Defualt

「あの人がいないと回らない」をなくす
マーケティング内製化の属人化を脱却するチーム設計とはColumn

2025.09.26

「あの人がいないと回らない」をなくす —マーケティング内製化の属人化を脱却するチーム設計とは

「マーケティングを内製化するぞ!」――そう号令をかけてプロジェクトを立ち上げたものの、いざ運用が始まると社内で「●●さんがいないと回らない」「この業務は彼にしかできない」といった声が増え、特定のキーマンに依存する“属人化”に直面していないでしょうか。

100~500名規模のITSaaS系企業では、採用枠の制約や兼務体制、スキルの偏り、ツールの分断などが重なり、属人化が起きやすい土壌が生まれます。属人化が進むと、施策の停止リスク、ナレッジの断絶、評価指標の不整合、オンボーディングの長期化といった連鎖的な機会損失が発生し、部門の生産性と再現性を下げます。

本記事は、まさにその課題に向き合うマーケティング部長のあなたに向けて、なぜ属人化が起こるのかどんな失敗シナリオを招くのかを整理したうえで、脱却に必要なチーム設計(役割定義/責任範囲とSLA/標準手順とチェックリスト/KPIとダッシュボード運用/引き継ぎ様式)を具体化します。さらに、短期の穴埋めではなく中長期の自走化を見据えた、外部パートナーの「自走支援」をどう活用すべきか――選定基準と契約・運用の勘所まで解説します。

「人を増やす前に、仕組みを整える」。この原則を軸に、属人化を組織学習に変えるための実務的な手順と意思決定のポイントを示していきます。
 

目次

  1. なぜ、あなたの会社でも「属人化」は起こるのか?
  2. 属人化が招く「失敗シナリオ」のすべて会社の末路
  3. 属人化を脱却する「チーム設計」と「スキル移転」の具体的なステップ
  4. 成果を加速させる「教育・育成」の観点
  5. 「外注依存」から「自走支援」へ —外部パートナー活用の極意
  6. 「属人化」を断ち切り、持続的な成長を実現するために

1. なぜ、あなたの会社でも「属人化」は起こるのか?

マーケティングの属人化は、決して担当者の能力不足が原因ではありません。多くの場合、チーム体制や組織的な課題が背景にあります。この章では、現場でよく見られる「属人化の実態」をよりリアルに描写していきます。

1.1:特定の経験者・ハイパフォーマーへの業務集中

マーケティング施策の立ち上げや効果検証には、専門的な知識と経験が求められます。特に立ち上げ期や成果が出始めた時期は、特定の経験者やハイパフォーマーに業務が集中し、その人にしかできない仕事が増えていくのは自然な流れです。

【現場でのリアルなエピソード】

  • インサイドセールスの架電リスト作成: 「どのリストに架電すれば効率が良いか」「どのセグメントからアプローチすべきか」といった判断が、ベテランのインサイドセールス担当者の経験に依存している。彼が休んだだけで、その日の架電効率が目に見えて落ちてしまう。
  • Web広告運用の入稿ミス: 新しいキャンペーンを立ち上げた際、入稿設定を任された新人マーケターがミスをしてしまい、広告が停止。結局、誰も修正方法がわからず、ベテラン担当者の帰りを待つしかない。

こうした現場の光景は、あなたの会社でも心当たりがあるのではないでしょうか?業務のノウハウが個人の頭の中に留まり、チームに共有されなければ、そのキーマンが不在になった瞬間、業務が停滞してしまうのです。

1.2:ノウハウのドキュメント化・標準化の不足

「やり方は知っているけど、言語化するのは難しい」「忙しくてドキュメントを作る時間がない」

施策の成功ノウハウがドキュメント化されず、個人の“頭の中”に留まっているケースは非常に多く見られます。結果として、新しいメンバーはノウハウを共有されず、ゼロから試行錯誤することになります。

たとえば、あるインサイドセールスチームでは、ハイパフォーマーだけが持つ「お客様の興味を引く魔法のトークスクリプト」や、「商談化につながる質問リスト」が存在します。しかし、それは決して言語化されず、新人には「背中を見て覚えろ」としか伝えられません。

