来期のマーケティング計画に「動画」を入れたいものの、何から手を付けるべきか決めきれずにいないでしょうか。動画マーケティングのトレンドを調べると、ショート動画や生成AI、ライブコマースといった新しい言葉が次々に出てきますが、その多くはBtoC向けの話で、BtoBの自社に関係するものがどれかは意外と語られていません。
結論からお伝えすると、動画マーケティングのトレンドは全部を追う必要はありません。BtoBにとって意味があるのは一部だけであり、大切なのは仕分けたうえで「自社が最初に取り組む1本」を決めることです。
この記事では、主要トレンドの全体像を整理したうえで、BtoBで効くもの・条件付きで効くもの・追わなくてよいものに仕分けます。さらに、自社に当てはめる5つの判定軸と、ウェビナー録画など今ある素材から始める最初の3ヶ月の進め方まで解説します。
読み終えるころには、来期計画に載せる動画施策を1つに絞り、上司に説明できる状態になっているはずです。まずは、社内説明にもそのまま使える市場データから見ていきましょう。
動画マーケティングは、「感度の高い企業が試している施策」から「多くの企業が予算を割く施策」に変わりつつあります。まず、その変化を裏付けるデータを最小限に絞って確認します。取締役や経営会議への説明にそのまま使える数字です。
CARTA HOLDINGS・電通・電通デジタル・セプテーニの4社が発表した「2025年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」(2026年3月発表)によると、2025年のビデオ(動画)広告費は1兆275億円となり、推定開始以降初めて1兆円を突破しました。前年比121.8%と高い伸びを維持しており、インターネット広告媒体費に占める構成比は3割を超えています。2026年も前年比114.7%の1兆1,783億円と、二桁成長が続くと予測されています。なお、動画広告の種類や配信面の違いは「動画広告とは?特徴、種類、メリットを解説!!」で整理しています。
広告の出稿側だけでなく、動画を取り巻く事業環境も広がっています。矢野経済研究所の「動画コンテンツビジネスに関する調査(2025年)」(調査期間2025年6月〜8月、事業者売上高ベース)では、動画編集ソフト・動画配信プラットフォーム・ライブ配信アプリ・アニメ制作の主要4市場の合計が、2024年度の5,985億円から2025年度には6,300億円へ拡大する見込みと示されています。企業のマーケティング動画そのものの市場規模ではありませんが、動画を作る・配信する・視聴する環境全体が拡大し続けていることを示すデータです。
スマートフォンとSNSの普及で、買い手が日常的に接する情報に占める動画の比重は大きく高まりました。この変化は、もはや説明の要らない前提と考えてよいでしょう。
「動画が伸びているのはBtoCの話で、企業の購買担当者は見ていないのでは」という疑問には、購買行動のデータが参考になります。Gartnerが2026年3月に発表した調査(2025年8月〜9月実施、B2Bバイヤー646名対象)では、B2Bバイヤーの67%が、営業担当者を介さない(rep-free)購買体験を好むと回答しています。海外の調査ではありますが、営業に会う前に情報収集と比較検討が進むという変化は、日本のBtoB購買でも同じ方向に進んでいると考えられます。
営業と会う前の情報収集が主戦場になるほど、テキストだけのWebサイトで伝えられる範囲には限界が出ます。製品の操作感や導入後のイメージなど「読んでも分かりにくいこと」を伝える受け皿として、動画の重要度が上がっているのです。
ただし、市場が伸びているからといって、目に付いたトレンドを全部やるべきだという話にはなりません。限られた予算と人員で成果を出すには、まずトレンドの中身を知り、自社に関係するものを仕分ける必要があります。
現在の動画マーケティングの主要なトレンドは、次の6つに整理できます。ここでは各トレンドの定義と押さえどころを簡潔に確認します。「自社がやるべきか」の判定は次章以降で行うので、まずは全体像をつかんでください。なお、動画マーケティングそのものの定義や種類、戦略策定のステップは「動画マーケティングとは?動画マーケティングの種類と事例、戦略策定のステップについて解説」で解説しています。
