Salesforceが稼働して数カ月。ダッシュボードを確認すると、商談情報の更新が2週間止まっている。営業会議では、結局Excelや口頭報告に戻ってしまう。入力を促すと一時的には改善するものの、翌週には元に戻る。
このような状態に心当たりはないでしょうか。
Salesforceの定着化とは、営業担当者が情報を入力しているだけでなく、蓄積されたデータが営業会議や案件管理、意思決定に継続的に使われている状態をつくることです。つまり、入力されているかどうかと、そのデータが使われているかどうかは別の問題です。この2つを分けて考えます。
Salesforceをはじめとする業務システムを導入しても、期待した効果を得られない企業は少なくありません。総務省の「令和7年版 情報通信白書」によると、業務プロセスの改善・改革を目的にデジタル化に取り組んだ日本企業のうち、「期待する効果を得られていない」と回答した企業は31.4%でした。一方、「期待以上」の効果を得られた企業は5.9%にとどまっています。同じ項目について、米国企業では「期待する効果を得られていない」が11.9%、「期待以上」が31.1%でした。この調査は、従業員10名以上で、2024年までにデジタル化に着手した企業の管理職以上を対象として、2025年1月から2月に実施されたものです。有効回答数は、日本が515件、米国が309件でした。
この結果からも、システムを導入しただけでは、必ずしも業務改善や成果につながらないことが分かります。重要なのは、導入後にどのような運用を行い、現場での活用を定着させるかです。
しかし、Salesforceが定着していないと感じていても、実際にどの程度問題があるのか、何が原因なのかを判断できないケースは少なくありません。「入力されない」「データが更新されない」「会議で使われない」といった原因や対策を並べるだけでは、自社がどこで止まっているのかを判断できないからです。
まず必要なのは、Salesforceの定着度を測る物差しを持つことです。現在地を数字で確認し、原因が「組織」「設計」「運用」のどこにあるのかを切り分けることで、初めて優先すべき対策が見えてきます。Salesforceの定着度を確認するための4つの指標を紹介します。
- 入力率
- 更新鮮度
- 営業会議での参照率
- ダッシュボード閲覧率
さらに、Salesforceが定着しない原因を「組織」「設計」「運用」の3つに分け、稼働後90日・半年・1年で確認したい状態や、営業会議・1on1で実践できる立て直しの手順を解説します。この記事を読み終えたときに、自社のSalesforceがどの段階で止まっているのかと、今週取り組むべき施策を1つ決められる状態を目指します。
Salesforceの定着化とは
Salesforceの定着化とは、営業担当者が情報を入力しているだけでなく、蓄積されたデータが営業会議や案件管理、意思決定に継続的に使われている状態をつくることです。商談がSalesforceに登録されていても、内容が更新されていなかったり、営業会議ではExcelや口頭報告が使われていたりするのであれば、十分に定着しているとはいえません。
Salesforceを定着させるために重要なのは、入力を目的にしないことです。営業活動の情報を蓄積し、その情報をもとに案件の状況を確認したり、優先順位を決めたり、次の行動を判断したりするところまで運用に組み込む必要があります。Salesforceの定着を「入力されている状態」と「活用されている状態」の2つに分けて考えます。
Salesforceへ「入力されている状態」と「活用されている状態」の違い
Salesforceに情報が入力されている状態と、その情報が活用されている状態は異なります。
入力されている状態とは、発生した商談がSalesforceに登録され、案件の進捗に応じて内容が更新されている状態です。「入力率」と「更新鮮度」の2つの指標で確認します。
一方、活用されている状態とは、入力された情報が営業会議や1on1などで参照され、案件の確認や意思決定に使われている状態です。「営業会議での参照率」と「ダッシュボード閲覧率」の2つの指標で確認します。

| 状態 | 確認する内容 | 本記事で使用する指標 |
|---|---|---|
| 入力されている状態 | 商談が登録され、継続的に更新されているか | 入力率・更新鮮度 |
| 活用されている状態 | データが見られ、営業活動の判断に使われているか | 営業会議での参照率・ダッシュボード閲覧率 |
Salesforceへの入力率だけ高めようとすると、「情報は入力されているものの、誰も見ていない」という状態になりかねません。誰にも見られず、業務に役立っていないデータは、やがて入力されなくなる可能性があります。そのため、Salesforceの定着化では、入力を促すだけでなく、入力された情報を営業会議や案件管理で使う運用をつくることが重要です。データが実際に使われることで、営業担当者にとっても入力する意味が生まれます。
本記事で目指すSalesforceの定着状態
本記事で目指すのは、すべての機能を使いこなした状態ではありません。営業担当者が必要な商談情報を登録・更新し、マネージャーがその情報を営業会議や1on1で確認する。そして、蓄積されたデータをもとに、案件の優先順位や次の行動を判断できる状態です。
具体的には、次の状態を目指します。
- 発生した商談がSalesforceに登録されている
- 進行中の商談情報が一定の間隔で更新されている
- 営業会議や1on1でSalesforceの画面が使われている
- マネージャーや営業担当者が、自らレポートやダッシュボードを確認している
- データをもとに、案件の優先順位や次の行動が決められている
ただし、最初からすべてを実現する必要はありません。
まずは現在の定着度を測り、入力と活用のどちらで止まっているのかを確認します。そのうえで、原因を「組織」「設計」「運用」の3つに切り分け、優先する施策を1つ選びます。Salesforceの定着化は、現場の意識だけを変えようとする取り組みではありません。現在地を数字で確認し、原因に合った施策を実行し、一定期間後に測り直す運用をつくることが重要です。
Salesforceが定着しない3つの原因
Salesforceが定着しない主な原因は、「組織」「設計」「運用」の3つに分けて整理できます。
| 原因 | 主な問題 | 現れやすい状態 |
