最近は、「社員ファースト」「従業員満足度なしで顧客満足度なし」というフレーズを耳にしたことがある人もいると思います。
現場で働くビジネスパーソンとしては「当たり前のことでは……」と思うかもしれません。しかし、社会通念上はあっても感覚的にしかわかっていなかったため、顧客満足度と従業員満足度のどちらが優先かについては、鶏が先か卵が先かというような論争が長らく続いていました。
本記事では、従業員満足度、顧客ロイヤルティ、生産性の関係性をモデル化した「サービスプロフィットチェーン」というフレームワークを紹介します。この理論は、特にサービス職種において従業員満足度の向上が収益拡大につながることを提唱し、近年、大きな話題を呼びました。
SaaS企業も、セールス、カスタマーサクセス、カスタマーサポートなどのサービス部門を持っているので、経営者や事業責任者、マーケティング担当者は、ぜひ理解しておきましょう。
サービスプロフィットチェーン(SPC)とは?図を用いて解説
サービスプロフィットチェーンとは、従業員満足度を、顧客ロイヤルティと収益性に結びつけるビジネスマネジメントのモデルです。
簡単に説明すると、従業員満足度が向上すれば顧客満足度も向上し、企業利益の拡大につながるという考え方です。近江商人の三方良しに近いものがありますが、計測して定量的にマネジメントできるという特徴があります。
(出典:dreamstime)
上記の図をより細かく説明すると、以下の流れです。
- 従業員に質の高いサポートをすると、従業員満足度が向上する
- 従業員満足度が高くなった従業員は、ロイヤルティが高くなる
- 満足度、ロイヤルティが高い従業員によって、高品質なサービスが提供される
- 高品質なサービスを提供された顧客の満足度が高くなる
- 顧客満足度は顧客ロイヤルティを高める
- 顧客ロイヤルティの高い顧客の購買によって、企業の売上げが伸びる
- 企業は収益が向上したら従業員の教育、環境に投資する(1にもどる)
発展の背景とその概要
サービスプロフィットチェーンは、1994 年に米国ハーバード ビジネス スクールのJames L. Heskett(以下、ジェームス・ヘスケット)氏、W. Earl Sasser(アール・サッサー)氏、および Leonard Schlesinger(レオナルド・スキレンジャー)氏によって提唱されました。
5年間にわたってアメリカンエキスプレス、サウスウエスト航空、Banc One、Waste Management、USAA、MBNA、Intuit、British Airways、Taco Bell、Fairfield Inns、Ritz-Carlton Hotelなど多数の企業を研究し、従業員満足度、顧客満足度、収益の関係性を実証した理論です。
1997年には、この内容が書籍『The Service Profit Chain 』として発売され、広く普及しました。2冊目の『Value Profit chain』では、サービス業のみならずGE、ウォルマート、IBMなどの企業事例も紹介しています。なお、こちらは日本語版も出ています。
(出典:Amazon)
サービスプロフィットチェーン(SPC)に関する代表的な論文
サービスプロフィットチェーンは、前述の3名の研究者以外にもいろいろな実証研究がされてきました。ここでは代表的な研究論文を紹介します。
研究者:J. L. Heskett(J・L・ヘスケット)氏、T. O. Jones( T・O・ジョーンズ)氏、G. W. Loveman(G・W・ラブマン)氏、W. E. Sasser( W・E・サッサー)氏、L. A. Schlesinger( L・A・シュレジンガー)氏
内容:サービスプロフィットチェーンが、最初にハーバード・ビジネス・レビュー上で提唱されたときの論文であり、豊富な事例とともにサービスプロフィットチェーンの概念を説明しています。
5年間多数の企業を研究した結果、特に「利益」と「顧客ロイヤルティ」、「従業員ロイヤルティ」と「顧客ロイヤルティ」、「従業員満足度」と「顧客満足度」の関係性が強いことを明らかにしました。