60秒前後の縦型動画が、YouTubeショート・TikTok・Instagramリールを中心にSNSの標準形式になりました。企業発信でも、長尺動画を短尺に再編集して配信する使い方が広がっています。バズを狙う手法として語られがちですが、BtoBでは認知獲得や採用広報など、目的を限定して使うのが現実的です(適合度は△〜○)。
台本の生成、自動編集、アバターによるナレーション、字幕・多言語化など、動画制作の各工程を生成AIが支援できるようになりました。ポイントは「動画を量産できる」ことより「制作の工数が下がる」ことです。ウェビナー録画からの切り出しや字幕付けをAIで時短するといった使い方であれば、専任者のいない企業でも取り入れやすくなっています(適合度は○)。自社の商材で実用に耐えるかは検証が必要なので、まず既存素材の編集から試すのが安全です。
動画を「認知獲得のための単発施策」にとどめず、認知・比較検討・商談・導入後といった購買プロセスの各段階に配置する考え方が主流になっています。1本のヒット動画を狙う発想から、段階ごとに役割の違う動画を持つ発想への転換です(適合度は◎)。
視聴者の属性や行動履歴に合わせて、動画の内容や構成を出し分ける手法です。MA(マーケティングオートメーション)や顧客データ基盤との連携が前提になるため、データ活用が成熟した企業向けのトレンドといえます(適合度は△)。
視聴者が動画内の選択肢をクリックすると展開が変わる動画です。製品デモや診断型コンテンツで使われますが、企画・実装の難度が高く、用途は限定的です(適合度は△)。
ウェビナーは一時的なブームを越えて、BtoBのリード獲得・育成手段として定着しました。いま論点になっているのは「開催すること」より「録画をどう資産として使い回すか」です。手元にウェビナーのアーカイブが溜まっている企業にとっては、最も身近なトレンドといえます(適合度は◎)。
6つのトレンドとBtoB適合度の仮判定を一覧にまとめます。
|
トレンド |
概要 |
BtoB適合度(仮判定) |
|
ショート動画・縦型動画 |
60秒前後の縦型動画がSNSの標準形式に |
△〜○ |
|
生成AI活用 |
制作・編集・字幕などの工数を削減 |
○ |
|
ファネル全体での活用 |
購買プロセスの段階ごとに動画を配置 |
◎ |
|
パーソナライズ動画 |
視聴者ごとに内容を出し分け |
△ |
|
インタラクティブ動画 |
視聴者の操作で展開が変わる |
△ |
|
ライブ配信・ウェビナー |
開催から録画資産の活用へ論点が移行 |
◎ |
この仮判定の根拠は、BtoBとBtoCの購買構造の違いにあります。次章でその物差しを確認しましょう。
結論として、BtoBでも動画マーケティングは効きます。ただし、効き方がBtoCとは構造的に違います。この違いを押さえないままBtoC向けのトレンドを持ち込むと、「やってみたが成果につながらなかった」という結果になりがちです。
BtoBの購買には、BtoCと異なる3つの前提があります。
1つ目は、検討期間の長さです。BtoBの購買は数ヶ月から1年かけて検討されることが多く、動画を1本見て即決されることはありません。動画の役割は「その場で買わせること」よりも、「長い検討を前に進めること」になります。
2つ目は、視聴者の先に複数の関係者がいることです。動画を見た担当者が、そのまま決裁者であるとは限りません。むしろ動画のURLが上司や関係部署に転送され、社内で回覧されながら検討が進むのがBtoBの実態です。つまり動画は「社内共有される資料」として設計する必要があります。
3つ目は、購買が合議で決まることです。個人の感情を動かすバズよりも、複数の関係者が納得できる分かりやすい説明のほうが、検討を前に進める力になります。
この3つの前提から、再生数の意味もBtoCとは変わります。見るべき人の母数がそもそも小さいため、再生数が伸びないのは異常でも課題でもありません。この点は効果測定の章で詳しく扱います。
|
観点 |
BtoC |
BtoB |
|
検討期間 |
短い(即決もある) |
数ヶ月〜1年 |
|
意思決定 |
視聴者本人 |
担当者の先に決裁者・関係部署 |
|
動画に求められる役割 |
興味喚起・購入の後押し |
説明の補完・社内検討の前進 |
BtoBにとっての動画の最大のメリットは、テキストや口頭では伝えにくい情報を補えることです。無形で高額、かつ検討期間が長い商材ほど、「実際の画面はどう動くのか」「導入したら業務がどう変わるのか」という部分が言葉では伝わりません。動画が補うのは、まさにこの部分です。