|---|---|---|
| 組織 | 導入目的や利用メリットが共有されていない | データが会議や意思決定で使われない |
| 設計 | 入力項目や商談フェーズが業務に合っていない | 商談が登録されない、入力内容が不正確になる |
| 運用 | 入力・確認するタイミングが決まっていない | 登録後に情報が更新されない |
Salesforceに入力されないからといって、営業担当者の意識だけに原因があるとは限りません。入力する項目が実際の営業活動に合っていなかったり、入力した情報が誰にも使われていなかったりすれば、入力を促しても一時的な改善にとどまります。
定着化を進めるには、まず、自社が3つのうちどの原因で止まっているのかを見極めます。ここを外すと、どの対策も空振りします。
Salesforceが定着しない問題を、営業担当者個人の意識だけで捉えないことが重要です。総務省の「令和7年版 情報通信白書」では、日本企業がデジタル化を進める際の課題として、「人材不足(48.7%)」が最も多く挙げられています。そのほか、「アナログな文化・価値観が定着している(27.8%)」「DXの役割分担や範囲が不明確(27.4%)」「明確な目的・目標が定まっていない(27.4%)」といった回答も見られます。
これはSalesforceの定着状況を直接調査した結果ではありませんが、人材や文化だけでなく、役割分担や目的が明確になっていないことも、デジタル化を進める際の課題となっていることが分かります。Salesforceの定着についても、現場に督促する前に、「組織」「設計」「運用」のそれぞれから原因を確認します。
組織:導入目的や利用メリットが共有されていない
組織の問題は、Salesforceを何のために導入したのか、入力した情報がどのように使われるのかが、営業現場に十分伝わっていない状態です。
たとえば、導入時に「営業活動をデジタル化するため」「案件を一元管理するため」と説明しても、それだけでは営業担当者にとってのメリットが分かりません。現場から見ると、これまでExcelや日報に入力していた内容を、Salesforceへ入力するようになっただけに見える場合があります。入力作業が増えた一方で、自分の営業活動がどのように楽になるのかが分からなければ、利用が進まないのは不自然なことではありません。
組織の問題には、主に次のような状態があります。
- Salesforceの導入目的が、経営や管理側の都合だけで説明されている
- 営業担当者にとっての利用メリットが示されていない
- マネージャーが営業会議や1on1でSalesforceを見ていない
- 入力した情報が、案件支援や意思決定に使われていない
- 入力しても営業担当者本人に情報が返ってこない
特に重要なのは、マネージャー自身がSalesforceを使っているかどうかです。
営業会議でSalesforceを開かず、別のExcelや口頭報告で進行している状態では、営業担当者に入力を求める理由が弱くなります。入力しても見られないのであれば、現場は次第に「入力する意味がない」と判断するようになります。
組織の原因がある場合は、入力を督促する前に、Salesforceのデータを実際に使う場をつくる必要があります。たとえば、営業会議の冒頭で更新が止まっている案件を確認したり、1on1で担当案件を一緒に見たりする方法です。
Salesforceを定着させるには、「入力してください」と伝えるだけでは足りません。入力された情報が本人や組織の役に立っていることを、運用で示す必要があります。
組織の支援方法とツールの利用状況との関係について、参考になる調査があります。HubSpot Japanの「日本の営業に関する意識・実態調査2026(第7回)」では、生成AIを週1回以上利用する割合は、組織による支援がない場合で35.6%、利用を許可しただけの場合で47.2%、研修や勉強会を実施した場合で56.9%でした。一方、生成AIを業務プロセスに組み込んでいる場合は74.8%となっています。

(出典:HubSpot Japan「日本の営業に関する意識・実態調査2026」)
ツールを「使ってよい」と伝えるだけでなく、日常業務のどこで使うのかを決め、業務プロセスに組み込むことの重要性を考えるうえで参考になります。Salesforceについても、導入の周知だけでは足りません。営業会議や1on1、商談後の更新など、具体的な利用場面まで決めることが定着化につながります。
設計:入力項目や商談フェーズが業務に合っていない
設計の問題は、Salesforceの入力項目や商談フェーズ、画面の構成が、自社の営業プロセスに合っていない状態です。
たとえば、自社の商談が「ヒアリング→提案→見積もり→社内稟議→受注」という流れで進むにもかかわらず、Salesforce上の商談フェーズが実際の営業プロセスと異なっていると、営業担当者は案件をどこに登録すればよいのか判断できません。
入力項目についても同様です。項目名の意味が分からない、選択肢に当てはまるものがない、現時点では判断できない項目が必須になっているといった状態では、入力が止まったり、実態と異なる情報が登録されたりします。
設計の問題には、主に次のような状態があります。
- 商談フェーズが実際の営業プロセスと合っていない
- どの項目に何を入力すればよいか分かりにくい
- 営業活動に必要のない入力項目が多い
- 商談の初期段階では判断できない項目が必須になっている
- 同じ情報を複数の画面やシステムへ入力している
- 営業担当者が使う画面に必要な情報がまとまっていない
入力されない原因を営業担当者の姿勢だけに求めると、督促や研修が中心になります。しかし、入力方法が分からないのではなく、そもそも入力先や選択肢が業務に合っていないのであれば、説明を繰り返しても根本的な改善にはつながりません。
設計の問題が疑われる場合は、まず、営業担当者がどこで判断に迷っているのかを確認します。入力されていない項目を一律に削るのは順序が逆です。そのうえで、商談フェーズを自社の営業プロセスに合わせる、不要な項目を整理する、入力するタイミングに応じて必要な項目を見直すといった対応を検討します。ただし、設定変更は既存データやレポート、他の業務プロセスに影響する可能性があります。変更する際は、営業部門だけで判断しないでください。Salesforce管理者や関係部門と影響範囲を確認してから進めます。
