インサイドセールス部門の立ち上げを任されたものの、既存のフィールドセールスとどこで役割を分ければよいのか決めきれない。新規採用の予算はつかず、現場からは「なぜ自分が内勤に回されるのか」という声も上がる。そうした状況で、あらためて両者の違いを確認しようとしている方は少なくありません。
「人を増やせない」という前提は、多くの企業に共通しています。帝国データバンクの調査では、正社員が不足していると回答した企業は全体で50.6%、業種別では情報サービスが66.7%と最も高い水準でした(2026年4月調査)。採用で解決できない以上、限られた人員をどう配置し、どう連携させるかが、そのまま営業成果を左右します。
ところが、「インサイドセールスは内勤、フィールドセールスは外勤」という場所による整理で止めてしまうと、分業は高い確率でつまずきます。オンライン商談が定着した今、働く場所の違いは役割の本質ではないからです。決めるべきなのは、どこまでをインサイドセールスが担い、どの状態で「有効な商談」としてフィールドセールスに引き渡し、両者をどのような指標で評価するのかです。
つまりこの2つの違いは、1本の営業プロセスを前工程と後工程で分担する役割の違いであり、成果を左右するのは両者をどう連携させるかの設計にあります。
本記事では、それぞれの定義と違いを比較表で整理したうえで、なぜ分業するのか、リードの引き渡し基準(SLA)とKPIをどう設計するか、体制を5ステップでどう作るか、よくある失敗をどう防ぐか、そして現場と役員をどう巻き込むかまでを解説します。読み終えたときには、自社の分業設計の骨子と、社内説明に使える論拠が手元に残るはずです。
まずは、なぜ「内勤か外勤か」という場所の違いだけで分業を考えると失敗してしまうのか、その本質から確認していきましょう。
働く場所の違いは、役割を分けた結果として現れるものにすぎません。実際、フィールドセールスも社内からオンラインで商談を行いますし、インサイドセールスが重要な案件で訪問に同席することもあります。場所で線を引こうとすると、分業でいちばん重要な問い――どこまでをインサイドセールスが担い、どの状態になったらフィールドセールスに渡すのか――に答えが出ません。
分業がうまく回らない組織では、たいてい次の3つが決まっていません。役割の範囲、リードの引き渡し基準、そして両者の評価指標です。この3つが曖昧なまま体制だけ分けると、「渡された商談が薄い」「渡したのに動いてくれない」という不満が積み上がり、分業そのものが対立の原因になってしまいます。
背景として、非対面を中心とする営業スタイルは国内ですでに定着し、一般的な手法となっています。HubSpot Japanの調査でも、リモート型営業の導入率は2021年12月時点の40.4%から2022年11月時点で42.1%へと増加しており、現在ではさらに多くの企業で当たり前の風景となりました(HubSpot Japan「日本の営業に関する意識・実態調査2023」)。一方で、前述のとおり人員を増やす余地は乏しく、多くの企業は既存メンバーの再配置で分業を組むことになります。限られた人数で分けるからこそ、役割と連携の設計がそのまま成果を左右します。
続いて、インサイドセールスとフィールドセールスがそれぞれ何をする仕事なのかを押さえておきましょう。
インサイドセールスは非対面で見込み客を育て商談を創り出す役割、フィールドセールスは商談を進めて受注し関係を築く役割です。1本の営業プロセスを前工程と後工程で分担している、と捉えると理解しやすくなります。
インサイドセールス(Inside Sales、IS)は、電話・メール・オンライン会議といった非対面の手段で見込み客と継続的に接点を持ち、課題や検討状況を把握しながら興味関心を育て、購買検討が進んだ相手を商談としてフィールドセールスに引き渡す役割です。単発の接触ではなく、「今は時期ではない」相手も含めて中長期で関係をつなぎ続ける点が特徴です。
フィールドセールス(Field Sales、FS)は、引き渡された商談に対して具体的な提案・見積提示・条件交渉を行い、受注まで導く役割です。決裁者を含む複数の関係者を巻き込み、顧客の社内稟議を支援し、受注を獲得するまで(あるいはカスタマーサクセスへスムーズに引き継ぐまで)を担います。訪問が中心という語感がありますが、本質は「意思決定に踏み込んで受注を決める」ことにあります。
営業プロセス上の位置づけで見ると、マーケティング(リードの獲得)→インサイドセールス(育成と見極め)→フィールドセールス(提案と受注)→カスタマーサクセス(定着と拡大)という流れになります。この分業の考え方は、福田康隆氏の著書『THE MODEL』(翔泳社、2019年)で体系化され、国内のBtoB営業組織に広く参照されるようになりました。