英語論文なので、こちらをGoogle翻訳かDeepl翻訳で読むとよいでしょう。
前半部分は日本語で公開されており、こちらで読めます。以下のように、印刷製本して郵送してもらうことも可能です。
(出典:bookparkサービス)
論文名:従業員満足度,顧客満足度,財務業績の関係—ホスピタリティ産業における検証
研究者:明治大学 経営学部専任教授 鈴木 研一氏、東北学院大学 経営学部専任教授 松岡 孝介氏
内容:日本の大学教授が6年間、日本のホテル業A社のデータを追って「従業員満足度と顧客満足度と財務業績の関係性」を検証した論文です。マーケティング論および組織論まで含めて幅広く先行研究をレビューしています。
論文の総論として、従業員満足度→サービスの質→顧客満足度→稼働可能客室当りの粗利益との関係性を分析した結果、サービスプロフィットチェーンの妥当性を示しています。海外でも1社の6年間のデータを収集した研究はないようなので、貴重な研究です。
ダウンロードはこちらから(無料)。
論文名:A Review Paper on SERVICE PROFIT CHAIN
研究者:Dr. Shahid Amin Bhat(シャヒード・アミン・バット)博士 - ITM University
(出典:https://www.researchgate.net/)
内容:この論文は、新たに実証実験を行っているわけではありませんが、これまでの数々のサービスプロフィットチェーンに関する先行研究を総合的に分析しているため、全体像を把握するのに非常に役立ちます。
初期のヘスケット氏らの論文の米国企業の研究はもちろん、英国、ニュージーランドの食品小売、スーパーマーケット、銀行、ホテルなどのほか、さまざまな実証研究をレビューしています。
研究によっては有意な結果を示さなかった例もありますが、多くはないため、総論としてサービスプロフィットチェーンの妥当性と、従業員満足度、顧客満足度、顧客ロイヤルティが収益性に与えるポジティブな影響を結論づけています。
サービスプロフィットチェーン(SPC)はなぜ重要なのか?
それでは、なぜサービスプロフィットチェーンが重要なのでしょうか。ここでは、その3つの理由を整理します。
顧客満足によりブランド価値が高まる
テクノロジーの進化やSaaS型ビジネスの普及により、製品やサービス単体での競争優位性を築くのが難しい時代になっています。今、企業が注力するべきなのは誰かに語りたくなる体験であり、その起点となるのが顧客満足度です。
それでは、どのようなときに顧客はブランドについて語りたくなるのでしょうか。9000人を対象にした調査では、「商品に感動したとき、92%がすぐにレビューを書く」と回答しています。
逆に、「ブランドに失望したとき」には76%が即座に不満を投稿するとのこと。さらに、「他の購入者の役に立ちたい」という思いから67%がレビューを投稿し、51%は「コミュニティの一員として貢献したい」と感じているといいます。
これらのデータから見えてくるのは、顧客が語るのは、強い感情が動いたとき。つまり、驚きや喜び、あるいは落胆といった、期待の枠を大きく超えた体験に触れた瞬間に口コミやレビュー、SNSなどで自発的に発信されるようになります。
株式会社KDDIエボルバの調査では、「良い口コミが購入の決め手になった」経験のある人は98.4%、「悪い口コミで購入をやめた」人も98%。つまり、ほとんどの消費者が他者の声に耳を傾けているのです。
(引用:EC・通販ユーザー動向調査レポート)
企業がどれほど魅力的なメッセージを発信しても、顧客自身のリアルな体験談には敵いません。満足した顧客は、やがてブランドのプロモーターとなり、信頼というかけがえのない資産を自然と広めてくれます。
そして、そうした声を自然と生み出すには、企業の内側から始まる好循環が必要です。サービス・プロフィット・チェーンが示すように、従業員がやりがいと満足を感じながら働くことでサービスの質が高まり、顧客満足へとつながります。その満足が、やがて語りたくなる体験となり、ブランドを静かに、しかし力強く広げていくのです。
