「STP分析」は、マーケティングにおける分析手法のひとつ。会社として新しい分野に参入したり、新たな製品サービスの開発を始めたりする際に活用できる、実用的な手法です。この記事では以下の内容をお伝えします。
・STP分析が重要である理由
・STP分析の活用方法
・分析の各ステップの進め方
最後まで読んでいただければ、ご自身で自社のケースに当てはめて、実際にSTP分析ができるようになるでしょう。
STP分析は、アメリカの経済学者でマーケティング理論の権威でもある、Philip Kotler(フィリップ・コトラー)氏によって提唱されました。「STP」とは以下の3つの頭文字を取ったものです。
・Segmentaion(セグメンテーション):市場を細分化する
・Targeting(ターゲティング):狙う市場を決める
・Positioning(ポジショニング):自社の立ち位置を明確にする
この3つの観点から市場と自社を見ることで、自社が取るべき戦略を決めやすくなります。
(引用元:https://digimarl.com/syllabus/stp_analysis/)
STP分析はあらゆる業界・業種の企業で活用されている手法です。まずはSTP分析が発展した背景と、STP分析が重要である理由を紹介してきましょう。
STP分析が発展した背景には「製品サービス本位から買い手本位へ」というマーケティングの流れがあります。
インターネットの発展により、買い手は必要な情報をすぐに探し出せます。そして自身の課題に対して、ピンポイントでソリューションを提供してくれる企業を見つけることが可能になりました。
結果として「良い製品サービスを作れば誰にでも売れる」という時代は終わり、企業は特定の買い手層に向けて製品サービスを開発・販売する必要に迫られたのです。
たとえば、戦後の大量消費時代にテレビが初めて発売されたときは、映像が映れば多くの人に喜んで買ってもらえました。年代や性別、職業などによらず、どんな消費者でもニーズに大きな違いはなかったのです。
ところが、市場が成熟してインターネットが出現すると「自分の好みのアプリと連携できるか」「スマート家電として利用できるのか」「薄型なのか」など、消費者のニーズが多様化しました。
売り手も「誰に対して」「どのような特徴のテレビを作るべきなのか」を明確にせざるを得なくなり、競争力のある分野を確立する必要があります。
もちろん成熟した市場では、ただやみくもに製品サービスを販売してもうまくいきません。市場の状況を見極めたうえで、自社の強みを活かしやすい戦略を考える必要があります。その戦略や施策の実行セグメントを考える際に使えるのがSTP分析なのです。
STP分析がBtoB企業にとって重要な理由は、前述したように買い手に自社を選んでもらうために必要だからです。
BtoBの領域においても、今やあらゆる分野に競合企業が存在します。その中で自社の製品サービスを選んでもらうためには、STP分析によって市場のニーズと自社の立ち位置を整理して、製品サービスの価値を的確にアピールしなければなりません。
たとえば、自社が企業向けの会計ソフトを販売しているとします。このソフトを「どんな企業でも使える会計ソフトです」とアピールしても、どの買い手からも注目してもらえないでしょう。
これは前述したように、買い手が自身の抱えている課題をピンポイントで探すことが可能になったことに大きく起因します。一方で「製薬業界の独特な商習慣に完全対応した会計ソフトです」とアピールすれば、製薬業界の企業に関心をより持ってもらいやすくなります。
どのような方向性を打ち出せばより効果的なのかは、市場や自社の状況によって異なります。STP分析はこうした戦略を見つけ出すのに有効な手法です。
STP分析は、会社として新しい分野に参入したり、新たな製品サービスの開発を始めたりする際に活用できます。
なぜなら自社の強みを活かしつつ、市場のニーズを満たす戦略を立てるための指針として使えるからです。ここではピーシーフェーズ株式会社が提供する人材育成クラウドサービス「shouin+」を例に解説します。
前述したとおり、STP分析は以下の流れで進めます。
>・Segmentaion(セグメンテーション):市場を細分化する
・Targeting(ターゲティング):狙う市場を決める
・Positioning(ポジショニング):自社の立ち位置を明確にする
まず「S:市場を細分化する」では、これから自社が参入しようとする市場を細かく分けて考えます。shouin+では、研修をオンライン化するサービスの市場において「研修に加えてどんな機能を求めるのか」を、細分化する際の視点として使いました。企業のニーズに違いがある点に注目したのです。