運用:入力・確認するタイミングが決まっていない
運用の問題は、Salesforceへいつ入力し、誰がいつ確認するのかが、日常業務の中で決まっていない状態です。入力ルールとして「商談情報をSalesforceへ登録する」と定めていても、具体的なタイミングが決まっていなければ、忙しいときほど後回しになります。
たとえば、「顧客訪問後に入力する」というルールでも、訪問直後に入力するのか、帰社後に入力するのか、その日の終業前に入力するのかが曖昧であれば、実際の行動にはつながりにくくなります。
運用の問題には、主に次のような状態があります。
- 商談を登録するタイミングが決まっていない
- 訪問や商談後、いつまでに更新するか決まっていない
- 営業会議で確認する項目やレポートが決まっていない
- 誰がデータの未入力や更新漏れを確認するのか不明確
- Salesforceとは別にExcelや口頭報告が残っている
- 入力されていない情報があっても、業務上はそのまま進められる
特に起こりやすいのが、商談の新規登録は行われていても、その後の更新が止まるケースです。最初の登録だけがルール化され、商談の進行に合わせてフェーズや次回アクションを更新するタイミングが決まっていないためです。その結果、受注済みの案件が「提案中」のまま残るなど、Salesforce上の情報と実態が合わなくなります。
運用の問題は、3つの原因の中でも比較的着手しやすい領域です。大規模な設定変更をしなくても、次のようなルールを決めることで改善を始められます。
- 商談終了後、当日中に次回アクションを更新する
- 毎週の営業会議前に、進行中の商談を確認する
- 営業会議の冒頭5分で、更新が止まっている案件を見る
- 1on1でSalesforceの案件画面を一緒に確認する
- Excelによる別管理を減らし、Salesforceのデータを会議の基準にする
すでにある営業活動や会議の中にSalesforceの利用を組み込みます。新しい作業として足すと続きません。「時間があるときに入力する」という運用では、忙しい時期ほど入力が止まります。顧客との面談、営業会議、1on1など、既存の業務と入力・確認のタイミングを結びつけることで、Salesforceを継続的に使いやすくなります。
3つの原因は、複数が同時に発生している場合もあります。次章では、現在地を感覚ではなく数字で把握するために、Salesforceの定着度を測る4つの指標を解説します。
Salesforceの定着度を測る4つの指標
Salesforceの定着度は、「入力されているか」と「入力されたデータが活用されているか」の2つに分けて確認します。本記事では、Salesforceの現在地を把握するために、次の4つの指標を使用します。
そもそも、システム導入後の成果を測る指標を設定できていない企業は少なくありません。IPAの「DX動向2026」によると、DXの成果指標を「設定している」と回答した企業は23.9%でした。また、成果指標を設定していない企業にその理由を尋ねたところ、「評価指標の設定方法がわからない」が36.0%で最も多くなっています。

この調査はSalesforceの定着度を直接測ったものではありませんが、デジタル化の成果をどのような指標で評価すればよいのか、判断できていない企業が多いことを示す参考になります。そこで、Salesforceの現在地を把握しやすいように、入力と活用を4つの指標に分けて確認します。
| 指標 | 確認すること | 分母 | 分子 |
|---|---|---|---|
| 入力率 | 発生した商談が登録されているか | 期間内に実際に発生した商談数 | Salesforceに登録された商談数 |
| 更新鮮度 | 登録後も情報が更新されているか | 進行中の商談数 | 一定期間内に更新された商談数 |
| 営業会議での参照率 | データが営業会議で使われているか | 期間内に実施した営業会議の回数 | Salesforceを開いて進行した会議の回数 |
| ダッシュボード閲覧率 | メンバーが自らデータを確認しているか | 対象メンバー数 | 週1回以上ダッシュボードを確認したメンバー数 |
入力率と更新鮮度は「入力の状態」を、営業会議での参照率とダッシュボード閲覧率は「活用の状態」を測る指標です。4つを並べて確認することで、「商談は登録されているが更新されていない」「データは蓄積されているが会議で使われていない」といった、自社が止まっている段階を把握しやすくなります。
入力率:発生した商談がSalesforceに登録されているか
入力率は、実際に発生した商談のうち、Salesforceに登録されている商談の割合です。
計算方法は次のとおりです。
入力率=Salesforceに登録された商談数÷期間内に実際に発生した商談数×100
ここで重要なのは、分母をSalesforceの外から確認することです。Salesforceに登録されている商談だけを分母にすると、入力率は常に100%になってしまいます。登録されていない商談は、Salesforceの中を確認しても見つけられないためです。
分母となる「実際に発生した商談数」は、次の情報と突き合わせて確認します。
- 見積書の発行記録
- 受注・請求実績
- 営業日報
- Excelなどの案件管理表
- 営業担当者への確認
たとえば、1カ月間に実際は20件の商談が発生していたものの、Salesforceに登録されていたのが15件であれば、入力率は75%です。この場合、Salesforceに登録された後の運用以前に、商談を登録する段階で漏れが発生していると考えられます。入力項目が分かりにくい、登録するタイミングが決まっていないなど、設計や運用に原因がないかを確認します。
最初から毎月すべての商談を調査する必要はありません。まずは1カ月分を対象に、実際に発生した商談とSalesforce上の商談を突き合わせるところから始めます。
更新鮮度:登録された商談情報が継続的に更新されているか
更新鮮度は、進行中の商談のうち、一定期間内に情報が更新された商談の割合です。
計算方法は次のとおりです。
更新鮮度=一定期間内に更新された商談数÷進行中の商談数×100
商談フェーズ、次回アクション、受注予定日など、自社で定めた対象項目のいずれかが更新された商談を「更新された商談」とします。対象項目は、毎回同じ条件で測定します。
