コラム|ビズブースト株式会社

新規獲得のために行うべきBtoBデジタルマーケティングの打ち手

作成者: 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)|Sep 12, 2025 4:52:11 AM

売上を拡大していくうえで、当然ですが避けては通れない顧客の新規獲得。しかし「そもそもなぜ新規獲得が大事なのか?」また「今の時代はどうやって新規獲得を行えば良いのか?」明確に定義できていない方もいるでしょう。

そんな方に向けてこの記事では、新規獲得が必要な理由やその方法まで紹介していきます。

新規獲得はなぜ必要なのか?

新規獲得と顧客維持の違い

マーケティングの世界には「1:5の法則」が存在します。これは新規の顧客を獲得するには、既存顧客の5倍のコストがかかるという法則。コストがかかるのであれば、新規の顧客獲得よりも、既存顧客の維持(顧客維持)に注力したほうが良いように感じるかもしれません。

では、なぜ新規獲得は必要なのでしょうか?

それは特定の顧客への依存が、結果的に利益の悪化につながってしまうためです。

業界の収益性を分析するフレームーワークに、マイケルポーター氏が提唱した「5フォース分析」というものがあります。

このフレームワークは業界の収益性を決める5つの要因をもとに構築されており、その一つに「買い手の交渉力」が存在します。これは売り手企業の数が多く、買い手の数が少ない場合、つまり需要よりも供給量のほうが多いケースでは買い手側が有利な立場にあり、影響力を行使できるということ。影響力とは、例えばさらに低価格な製品・サービスを要求するなどです。

独占技術を有するなど、ニッチな分野に強みを持つ企業であれば買い手はその企業の製品を選ばざるをえなくなるため、売り手側にとって有利な価格を提示できます。

一方で業界への新規参入など、競合企業が多くなれば必然的に売り手企業の数が多くなり、買い手の数が少ない、つまりは買い手側の影響力が大きい環境へと変化。すると、サービスや製品の価格を安くせざるをえない状況になってきます。

製品やサービスの価格が安くなるにもかかわらず、顧客維持にのみ注力していれば、顧客の数は変わらないわけですから全体の収益が減少していきます。つまりこれまで以上に収益を上げるためにも、新規獲得を通じて自社で抱える顧客の数を増やす必要があるのです。

長期的に見ると、顧客維持だけでなく新規の獲得を行い続けることが売上の安定につながるわけです。

新規獲得を担当すべきはマーケティングか営業か

これまで新規獲得と聞くと「飛び込み営業」や「テレアポ営業」など、営業担当者が直接見込み客にアプローチを行う方法が一般的だったかもしれません。

しかし現在は、インターネットで情報を検索できる時代。製品の情報サイトの立ち上げやブログ記事・ホワイトペーパーなどウェブコンテンツを充実させることで、検索エンジンなどを通じて、見込み客自らが問い合わせを行うモデルに変わりつつあります。

そのためウェブコンテンツの拡充など、新規獲得のための施策はマーケティング部署が担い、確度の高い見込み客への対応を営業部署にバトンタッチする流れが理想。つまり新規獲得はマーケティング部署が担うというのが、最も効率な営業手法になってきました。

新規獲得のBtoBマーケティングの打ち手

BtoBマーケティングの施策を行う前に、戦略も決めておきたいところ。最初に戦略を決定しておくことで、無駄なく最適な顧客へのアプローチが可能となるでしょう。

では、BtoBマーケティングにおいて「戦略を決める」とは何をすれば良いのか?