LTV(顧客生涯価値)の最大化ができる
BtoBマーケティングにおいて、LTVは極めて重要な指標のひとつです。多くのBtoBビジネスでは、新規顧客の獲得に時間とコストがかかる一方で、既存顧客との長期的な関係が利益の柱となります。
ここで有効に働くのが、サービスプロフィットチェーンの考え方です。まず、LTVを構成する3つの要素を整理しておきましょう。
- 平均購入単価(ARPU)
- 契約期間(継続年数)
- 購買頻度
これらに直接影響を与えるのが顧客満足度であり、それを支えるのがサービスプロフィットチェーンにおける上流の取り組みです。
さらにLTV最大化には、CAC(顧客獲得コスト)とのバランスを最適化する視点も欠かせません。一般的に、マーケティング施策のROIを測る際、「LTV÷CACが3以上」であることが望ましいとされています。この指標を維持・向上させるには、新規獲得よりも既存顧客からの売上げを継続的に伸ばす方が合理的です。
しかし見落とされがちなのが、顧客満足度と従業員満足度の相関関係です。従業員が疲弊し、モチベーションを欠いた状態では、いかに優れたプロダクトを提供していても、高品質なサポートや提案は期待できません。その結果、顧客の継続率は下がり、LTVの伸びも鈍化します。
一方で、従業員が自社の理念に共感し、裁量をもって顧客と向き合える文化があれば、顧客は「この会社と長く付き合いたい」と感じるようになります。サービスプロフィットチェーンの好循環が機能し、ロイヤルカスタマーを生み出す基盤が整うわけです。
従業員のエンゲージメントが顧客体験を高める
顧客体験(CX)の本質的な改善には、従業員のエンゲージメント向上が欠かせません。ここでいうエンゲージメントとは、単なる満足度ではなく、企業の目的や価値観への共感、自らの業務に対する誇りが伴った深い関与を指します。
たとえば、自身の仕事が顧客や社会にどう貢献しているかを理解している営業担当者は、単なる商談を超えた提案ができる可能性があります。その結果として、顧客との信頼関係が深まり、CXは大きく向上するでしょう。
?ギャラップ社によれば、従業員エンゲージメントが高い企業は、競合他社よりも生産性、収益性、顧客評価が向上しているとのことです。このことは、従業員エンゲージメントとCXが密接に結びついていることを裏付けています。
では、どうすればエンゲージメントを高められるのでしょうか。
その答えは、サービスプロフィットチェーンの文脈において、「インナーブランディングの強化」と「現場への裁量権の付与」に集約されます。たとえば、スターバックスでは「お客様との関係を大切にする」という文化が、マニュアルではなくミッションやバリューとして現場に根付いており、従業員一人ひとりの自発的な行動が促されています。
BtoBにおいても同様です。製品導入後のサポートやトラブル対応など、顧客との接点は多岐にわたります。こうした場面で対応する従業員が仕事にやりがいを感じているかどうかが、顧客の印象を大きく左右します。機械的な対応ではなく、「この人は本当に自社のことを考えてくれている」と感じてもらえるかどうかが、CXの質を決定づけるのです。
また厚生労働省の調査によると、業務遂行に伴う裁量権の拡大は、ワークエンゲージメントスコアの向上に統計的有意な正の相関があることが確認されています。
(引用:厚生労働省)
つまり顧客体験の向上は、顧客アンケートやUI改善といった外面的な施策だけでは実現できません。企業文化や人材マネジメントにまで踏み込み、従業員の働きがいを高めることが、改革の出発点となるのです。
サービスプロフィットチェーン(SPC)を考えるタイミング
サービスプロフィットチェーンは、従業員満足・顧客満足・企業の収益性を一連の流れとしてとらえるフレームワークですが、「いつ導入するのが効果的なのか?」と悩む方もいるでしょう。以下では、サービスプロフィットチェーンの導入がとくに有効とされる3つのタイミングについて解説します。