「うちの商材は地味だから動画に向かない」という声は多くの会社で聞かれますが、これは逆です。買い手が求めているのは面白い動画ではなく「分かる動画」であり、説明が難しい地味な商材こそ、動画で伝える価値が大きくなります。
もう1つのメリットは、営業資産としての再利用性です。たとえば30分かかっていた営業の商品説明を5分のデモ動画にして商談前に送っておけば、商談を質疑応答から始められます。動画はマーケティング施策であると同時に、営業の生産性を上げる道具にもなります。
一方で、動画に過度な期待をかけると失敗します。動画は、置き場所・見せ方・視聴後のフォローという導線とセットで初めて機能する施策です。「とりあえずYouTubeチャンネルを作って動画を上げる」だけでは、見られないまま終わる可能性が高いでしょう。
また、動画は公開してすぐリードが急増するような即効性のある施策でもありません。ここで期待値を誤ると、「動画は一度やったが効果がなかった」という記憶だけが社内に残り、次の投資が通らなくなります。だからこそ、小さく始めて検証する進め方が重要になります。
検討期間・複数の意思決定者・合議制という3つの前提を物差しにすると、6つのトレンドは明確に仕分けられます。次章が本記事の核心です。
前章の物差しを当てると、動画マーケティングのトレンドは「BtoBでも効くもの」「条件付きで効くもの」「追わなくてよいもの」の3つに仕分けられます。
ファネル全体での動画活用、ウェビナー・ライブ配信、そして製品説明・導入事例動画の定番化は、安心して取り組める領域です。
これらに共通するのは、一過性の流行と違って「基盤」であることです。買い手の情報収集が営業を介さない方向に変わったという構造変化に根ざしているため、SNSの流行が入れ替わっても価値を保ちやすいのが特徴です。「始めたあとにトレンドが変わって無駄になるのでは」という不安は、この基盤側から着手する限り、当たりにくいでしょう。
ショート動画・縦型動画は、目的を認知獲得や採用広報に限定すれば選択肢になります。ただし、リード獲得の主役にはなりにくいため、最初の一手には向きません。若手社員や制作会社から「ショート動画をやりましょう」と提案されたときは、目的が認知なのか採用なのかを先に問い返してください。目的が曖昧なままでは、BtoC向けの企画に流れていきます。
生成AIは、動画の量産よりも編集工数の削減に使うなら有効です。凝った新規制作をAIだけで賄うのはまだ難しく、前述のとおり既存素材の編集支援が入り口になります。
パーソナライズ動画とインタラクティブ動画は、MAの運用が成熟し、動画コンテンツが一定量蓄積されてから検討する段階のトレンドです。最初の一手にする必要はありません。
縦型ショートドラマ、TikTok Shop、ライブコマース、インフルエンサーやUGC(ユーザー生成コンテンツ)の起用は、中堅BtoB企業が追う必要のないトレンドです。いずれも消費者向け・EC向けの購買行動を前提にしており、検討期間が長く合議で決まるBtoBの購買にはかみ合いません(BtoC企業にとっては有効な手法です)。
「多くの解説記事がすべてのトレンドを勧めるのはなぜか」と疑問に思うかもしれません。トレンド解説の多くは動画制作会社や運用代行会社による発信であり、立場上「やらなくてよい」とは書きにくいという事情があります。私たちは動画制作を本業とはしていないため、この仕分けを率直に示せます。
「追わない」と決めることも立派な意思決定です。経営会議で「TikTokはやらないのか」と聞かれたら、「消費者向けの購買行動を前提にした手法であり、当社の顧客の検討プロセスには合わない」と答えられれば十分です。
|
分類 |
該当トレンド |
判断の根拠 |
|
BtoBでも効く(基盤) |
ファネル全体活用/ウェビナー・ライブ配信/製品説明・導入事例動画 |
買い手の情報収集行動の構造変化に根ざし、流行の入れ替わりに左右されない |
|
条件付きで効く |
ショート・縦型動画/生成AI活用/パーソナライズ・インタラクティブ |
目的の限定や、MA運用の成熟など社内条件が揃えば有効 |
|
追わなくてよい |
縦型ショートドラマ/TikTok Shop/ライブコマース/インフルエンサー・UGC |
消費者向け・EC向けの購買行動が前提で、BtoBの合議型購買に合わない |
追うトレンドを絞れたら、次の問いは「自社のどこに動画を当てるか」です。
動画選びで最初に決めるべきは「何を作るか」ではありません。「自社のリード獲得から商談化までの流れの、どこが弱いか」です。弱い箇所が決まれば、作るべき動画は自然に決まります。