なお、カスタマーサクセスは受注後の顧客を担当し、活用の定着や契約の継続・拡大を担う役割です。インサイドセールスと同じく非対面が中心になることも多いのですが、対象が受注前の見込み客か既存顧客かという点で担当範囲が明確に分かれます。分業を設計するときは、この4つの役割の境目をどこに置くかをセットで考えると整理しやすくなります。
インサイドセールスとテレアポは、同じ「電話をかける仕事」に見えても目的が異なります。テレアポの目的はアポイントの獲得、インサイドセールスの目的は受注につながる有効な商談の創出です。
テレアポは、リストに対して架電し、面談の約束を取り付けた時点で役割が完了します。評価も「架電数」「アポ獲得数」で測られるのが一般的です。一方インサイドセールスは、相手の課題・予算・検討時期・決裁の流れまで把握したうえで、「今フィールドセールスが会う価値がある状態か」を見極めます。まだ検討が早い相手には無理に商談を設定せず、情報提供を続けて時期を待つ判断も業務のうちです。
この目的の違いは、そのまま評価指標の違いになります。アポ数で評価すればアポの数は増えますが、確度の低い商談がフィールドセールスに流れ、「アポの質が低い」という不満を生みます。インサイドセールスを機能させるには、有効商談数のように「後工程にとっての価値」で評価する設計が欠かせません。
コールセンターとの違いも同じ観点で整理できます。コールセンターは受電対応や既存顧客からの問い合わせ処理が中心で、目的は対応品質と処理効率です。一方インサイドセールスは、問い合わせ(インバウンド)に対しても単なる受動的な対応で終わらず、自ら能動的に接点を作り、商談を生み出すことを目的とします。
なお、テレアポという手法そのものが不要になるわけではありません。ターゲットが明確な新規開拓では、電話を起点にした能動的アプローチは今も有効です。違いは手段ではなく、何を成果とみなすかにあります。
両者の違いは、担当するフェーズ・手法・KPI・強み・向く場面・求められるスキル7点で整理できます。優劣ではなく、営業プロセスのどこを担うかという役割分担の違いです。
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比較項目 |
インサイドセールス |
フィールドセールス |
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営業プロセス |
リード獲得後〜商談化まで(前工程) |
商談化後〜受注、その後の関係構築(後工程) |
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顧客の検討度合い |
低〜中(情報収集から比較検討の入口) |
中〜高(比較検討から意思決定) |
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主な手法 |
電話、メール、オンライン会議、MA/SFAでの履歴管理 |
提案・見積提示、条件交渉、稟議支援(訪問・オンライン商談) |
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主なKPI |
有効商談数、商談化率、リード転換率、初動スピード |
受注数・受注率、受注額、平均単価、商談期間 |
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強み |
少人数で多数の見込み客に接触し、確度を見極められる |
顧客の状況に踏み込んだ提案で、大型・複雑案件を受注できる |
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向く場面 |
リード数が多い、検討期間が長い、効率的な見極めが必要 |
単価が高い、要件が複雑、決裁者が多く合意形成が必要 |
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求められるスキル |
ヒアリング設計、情報整理、仮説提示、記録の徹底 |
課題解決型の提案力、交渉力、社内外の巻き込み |
とくに押さえておきたいのがKPIの違いです。インサイドセールスは「商談を創る量と質」、フィールドセールスは「商談を決める確率と金額」で測ります。ここを取り違えて両者を同じ指標で評価すると、どちらかの活動が必ず歪みます。
強みと向く場面の違いは、そのまま引き渡しの線引きの根拠になります。検討度合いが低い段階の相手にフィールドセールスの時間を使うのは、コストの高いリソースの使い方として効率的ではありません。逆に、決裁者が複数いる複雑な案件をインサイドセールスが電話だけで進めようとしても限界があります。「誰が対応すべきか」をフェーズで決めておくことが、分業の実務的な意味です。
なお、どちらが上位の職種ということはありません。前工程がなければ商談は生まれず、後工程がなければ売上にはなりません。この点は、既存メンバーを異動させる際の説明でも重要になります。