顧客満足度やリピート率が低いとき
顧客満足度やリピート率が低いとき、営業力やプロダクト品質だけでなく、サービス提供の仕組みそのものに課題がある可能性があります。サービスプロフィットチェーンの視点でいえば、それはしばしば従業員のモチベーションや働きがいの低下に起因しているわけです。
組織心理学者のHackman(ハックマン)氏とOldham(オールダム)氏による職務特性モデルでは、自己裁量が従業員満足度の重要な要素であるとされています。
自己裁量を持つことで、従業員は仕事の成果に対して責任を感じやすくなり、その結果、意欲やエンゲージメントが高まることが示されています。見方を変えれば、自己裁量権のない職場では従業員エンゲージメントが低下し、顧客が受け取るサービスの質にも影響が生じるのです。これはのちに見る事例でも明らかとなっています。
また、営業やマーケティングの数値だけをKPIに置いた組織では、顧客の本質的な満足度や体験価値を測定・評価する仕組みが弱くなりがちです。結果として、「とりあえず契約は取れたが、継続されない」という状態が常態化します。これは、LTVやリピート率の低下、さらにはブランドの毀損にもつながりかねません。
サービスプロフィットチェーンを取り入れることで、数値に現れにくい「従業員の働きがい」や「チームの一体感」「現場裁量の有無」など、定性的な要素にも光を当てることができます。
カスタマーエクスペリエンス(CX)を向上させたいとき
デジタルチャネルの拡大により、BtoBにおいても製品や価格だけでは選ばれない時代が到来しています。競合他社との技術力や機能差が縮まる中、最終的な差別化要素となるのがカスタマーエクスペリエンスです。企業と顧客のあらゆる接点における体験の質こそが、ブランド選好や購買判断に大きな影響を与えるようになりました。
たとえば、見積もり依頼後のレスポンススピード、商談時の提案内容の具体性、契約後のオンボーディング体制、サポート対応の一貫性、こうした一連の顧客体験がスムーズで好印象であれば、価格が多少高くとも「次回もこの会社にお願いしたい」と思ってもらえる確率が高まります。
ここで見落とされがちなのが、従業員の働き方やマインドによって大きく左右されるという点です。
サービスプロフィットチェーンの原則では、カスタマーエクスペリエンスを高めるためには、まず従業員エンゲージメントが必要とされます。実際にQualtricsの調査では、従業員エンゲージメントが高い場合、70%の従業員が顧客ニーズをより深く理解し、効果的に対応できると報告されています。
つまりCX向上を目指すなら、UI/UXやマーケティングオートメーションの整備だけでなく、従業員一人ひとりが「顧客の成功」に対して主体的に動ける環境を整える必要があるのです。
カスタマーエクスペリエンス向上に悩む企業こそ、「従業員の満足度とエンゲージメントをどう高めるか」から戦略を立て直すべきタイミングにあります。
従業員の離職率が高い、モチベーションが低いとき
従業員の離職率が高かったり、モチベーションが低かったりするとき、それは単なる労務管理の問題だけではなく、ビジネスの成長に直結する顧客体験の質が危機にある兆候かもしれません。なぜなら、サービスプロフィットチェーンでは、従業員満足度は顧客満足度の前提条件とされているためです。
Gallup社の調査によれば、従業員エンゲージメントが高い企業は、支出額の多いロイヤルカスタマーを多く持つ傾向にあるとのことです。これはやはり、従業員モチベーションと顧客体験が相関関係にあることを示しているでしょう。
従業員の離職やモチベーション低下は、突発的な問題ではなく、多くの場合は継続的なフラストレーションの蓄積です。厚生労働省が発表した「令和5年雇用動向調査結果の概況」と「令和5年若年者雇用実態調査の概況」によれば、退職理由として多い要因は以下の通りです。
- 賃金の条件が良くなかった
- 職場の人間関係
- 労働時間・休日などの条件