商談がSalesforceに登録されていても、その後の情報が更新されていなければ、実際の案件状況を把握できません。たとえば、受注済みの案件が「提案中」のまま残っていたり、次回アクションが数週間前から変わっていなかったりする状態です。このような商談が増えると、Salesforce上の数字と実態が合わなくなり、営業会議でもデータが信用されなくなります。
確認する期間の例として「直近7日以内」を使用します。ただし、適切な期間は、自社の営業サイクルによって異なります。商談期間が短い企業では7日、長期間かけて商談を進める企業では14日や30日など、自社の営業活動に合わせて設定します。重要なのは、毎回同じ条件で測り、前月との変化を確認することです。
入力率が高くても更新鮮度が低い場合は、商談の新規登録は行われているものの、その後の更新が習慣になっていない可能性があります。この場合は、訪問後や営業会議前など、商談情報を更新するタイミングが日常業務の中に組み込まれているかを確認します。
営業会議での参照率:Salesforceのデータが営業会議で使われているか
営業会議での参照率は、実施した営業会議のうち、Salesforceの画面やデータを使って進行した会議の割合です。カウントは、議事録にSalesforceの画面を開いたかどうかを記録して行います。
計算方法は次のとおりです。
営業会議での参照率=Salesforceを開いて進行した会議の回数÷期間内に実施した営業会議の回数×100
この指標で確認するのは、営業担当者ではなく、主にマネージャー側の行動です。営業担当者にSalesforceへの入力を求めていても、営業会議では別のExcelや口頭報告を使っているのであれば、入力された情報が業務に活用されているとはいえません。たとえば、月4回の営業会議のうち、Salesforceを使って進行した会議が1回であれば、参照率は25%です。
会議全体を最初からSalesforceに切り替える必要はありません。まずは、会議の冒頭5分だけでも、更新が止まっている商談や重要案件をSalesforce上で確認します。実際に画面を開くと、商談フェーズの誤りや更新漏れが見つかることがあります。誤りが見つかることは、必ずしも悪いことではありません。データが実際に見られ、修正される機会ができたと捉えられます。正しいデータがそろってから会議で使うのではありません。会議で使いながら、データの精度を高めていきます。
ダッシュボード閲覧率:メンバーが自らデータを確認しているか
ダッシュボード閲覧率は、対象メンバーのうち、週1回以上ダッシュボードを確認したメンバーの割合です。
ダッシュボード閲覧率は、4つの指標のなかで最も測りにくい指標です。誰がいつダッシュボードを開いたかという個人単位の閲覧ログは、Salesforceの標準機能では取得できません。レポートやダッシュボードの閲覧を個人単位で記録するには、Event Monitoring(Salesforce Shieldに含まれる有償オプション)が必要です。
| 測り方 | 必要な環境 | 分かること | 限界 |
|---|---|---|---|
| イベントログの確認 | Event Monitoring(有償オプション) | 誰がいつどのダッシュボードを開いたか | 追加費用が必要 |
| ログイン履歴の確認 | 追加費用なし | 週1回以上ログインしたメンバー数 | ログインしただけで、数字を見たとは限らない |
| 営業会議・1on1での確認 | 追加費用なし | 本人が自分の数字を確認しているか | 自己申告のため精度は落ちる |
| 購読設定の棚卸し | 追加費用なし | 定期的に数字が届く状態になっているメンバー数 | 届いたメールを開いたかは分からない |
このなかで、まず勧めたいのは営業会議や1on1での確認です。この指標の目的は、閲覧回数を正確に数えることではなく、営業担当者が自分の数字を見る習慣があるかを把握することにあります。そのため、営業会議の冒頭で「今週、自分の商談一覧を確認したか」を各メンバーに確認し、記録するだけでも指標として使えます。
自己申告の精度を上げたい場合は、見ていなければ答えられない質問に変えます。たとえば「自分の担当案件のうち、2週間以上更新が止まっているものは何件あるか」を各自に答えてもらう方法です。答えられたメンバーを分子として数えれば、申告と実態のずれは小さくなります。
計算方法は次のとおりです。
ダッシュボード閲覧率=週1回以上ダッシュボードを確認したメンバー数÷対象メンバー数×100
営業会議で確認したときに、15名のうち3名だった場合は20%です。
測り方は月ごとに変えないでください。測り方が月ごとに変われば、数値が動いた理由が施策なのか測定方法なのか判断できなくなります。
閲覧率が低い場合、ダッシュボードが営業担当者の日常業務に役立っていない可能性があります。上司が組織全体を管理するための数字だけが並んでおり、本人が自分の案件を確認する画面になっていないケースもあります。営業担当者自身がダッシュボードを見る習慣をつくるには、自分の担当案件のうち更新が止まっているものや、今週対応すべきものが一覧で分かる状態が有効です。具体的な画面の作り方は本記事内の「入力した本人にデータを返す」で解説します。
入力した情報が自分の案件管理や次の行動に役立つようになれば、Salesforceへ入力する意味も生まれます。反対に、誰にも見られていないデータは、次第に入力されなくなる可能性があります。ダッシュボード閲覧率は、データを見る習慣ができているかだけでなく、入力を継続する土台があるかを確認する指標でもあります。
4つの指標は他社比較ではなく、自社の変化を確認する
4つの指標に、すべての企業へ共通する基準値があるわけではありません。
営業サイクルや商談数、組織規模、Salesforceの利用目的によって、適切な数値は異なります。そのため、他社の平均値と比較するよりも、まず自社の数値を測り、前月から改善しているかを確認します。
| 指標 | 今月 | 前月 | 前月比 |
|---|---|---|---|
| 入力率 | % | % | - |
| 更新鮮度 | % | % | - |
| 営業会議での参照率 | % | % | - |
| ダッシュボード閲覧率 | % | % | - |
初回は、現在の数値を出すだけで構いません。数値の良し悪しをすぐに判断する必要もありません。翌月に同じ条件で測り直すことで、「入力率は改善したが活用の指標は変わっていない」など、どの段階が動き、どこが止まっているのかを判断できるようになります。