インサイドセールスは、対象とするリードの性質によってSDRとBDRの2つに分かれます。SDR(Sales Development Representative)は反響型、BDR(Business Development Representative)は新規開拓型です。
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比較項目 |
SDR(反響型) |
BDR(新規開拓型) |
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対象 |
資料請求・問い合わせなど自社に接点を持ったリード |
まだ接点のないターゲット企業 |
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起点 |
相手からの反響に対応する |
自社から能動的にアプローチする |
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主なKPI |
初動スピード、商談化率、有効商談数 |
ターゲット企業との接点獲得数、有効商談数 |
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向く企業 |
マーケティングでリードが安定的に獲得できている |
狙う企業が明確で、リード数は少ないが単価が高い |
自社にどちらが必要かは、リードの供給状況で決まります。Webからの問い合わせや展示会リードが十分にあり、対応しきれていないならSDRから始めるのが現実的です。逆に、リードの母数が少なく特定の業界・企業(エンタープライズ企業など)をピンポイントで狙うABM(アカウントベースドマーケティング)的なアプローチが必要なら、BDRの比重を高めることになります。立ち上げ期に両方を同時に走らせると人員が分散しやすいため、まずはどちらかに寄せる判断をおすすめします。SDRとBDRの役割の違いは、SDRとBDRの違いと仕事内容の解説記事でも詳しく整理しています。
営業を分けるのは、購買行動の変化に合わせて各工程を専門特化させたほうが、組織全体の生産性と再現性が高まるからです。ただし、連携を設計しなければ取りこぼしや部門対立という副作用が出ます。
背景にあるのは、顧客の情報収集がオンラインで完結するようになったことです。HubSpot Japanの調査では、買い手が製品・サービスの検討時に使う情報源として生成AIを挙げた割合が、1年で4.3%から11.7%へと増えました。さらに、生成AIを使った買い手の55.3%が「得た情報が最終的な意思決定に影響した」、52.4%が「当初検討していなかった製品を候補に加えた」と回答しています(HubSpot Japan「日本の営業に関する意識・実態調査2026」2025年10月調査)。
つまり、営業が接触する前に比較検討がかなり進み、候補に残るかどうかまで決まりはじめているということです。闇雲に訪問しても成果につながりにくいのは、このためです。加えて、オンライン商談が一般化して非対面でも関係構築ができるようになり、前述のとおり人員を増やしにくい状況も続いています。「一人の営業が獲得から受注まで全部やる」体制では、時間の使い方が非効率になりやすいのです。
先ほど触れた『THE MODEL』は、この課題への向き合い方を分業のプロセスとして体系化したものです。マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスがそれぞれ固有のKPIを持ち、前工程の成果が次工程のインプットになるよう連結させることで、営業活動を数値で管理できるプロセスに変える、という考え方です。
分業のメリットとデメリットを整理すると、次のようになります。
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観点 |
メリット |
デメリット(設計を怠った場合) |
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生産性 |
フィールドセールスが確度の高い商談に集中でき、単価の高い時間を提案と受注に使える |
引き継ぎの手間が増え、工程をまたぐたびに情報が欠落する |
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見込み客の扱い |
すぐに商談化しないリードも継続的に接点を保てる |
引き渡し後に放置され、リードを取りこぼす |
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組織 |
役割が明確になり、育成・評価の基準を作りやすい |