1.3:「背中を見て覚える」OJTへの依存と、学習機会の不足

体系的な教育プログラムが用意されておらず、OJT(On-the-Job Training)に依存しがちです。これにより、育成スピードは担当者の能力や、教える側のキャパシティに左右されます。これでは、中長期的なスキルアップは望めません。
「やる気のある若手に任せる」という形だけでは限界があります。スキルが体系化されておらず、「何をどう学ぶべきか」の設計がないため、学習も継承も進まず、結果的に担当者のスキル不足は解消されないまま、いつまでたっても自走できるチームが構築できません。

2. 属人化が招く「失敗シナリオ」のすべて会社の末路

属人化は、単なる業務の停滞ではなく、企業成長の足かせとなり、さまざまなリスクを引き起こします。この章では、マーケティング内製化が失敗に終わる危険なシナリオを掘り下げていきます。

2.1 短期的なリスク

  • プロジェクトの一時停止とKPI未達: キーマンの異動や退職、あるいは急な病欠により、担当業務がストップ。プロジェクトの進捗が滞り、期初に設定したKPIが未達に終わるリスクが高まります。
  • 予算の無駄と消化の遅れ: 広告運用やキャンペーンのノウハウが共有されていないと、効率的な予算配分ができず、無駄なコストが発生します。また、担当者が不在になると予算の消化が遅れ、せっかくの投資機会を逃してしまいます。

2.2 中長期的なリスクと、SaaS企業A社の失敗ストーリー

属人化の最大のリスクは、「内製化」という経営判断そのものが失敗だったと結論づけられてしまうことです。

【あるSaaS企業A社の失敗ストーリー】

「マーケティングの内製化」に踏み切った、従業員150名規模のSaaS企業A社。Web広告の運用に長けた中堅マーケターのBさんに全てを任せる体制を構築しました。

当初、Bさんの手腕でリード獲得数は順調に伸び、社長や経営層からも高い評価を受けていました。しかし、ある日突然、Bさんの退職が決まります。「次のキャリアアップのため」という前向きな理由でしたが、後任はまだ入社してばかりの新人マーケター。

Bさんの退職後、Web広告のパフォーマンスは急降下しました。新人マーケターは「どこをどう調整すればいいのか」「この費用対効果は適正なのか」すら判断できません。Bさんが使っていたドキュメントには、施策の目標と結果しかなく、「なぜその施策を行ったのか」という意思決定のプロセスは一切記録されていませんでした。

結果、リード獲得数は目標の半分以下に落ち込み、インサイドセールス部門からは「商談につながるリードが来ない」という不満が噴出。経営層からは「結局、内製化は無理だったのか?」という厳しい指摘が飛び交うようになりました。

A社は再び、高額な費用を払って外部の広告代理店に運用を再委託することになりました。せっかく内製で蓄積しかけていたマーケティングノウハウは、Bさんの退職とともに失われ、内製化にかかった時間とコストは水の泡と化してしまったのです。

3. 属人化を脱却する「チーム設計」と「スキル移転」の具体的なステップ

このような失敗を避けるためには、「個人のスキルに頼る」のではなく、「仕組みと役割分担で回る」ように設計することが不可欠です。この章では、マーケティング組織を再構築するための具体的なステップを解説します。

