをどの順番で進めればよいのか。次の章で、開催までの工程を一覧にします。

7.ウェビナー開催までの8つの工程 — 全体像を1枚で

開催までの工程は8つです。この一覧が、「いま自分が何を知らないのか」への答えになります。準備を進められない最大の理由は、知識が足りないことではなく全体像がないことだからです。何の工程があるかが分かれば、知らない工程から順に埋めていけます。

8つの工程の一覧

企画から振り返りまで、次の8つです。

#

工程

何をする工程か

1

企画・テーマ決定

誰に何を届けるかを決め、社内を通す

2

配信ツールの選定

何を使って配信するかを決める

3

機材の準備

カメラ・マイクなどを揃え、動く状態にする

4

告知・集客

開催を知らせ、申込を集める

5

案内とリマインドの連絡

申込者に視聴用URLを届け、開催日まで連絡する

6

リハーサルと当日運営

通しで確認し、当日を回す

7

アンケート

参加者の反応を受け取る

8

参加者フォローと振り返り

参加者との次の接点を作り、何が起きたかを社内に報告する

初めて開催する場合でも、この8つを押さえていれば大きな抜けは生じません。逆に言えば、どれか1つを飛ばすと、そのしわ寄せは必ず当日か事後に出てきます。

工程は「配信の作業」と「運営設計の判断」に分かれる

8つの工程のうち、手順を覚えれば誰でもできるのが「配信の作業」、誰かが決めなければ前に進まないのが「運営設計の判断」です。工数が減らないのは、判断を決めずに作業だけを分担するからです。

配信の作業にあたるのは、機材の接続、画面の切り替え、録画の開始、視聴用URLの発行といったものです。手順書があれば担当を交代しても回りますし、慣れれば所要時間も読めるようになります。

運営設計の判断にあたるのは、次のようなものです。

  • 誰に来てほしいのか
  • 何をもって成功と言うのか
  • 当日トラブルが起きたら、何に切り替えるのか
  • 集めた名簿を、誰がどう使うのか

これらは、決める人がいなければ、作業をいくら分担しても前に進みません。私たちが同席してきた範囲では、当日の混乱の多くはここから生まれています。「質問が来たが、誰が答えるかを決めていない」ために進行が止まり、その場で誰かが判断を求められ、進行役が本来の役割から離れる。判断を事前に決めていないと、開催のたびに同じことが起きます。

だからこそ、ウェビナーは配信ツールを繋ぐ仕事ではなく、「誰が・いつ・何を判断するか」を決める運営設計の仕事だと言えます。

この一覧を社内でどう使うか

この8工程の一覧は、兼務メンバーへの説明と、上層部への検討資料にそのまま転記できます。

兼務メンバーへ。まず「何の仕事があるのか」を先に見せます。全体像を示したうえで一部を頼む形にすれば、役割を押し付けられたという受け取られ方を避けられます。「これは雑務ではなく、判断を含む仕事です」と言うための根拠にもなります。

上層部へ。「オンライン化」という一言が、実際には8つの工程を伴うことを可視化できます。前章の入れ替え表とセットで出すと、期待の調整が成立しやすくなります。

自分のために。どの工程を知らないかが分かります。8つのうち、名前を見て中身が想像できない工程が、いま埋めるべきところです。そこから順に読み進めれば十分です。

工程の重さが見えたところで、最後の論点に進みます。そもそも自組織でウェビナーをやるべきなのか、という問いです。

8.自組織でウェビナーをやるべきか — 向く場面と、対面のままのほうが良い場面

ウェビナーは万能ではありません。向く場面と、対面のままのほうが良い場面があります。そして「オンラインにしない」も、検討した結果として正当な結論です。ここまでで工程と負荷の内訳は見えているはずなので、その前提でこの判断に入ります。

ウェビナーが向く場面

参加者が地理的に散っていて、内容が一方向で伝わるもので、当日に運営として動ける人を確保できるなら、ウェビナーは向いています。

  • 参加者が地理的に散っている、または移動の負担が参加の妨げになっている
  • 内容が講演・報告・説明のように、一方向で伝わるものである
  • 同じ内容を繰り返し届けたい(年に複数回、あるいは複数の対象に)
  • 記録を残して二次利用したい
  • 申込者の情報を手元に残したい
  • 当日、運営として動ける人を確保できる
  • 開催の頻度がある程度あり、仕組みを作る負荷を回収できる

研究会の会員が全国に散っている、事業会社の見込み客が地方にもいる。こうした条件があれば、オンライン化の効果は出やすくなります。使い方としては、「すべて当てはまるか」ではなく「いくつ当てはまるか」で見てください。

対面のままのほうが良い場面 — 「オンラインにしない」も結論のひとつ

次のような場面では、対面のままのほうが目的を達しやすくなります。

  • 参加者どうしの交流や、その場での合意形成が目的である
  • 少人数で密な議論をする
  • 機微な内容を扱い、録画が残ると困る
  • 参加者のITリテラシーが揃っておらず、参加できない方が出る
  • 当日、配信を担当できる人を確保できない
  • 年1回など頻度が低く、体制を作る投資を回収できない