Salesforce定着化を進める4ステップ
Salesforceの定着化は、一度に多くの施策を実施するよりも、現在地を測り、原因を絞り込み、施策を1つ試してから結果を確認するほうが進めやすくなります。本記事では、次の4ステップで進めます。
- 4指標を測る
- 原因の層を特定する
- 施策を1つ選ぶ
- 30日後に測り直す

この流れを1周させることが、Salesforce定着化の立て直しです。最初から正解を当てる必要はありません。施策を実行したあとに同じ指標を測ることで、原因の見立てや施策が適切だったかを判断できます。
Salesforce定着化 ステップ1:4指標を測る
最初に、「入力率」「更新鮮度」「営業会議での参照率」「ダッシュボード閲覧率」の4指標を測ります。初回は、数値の良し悪しを判断する必要はありません。まずは現在の状態を数字で把握することが目的です。たとえば、次のように整理します。
※以下の数値は、測定方法を説明するための架空例です。
| 指標 | 今月の数値 |
|---|---|
| 入力率 | 75% |
| 更新鮮度 | 30% |
| 営業会議での参照率 | 25% |
| ダッシュボード閲覧率 | 20% |
数値を並べると、「商談はある程度登録されているが、更新と活用が進んでいない」といった状態が見えてきます。一方、「Salesforceが使われていない」「現場が入力してくれない」といった感覚だけでは、どこから手をつけるべきかを判断できません。定着度を測ることで、問題を具体的に捉えられるようになります。
初回に必要なのは、正確な数値よりも、翌月も同じ条件で測れる方法です。
Salesforce定着化 ステップ2:原因の層を特定する
次に、4指標のうち、どの数値が低いかを確認し、原因が「組織」「設計」「運用」のどこにあるのかを絞り込みます。目安は次のとおりです。
| 4指標の状態 | 想定される原因 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 入力率が低い | 設計または運用 | 項目や商談フェーズが業務に合っているか、登録するタイミングが決まっているか |
| 入力率は高いが、更新鮮度が低い | 運用 | 商談を更新するタイミングが日常業務に組み込まれているか |
| 入力率・更新鮮度は高いが、営業会議での参照率・閲覧率が低い | 組織または運用 | マネージャーが会議や1on1でデータを使っているか |
| すべての指標が低い | 複数の層 | 最も着手しやすい運用から改善できないか |
この対応だけで、原因を断定できるわけではありません。たとえば入力率が低い場合でも、入力項目が多すぎる設計上の問題と、いつ登録するか決まっていない運用上の問題の両方が考えられます。そのため、指標は原因を絞り込むための手がかりとして使います。
複数の原因が考えられる場合は、追加費用や大規模な設定変更が不要な「運用」から確認する方法が現実的です。入力や確認のタイミングを変えても数値が動かなければ、設計や組織の問題を検討します。
Salesforce定着化 ステップ3:施策を1つ選ぶ
原因の層を絞り込んだら、その原因に対応する施策を1つだけ選びます。複数の問題が見つかると、入力項目の整理、商談フェーズの変更、会議の見直し、研修の実施などを同時に進めたくなるかもしれません。しかし、複数の施策を同時に実施すると、数値が改善したときに、どの施策が効果を発揮したのか判断できません。まずは、効果が期待でき、自社で着手しやすい施策を選びます。
| 原因の層 | 施策の例 |
|---|---|
| 組織 | 営業会議や1on1でSalesforceを確認し、入力された情報が使われていることを示す |
| 設計 | 入力されていない項目を確認し、項目や商談フェーズが業務に合っているかを見直す |
| 運用 | 商談を登録・更新するタイミングを決め、営業会議の進行にSalesforceを組み込む |
たとえば、更新鮮度と営業会議での参照率が低い場合は、「営業会議の冒頭5分をSalesforceの画面で進行する」という施策が考えられます。会議の冒頭で、一定期間更新されていない商談だけを確認すれば、営業会議での参照率が上がるだけでなく、商談情報を更新するきっかけにもなります。施策の数は増やしません。「今月は何を実施し、どの指標を動かすのか」を明確にします。
Salesforce定着化 ステップ4:30日後に測り直す
施策を実行したら、30日後に同じ4指標を測り直します。30日という期間は絶対的な基準ではありません。施策の変化を確認するための目安です。自社の営業会議の頻度や商談サイクルに応じて調整しても構いません。重要なのは、施策を実行したままにせず、あらかじめ測り直す日を決めておくことです。たとえば、次のように前月と比較します。
※以下の数値は、測定方法を説明するための架空例です。
| 指標 | 施策実施前 | 30日後 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 入力率 | 75% | 78% | +3ポイント |
| 更新鮮度 | 30% | 55% | +25ポイント |
| 営業会議での参照率 | 25% | 100% | +75ポイント |
| ダッシュボード閲覧率 | 20% | 27% | +7ポイント |
営業会議でSalesforceを使う施策を実施し、更新鮮度と営業会議での参照率が上がったのであれば、施策が一定の効果を発揮したと判断できます。反対に、対象とした指標がほとんど変わらなかった場合は、次のいずれかを確認します。
- 施策が十分に実行されていなかった
- 施策が原因に合っていなかった
- 原因の層の特定が違っていた
- 測定条件が適切でなかった
施策を実施しても数値が動かないからといって、すぐにSalesforceの導入自体を失敗と判断する必要はありません。原因の見立てを修正し、次の施策を1つ選び直します。このように、「測る→原因を特定する→施策を選ぶ→測り直す」という流れを繰り返すことで、感覚や督促に頼らず、Salesforceの定着化を進められるようになります。
Salesforceを現場に定着させる具体策