3.1:ステップ1:簡易スキルマップの作成によるスキルの見える化

まずは、チームメンバーの現状のスキルを見える化しましょう。

  1. 業務の洗い出し: マーケティング活動を細分化してリストアップします。
     o    計画・戦略: 顧客インタビュー、市場調査、ペルソナ設定
     o    コンテンツ制作: ブログ執筆、ホワイトペーパー作成、メールマガジン作成
     o    集客(オンライン): Web広告運用、SEO対策、SNS運用
     o    集客(オフライン): 展示会企画・運営
     o    リード管理: MAツール運用、リードスコアリング
     o    インサイドセールス連携: 架電リスト作成、トークスクリプト作成、商談化レポート分析
  2. スキルレベルの定義: 各タスクに対するメンバーの習熟度を以下のような簡単な指標で定義します。
     o    レベル1: 「これから学ぶ」
     o    レベル2: 「基礎知識あり、OJTで対応可能」
     o    レベル3: 「自力で業務遂行可能」
     o    レベル4: 「後輩に指導・育成可能」
  3. メンバーごとの棚卸し: 一覧表を作成し、メンバーそれぞれがどのタスクをどのレベルで習得しているかをマッピングします。これにより、チーム全体のスキルギャップが明らかになり、誰が何を学ぶべきか、誰から何を学ぶべきかが明確になります。

3.2:ステップ2:ナレッジ共有の「仕組み化」

ナレッジを共有する仕組みを、ルーチンワークに組み込みましょう。

  • 定例会での「10分共有ルール」: 週次・月次の定例会で、成功事例や失敗事例、学んだことなどを110分で共有する時間を設けます。単なる進捗報告だけでなく、「なぜその成果が出たのか」「次に何を試すべきか」といった思考プロセスを共有することが重要です。
  • 成功施策は必ずドキュメントに残す: インサイドセールスのトークスクリプト、Web広告のクリエイティブ、ABテストの結果、メールマガジンの反応率など、「再現性のあるナレッジ」は必ず共有できるドキュメントに記録します。これにより、誰もがいつでも参照できる「組織の資産」となります。
  • Slack/Teamsでのナレッジ共有チャンネル運用:#マーケティング_ナレッジ共有」のような専用チャンネルを作り、「こんな記事を読んで面白かった」「こんなツールを試してみた」といった情報を気軽に投稿できる文化を醸成します。

【具

4. 成果を加速させる「教育・育成」の観点

属人化を脱却する上で、もう一つ重要なのが「体系的な教育・育成」です。

4.1:新人育成プログラムの設計例

「やる気のある若手に任せる」というだけではなく、具体的な育成ロードマップを用意しましょう。

  • 1か月目(基礎固め):
    • 座学: BtoBマーケティング基礎、Web広告基礎、インサイドセールス基礎、MAツール操作方法など。
    • インプット: 過去の成功事例ドキュメントを読み込む。
  • 2か月目(実践とインサイドセールス連携):
    • OJTとロールプレイ: 先輩担当者の横について実際の業務を体験。インサイドセールス担当者との連携を強化するため、架電のロールプレイも実施。
    • タスクアサイン: 小さなタスク(ブログ記事のテーマ選定、広告文の作成など)をアサインし、先輩がレビュー。
  • 3か月目(実務と振り返り):
    • 実務: 一部の施策のメイン担当としてPDCAを回す。
    • レビュー: 週に一度、メンターと11で振り返り会を実施。

4.2 スキル移転を促す仕掛け

  • メンター制: 経験豊富な担当者がメンターとなり、新人のOJTをサポートします。メンターには「スキル移転」という役割を明確に与えることで、ナレッジの共有が進みます。
  • 「標準業務マニュアル」作成の分担制: 属人化している業務を、複数人で分担してマニュアル化します。たとえば、インサイドセールス部門と連携して「リード引き継ぎマニュアル」を共同で作成することで、ナレッジがチーム全体に広まります。

5. 「外注依存」から「自走支援」へ —外部パートナー活用の極意

「内製化は無理だった」と判断してアウトソースに逆戻りする企業は多いですが、本当にそれでいいのでしょうか?今求められているのは、「手足」として業務を代行するパートナーではなく、「頭脳と型」を提供し、内製化をともに構築してくれる伴走型パートナーです。

5.1 失敗する「外注依存」のパターン

  • 広告代理店に任せきり: 広告運用をすべて任せてしまうと、社内にノウハウが全く残りません。いざ内製に戻そうとしても、運用スキルもナレッジもゼロからのスタートになってしまいます。
  • コンサルだけ入れても現場実装されない: コンサルタントが机上論の戦略だけを提供し、実際の現場メンバーがその戦略を理解し、実行する力がなければ、絵に描いた餅に終わってしまいます。