もちろんいろいろな方法があると思いますが、(自社の製品がある程度固まったあとを前提として)あえて定義すると、以下の7つを決めることだと言えます。

  1. どの顧客に
  2. どのチャネルで
  3. どのようなクリエイティブで
  4. どのようなコミュニケーションを
  5. どのようなモノ・ツールで
  6. どのくらいのコストで
  7. どのような体制で

ペルソナやカスタマージャーニーの設定などを通じて、自社の顧客は誰なのかを見える化する

SNSや検索エンジン、テレビなどどういった媒体で顧客との接点を持つのかを決める

ブログ記事やホワイトペーパー、ネット広告などどのようなコンテンツが有効かを検討する

新規顧客との関係性構築のために、どのようなコミュニケーションを行うのが理想かを決める

MA(マーケティングオートメーション)ツールなど、施策を実行するために活用するツールを選択する

施策にかけるコストや獲得単価はどの程度が理想かを決めておく

営業部署だけでなくマーケティング部署や外部パートナーなども含めて、組織体制や運用方法はどうあるべきかを確定しておく

そして、戦略を決めてBtoBマーケティングを行うことになったら、定期的に施策を見直すことも大切です。

例えばマーケティング施策を見直す視点としては、以下の4つが考えられるでしょう。

 

切り口 評価指標 改善・見直しポイント
KPI(数値目標)

新規問い合わせ件数

リードの数

営業部門とのSLA

マーケティングと営業部門で結ばれたSLAの視点からの見直し。SLAを構成する要素を分解し、例えばSLAを構成する最重要指標として、問い合わせ数、リード数を指標と行動指標の見直しの基準とする。
サービスサイト サイトへのトラフィック数

サイト上での獲得コンタクト数
どれくらいトラフィックが発生し、コンタクト情報が獲得できているか
コンテンツ オーガニック数

ダウンロード数

アクセス数
四半期単位で編集方針の見直しと今後の方向性を決める。またeBookのダウンロード数やブログ記事のアクセス状況も確認。それらに付随する情報、例えば検索順位も定点観測する様にする

 

なお、自社で取り扱っている製品・サービスがとくにエンタープライズ(大企業)か、SMB(中小企業)向けかで施策が異なることも覚えておきましょう。

どちらをターゲットにするかは、おそらく前述した「1.どの顧客に」の部分で決定するかと思います。そしてあくまでも一般論となりますが、エンタープライズ向けであれば1回の契約金額が大きくなるため、その分、1社に時間をかける手厚い営業が可能。インターネットを主体とした施策よりも、直接訪問による顧客との1対1のコミュニケーションに最も注力するのが有効かもしれません。

一方でSMB向けであれば、1回の契約金額は小額。その分、大量の新規顧客を獲得する必要があるかもしれません。そうなると、ウェブコンテンツの提供やインサイドセールスといったインターネット主体の施策に最も注力する必要があるでしょう

サービス立ち上げ期に取るべき打ち手

SaaS企業がPMF(Product Market Fit)の段階を超え、サービスの立ち上げから市場への浸透や、拡大を目指すまでのフェーズごとに、取るべき打ち手を紹介したいと思います。

まずは、サービスの立ち上げ期について。といっても、サービス立ち上げ期は特別なマーケティング施策を実施するというよりも、自社製品を知ってもらうためのシンプルな施策に注力することになるでしょう。

そのうえで、自社の製品が顧客の課題を解消し、適切に市場に受け入れらているかを確認する必要があります。顧客の満足が得られないにもかかわらずいたずらに複数のマーケティング施策を実施しても、新規獲得の件数は上がるかもしれませんが、解約の増加につながる可能性があるためです。

では、市場に適切に受け入れらているかは、何を見れば良いのか。

最初に思い浮かぶのは「定着率(Retention)」かもしれません。SaaS全体では、「年間顧客定着率95%以上」が一般なベンチマークになっていると言います。とはいえ、定着率は契約更新が発生する1年後にしかわからないなど、今すぐ知ることができるデータではありません。

そのため、「顧客のA%がB期間以内にイベントCを達成すれば市場に受け入れられている」などの定義を決めることが有効。例えば海外の代表的なスタートアップ企業では、市場に受け入れられているかどうかを、以下のように定義していたようです。

