目次
1. インサイドセールス内製化の「落とし穴」
インサイドセールスを内製化し、マーケティング部門と連携して新たな営業体制を構築しようと試みる企業が増えています。特に、変化の激しい現代において、顧客との継続的な接点を持つインサイドセールスの重要性は、BtoB製造業の分野でも高まっています。
しかし、多くの企業が直面する課題があります。それは、「インサイドセールス人材の採用・育成が思うように進まない」という現実です。
技術要素が強く、顧客ごとの仕様調整が必要なBtoB製造業の営業は、長年の経験と勘に頼る「属人化」が起こりやすい傾向にあります。そのため、ベテラン営業のノウハウが言語化されず、インサイドセールス担当者が育たないという悪循環に陥ってしまうケースは少なくありません。
マーケティング部門がせっかく多くのリードを創出しても、インサイドセールスやフィールド営業との連携がうまくいかず、適切なタイミングで商談に繋げられずに失注してしまうこともあります。結果として、インサイドセールスという施策自体が「失敗だった」という烙印を押されてしまうことさえあります。
「人がいないから、新しい営業体制は築けない」
そう諦めるのは、まだ早いです。
慢性的な人材不足の時代だからこそ、「人がいなくても回せる仕組みをどう作るか」という発想への転換が不可欠です。そして、その変革の鍵を握っているのが、マーケティング部門の皆さんです。
リード創出という役割から一歩踏み出し、営業の上流プロセス全体を設計する「営業の設計者」に進化することで、組織全体の営業成果を飛躍的に向上させることができるのです。
2. なぜインサイドセールス内製化は「失敗」に終わるのか?
製造業が陥りがちな4つの罠
インサイドセールス内製化の旗を上げたにもかかわらず、なぜ多くのBtoB製造業で壁にぶつかってしまうのでしょうか。その背景には、製造業特有の構造的な問題と、そこから生まれる4つの「罠」が潜んでいます。
1. 「熟練営業」のブラックボックス化
製造業の営業は、しばしば「職人技」に例えられます。長年の経験で培われた顧客との人間関係、競合他社にはない技術的な知識、現場でのトラブル対応力。これらは熟練営業の貴重な資産であり、彼らの「勘と度胸」に商談が依存しているのが現状です。
しかし、このノウハウは言語化・共有されることがほとんどありません。そのため、新しくインサイドセールス担当者を採用しても、彼らに引き継ぐべき「型」がなく、育成が困難になります。結果として、インサイドセールスは簡単なスクリーニングやアポイント設定しかできず、「結局、ベテラン営業がいないと何もできない」という事態に陥ってしまいます。
2. 技術営業とインサイドセールスの知識ギャップ
BtoB製造業の商談では、顧客の技術的な課題を深く理解し、解決策を提示する力が求められます。この役割を担うのが「技術営業」です。一方で、インサイドセールスは、必ずしも専門的な技術知識を持っているわけではありません。
この知識ギャップが、商談の機会損失を引き起こします。インサイドセールス担当者が、顧客の技術的な問い合わせにうまく対応できなかったり、適切な技術営業にリードを繋げられなかったりすることで、顧客の興味が冷めてしまい、せっかくの商談機会を失ってしまうのです。
3. マーケティングと営業の「バトンパス失敗」
マーケティング部門がセミナーや展示会、ウェブサイトを通じて多くのリードを創出しても、そのリードが営業成果に繋がらないケースが多発します。
原因は、リードを渡す基準が曖昧なことと、その後のフォローアップ体制が構築されていないことにあります。マーケティングが「見込み客」と判断したリードも、営業から見れば「情報収集だけの冷やかし客」と判断され、適切なフォローがなされません。
結果、マーケティング部門は「これだけリードを供給しているのに」と不満を抱え、営業部門は「質の低いリードばかり渡される」と不満を抱え、両部門の溝が深まってしまいます。
4. 「インサイドセールス=コスト」という誤解
上記のような課題が重なると、組織内で「インサイドセールスはコストばかりかかる割に成果が出ない」という印象が定着してしまいます。特に、効果測定が曖昧なまま運用を続けると、その印象は強固なものになります。
慢性的な人材不足が叫ばれる中、貴重な人件費をかけたインサイドセールスが成果を出せないとなると、経営層からの評価も厳しくなり、最悪の場合、部門縮小や廃止という決断に至ることもあります。
3. 失敗を成功に変える「マーケティング主導の営業設計」3つの柱
「人がいないからできない」ではなく、「人がいなくても回せる仕組みをどう作るか」。この発想の転換こそが、インサイドセールスを成功に導く鍵です。その変革の核となるのが、マーケティング部門が主導する以下の3つの柱です。
1. “インサイドセールスに頼らない”商談プロセスの再構築
全てのリードをインサイドセールスがフォローするのではなく、リードの質と温度感に応じて最適なプロセスを設計することが重要です。
(1)リードの「質」に応じた分類と受け渡し基準の明確化
リードを以下のように分類し、それぞれに応じたフローを設計します。- MQL(Marketing Qualified Lead): 資料ダウンロードやウェビナー参加など、マーケティング活動に反応したリード。まだ購入意欲が低い段階のため、マーケティング部門がインサイドセールスと連携し、ナーチャリングに注力します。
- SQL(Sales Qualified Lead): 具体的な製品名や導入時期について問い合わせがあるなど、営業担当が直接フォローすべきリード。明確な基準(例:問い合わせ内容に「見積もり」「導入時期」などのキーワードが含まれる)を設けて、直接営業部門に引き渡します。
- PQL(Product Qualified Lead): 無料トライアルやデモ体験を通じて、製品の価値をすでに理解しているリード。この段階では、インサイドセールスを介さず、営業担当が直接商談を開始する仕組みを構築します。
(2)顧客の温度感に応じたナーチャリングシナリオの定義
リードの検討フェーズを「情報収集」「比較検討」「意思決定」などに分け、それぞれに応じたコンテンツを自動で提供する仕組みを構築します。
- 情報収集フェーズ: 業界トレンドや課題解決型のホワイトペーパー、コラム記事などを自動でメール配信。
- 比較検討フェーズ: 製品の技術的な詳細を解説した資料、導入事例の動画、他社比較のポイントをまとめたガイドなどを提供。
- 意思決定フェーズ: 製品デモへの案内、個別の技術相談会への招待など、より具体的なアクションを促すコンテンツを用意。
この仕組みを構築することで、インサイドセールスはナーチャリング業務から解放され、本当にフォローすべきホットなリードに集中できます。
2. “インサイドセールスに頼らない”商談プロセスの再構築
営業の「型化」は、属人化を排除し、組織全体の営業力を底上げする最も効果的な手段です。
(1) ベテラン営業の「技」を言語化する
マーケティング部門が主導し、ベテラン営業へのヒアリングを徹底的に行います。以下の質問を投げかけ、彼らのノウハウを「型」に落とし込んでいきましょう。
- 「顧客から最初に聞くべきことは何ですか?」
- 「競合他社と比較された際、どう切り返しますか?」
- 「顧客が抱える本当の課題を見抜くには、どんな質問を投げかけますか?」
- 「商談を成功に導く上で、最も重要なポイントは何ですか?