評価指標が別々になり、部門間で責任の押し付け合いが起きる |
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数値管理 |
パイプラインが可視化され、どこが詰まっているか特定できる |
入力ルールが揃わず、数字が実態を表さない |
重要なのは、デメリットの多くが「分業そのものの欠陥」ではなく「連携の設計不足」から生じている点です。取りこぼしも部門対立も、引き渡し基準とKPIの設計で相当程度は防げます。逆に言えば、体制だけ分けて設計を後回しにすると、ほぼ確実にこれらの問題が起こります。
なお、分業は万能ではありません。リードの母数が極端に少ない場合や、1件あたりの検討期間が短く一人で完結したほうが速い商材では、分業のメリットが出にくいこともあります。自社のリード量と商談プロセスを確認したうえで判断してください。
では、その連携をどう設計すればよいのでしょうか。次に具体的な仕組みを見ていきます。
連携の要は2つです。「どの状態になったらフィールドセールスに渡すのか」という引き渡し基準と、両者のKPIを対立させない整合設計です。この2つを文章にして合意できていれば、分業のトラブルの大半は防げます。
まず、パイプライン全体の流れを確認します。マーケティングが獲得したリードのうち、一定の条件を満たしたものをインサイドセールスが引き継ぎ、接触と育成を通じて検討度合いを見極めます。条件を満たした時点でフィールドセールスへ商談として引き渡し、フィールドセールスが提案・受注を担います。ここで見落とされがちなのが、逆方向の流れです。商談後の結果や失注理由がインサイドセールスに戻らなければ、引き渡し基準を改善する材料がいつまでも手に入りません。
情報連携は、渡す前と渡した後の両方をルール化します。渡す前は、商談前に共有すべき情報(相手の課題、検討時期、想定予算、決裁の流れ、これまでの接触履歴)を決めておきます。渡した後は、商談の結果となぜ案件が前に進まなかったのか(失注・保留理由)を一定の形式で記録し、週次でインサイドセールスに共有します。実務では、この「戻し」を担当者の善意に任せると続きません。定例のアジェンダに組み込んでしまうのが確実です。
リードへの初動が速いほど接触率や商談化率が高くなる傾向は、複数の調査で指摘されています。ただ、実態は理想から大きく離れています。BtoB企業114社にデモ申込を送り、対応時間を実測した調査を見てみましょう。メール返信の平均は11時間54分、電話は平均14時間29分。5分以内にパーソナライズしたメールを返した企業は1社だけで、5分以内に電話をかけた企業はゼロでした。約5社に1社は、返信そのものがありません(Workato「B2Bリード対応時間:114社の調査」2026年)。
引き渡した後に何日も動かなければ、せっかく温まった見込み客の熱は下がります。連携設計とは、この「熱が下がる前に次の一手を打つ」ための約束事だと考えてください。
引き渡し基準は、BANTのような汎用フレームを土台にして自社向けに具体化し、初動期限と差し戻しルールをセットで決めます。基準だけ決めて期限を決めないと、運用は形骸化します。
BANTとは、Budget(予算)、Authority(決裁権)、Need(必要性)、Timeframe(導入時期)の4項目で見込み客の状態を確認する伝統的な考え方です。ただし現代のBtoB営業では、4項目すべてを満たすまで待つと商談数が極端に減り、競合に先を越されてしまいます。実務では「必要性と時期は必須、予算と決裁権は商談の中でフィールドセールスが創り出していくため判明していなくても可」といった具合に、自社の商材と検討プロセスに合わせて重みを変えるのが現実的です。
たとえば社内システムを扱う企業なら、「情報システム部門または事業部門で課題が起案されており、導入検討時期が6か月以内である」といった条件を引き渡しの目安に置きます(説明用の仮の条件です)。条件は抽象語ではなく、SFAの入力項目で判定できる粒度まで落とすのがコツです。「温度感が高い」では人によって判断が変わります。
そのうえで、次の2つを必ず決めます。
この「基準・期限・差し戻し」の3点セットが、いわゆるSLA(部門間で交わす対応の約束)です。前述の調査が示すとおり、初動の遅れは多くの企業で起きています。裏を返せば、期限を明文化して守るだけでも差がつきやすい領域だというのが、私たちが支援の現場で見てきた実感です。難しく考える必要はありません。最初はA4一枚の運用ルールで十分です。
KPIは、共通KPIを上位に置き、その下に各部門の個別KPIをぶら下げる構造にします。この形にすると、両者が別々の指標を追いながらも同じゴールを向くようになります。