Slack:顧客の70%が最初の30日間に2000通以上のチームメッセージを送信する

Dropbox:顧客の85%が1時間以内に1台のデバイスから1つのフォルダーに1点のファイルをアップロードする

HubSpot:顧客の80%が60日以内に同社プラットフォームの25の機能のうち5つを使用する

この段階で行うべきマーケティングの打ち手は非常にシンプルであり「プロダクトマーケティングしかない」と言えるでしょう。

プロダクトマーケティング

プロダクトマーケティングとは、製品を作り上げ市場に受け入れられるまでのプロセスで行う施策全般を指します。

例えば、PMF(Product Market Fit)をしていない段階でのプロダクトマーケティングは製品を市場のニーズに合う様に磨けき上げることを指すことが多く、PMF(Product Market Fit)をした後であれば、製品の利用率や更なるデマンドを獲得する様な施策が含まれます。

PMF前は特に、PDF(Product Adaptation Cycle)でいうところのイノベーターやアーリーアダプターに対してのユーザーインタビューなどを行い、ベータ版を利用してもらいユーザーの業務を深く理解、必要な機能の構築、さらにはプロダクトロードマップを作り、優先順位を作り上げて製品を作る循環を高速で行うことに注力するなどがあります。

ユーザー数を加速させる方法には、知り合いや代表のつながり、名刺情報にアプローチするなどがあります。PMF後であれば、一般的なデマンドジェネレーションの流れに新機能のプロモーションを抱き合わせることが多いです。

筆者の経験では、この段階で、ARPU(Average Revenue Per Unit)が約3-4万円ながらも、VCのつながりや営業担当などのつてのみで、MRRが1,000万円を超えている企業などもいることを見てきています。

サービス市場投入期に取るべき打ち手

リリースした製品が継続して使用してもらえる、つまりは市場に受け入れられていることがわかったら、新規獲得の件数を増加させるための施策に注力。この段階で行うべきは、継続的に新規顧客を獲得できる仕組みの構築です。多くのSaaS企業が、この段階で展示会や他企業とのカンファレンスに力を入れようとします。ターゲットの企業サイズにも影響を受けるため一概には言えないのですが、予算が大量に必要になり回数が限定的かつスケールさせづらい施策であるイベントマーケティングはこの段階では行うべきではありません。

では、具体的にどの様な施策があるのでしょうか。

オンライン広告

自社の製品サイトに誘導することが目的の「オンライン広告」。基本的にウェブ上で展開されるSNS広告や記事広告、リスティング広告などが該当します。SaaS企業であっても非SaaS企業であっても、最も利用されている打ち手がオンライン広告ではないでしょうか。

オンライン広告は、従来の新聞や雑誌などのオフライン広告と違い、トラッキングのためのパラメーター仕込むことが可能なため、正確なROI(費用対効果)の追跡が可能で、スケーラビリティを測定しやすいという特徴があります。また、SNS広告であれば行動属性や志向に合わせた特定の見込み客に対してピンポイントで広告を表示させることが可能という特徴があります。

しかしながら、多くの企業が求められるコンテンツに段差をつけることなく、「資料請求」や「問い合わせ」だけに広告を出すことが多く、私の経験ではSaaS企業の資料請求で獲得単価が6-7万円程費やしている企業が多いかな、という印象。マーケティング予算が多くない段階で、この獲得単価はスケーラビリティが高いとは言いづらいため、広告を主軸にする場合は、コンテンツに段差をつけ「eBook」「テンプレート」「ウェビナー」などの軽めなコンテンツに対しても広告をかけるなどのバリエーションを持たせる様にし、マーケティングオートメーションなどを活用して「資料請求」や「問い合わせ」につなげる導線を自動化するなどの工夫の組み合わせも有効です。

なお、オンライン広告については以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

  • 必ず見込み客獲得ができるBtoBマーケティングの打ち手

トリプルメディア

マーケティング活動で使用するメディアは、主に次の3つに分類されることから「トリプルメディア」と呼ばれています。

  • ペイドメディア:ネット広告などの支払を必要とするメディア
  • オウンドメディア:自社で運営しているブログなど
  • アーンドメディア:TwitterなどのSNS