動画への投資価値を裏付けるデータもあります。Content Marketing Instituteの「B2B Content Marketing Benchmarks, Budgets, and Trends: Outlook for 2025」(2024年6月〜8月実施、北米中心のBtoBマーケター980名対象)では、回答者の58%が動画を「最も成果につながるコンテンツフォーマット」に挙げ、全フォーマット中1位でした。ただし、これは作れば成果が出るという意味ではありません。使いどころを設計できてこその数字です。
主な動画タイプと目的の対応は次のとおりです。
|
動画タイプ |
主な目的 |
主な置き場所 |
|
サービス紹介・製品デモ動画 |
理解促進 |
サービスサイト、商談前の送付 |
|
導入事例動画 |
比較検討の後押し |
事例ページ、ナーチャリングメール |
|
ウェビナー・セミナー動画 |
リード獲得・育成 |
申込ページ、アーカイブ配信 |
|
ハウツー・ノウハウ動画 |
認知・信頼獲得 |
YouTube、オウンドメディア |
|
営業用1対1動画 |
商談の前後フォロー |
メール、商談後の送付 |
たとえば「リードは取れているのに商談化しない」会社であれば、弱いのは比較検討の後押しです。この場合、認知向けのハウツー動画を増やすより、導入事例動画を1本作るほうが効果的だと考えられます。このように、埋めるべき穴から逆算するのが対応表の使い方です。
動画は配信して終わりでは商談になりません。視聴データを営業活動に接続して初めて、投資を回収できます。
接続の方法は主に3つあります。1つ目は、動画の視聴履歴をMAのスコアリングに加点することです。導入事例動画を最後まで見た見込み客は、検討が進んでいる可能性が高いと判断できます。2つ目は、視聴した見込み客へのインサイドセールスのフォローです。どの動画を見たかが分かっていれば、「先日ご覧いただいた事例と同じ業種の話題から」と、検討状況を踏まえた会話で入れます。3つ目は、営業が商談の前後に1対1で動画を送ることです。商談前にデモ動画を、商談後に補足説明の動画を送れば、対面時間を議論に集中できます。
MAやCRMをすでに導入している企業であれば、この接続は新しいツールを導入しなくても始められます。ビズブーストでも、動画を単体の施策として切り離さず、Web・ウェビナー・MA/CRM・インサイドセールスの導線の中に位置づけて支援しています。
穴の埋め方が見えたら、いよいよ自社の1本を決めましょう。
ここまでの整理を自社に当てはめ、最初に取り組む動画を1つに絞ります。判定軸は5つです。この5軸は、私たちがBtoB企業の施策設計を支援する中で使ってきた整理で、チェックの結果はそのまま企画書の根拠に使えます。
次の5つの問いに「はい」「いいえ」で答えてください。
|
判定軸 |
問い |
「はい」の場合の示唆 |
|
①商材特性 |
口頭説明に30分以上かかる商材か |
サービス紹介・デモ動画が効きやすい |
|
②検討期間 |
顧客の検討期間は3ヶ月以上か |
検討中盤を支える導入事例動画が効きやすい |
|
③情報接触 |
顧客はウェビナーやYouTubeで情報収集しているか |
動画の受け皿がすでにある |
|
④社内リソース |
動画の専任者・経験者がいるか |
「いいえ」なら既存素材の再活用と外注を前提にする |
|
⑤既存素材 |
ウェビナー録画・展示会素材が手元にあるか |
「はい」なら新規撮影より再活用が先 |
①と②が「はい」なら、埋めるべき穴は理解促進か比較検討の後押しにあります。④が「いいえ」で⑤が「はい」なら、ゼロから作らず既存素材から始めるのが合理的です。単独の軸で決めず、必ず5つをセットで判定してください。
従業員150名のシステム受託開発企業で、マーケティング専任は1名、動画の専任はゼロ。MAは導入済みで、過去のウェビナー録画が10本ある、という場合を考えてみます(説明のための仮の例であり、実在の企業ではありません)。
この会社の場合、①は説明に時間がかかる無形商材のため「はい」、②は検討期間が半年前後のため「はい」、④は「いいえ」、⑤はウェビナー録画があるため「はい」となります。判定から導かれるのは、新規撮影ではなく、ウェビナー録画を検討用コンテンツに再編集することから始め、次の一手として導入事例動画を検討する、という順番です。