このような状態を放置していると、優秀な人材ほど早く離脱し、社内には我慢し続けるモチベーションの低い人だけが残るという逆選抜が進行します。サービスプロフィットチェーンの観点から見れば、この状態は顧客への提供価値の質が将来的に下がることを意味します。
一方で、従業員が自社のミッションに共感し、自分の役割にやりがいを持ち、チャレンジの機会が与えられている環境では、自然とエンゲージメントが高まり、離職率も下がります。結果として、一貫性のあるサービス提供が可能となり、顧客からの信頼が蓄積されていくのです。
従業員の離職が増え、モチベーションが下がっているときは、目先の待遇や福利厚生だけでなく、組織の理念や成長支援、コミュニケーションの質など、構造的な部分にこそ目を向けるべきです。
サービスプロフィットチェーンを構築する手順
サービスプロフィットチェーンを実践する際は「従業員満足度」と「顧客満足度」の向上を主軸に、「チェーン」を作っていくことを意識しましょう。以下では、その手順を詳しく解説します。
手順①:従業員満足度向上
まず、従業員満足度を高めることは基本です。従業員満足度を構成する要素は複数あるため、サーベイで自社の弱いところを確認し、欠けているところを確認した上で、必要な施策を設計します。以下が施策の例です。
コアバリュー(価値観、行動指針)を浸透させる
現場ではいろいろな予想外のことが起きますが、成長する企業は現場の社員が裁量権をもっており、素早く適切な判断をくだせます。企業のコアバリュー(価値観、行動規範)が理解されているため、現場が判断に迷わないためです。
企業理念をもとに、どのような行動、振る舞いが望ましいかの行動指針を浸透させる必要があります。現時点でコアバリューがない場合、コアバリュー作成プロジェクトなどを立ち上げ、自社の理念を深掘りして、従業員全員で構築することが望ましいでしょう。
従業員から聴く仕組みを作る
前述のように従業員満足度調査で働く環境をリサーチしたり、1on1ミーティングなどで生の意見を聴いたりするなど、今時点での従業員満足度を把握することは大切です。
また、従業員からの業務の改善提案に耳を傾ける仕組みを作ることも重要です。この仕組みがないと、現場の上長次第でフィードバックのしやすさに差がでます。中には何を経営層に言ってもムダという厭世的な雰囲気になるなど、現場がブラックボックス化しがちです。
顧客と接している現場の社員にとって、サービスが改善されプロダクトに自信を持てることは、仕事への誇りにつながります。サービスを共に作っている感覚も持てるでしょう。
キャリアの幅を広げる
スキルアップのためのトレーニングを実施し、社内キャリアアップの道を広げることが大切です。成長している実感が味わえたり、他の部署に異動できたりすれば、新天地を求めて離職せず会社で働き続けるモチベーションを持ちやすいでしょう。
SaaS企業であれば、カスタマーサポート、カスタマーサクセス、インサイドセールスなどがフィールドセールスのサポートという位置づけになりがちです。ただ、上下の関係ではなく適性に合わせ移動できるフラットな横の関係性に近づけられると、スタッフのキャリアの幅が広がり、目標を持ちやすくなるでしょう。
褒めあう、感謝を伝える仕組み
サンクスカード、ピアボーナスなど同僚同士が感謝を伝え合う、褒めあう、チップを贈り合うなどの仕組みを導入する企業が増えています。メルカリ社の「メルチップ」がその一例です。
人間は褒められると嬉しくなりモチベーションが上がります(脳では金銭をもらうときと同じ部位が反応)。社内の人間関係が生産性にも影響するという研究結果も古くからあります。
ルールではあっても感謝を表明することで、褒めた側は自分が誰のお世話になったかを自覚でき、褒められた側は承認された喜びを味わえるため、チームワークがよくなる可能性は高いでしょう。
逆に、たとえばインサイドセールス部門が努力の末アポイントまでこぎつけた案件を「アポの質が悪い」と一蹴されれば、「営業力がないのでは……」と返したくなるのが人間です。負のサイクルになるのは簡単なので、意識して社内にポジティブな発言が出る仕組みを作るくらいでちょうどよいかと思います。