 

(参照元:いちばんやさしいデジタルマーケティングの教本

 

市場に製品が認められる(ニーズがある)段階で行うべきは、繰り返しになるのですがマーケティング活動にスケーラビリティがあるかどうかです。スケーラビリティには、定量的に測定可能で再現性があること、という条件を欠かすことができません。

それぞれのメリット・デメリットも以下で整理してみました。

 

  メリット デメリット スケーラビリティ
ペイドメディア 投入する広告量に従って、多くのユーザーに認知できる 一定の効果を上げるためにはある程度のコストがかかる 自社でコントロールと測定が可能なため、ハマれば業界業態によってはスケーラビリティは高い可能性がある。
オウンドメディア 自社の戦略に従って配信する情報をコントロールできる 継続的な配信が必要になるなど時間と労力がかかる。 自社でコントロールと測定が可能なため、半永続的にウェブトラフィックを引き込むことが可能なためスケーラビリティが非常に高い。
アーンドメディア ユーザー側からの信頼度が高いことや、情報が一気に拡散しやすい 企業側からのコントロールができない。 自社でコントロールが難しく、社内チャットでのシェアなども発生するため測定が難しい。そのためスケーラビリティは高くないと言える。

 

理想的な流れとしては、ペイドメディアとオウンドメディアを並列で運用してスケーラブルなメディアに注力することをお勧めします。一般的には、サービスを市場に投入する時期であれば、マーケティングのチームが数人程度であることが多く、アーンドメディアのコントロールをするまでのリソースはないと断言できます。

また、アーンドメディアは前述した様に自社からのコントロールが効きづらい特性があり、定量的にROIを測定することも難しいです。その様な理由からこの段階では優先順位を落としても問題ないと考えられます。ただし、ペルソナがエンジニアや研究者などの場合は、逆にペイドメディやオウンドメディアが効かない場合が強く、エンジニア同士でシェアされる様な個人のブログ(アーンドメディアの一種)が非常に強い効果を発揮することもあります。

その様に、トリプルメディアの特性と自社のペルソナ、自社のリソースを理解した上で優先順位を立てることが重要です。

ウェブサイト最適化テスト

ABテストなど、ウェブサイトの最適化もこの時期には比較的有効なマーケティング施策と言えます。例えばAパターン、Bパターンの2つの製品サイトをユーザーに見せてどちらの方がコンバージョン率やクリック数が高いかを測定。そして、効果の高かったデザインを採用するなどです。例えば「Google Optimize」などのツールを使えば、無料でABテストを実施することもできます。

 

(参照元:Google Optimize

 

ただし、ここで注意をしなくてはいけないのはウェブサイト最適化をするほど自社のドメインにどれくらいのトラフィックが存在しているかを明確にし、コンバージョンを獲得するアクション(一般的にはクリックスルー率など)と、そのアクションに対する平均的なコンバージョン率を明確にしてから最適化に力を入れるか判断してください。

例えば、月間のウェブトラフィックが10,000のページにある資料請求ボタンのクリックスルー率(CTR)が5%だとすれば、目的の資料請求ページへ遷移するトラフィックは500。資料請求ページのコンバージョン率(CVR)が5%だとすれば、月間資料請求数は25になります。

この資料請求ページのCVRをウェブ最適化により5%から10%へ引き上げることにより月間資料請求数は25から50に増加します。しかし、トラフィックが1,000しかない場合は、2.5が5.0に増加するだけであり、商材の価格に影響は受けますが一般的な事業へのインパクトはかなり限定的。つまり、ウェブ最適化はかなり限定的であり、ウェブトラフィック自体を増やさないといけない、ということになります。

このように簡単なシミュレーションを行い、そもそも最適化を行うことによるビジネスインパクトがどれほどあるかから判断してからウェブサイト最適化を行うことが大切であり、私の経験上、大半の立ち上げ期におけるBtoBビジネスのウェブ最適化は必要ないということができます。