同規模のBtoB企業では、この「ウェビナー資産の再活用から始めて事例動画へ」という起点に落ち着くケースが多い、というのが支援してきた範囲での実感です。もちろん商材や顧客の情報接触によって最適解は変わるため、5軸の判定を省略しないでください。
動画施策を通すうえでの最後の壁は、社内の反対です。よくある反論は3種類に整理でき、それぞれ答え方があります。
|
反論 |
主な立場 |
返し方 |
|
「結局いくらかかって、何が返るのか」 |
経営層 |
段階導入の計画と段階別KPIで答える(材料は次章以降で用意します) |
|
「YouTubeに上げても誰も見ない」 |
営業部門 |
バズらせる話ではなく、検討中の見込み客に届ける話だと説明する |
|
「うちの商材は地味だから向かない」 |
ベテラン営業 |
求められるのは面白さより分かりやすさであり、説明が難しい商材ほど動画の価値が大きいと返す |
「他社もやっているのか」という横並びの確認には、冒頭で紹介した市場データがそのまま使えます。これらの反対意見は、いずれも過去の失敗施策を見てきたゆえのもっともな懸念です。頭ごなしに否定せず、段階導入と検証の計画をセットで示すことが、稟議を通す近道になります。
なお、動画とあわせて検討したいMAの活用は、関連記事でも詳しく解説しています。
取り組む動画が決まったら、ゼロから作らないことが最初の3ヶ月の原則です。専任者がいなくても、手元の素材から小さく始めれば検証まで回せます。
まず、手元にある素材を棚卸ししてください。対象は、ウェビナー録画、展示会での講演・デモの記録、営業説明資料、導入事例の記事などです。
棚卸しした素材は、1つの素材を複数の形に展開する「ワンソース・マルチユース」で活用します。たとえば60分のウェビナー録画であれば、テーマ別に5〜10分の動画を切り出し、さらに1分のダイジェストを作り、内容を記事化する、という展開が可能です。過去のウェビナー10本から「よくある質問への回答」部分だけを集めた1本を作る、といった編集も新規撮影なしでできます。
注意点は、ウェビナーのフル録画をそのまま置かないことです。60分の録画を最後まで見る見込み客はまれで、「置いたのに見られない」という誤った失敗判定につながります。
進め方は90日で区切ります。
1ヶ月目は、素材の棚卸しと目的の確定です。5軸判定で決めた「埋める穴」を確認し、KPIを設定します。2ヶ月目は、既存素材の再編集と設置です。編集は外注しても構いません。作った動画をサービスサイト・ナーチャリングメール・商談の前後に設置します。3ヶ月目は、視聴データの確認と次の判断です。誰が見たか、視聴後の行動に変化があるかを確認し、続けるか、修正するかを決めます。
既存素材の再活用が中心であれば、初期費用を担当者の裁量範囲(数十万円以内)に収める設計も可能です(体制や外注範囲によって変わります)。「投資は最小限で」という経営側の要請と両立できる進め方です。
役割分担の原則は、企画と目的設計は社内に残し、撮影・編集は外注してよい、というものです。動画の目的やターゲットは自社にしか決められませんが、編集技術は外部に頼れます。切り出しや字幕付けのような日常的な編集は、生成AIツールで内製する選択肢もあります。
費用については、相場の数字を調べる前に「何を外注するか」を決めることが重要です。同じ3分のサービス紹介動画でも、既存素材の再編集なら数十万円、企画から撮影までフルで依頼すれば数百万円と、依頼範囲によって桁が変わります。私たちが支援の現場で見てきた限りでも、金額差を生むのは主に、企画の有無・撮影日数・出演者・尺です。目的を決めてから見積もりを取れば、「高い買い物をさせられる」不安は大きく減らせます。
なお、ウェビナー録画の再活用は、私たちがウェビナーの企画・運用を支援する中でも定着している進め方です。回す仕組みができたら、最後に測り方を決めます。
動画マーケティングのKPIは、再生数ではなく商談への貢献で測ります。測る仕組みは、導入済みのMA/CRMで作れます。
BtoBでは、動画を見るべき人の母数がそもそも小さいため、再生数は商談への貢献と連動しません。再生数が30回でも、その中に検討中の見込み客3社の担当者が含まれていれば、施策としては成功です。逆に1万回再生されても、見ているのが消費者や学生であれば商談にはつながりません。