 5.2 成功に導くパートナー選定のチェックリスト 

外部パートナーを選ぶ際は、以下のポイントを重視しましょう。

  • 作業代行だけでなく「型」を残してくれるか? テンプレートやワークフローの作成を支援してくれるか、が重要なポイントです。
  • 自社チームにスキル移転を意識しているか? 「業務を代行します」だけでなく、「チームの皆さんにノウハウを移転します」という姿勢があるか確認しましょう。
  • 単発支援でなく、伴走型であるか? 契約期間中、チームメンバーに寄り添い、課題解決を共に進めてくれるパートナーを選びましょう。

【成功事例:ビフォー・アフター】

従業員数100人のSaaS系企業A社では、インサイドセールスのトークスクリプト作成と架電リスト作成がベテラン担当者の属人的な業務になっていました。

  • Before(属人依存):
    • ベテラン担当者の不在で、新規商談の創出数が一時的に停滞。
    • 新人が入っても、トークスクリプトがないため稼働までに時間がかかる。
    • 業務の進捗が遅延し、商談化率のKPIが未達になることも。
  • After(標準化、ナレッジ共有、教育体制あり):
    • 伴走型パートナーの支援で、インサイドセールスのトークスクリプトを部門全体で標準化。
    • スキルマップに基づき、広告運用担当者のスキルを可視化。
    • 結果、新人が入社してからわずか3か月で、自力で商談を創出できるようになりました。特定の担当者が退職しても、業務は滞ることなく継続されています。

 6. 「属人化」を断ち切り、持続的な成長を実現するために

マーケティングの内製化は、一朝一夕で完成するものではありません。しかし、属人化という課題を放置すれば、せっかくの成長機会を逃し、「内製化の意味が失われる」という最悪のシナリオを招いてしまいます。

6.1 最後に強調したい3つのメッセージ

  1. 属人化の解決策は、「仕組み化」と「スキル移転」にあり
    個人の能力に頼るのではなく、誰がやっても一定の成果が出せる仕組みを構築すること。そして、そのノウハウをチーム全体で共有し、スキルを移転し続けることが何より重要です。
  2. 中堅企業こそ、内製化を成功させるべき
    外部依存から脱却し、自社にナレッジを蓄積することで、変化の速い市場にも迅速に対応できる強い組織を築くことができます。
  3. パートナーは「作業代行」ではなく「自走支援」で選ぶ
    「全部は外注したくないが、内製の限界も感じている」と感じたときこそ、共にチームを成長させてくれる伴走型パートナーの力が必要です。

6.2 マーケティング部長であるあなたが、まず最初にやるべき3つのこと

この記事を読み終えた今、ぜひ以下の3つのアクションから始めてみてください。

  • アクション1 チームの現状を可視化するため、簡易的な「スキルマップ」をメンバーと共に作成してみる。
  • アクション2 ナレッジ共有の第一歩として、定例会で「10分共有ルール」を設けてみる。
  • アクション3 自社に「型」を残してくれる外部パートナーの情報を集めてみる。

マーケティングの属人化は、もはや避けられない課題です。しかし、それに正面から向き合い、チームを「個」から「組織」へと変革していくことこそ、部長であるあなたの最大のミッションではないでしょうか。

もし、貴社の現状に合わせた具体的なチーム設計や、適切な外部パートナーの選定についてさらに詳しく知りたい場合は、いつでもご相談ください。

組織課題の解決は、プロの知見を借りるのが最も近道です

「属人化を解消し、自走できるマーケティング組織を構築したい」 「インサイドセールスを内製化したいが、体制構築や教育に課題がある」

もし、このようなお悩みをお持ちでしたら、まずは一度私たちにご相談ください。ビズブーストは、貴社の状況に合わせた最適なコンサルティングサービスを提供し、マーケティング組織の内製化・自走化を徹底的にサポートします。

専門家による組織変革の伴走支援や、インサイドセールスの体制構築・教育支援にご興味をお持ちの方は、ぜひ以下のサービス詳細をご覧ください。

貴社のインサイドセールスを「成果を出す組織」へと変革しませんか?