PR/広報

オウンドメディアやペイドメディアでは非指名検索を増加させることが可能なのに対して、指名検索を増加させたり、業界関係者やすでに検討状態の人たちに直接リーチするためにPR/広報を行うことも大切です。従来のPR/広報の手法としては、業界メディアとの関係性構築を行い、取り上げてもらうなどの方法もあります。

この打ち手は、ある程度の業界経験やネットワークが必要となりますが、強力な発信力を発揮します。また、メディアと関係がない場合は、「PR TIMES」などのサービスを使って、自社製品のプレスリリースを配信したり、市場から十分に認識され、かつ自社のウェブサイトにトラフィックが十分集まり次第プレスキットを設置するなども良い打ち手ということができるでしょう。

 

(参考元:PR TIMES

 

また各ウェブメディアの問い合わせフォームにて、取材依頼の連絡などを行い、自社製品を取り上げてもらうなども方法もあるでしょう。

サービス拡大期

ウェブを利用した新規獲得の仕組みが整ってきたら、最後はオフラインの施策にも力を入れていきたいところ。サービス市場投入期を超えると、これまでの施策によってビジネスをスケールさせることが可能な状態になります。つまり、どのような施策がどれほどのROIを生み出すかの見当がつく、という状態です。その後のサービス拡大期では、「?なら」のようなイメージを作り上げるようにMOAT(外堀)を作ることに注力することが大切な期間になります。ここでは、サービス拡大期に大切な3つの代表的施策を紹介したいと思います。

展示会・他社主催のカンファレンス

展示会や他社主催のカンファレンスは、デジタルでは接点を持つことが難しかった見込み客との接点を多く作り出す機会です。展示会などでは名目上は自社製品のお披露目の意味合いが強いのが本来ですが、同展示会にいる協業可能な企業と関係性を直接作る機会としても捉えることができます。

例えば、展示会は「不動産業界」のように特定業界に(ある程度以上)特化した企業が集まる場です。不動産に特化したSFAを作っているBtoB SaaS企業、不動産テックに特化した顧客管理(CRM)や、不動産テックに特化した業務管理を行っている企業などが出展します。これらの企業は、顧客の商流を考えれば競合性が低いながらも親和性が非常に高いということができ、共同マーケティングを行うことが可能なパートナーとなり得ます。このように、展示会に足を運ぶ企業との関係づくりに精を出すだけではなく、出展企業と関係構築を行い他者の力もかりてマーケティングを一気に加速させることが可能です。

また、他社主催のカンファレンスは「DX時代の働き方」などのように課題軸でカンファレンスが設定されることが多いため、異業種で同系統の課題に対してのソリューションを提供する企業が集まります。例えば、上記課題に関するカンファレンスであれば、福利厚生に特化した企業や、リモートワークに特化した企業などの参加は想像しやすいのではないかと思います。このようなカンファレンスでは、参加者はもちろん参加企業と関係を作ることににより、他業界かつ課題軸が同じ見込み客や企業と関係性を作ることが可能で、他業界から「?ならXX」という認識を作りやすい場でもあります。

ただし前述したように、出展費用や協賛費用が高額であり、デジタルコンテンツの様な再利用性が低いため、決してスケーラビリティが高い施策とは言い難いです。そのため、展示会やカンファレンスに出展するのは、サービス拡大期に向いている施策であると私は考えています(自社主催カンファレンスは別)。

自社セミナーやカンファレンス

自社セミナーをサービス拡大期の前段階である市場投入期に多用する企業が多く目に着きます。施策として比較的簡単なオペレーションで行えること、マーケティング人材に圧倒的にフィールドマーケターが多いことを考慮すると致し方ない気がしますが、自社セミナーを本格的に行い始めるのは拡大期の方が望ましいと私は考えています。