Salesforceを現場に定着させるには、入力を促すだけでなく、日常業務の中に「入力する場面」と「入力されたデータを使う場面」をつくる必要があります。最初から画面や項目を大きく作り直す必要はありません。まずは、営業会議や1on1など、すでに行っている業務にSalesforceを組み込むところから始めます。
本記事では、次の5つの具体策を取り上げます。
- 営業会議の冒頭5分でSalesforceを開く
- 1on1で更新が止まった案件を見る
- 入力タイミングを業務動線に組み込む
- 入力した本人にデータを返す
- 必要に応じて画面・項目・フェーズを見直す
複数の施策を同時に始めると、どの施策が効果をもたらしたのか判断しにくくなります。現在の課題に合う施策を1つ選び、一定期間実施してから、定着度を測り直すことが重要です。
営業会議の冒頭5分でSalesforceを開く
最初に取り組みたいのは、営業会議の冒頭5分をSalesforceの画面で進行することです。会議全体を一度に変える必要はありません。最初は、最終更新日が一定期間動いていない商談だけを一覧で確認します。たとえば、2週間以上更新されていない商談を表示し、現在の状況を確認します。
数字や商談フェーズが実態と異なっていても、その時点では問題ありません。営業会議でSalesforceを開く目的は、入力ミスを指摘することではなく、実態とデータのずれを見つけて修正することです。たとえば、受注済みの案件が「提案中」のまま残っていた場合は、その場で正しい状態を確認します。会議で実際にデータが使われるようになることで、営業担当者にも「入力した情報が見られている」と伝わります。データが正しくなってから会議で使うのではなく、会議で使うことでデータを正しくしていくという順序で進めます。
営業会議でSalesforceを継続的に開くことは、「更新鮮度」と「営業会議での参照率」の改善につながります。
1on1で更新が止まった案件を見る
営業担当者との1on1でも、更新が止まっている商談を一緒に確認します。ここでの目的は、案件が止まっている原因を見つけることです。避けたいのは、次のような聞き方です。
「なぜSalesforceを更新していないのですか。」
この聞き方では、入力していないこと自体が問題になります。営業担当者にとっては、Salesforceが行動を監視するためのツールだと感じられる可能性があります。代わりに、案件の状況を確認する聞き方にします。
「この商談は3週間更新されていませんが、何か止まっている理由はありますか。」
「次に進めるために、支援が必要なことはありますか。」
このように聞けば、Salesforceは入力状況を確認するためのツールではなく、停滞している案件を発見し、支援するためのツールになります。更新が止まっていることは、営業担当者の問題ではなく案件の課題として一緒に確認します。
入力タイミングを業務動線に組み込む
Salesforceへの入力が定着しない原因の一つに、「いつ入力するかが決まっていない」ことがあります。「時間があるときに入力する」「帰社してからまとめて入力する」といったルールでは、忙しい時期ほど後回しになりやすくなります。入力を担当者の意識や余裕に任せると続きません。日常業務の流れの中に組み込みます。
次のように入力するタイミングを具体的に決めます。
- 商談が発生したら、その日のうちに登録する
- 顧客との打ち合わせが終わったら、次回アクションを更新する
- 見積書を提出したら、商談フェーズと予定金額を更新する
- 週次の営業会議までに、進行中の商談を更新する
- 受注・失注が決まったら、その時点で商談を完了させる
入力作業を単独の予定にしないでください。「打ち合わせ後」「見積書提出後」「営業会議前」など、すでに存在する業務と結びつけます。既存の業務が終わるタイミングを入力のきっかけにすれば、新しい作業時間を確保しなくても運用が続きます。
入力した本人にデータを返す
営業担当者に入力を求めるだけでは、Salesforceは定着しにくくなります。入力したデータが、本人の業務に役立つ形で返ってくる仕組みが必要です。営業担当者が自分で確認できるように、次の情報を整理します。
- 自分が担当している進行中の商談
- 一定期間更新されていない商談
- 今週対応すべき案件
- 次回アクションが未設定の商談
- 受注予定日が近い商談
- 失注の可能性が高まっている商談
用意したいのは、上司や経営層が確認するためのダッシュボードではありません。営業担当者自身が日々の案件管理に使える画面です。たとえば、朝にSalesforceを開けば「今日対応すべき案件」が分かる状態であれば、入力したデータが自分の仕事に返ってきます。営業会議や1on1では、入力された内容に具体的に触れることも効果的です。
「A社の商談を更新してくれていたので、現在の状況が分かりました。」
このように、入力された情報を実際に見ていることを伝えます。「入力してください」と繰り返すよりも、入力した情報が使われている事実を示すことが、継続的な入力につながります。
必要に応じて画面・項目・フェーズを見直す
営業会議や入力タイミングを見直しても入力率が改善しない場合は、Salesforceの画面や項目、商談フェーズが実際の業務に合っているか確認します。たとえば、自社の商談が次の流れで進んでいるとします。
初回相談 → 要件確認 → 提案 → 見積もり提出 → 顧客社内稟議 → 受注
それに対して、Salesforce上の商談フェーズが自社の営業プロセスと合っていなければ、営業担当者は案件をどの段階に置けばよいのか判断できません。入力項目についても同様です。入力する目的が分からない項目や、営業担当者が把握できない項目、同じ内容を重複して入力する項目が多いと、入力負担が増えます。見直しの観点は6つあります。
- 商談フェーズが自社の営業プロセスと一致しているか
- 各フェーズへ移行する条件が明確になっているか
- 入力必須項目が多すぎないか
- 項目名や選択肢の意味が営業担当者に伝わるか
- 同じ情報をExcelや他システムにも入力していないか
- 入力した情報がレポートや会議で使われているか
ただし、項目やフェーズを頻繁に変更すると、既存データやレポートにも影響が生じます。画面や項目を変更する前に、原因が本当に設計にあるのかを確認することが重要です。まず営業会議や1on1、入力タイミングなどの運用を見直し、それでも改善しない場合に、画面・項目・商談フェーズの変更を検討します。