対立の典型的な原因は、インサイドセールスがアポ数だけで評価されることです。アポ数が目標になれば、確度が低くても数を作るのが合理的な行動になります。その結果フィールドセールスの時間が空振りに使われ、「質の低い商談を送ってくる」という不満が生まれます。指標が行動を決めるため、対立は人間関係の問題ではなく設計の問題です。
具体的には、次のように整理します。
ポイントは、有効商談の定義を両部門で文章化しておくことです。「有効商談とは、担当者に課題があり、導入時期の目安が語られている商談」といった定義を合意し、フィールドセールスが有効/無効を判定して記録します。この判定結果がそのままインサイドセールスの評価に反映される仕組みにすれば、両者の関心は自然に揃います。
なお、KPIは増やしすぎないでください。立ち上げ期は共通KPI1つ、各部門2〜3個で十分です。指標が多いほど、現場は「何を優先すべきか」を見失います。
分業体制は、役割定義→引き渡し基準の合意→KPI設計→ツール運用ルール→改善サイクルの5ステップで作ります。既存メンバー数名からでも着手できる手順です。
インサイドセールスとフィールドセールスが、それぞれどこからどこまでを担当するかを文章にします。決めるのは3点です。担当するフェーズ、扱うリードの種類(反響型か新規開拓型か)、そして例外時の扱い(既存顧客からの問い合わせは誰が受けるか、など)。この段階で完璧を目指す必要はありませんが、口頭合意で済ませないことが重要です。
前章で整理した基準・初動期限・差し戻しルールを決めます。ここで必ず守りたいのは、インサイドセールス側だけで作らず、フィールドセールスの意見を入れて合意することです。基準を「渡される側」が納得していなければ、後から必ず不満が出ます。合意した内容は文書化し、いつでも見られる場所に置きます。
共通KPIを先に決め、その後に個別KPIを決めます。順番が逆になると、部門ごとの都合が優先された指標になりがちです。あわせて、有効商談の定義と判定者(通常はフィールドセールス)も決めておきます。
高機能なツールを新規導入する必要はありません。既存のSFA/CRMで、引き渡し時に必須入力する項目(課題、検討時期、決裁の流れ、競合、これまでの接触履歴)と、商談結果の記録方法を統一するだけで、連携の精度は大きく変わります。入力項目は最小限にとどめ、「選択肢形式(ドロップダウン)を中心にして自由記述を減らす」「入力されない項目は作らない」と考えてください。
30分程度の定例を設け、引き渡した商談の質、初動の遵守状況、差し戻しの発生状況を確認します。基準は一度で正解にはなりません。「この条件で渡した商談は受注につながっていない」といった実データをもとに、月次で条件を調整していきます。この改善サイクルこそが、分業を機能させる本体です。
立ち上げ期は、兼任ではなくまず1名をインサイドセールス「専任」として置き、既存のフィールドセールスと週次ですり合わせながら型を作る進め方が現実的です。人員を集めてから始めようとすると、いつまでも始まりません。少人数でも、役割・基準・KPIの3点さえ決めておけば、人が増えたときにそのまま拡張できます。
体制ができても、運用の中で必ず摩擦は起きます。次に、よくある失敗とその防ぎ方を確認しておきましょう。
分業でよく起きる失敗は、取りこぼし、部門対立、アポの質、情報の非連携の4つに整理できます。いずれも、基準・KPI・入力ルールの設計で防げるものです。分業の立ち上げをご支援するなかで見えてくる原因も、突きつめると評価指標の相違、両部門の温度感のズレ、引き継ぎ情報の不足のいずれかに集約されます。
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よくある失敗 |
起きる理由 |
回避策 |
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①引き渡したリードが放置される |
引き渡し後の初動期限と責任の所在が決まっていない |
初動期限(例:翌営業日中)と、未対応時の差し戻しルールをSLAに明記する |
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②インサイドセールスとフィールドセールスが対立する |
評価指標が別々で、互いの都合が優先される |
共通KPIを上位に置き、週次定例で商談の質を一緒に振り返る |
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③アポの質が低いと言われる |
インサイドセールスがアポ数で評価されている |
評価をアポ数から有効商談数に変え、有効商談の定義を両者で文章化する |
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④情報が引き継がれない |
SFAの入力粒度が人によって異なる |
引き渡し時の必須入力項目を定義し、記録がなければ引き渡し不成立とする |