次に「T:狙う市場を決める」で、細分化した市場の中で自社がどの市場を狙うのかを検討します。その際には自社の強みを考えてみましょう。
shouin+の場合は、他社サービスと比べて「従業員の評価もアプリ内で行える」という点が強みでした。そこで「従業員の評価方法の改善も同時に進めたい」という企業をターゲットにしました。
最後に「P:自社の立ち位置を明確にする」で、競合企業の製品サービスを確認します。そして、自社が買い手からどのように位置づけられたいのかを明確にします。
shouin+は「ひとつのアプリで研修も評価も両方でき、研修を動画で完結させることができる」というポジションの獲得を目指しました。
たとえばライバル企業として考えられるTeachmeBizは、作業をマニュアルにし、紙ではなくデジタル情報(非動画)にするという異なる戦略をとっています。同様なシーンで利用されそうと思われつつも、shouin+とSTPのPositioningが明確に異なることがわかるかと思います。
このようにSTP分析をすることで、どの市場にどのような形で参入するべきかを決められるのです。ここからは「S」「T」「P」の各要素について、さらに詳しく解説します。
Segmentaion(セグメンテーション)では、買い手のニーズに注目して市場を細分化します。ただし細分化する際に使える指標は無限にあるため、有効な分け方を知らないと、分析をうまく進められません。
そこで、市場を細分化する際に使える代表的な指標を4つ紹介します。これらの指標を使って、市場を整理してみましょう。
(引用元:https://torteo.jp/media/atcl-6686/)
人口統計的変数とは、個人の基礎的な情報をもとにした指標です。以下に例を挙げます。
・性別
・年齢
・職業
・収入
・学歴
・家族構成
国による統計調査の結果を確認することで、どの属性の人がどれくらいいるのか、正確な数字を把握できます。ToCであればToBと比較してより利用の幅が大きく、他の指標について考えるための前提として使いやすい指標です。
地理的変数とは、地理的な要因をもとにした指標です。以下に例を挙げます。
・国
・市町村
・地域
・気候
・文化
買い手のニーズは地域ごとに違いがあることが多いので、その違いをとらえて自社の戦略に活かしましょう。進出する国や地域を検討する際には、カギになる指標です。
心理的変数とは、個人の心理をもとにした指標です。以下に例を挙げます。
・好み
・性格
・趣味
・意見
・価値観
・ライフスタイル
アンケートやヒアリングによる調査を行うことで、どういった属性の人が多いのかを確認できます。時代の流れによって変化が大きい指標なので、過去のデータにこだわらず、状況に応じて柔軟な対応が必要です。
行動変数とは、個人の行動の傾向をもとにした指標です。以下に例を挙げます。
・購入頻度
・いつ買い換えるか
・どう情報収集するか
・何のために買うのか
・何を重視して判断するのか
買い手の行動を分析して、どういった属性の人が多いのかを分類します。たとえば「とにかく安く買いたい」という人もいれば「高くても品質が良いものがほしい」という人もいるでしょう。自社の業績と関係の深い買い手の行動を分析して、セグメントの細分化に活かすことが大切です。
Targeting(ターゲティング)では、自社が狙う市場を決めます。ターゲティングの際には「3C(市場、競合、自社)」の視点で考えるのがおすすめです。様々な視点から分析を行い、狙うべき市場を絞り込みましょう。
(引用元:https://satori.marketing/marketing-blog/what-is-marketing/marketing-framework/)
まずは買い手や市場の視点から考えてみましょう。新しい市場に参入するのであれば、その市場が自社にとってどれだけ魅力的なのかが重要です。以下の項目は必ずチェックしましょう。
>・市場規模
・市場の成長の見込み
・市場の収益性
どんな競合企業がいるのかも、狙う市場を決める際に重要な視点です。あまりに競合が強ければ、その市場への参入は見送るのが賢明だといえます。以下のポイントをチェックしましょう。
・競合企業の数
・競合企業の強さ
・競合企業が持つ優位性
最後に自社からの視点も考えます。市場に参入することが、自社の戦略などと整合性が取れているかを考えるべきです。以下のポイントを確認しましょう。
・人材はそろっているか
・自社の強みを発揮できるか
・ブランドに悪影響はないか
・自社のノウハウを活かせるか
・これまでの戦略と合っているか