その理由に、BtoBの購買行動では「より早く接点を作った企業が購買対象になる確率が上がる」という特徴があるため、セミナーを接点作りとして捉えると既にタイミングとして遅いことが多い、と考えています。これは、セミナーなどは企業名や製品名をある程度知っている段階の企業が参加するという特徴があり、この状態の見込み企業はすでに競合企業のことも知っています。さらに、セミナーの参加を促す見込み企業は、(競合企業も出展する)展示会やカンファレンスにて獲得したハウスリストが多く、モロ被りを起こしやすいという傾向があります。

つまり、自社や競合の製品サービスや企業名を知る段階の前(課題にしか気付いていない段階)の見込み客と先に接点を作った上で、セミナーに誘導する方が顧客化率が高まります。つまり、市場投入期で行うべきであるトリプルメディア(アーンドメディア以外)を積極的に行い、見込み客がスケーラブルに獲得できるようになった後の方が見込み客の購買行動にハマりやすい、ということになります。

このように見込み客が安定的に供給できる状態でない場合、相対的に開催頻度が低い展示会やカンファレンスで獲得したハウスリストに対して、相対的に開催頻度が高いセミナーの申し込みを促すアプローチを繰り返すことになり、ハウリストは焼畑的に燃え尽きていきます。

これらのことを考えると、特にセミナーなどに関しては市場投入期でスケーラブルなリードジェネレーションマシーンが出来上がってから定期的に行う方がベターでは、と考えています(商材がSMB向けの価格帯とした場合)。

セールスイネーブルメント

「セールスイネーブルメント」とは、営業組織を強化・改善するための総括的な取り組みを指します。自社製品の認知度向上などを目的としたマーケティングの打ち手というわけではありませんが、営業部隊が強化されることパイプライン間でのCVRを組織的に高めることにつながり、結果的に新規顧客化数の増加に貢献できると言えるでしょう。

導入のステップとしては主に以下の通り。

 

(考元:セールスイネーブルメント導入の5ステップ。 第一人者の山下貴宏さんが解説

 

このフェーズを見てもわかる通り、最初のステップは営業データの収集から。SFAなどのツールを使って、データの収集・見える化を行っていきましょう。そのうえで、専任人材のアサインからトレーニングプログラムの開発、そして効果検証や取り組みの成果に対して経営層と話し合いを行います。

例えば法人向けの名刺管理サービスを提供する「Sansan」では、まずSFAデータの再定義と再整備を実施しました。

 

(参考元:Sansan

 

そしてSFAを導入して間もないからデータ入力を定着させることから始め、営業プロセスを顧客視点に変更したといいます。

 

(参考元:『セールス・イネーブルメント 世界最先端の営業組織の使い方』)

 

さらにキャリア採用においては、入社1ヵ月間ほぼ缶詰で20のプログラムを受講する仕組み構築。インプット系の動画プログラムだけでなく、テストやロールプレイングなど育成コンテンツは多岐にわたると言います。最後は営業部長に対してロールプレイングを行い、合格しないと現場に出られない仕組み。入社直後に、一定の営業スキルが習得できるようになっています。

また、この段階でセールスイネーブルメントのコンテンツとして力を発揮するのが顧客事例などです。顧客事例はBtoB企業の活動には欠かすことができず、アーリーマジョリティーを獲得する段階であるサービス拡大期に欠かすことはできません。一般的に、事例はすぐに作れと言われますが、プロダクトマーケットフィットに注力をする立ち上げ期ではイノベーター、市場導入期ではアリーアダプターに注力するため、本来的な意味合いとしては事例は最重要コンテンツではないことを覚えておくと良いかもしれません。

まとめ

既存顧客の5倍のコストがかかると言われる、新規獲得。とはいえ、より低価格な製品の要求など買い手側の影響力が大きくなった場合でも収益を拡大していくため、欠かせない業務です。

製品そのもののプロモーションに特化した施策から始まり、トリプルメディアやオンライン広告の活用による認知拡大。そしてウェブを利用した新規獲得の仕組みが整ってきたら最後にはオフラインの施策にも力を入れるなど、サービスのフェーズに合った打ち手を実施していきましょう。