①の取りこぼしは、分業の初期に最も起きやすい失敗です。フィールドセールスは既存の商談対応で手一杯なことが多く、新しく渡された案件が後回しになります。「渡したのだからあとは任せた」ではなく、期限と差し戻しをルールにすることで、誰の責任かが曖昧な時間帯をなくします。
②の対立は、感情の問題に見えて実は指標の問題です。片方が量、もう片方が質で評価されていれば、利害は必ずどこかでぶつかります。共通KPIで同じ数字を見ながら、週次で「この商談はなぜ有効/無効だったか」を具体的な案件名で振り返ると、認識のズレは短期間で縮まります。
③のアポの質は、②と表裏一体です。評価指標を有効商談数に変えるだけでは足りず、「有効とは何か」の定義を両者で合意する必要があります。定義がないまま質を議論すると、印象論の応酬になります。
④の情報の非連携は、地味ですが後から効いてきます。入力項目が人によって違うと、パイプラインの数字が実態を表さなくなり、経営層への報告も説得力を失います。「必要な情報が書いていなければ受け取りを拒否できる(引き渡し不成立)」という厳格なルールを設けてでも、全員が同じ粒度で書く状態を優先してください。
ここまでの仕組み・手順・回避策は、いずれも設計で解決できる問題です。しかし、立ち上げの現場で最も大きな壁になるのは、たいてい「人」の側にあります。
インサイドセールスは、アポ取りの下請けではなく商談を創り出す戦略機能です。この位置づけを、現場のメンバーと経営層それぞれの関心に合わせて説明できるかどうかが、立ち上げの成否を分けます。
まず、現場側の誤解から解きます。長く訪問営業をしてきたメンバーほど、「内勤に回される=第一線から外される」と受け取りがちです。しかし実際には、インサイドセールスは対面での視覚情報に頼れない中で、顧客の課題を短時間で引き出し、購買プロセスのどこにいるかを見極める難度の高い仕事です。しかも、その判断が後工程の受注率を左右します。フィールドセールス経験者がインサイドセールスを担うと、「どういう状態で渡せば商談が進むか」を身体で理解しているぶん、精度の高い見極めができます。異動を「格下げ」ではなく「営業プロセス全体を設計する側に回る」と位置づけ直すことが出発点です。
そのうえで、キャリアパスを具体的に示します。インサイドセールスで培う仮説構築力・ヒアリング設計力・データに基づく改善力は、営業マネジメントや営業企画に直結します。「何年後にどのポジションに進みうるか」「評価はどの指標で行うか」を最初に提示できれば、異動への納得感は大きく変わります。逆に、ここが曖昧なまま人選だけ進めると、優秀なメンバーほど不安を感じます。
一方、経営層に対しては関心が異なります。関係者ごとに、説明の軸を変えてください。
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相手 |
最大の関心 |
説明の軸 |
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役員(決裁者) |
いつ・どれだけ売上に貢献するか。投資に見合うか |
効果と時間軸をパイプラインで示す。初期は商談数、その後に受注貢献 |
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現場のフィールドセールス |
自分のキャリアと評価がどうなるか |
戦略機能としての位置づけ、FS経験が活きる点、キャリアパスと評価指標 |
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マーケティング等の協力部門 |
自部門の業務がどう増減するか |
引き渡し基準と入力ルールの統一で、手戻りとムダな追客が減る点 |
役員から出やすい質問には、あらかじめ答えを用意しておきます。
稟議で示すべきは、金額の大小よりも「何がどう変わるか」の因果です。現状のリード数と商談化率、分業後に見込む有効商談数、そこから逆算した受注貢献と時期。この3点を1枚にまとめると、「売上の予見性がどう高まるか」という投資判断の議論が具体的になります。稟議の組み立て自体に迷う場合は、同様の立ち上げを支援してきた第三者に壁打ちしてもらうのも一つの方法です。
ここまでを一人で設計し、現場も動かし、稟議も通すのは、通常業務と並行する立場ではかなりの負荷です。次に、どこまでを自社でやり、どこから外部の力を借りるかを整理します。
すべてを内製するのも、すべてを外注するのも失敗しやすい選択です。戦略・KPI設計・現場マネジメントは自社に残し、立ち上げ設計・研修・実行リソースは外部と組む。この切り分けが現実的です。
全内製が難しいのは、経験のない設計をゼロから作る時間が、通常業務と並行する管理職にはほとんど残らないためです。一方、全外注が危ういのは、活動の実態と判断基準が社外に蓄積される「ブラックボックス化」に陥り、契約が終わった瞬間に何も残らないからです。どちらの極端も、「自社の営業組織を作り替える」という本来の目的から遠ざかります。