Positioning(ポジショニング)では、市場での自社の立ち位置を明確にします。
競合の製品サービスと比較しながら、自社の製品サービスは買い手から見て「先進的なアイデア」「安価な製品サービス」「目新しい製品サービス」など、どのように位置づけられるのかを考えましょう。
買い手から「この製品サービスを買いたい」と思ってもらえるポジションを確保するためには、そもそもどの市場をターゲットにするかが重要であり、市場をどのように細分化して考えるかにも関わってきます。
つまり、ポジショニングはSTP分析の「T」や「S」とも結びつきます。STP分析は、S→T→Pと一方通行で考えを進めていくだけではなく、S・T・Pの間を行き来しながら、分析を深めていくことが大切です。
同時に他の分析方法、マクロ分析に分類されるようなPEST分析や、ミクロ分析のマーケティングミックス(4P)などを組み合わせることにより、顧客セグメントの理解を深められます。
ポジショニングを決める際に重要なのが「自社はどの程度の大きさの市場規模を狙えるのか」という視点です。そこで、市場規模を見極めるために使える「TAM、SAM、SOM」の考え方を紹介します。また実例として、1980年代のアメリカのペプシコーラの取り組みを取り上げます。
(引用元:https://bpo.tempstaff.co.jp/think/management-strategy-10/)
TAM(タム)とは、自社が獲得できる可能性のある最大の市場規模のことです。「自社のシェアが100%になったと仮定した際の売上げ」とも言い換えられます。
TAMが大きいほど事業を拡大する余地があり、より多くの売上げや利益を得られる可能性があります。ただしTAMが大きい市場は、大手企業が参入して競争が激化しやすい点に注意が必要です。
ペプシコーラであれば「アメリカのコーラ市場全体」がTAMだと言えるでしょう。
SAM(サム)とは、TAMの中で実際にアプローチ可能な市場規模のことです。
TAMの中には、系列企業から製品サービスを購入しているなど、現実的に自社の買い手にならない企業なども含まれています。そうした買い手のぶんの市場をTAMから除いたのがSAMです。
ペプシコーラのライバルであるコカ・コーラには「コーラを買うなら必ずコカ・コーラを買う」という忠誠心の高い買い手がいます。
コカ・コーラに忠誠心を持っている買い手にペプシコーラを買ってもらうのは、現実的に困難です。そうした「ペプシコーラを買いそうにない人」を除いたぶんの市場規模がSAMだといえます。
SOM(ソム)とは、SAMの中で実際にアプローチする市場規模のことです。この市場に対して、実際に営業や広告、キャンペーンを仕掛けていきます。SAMは自社の売上げを考えるうえで、最も意識する数字です。
ペプシコーラの例では、ペプシコーラに忠誠心が高い買い手と「ペプシコーラを買うかコカ・コーラを買うか、特にこだわりがない」という人を合わせた市場規模が、SOMだといえるでしょう。
ペプシコーラの売上げを大きく左右するのは「SOMの市場でどれだけシェアを獲得できるか」という点です。そのためペプシコーラは長年「ペプシコーラかコカ・コーラか、特にこだわりがない」という人に向けて、マーケティングの予算を集中してきました。
ところが、1985年にコカ・コーラが発売した「ニューコーク」の評判があまりに悪かったため、状況が変わりました。
コカ・コーラに忠誠心を持っていた買い手がコカ・コーラから離れ、ペプシコーラを買うことを検討するようになったのです。つまりペプシコーラから見ると、SAMとSOMが拡大したといえます。
ペプシコーラはこのチャンスを逃さず、コカ・コーラから離れた人にターゲティングして、大規模なキャンペーンを展開しました。そして「コカ・コーラの代わり」というポジショニングをアピールしたのです。その結果、その年の売上げを前年比で14%も伸ばすことに成功しました。
このように「TAM、SAM、SOM」を意識することは、効果的なターゲティングやポジショニングを見つけることに役立ちます。
(参照:The Complete Guide to STP Marketing: Segmentation, Targeting & Positioning)
STP分析は「どの市場に参入するべきか」「新たな製品サービスをどういった買い手に向けて開発するか」といった判断をする際に活用できる分析手法です。
さらに、分析の過程で市場や競合他社、自社についての情報を整理することで、新たな戦略を思いつくきっかけにもなるでしょう。
STP分析をするには専門知識は不要で、誰でも情報を書き出しながら分析を進められます。ぜひSTP分析を試してみてください。