再生数を目標に置くと、行動もゆがみます。数字を伸ばすためにバズ狙いの企画やBtoC向けの内容に流れ、本来の目的だった「検討の後押し」から離れていくためです。「動画は一度やったが効果がなかった」という社内の失敗記憶の多くは、動画そのものより指標設定に原因があったと考えられます。見るべきは「何回見られたか」ではなく「見るべき人が見たか」です。
KPIは購買プロセスの段階別に置き、それぞれ測定場所とセットで設計します。
|
段階 |
KPIの例 |
測定場所 |
|
認知 |
動画経由のサイト流入、指名検索数の変化 |
GA4、サーチコンソール |
|
検討 |
動画経由のリード数、資料請求率、ウェビナー申込率 |
MA |
|
商談 |
動画視聴済み商談の商談化率・受注率・商談期間 |
CRM/SFAと視聴データの突合 |
なお、視聴完了率や視聴維持率は、動画の内容を改善するための補助指標として使い、主要KPIには置かないのが安全です。
成果が見える時期は、指標の階層で異なります。視聴傾向は数週間で、リードへの影響は1〜3ヶ月で見え始めますが、商談・受注への寄与は営業サイクルに依存するため、半年以上かかる場合もあります。報告の際は「どの階層の数字がいつ見えるか」を先に共有しておくと、社内の期待値とのずれを防げます。
現場の実感も検証に使えます。「動画を見てきた商談は、初回から具体的な質問が出る」という営業の手応えがあれば、視聴済み商談の商談化率をCRMで裏取りする、という順番で確かめられます。
動画マーケティングの失敗は、3つのパターンに集約されます。再生数を目標にしてしまうこと、ウェビナーのフル録画をそのまま置くこと、そして1本作って導線につながず単発で終わることです。いずれも、ここまで述べてきた設計で回避できます。
あわせて、3ヶ月時点の見直し基準を始める前に決めておきましょう。見るのは「視聴の質」(狙った見込み客が見ているか)と「次工程への波及」(リードや商談の場で動画への言及があるか)の2点です。基準を満たせば継続・拡大、満たさなければ設置場所や内容を修正、狙った層にまったく届いていなければ撤退、と判断をあらかじめ決めておきます。
撤退ラインを先に決めることは、後ろ向きな準備ではありません。「途中でやめられるのか」という経営側の懸念への答えになり、投資判断を通しやすくします。検証の設計として、計画に含めてください。
Q.動画マーケティングと動画広告は、どう違いますか。
A.動画広告は、YouTube広告などの広告枠に動画を配信する手法で、動画マーケティングの一部です。本記事で扱った動画マーケティングは、広告に限らず、サービスサイト・ウェビナー・メール・商談といった接点全体で動画を活用し、リード獲得から商談化までをつなぐ取り組み全体を指します。
Q.動画制作会社に依頼すれば、動画マーケティングを任せられますか。
A.制作会社の主な守備範囲は「作ること」です。どの動画を作るかの判断、置き場所と導線の設計、視聴データの営業活用は、発注側が担うか、施策の設計から相談できるパートナーと進める必要があります。依頼前に、支援範囲が制作だけなのか、設計まで含むのかを確認してください。
動画マーケティングのトレンドを整理し、BtoBの視点で仕分けてきました。要点は3つです。
1つ目は、トレンドは全部追わないことです。BtoBで効く基盤(ファネル全体活用・ウェビナー・製品説明/導入事例動画)から着手し、消費者向けのトレンドは意識的に見送って構いません。
2つ目は、動画は「作ること」ではなく「リード獲得から商談化までのどの穴を埋めるか」の設計問題だということです。弱い箇所が決まれば、作るべき動画は決まります。
3つ目は、今ある素材から小さく始めて、商談への貢献で測ることです。ウェビナー録画の再活用なら、専任者がいなくても90日で検証まで回せます。
次のアクションは、既存素材の棚卸し、5つの判定軸での自己判定、そして来期計画への落とし込みです。
ただし、動画は単体では商談になりません。Web・ウェビナー・MA/CRM・インサイドセールスの導線の中で機能させて初めて成果になります。そして「自社のどの穴を埋めるべきか」は、社内からは意外と見えにくいものです。判断に迷う場合は、外部の視点を入れることも検討してください。
ビズブーストは、BtoB企業のWebサイト・ウェビナー・MA/CRM・インサイドセールスの活用を一気通貫で支援しています。無料相談では、「動画を作るかどうか」を決める前の段階から、次のような整理をお手伝いします。
制作のお見積もりやサービスの売り込みの場ではありませんので、方針を固める前の相談としてお気軽にご利用ください。