判断の目安として、プロセスごとに整理すると次のようになります。
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プロセス |
自社に残すべきか |
外部と組む価値 |
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営業戦略・ターゲット定義 |
必ず自社 |
― |
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役割定義・引き渡し基準・KPI設計 |
意思決定は自社 |
設計の型の提供、他社事例をふまえた壁打ち |
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トークスクリプト・メンバー教育 |
運用は自社 |
立ち上げ期の研修・型づくり |
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架電・メール等の実行 |
中長期では自社 |
立ち上げ期のリソース補完 |
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SFA/CRMの運用設計 |
運用は自社 |
初期設計・定着支援 |
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現場マネジメント・評価 |
必ず自社 |
― |
外部を検討する場合は、丸投げ型か伴走型かを見極めてください。丸投げ型は成果物としての商談は得られますが、進め方の判断基準が自社に残りません。伴走型は自社メンバーと一緒に設計・実行し、最終的に内製へ移行することを前提とします。中長期で自走したいのであれば、後者を選ぶことになります。
ノウハウを社内に残すには、契約時点で次の3点を確認しておくと確実です。第一に、設計した基準やスクリプトなどの成果物の所有権が自社にあること。第二に、活動データが自社のSFA/CRMに蓄積されること。第三に、内製化への移行時期と、その時点で満たすべき条件があらかじめ握られていること。
どこまでを自社で抱え、どこから外部と組むか。この線引き自体に迷う場合は、進める前に一度、外部の視点で方向性を確認しておくと手戻りを減らせます。
なお、立ち上げの具体的な進め方はインサイドセールスの立ち上げと組織設計のポイントを、内製と外部支援のどちらで進めるかはインサイドセールスは内製と代行、どちらがよいかを、それぞれあわせてご覧ください。
インサイドセールスとフィールドセールスの違いは、内勤か外勤かではなく、1本の営業プロセスのどこを担うかという役割分担にあります。そして分業の成否を決めるのは、違いの理解そのものではなく、両者をどう連携させるかの設計です。
本記事の要点を振り返ります。インサイドセールスは非対面で見込み客を育て有効な商談を創り出し、フィールドセールスは提案から受注までを担います。両者を機能させる鍵は、どの状態で引き渡すかを定めた基準(SLA)と、共通KPIを上位に置いたKPI整合の2つです。体制は、役割定義→引き渡し基準の合意→KPI設計→ツール運用ルール→定例での改善という5ステップで作れます。取りこぼしや部門対立といった失敗も、基準・KPI・入力ルールで防げます。そして最大の壁である現場の納得は、「インサイドセールスは商談を創る戦略機能である」という位置づけとキャリアパスの提示から始まります。
次の一歩は、大がかりな準備ではありません。まず1枚の紙に、①インサイドセールスとフィールドセールスの役割の範囲、②引き渡しの基準と初動期限、③共通KPIと個別KPIの3点を書き出してみてください。書けない項目が、そのまま自社の設計課題です。
ただし、どこで線を引き、どの指標で評価するのが最適かは、商材・組織規模・既存メンバーの構成によって変わります。自社に当てはめる部分で判断に迷うのは、経験のある管理職でも自然なことです。第三者の客観的な視点を入れることで、社内のしがらみを気にせずスムーズに分業設計が進むケースも少なくありません。
ビズブーストは、リード獲得からリード育成、商談化、営業の仕組み化までを一気通貫で支援しています。インサイドセールス部門の立ち上げ・運用支援に加え、SalesforceやHubSpotといったSFA/MAの導入・定着支援まで含めて伴走できるのが特徴です。既存メンバーによるスモールスタートの立ち上げにも対応しており、「自社の場合、どこまでをインサイドセールスに任せるべきか」を整理する壁打ちから始められます。
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