稼働後90日・半年・1年で確認したい定着化の目安
Salesforceの定着化は、稼働直後からすべての機能が活用されている状態を目指すものではありません。入力を習慣化し、営業会議でデータを使い、最終的に営業担当者が自ら数字を確認するというように、段階を踏んで進めます。稼働からの期間と、その時点で確認したい状態を整理すると、次のようになります。
| 稼働からの期間 | 確認したい状態 | 主に確認する指標 |
|---|---|---|
| 稼働後90日まで | 商談が登録・更新され、営業会議の一部でデータの確認が始まっている | 入力率・更新鮮度 |
| 稼働後4〜6カ月 | 営業会議でSalesforceが継続的に使われ、データのずれが修正されている | 営業会議での参照率 |
| 稼働後1年 | 営業担当者が自らデータを確認し、案件の優先順位や行動を変えている | ダッシュボード閲覧率 |
ただし、これはすべての企業に共通する絶対的な基準ではありません。営業サイクルや組織規模、商談件数、導入範囲によって、定着までに必要な期間は変わります。定着化の進み具合を確認するための目安として使用します。
稼働後90日まで:商談の登録と更新が習慣になっているか
稼働後90日までに確認したいのは、「入力率」と「更新鮮度」です。この段階では、発生した商談がSalesforceに登録され、案件の進捗に応じて継続的に更新されていれば、定着化の土台ができ始めていると考えられます。この段階で確認したいのは、次の2点です。
- 発生した商談がSalesforceに登録されているか
- 進行中の商談が一定の間隔で更新されているか
この時期から、ダッシュボードを使った高度な分析や、データをもとにした意思決定まで求める必要はありません。入力する習慣ができる前に活用を急ぐと、会議で確認するためのデータが揃わず、入力と活用のどちらも中途半端になる可能性があります。まずは、商談を登録し、更新する運用を安定させることが優先です。ただし、稼働後90日を過ぎても入力率が上がらない場合は、営業担当者の意識だけを原因にせず、疑うべきは、次の4つです。
- 入力するタイミングが決まっているか
- 必須項目が多すぎないか
- 商談フェーズが実際の営業プロセスと合っているか
- 入力した情報が会議や案件管理で使われているか
入力を促すだけで改善しない場合は、運用や設計に原因がある可能性があります。
稼働後4〜6カ月:営業会議でデータが使われているか
稼働後4〜6カ月では、入力されたデータが営業会議で使われ始めているかを確認します。この段階で重要なのは、Salesforceのデータが完全に正確になっていることではありません。営業会議で画面を開き、実態と異なる情報を見つけて、その場で修正できていることです。この段階で確認したいのは、次のような状態です。
- 更新が止まっている案件を確認している
- 商談フェーズや金額の誤りが会議で見つかっている
- 実態と異なる情報を会議後に修正している
- 口頭報告やExcelではなく、Salesforceをもとに話している
データが正しくなってから会議で使うのではなく、会議で使うことでデータの精度を高めていくことがポイントです。入力はされていても、営業会議が従来どおりExcelや口頭報告で進んでいる場合、Salesforceは記録するだけの場所になっている可能性があります。この段階で見るべきなのは、営業担当者の入力状況だけではありません。マネージャー自身がSalesforceを開き、データを使っているかも確認する必要があります。
稼働後1年:数字をもとに行動や意思決定が変わっているか
稼働後1年では、営業担当者やマネージャーが自らSalesforceのデータを確認し、営業活動の判断に使っているかを確認します。目指したいのは、マネージャーから指示されなくても、営業担当者が自分の案件を確認する状態です。この段階で確認したいのは、次の行動です。
- 営業担当者が自分の商談一覧を定期的に確認している
- 更新が止まっている案件を自ら見つけている
- 受注予定日や次回アクションを確認している
- 数字をもとに、優先して対応する案件を決めている
- マネージャーが案件の偏りや停滞を把握している
- 営業会議で、感覚ではなくデータを根拠に判断している
ここまで進むと、Salesforceは入力を求められるシステムではなく、営業担当者自身が案件を管理するためのツールになります。ただし、「1年経過したから定着した」と判断するものではありません。判断の材料は稼働期間ではありません。データが営業活動の判断に使われているかどうかです。
目安より遅れている場合は、止まっている段階まで戻る
前節までの目安に対して遅れている場合、1年目に求められる活用を急いでも定着しません。まず、入力と活用のどの段階で止まっているかを確認し、その段階に戻って見直します。
たとえば稼働から1年が経過していても、営業会議でSalesforceが使われていない組織は、定着化の段階としては稼働後90日から半年程度で止まっていると考えられます。この場合に着手するのは、1年目に求められる活用ではなく、営業会議の進行です。止まっている段階ごとの見直し先は、次のとおりです。
- 商談が登録されていない場合は、入力項目や入力タイミングを見直す
- 登録されているが更新されていない場合は、業務動線を見直す
- データはあるが会議で使われていない場合は、会議の進行を変える
- 会議では使われているが本人が見ていない場合は、本人に役立つ画面を用意する
現在地が分かれば、すべてを作り直す必要はありません。止まっている段階に合った施策から始められます。
Salesforce定着化に関するよくある質問
Salesforceの定着化を進めるなかでは、「導入から時間がたちすぎている」「別のSFAへ乗り換えたほうがよいのではないか」「現場から監視だと思われている」といった疑問が出てきます。
導入から1年以上経っていても立て直せますか
年数だけで判断することはできません。確認すべきなのは、稼働から何年たっているかではなく、入力と活用のどの段階で止まっているかです。
稼働から1年が経過していても、商談はある程度登録されている一方で、営業会議ではSalesforceを使っていない組織は少なくありません。この場合、入力の土台は残っているため、すべてを作り直す必要はありません。営業会議でデータを使う運用から見直せます。反対に、稼働から3カ月しか経っていなくても、商談そのものが登録されていなければ、入力の段階から立て直すことになります。