たとえば、高齢の会員が多く、参加方法の問い合わせ対応が本業を圧迫する見込みがあるなら、オンライン化は目的から遠ざかります。参加者を増やすために始めたことで、事務局の手が塞がるという結果になりかねません。

5つ目の「当日、配信を担当できる人を確保できない」は、この1点だけでも見送る理由になります。

そのうえで申し上げます。「オンラインにしない」も、検討の結果として正当な結論です。 上から言われたから始めるのではなく、目的に照らして選ぶ。その判断をしたうえで対面を続けるのであれば、それは後退ではありません。

なお、内製か外注かの二択で考える必要もありません。工程は分けられるので、一部だけを外に出すという選び方もあります。

判断の前に決めておく2つのこと

決めておくべきことは2つです。「何をもって成功とするか」と「当日、誰が判断するか」です。

1つ目は、何をもって成功とするかを先に決めることです。 これを決めずに開催すると、終わった後に社内へ報告することも、次に何を変えるかを決めることもできません。何人集まったという事実だけが残り、それが良かったのか悪かったのかを誰も言えない状態になります。

2つ目は、判断する人を決めておくことです。 当日、配信が止まったときに、続けるのか、切り替えるのか、中止するのかを、その場で誰が決めるのかを事前に決めておきます。本番の事故を恐れる方は多いのですが、影響が大きいのは事故そのものより「決める人がいないまま時間が過ぎること」だ、というのが私たちの実感です。具体的な切り替えの手順は、別の記事で扱います。

この2つは、ツールでも外注でも代替できません。決めるのは自組織です。

モデルケースで当てはめてみる

同じ条件でも、開催の頻度と当日の人手で結論は変わります。前章と同じ2つのモデルケースで見てみます(いずれも説明のために設定した仮のケースであり、実際に測定した数値ではありません)。

モデルケースA(公益財団法人・年6回・兼務3名)。 会員が全国に散っていて開催の頻度もあるため、条件としては向いています。分かれ目は、当日に3名を確保できるかどうかです。難しければ、初回はオンデマンドから始めて当日の負荷を負わないという選択もできます。

モデルケースB(BtoB事業会社・月1回・兼務1名)。 月1回の頻度があるため、仕組みを作る投資は回収できます。ただし当日に1名しか動けない場合、ライブでの質疑対応には無理が出ます。形式を疑似ライブに変える、質疑を後日の書面回答に切り替えるといった調整が必要になります。

結論は、自組織の会員構成、内容の性質、当日に割ける人手によって変わります。この3つを並べて考えれば、判断の材料は揃うはずです。

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9. ウェビナーは配信をつなぐ仕事ではなく、運営設計の仕事である

ウェビナーとは、インターネット経由で開催するセミナーや講演会のことです。「Web」と「Seminar」を組み合わせた造語であり、特別な技術の名前ではなく、開催のかたちを指す言葉でした。

そして、オンライン化はコストが消える話ではありません。浮くのは会場費や移動費といった「お金で買っていたもの」であり、代わりに増えるのは配信の設計、申込データの管理、当日の複数役割の同時進行、トラブル時の判断といった「人が判断し、手を動かすこと」です。この入れ替えを説明できることが、上層部との期待のズレを埋める第一歩になります。

開催までの工程は、企画・テーマ決定/配信ツールの選定/機材の準備/告知・集客/案内とリマインドの連絡/リハーサルと当日運営/アンケート/参加者フォローと振り返りの8つです。この一覧は、兼務メンバーへの説明にも、上層部への検討資料にもそのまま使えます。

ウェビナーは配信ツールを繋ぐ仕事ではなく、「誰が・いつ・何を判断するか」を決める運営設計の仕事です。設計しないままオンライン化すれば、工数は減るどころか二重になります。

一方で、記事だけでは決めきれない論点も残ります。自組織の会員構成、扱う内容の性質、当日に割ける人手。この3つによって、向くかどうかの判断は変わります。「オンラインにしない」という結論も、検討した結果であれば正当です。まずは自組織の条件を並べるところから始めてみてください。

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著者情報 廣野 大地(ひろの だいち)

ビズブースト株式会社 デジタルマーケティング コンサルタント
2008年よりサイト制作、SEO対策、アクセス解析、コンテンツ制作、採用マーケティング、ウェビナー支援、展示会支援等に携わる。Webサイト改善、記事制作、ホワイトペーパー制作、メールマーケティング、レポート設計などを経験。2010年よりビズブーストに参画。現在はコンサルト営業として、複数のマーケティング施策が並行するプロジェクトの提案活動やプロジェクト進行管理を担当。実務で得た知見をもとに、BtoB企業のマーケティング施策をわかりやすく発信中。