手順②:サービス品質向上
ここでは、サービスプロフィットチェーンの観点で、サービス品質を高めるアプローチを紹介します。
お客様の声を聞く仕組みを導入
顧客満足度を高めるためには、顧客の現在の満足度がどの程度かをまず把握する仕組みが必要です。ハインリッヒの法則でいわれるように、ストレートにクレームを言って去る顧客のうしろには、その何倍もの不満を持った顧客がいます。
以下のような手法で、顧客からのフィードバックを集めて改善することが大切です。
- 顧客満足度調査
- NPS(ネットプロモートスコア)
- レビューサイト、SNSの評価
- 営業、カスタマー部門担当者のフィードバック
ホールプロダクトの概念を知る
とはいえ、多くの企業がいきなり100点満点のサービスを提供できることはまずありません。事業責任者やマーケティング責任者は、ホールプロダクトの概念をベースにサービス改善に取り組んでいきましょう。
ホールプロダクトとは、ベンダーが最初に提供するサービスと顧客が期待する水準にはギャップがあるので、段階的にサービスを向上させていく考え方です。サービスの完成度を4段階でとらえます。
- コアプロダクト
- 期待プロダクト
- 拡張プロダクト
- 理想プロダクト
段階的に、顧客が求めている価値とのギャップを解消し、満足してもらい、最終的には顧客の期待を超えることを目指します。サービスが進化し続けていれば、初期ステージであっても顧客は期待してくれるでしょう。
業務プロセスの最適化
サービス品質を高めるうえで、従業員のスキルやモチベーションはもちろん重要ですが、それと同じくらい大切なのが業務プロセスの整備・最適化です。いくら優秀な人材がいても、非効率なオペレーションや属人化した業務体制の中では、持続的に質の高いサービスを提供するのは困難でしょう。
先に紹介した厚生労働省の調査でも、労働条件が離職の理由になっている、かつ人口減少が大幅に進んでいる現状を踏まえると、業務プロセスの最適化は必須といっても過言ではありません。
それでは、どうすれば業務プロセスを最適化できるのでしょうか。その第一歩となるのが、マニュアルやガイドラインの整備です。
問い合わせ対応や設定手順などを明文化し、社内Wikiやナレッジベースで誰でもアクセスできるようにすることで、対応のばらつきを防ぎ、新人でも即戦力として活躍できる環境が整います。
さらに、マニュアルは作成して放置するのではなく、実際の業務データや現場のフィードバックをもとに定期的に見直す運用体制を持つことで、業務品質とともに従業員の業務負荷を継続的に軽減できます。
また、プロセス最適化の文脈では、以下のような視点も有効です。
- 属人化の排除:特定の個人に依存した業務フローを見直し、チームで再現可能な体制に移行する
- ボトルネックの可視化:プロセスマッピングやフローチャートを使って、業務の滞留ポイントや無駄を特定する
- ツール導入による自動化:RPAやワークフロー管理ツールを導入して、反復作業を削減する
こうした取り組みは、従業員のストレスや業務過多を抑えるだけでなく、結果的に顧客に対しても一貫性のあるスムーズな体験を提供する基盤となります。
手順③:顧客満足度向上
サービスプロフィットチェーンの流れにおいて、「従業員満足向上→サービス品質向上→顧客満足度向上→顧客ロイヤルティ向上→利益の最大化」という因果関係は明確です。そのなかでも顧客満足度は、外部からの評価が最も可視化されやすく、企業の信頼性やブランド価値に直結する重要な中間指標です。
ここでは、顧客満足度向上のために欠かせない2つの要素、すなわち「カスタマーエクスペリエンス(CX)の強化」と「フィードバックの活用」について解説します。
カスタマーエクスペリエンス(CX)の強化
現代の顧客は、製品やサービスそのもの以上に、企業との一連のやりとりの中で得られる体験に価値を見出す傾向があります。実際に