まずは4つの指標を測り、入力と活用のどこで止まっているかを確認してください。段階ごとの具体的な見直し先は本記事内の「目安より遅れている場合は、止まっている段階まで戻る」で解説しています。
Salesforceを別のSFAに変更すべきですか
Salesforceが使われていないという理由だけで、すぐに別のSFAへ変更する必要はありません。定着しない原因が「組織」や「運用」にある場合、ツールを変更しても同じ問題が起きる可能性があります。次のような問題は、別のSFAに変更しても自動的には解決しません。
- 何のためにSFAを導入したのかが共有されていない
- マネージャーが営業会議でデータを使っていない
- いつ入力するかが決まっていない
- 入力した情報が営業担当者に返ってこない
- 自社の営業プロセスが整理されていない
また、既存の項目や商談フェーズをそのまま新しいSFAへ移行すると、設計上の問題も引き継がれます。
一方で、ツールの見直しが必要になる場合もあります。たとえば、自社の商流や業務要件を標準機能では表現できず、大規模な開発を続けなければ運用できない場合です。SFAの変更を判断する前に、定着しない原因が次のどこにあるかを切り分けます。
| 原因の層 | SFAを変更した場合 |
|---|---|
| 組織 | 導入目的や活用方針が変わらなければ、同じ問題が残る |
| 運用 | 入力・確認のタイミングが決まっていなければ、再発する |
| 設計 | 現在の項目やフェーズを移行すると、問題を引き継ぐ可能性がある |
| ツールの機能 | 自社要件に対応できない場合は、変更を検討する余地がある |
製品の変更は、原因を特定したあとの判断です。
「監視ではないか」と反発されたら、どうすればよいですか
現場から「Salesforceは行動を監視するためのものではないか」と反発された場合、監視ではないと説明するだけでは十分でないことがあります。その背景には、「入力しても自分の仕事には役立たない」「上司が管理するためだけに作業が増える」と感じている可能性があります。そのため、説明より先に、入力した情報が営業担当者本人に返る状態をつくります。自分の担当案件や、更新が止まっている商談、今週対応すべき案件が一覧で確認できる画面を用意します(詳細は本記事内の「入力した本人にデータを返す」を参照)。
あわせて、営業会議や1on1での使い方も見直します。入力していないこと自体を問う聞き方は避け、案件が止まっている理由を確認する聞き方に変えます。具体的な進め方は本記事内の「1on1で更新が止まった案件を見る」で解説しています。同じデータでも、入力状況を責めるために使えば監視と受け取られやすくなります。一方、停滞している案件を見つけ、支援するために使えば、営業担当者にとっても活用する意味が生まれます。
研修や外部支援が必要なのはどのような場合ですか
Salesforceの研修や外部支援が必要かどうかは、定着しない原因によって変わります。操作方法が分からないことが原因であれば、研修が有効です。たとえば、商談の登録方法やレポートの見方、ダッシュボードの使い方が理解されていない場合です。ただし、入力する目的やタイミングが決まっていない状態では、操作研修だけを実施しても定着につながらない可能性があります。操作方法を覚えても、日常業務のどこで使うかが決まっていなければ、研修後に使われなくなるためです。外部支援を検討したいのは、次のような場合です。
- 4つの指標を測ったが、結果をどう解釈すればよいか分からない
- 原因が「組織」「設計」「運用」の複数に見えて絞れない
- 商談フェーズや入力項目が自社の営業プロセスに合っていない
- 項目を変更した場合の既存データやレポートへの影響を判断できない
- 社内にSalesforceの運用を継続的に見直す担当者がいない
- 営業部門と情報システム部門だけでは方針を決めきれない
自社で始めやすいのは、営業会議の進行、1on1での使い方、入力タイミングの見直しです。これらは追加費用をかけずに取り組めます。
一方、画面・項目・商談フェーズなどの設計を変更する場合は、既存データやレポートへの影響も考慮する必要があります。自社だけで判断が難しい場合は、外部支援を活用することで、原因の切り分けや施策の優先順位を整理しやすくなります。
まとめ|Salesforce定着化は、入力と活用を段階的に進める
Salesforceの定着化でつまずく原因は、主に次の3つに整理できます。
組織:導入目的や利用するメリットが共有されていない
設計:入力項目や商談フェーズが実際の営業プロセスに合っていない
運用:いつ入力し、いつ確認するかが決まっていない
まずは、「入力率」「更新鮮度」「営業会議での参照率」「ダッシュボード閲覧率」の4つの指標を使い、自社が入力と活用のどちらで止まっているのかを確認します。そのうえで、営業会議の冒頭5分でSalesforceを開く、1on1で更新が止まった案件を見る、入力タイミングを業務動線に組み込むなど、原因に合った施策を1つ選んで実行します。複数の施策を同時に始めないでください。一定期間後に同じ指標を測り直し、改善したかを確認することが重要です。
Salesforceの定着化は、短期間で完了する取り組みではありません。稼働後90日までは商談の登録と更新、半年までには営業会議での活用、1年後にはデータをもとに行動や意思決定が変わっている状態を目安として、段階的に進めます。導入から1年以上経過していても、手遅れとは限りません。稼働年数ではなく、入力と活用のどの段階で止まっているのかを把握できれば、そこから立て直すことができます。
まずは、進行中の商談を一覧で確認し、一定期間更新されていない案件がどの程度あるかを数えてみてください。現在地を数字で把握することが、Salesforce定着化の最初の一歩です。
【CTA】測った数値の読み方を、30分で一緒に確認します
4指標を測ったあと、次の一手を決める段で迷うのは自然なことです。数字が動かないのは打ち手が違うからなのか、層の特定が違っていたからなのか。この判断は、自社の数字と営業体制を見なければ決まりません。
30分の無料オンライン相談では、採点表を見ながら、原因の層の絞り込みと打ち手の優先順位を一緒に確認します。まだ測っていない段階でも、測り方のご相談から始めていただけます。