(2) 営業ナレッジを「組織の共通資産」に変える
ヒアリングで得られた知見を以下の形で標準化します。
- トークスクリプト: 顧客の質問に対する標準的な回答例や、話すべき内容をまとめた台本。
- メール・チャットテンプレート: 問い合わせ、アポイント調整、フォローアップなど、シーン別に使える文例集。
- 商談化スクリーニングチェックリスト: 商談化すべきリードか否かを判断するためのチェックリスト。「企業規模」「担当者の役職」「問い合わせ内容の具体性」など、明確な項目を設定します。
- 技術・製品ナレッジベース: FAQ形式で製品や技術に関する情報をまとめ、インサイドセールスがいつでも参照できる状態にします。
これらの標準化されたナレッジを、マーケティング、インサイドセールス、フィールド営業が共有できるSFAなどのツールで一元管理します。
3. 外注・自動化とのハイブリッド活用
限られたインサイドセールス人材を最大限に活用するために、業務の「選択と集中」を行い、一部を外部に委託したり、ツールで自動化したりする戦略が必要です。
(1) 一部業務の外部委託
以下の業務は、外部のインサイドセールス代行会社に委託することを検討しましょう。
- 初期のリードスクリーニング: 名刺情報のデータ化や、大量のリードに対する一斉架電など、定型的な業務。
- コールセンター業務: ウェブサイトからの問い合わせや代表電話への一次対応など
これにより、社内のインサイドセールス担当者は、より高度なナーチャリングや、見込みの高いリードへのアプローチといったコア業務に集中できます。
(2) マーケティングオートメーション(MA)とSFAの徹底活用
MAとSFAを連携させることで、営業活動の多くを自動化・効率化できます。
- リードの行動履歴の自動収集: ウェブサイトの閲覧履歴、メールの開封・クリック状況、セミナー参加履歴などを自動でSFAに蓄積。
- 自動アラート通知: 特定の条件(例:製品ページの閲覧回数が3回以上、特定のダウンロード資料を閲覧したなど)を満たしたリードに対し、インサイドセールスや営業担当に自動で通知。
- 自動ナーチャリングメール配信: 顧客の行動履歴に応じて、適切なタイミングでメールを自動配信。
これらの仕組みを構築することで、「人が手動でやっていたこと」を「仕組みが自動でやってくれる」状態を作り出すことができます。
4.今日から始める実践ステップ
インサイドセールスを「失敗施策」に終わらせないために、マーケティング部門が今日からできる具体的なアクションを5つのステップにまとめました。
- 【現状把握】 マーケティング部門と営業部門の現状共有会を開催する。互いの課題や不満を率直に話し合い、共通のゴールを設定します。
- 【情報収集】 ベテラン営業への「ナレッジヒアリング」を始める。雑談形式で構わないので、彼らの仕事の「コツ」や「秘訣」を丁寧に聞き出します。
- 【プロトタイプ作成】 ヒアリングで得た知見を元に、最初のトークスクリプトやメールテンプレートを一つだけ作成する。完璧を求めず、まずは「たたき台」から始めましょう。
- 【スモールスタート】 作成したプロトタイプを一部のインサイドセールス担当者と営業担当に試してもらい、フィードバックを収集する。
- 【自動化の検討】 現在使用しているMA・SFAで、自動化できる業務を洗い出す。まずは簡単な自動アラート機能などから試してみましょう。
5.成功事例:部品メーカーA社の変革
部品メーカーA社は、インサイドセールスを内製化しましたが、商談創出数が増えないことに悩んでいました。マーケティング部長は、この状況を打開すべく、営業の上流プロセスを再設計することを決断しました。
まず、ベテラン営業への徹底的なヒアリングを実施。顧客が抱える課題を特定するための「ヒアリング質問リスト」と、製品の強みを効果的に伝える「トークスクリプト」を作成しました。
次に、リードの受け渡し基準を明確化。特定の製品ページを閲覧したリードはインサイドセールスを介さず、すぐに技術営業に引き渡す仕組みを構築。一方、業界トレンドのホワイトペーパーをダウンロードしたリードは、インサイドセールスが担当し、ナーチャリングに注力する体制を整えました。
結果、インサイドセールスは、本当に価値のある商談の創出に集中できるようになり、商談数は3ヶ月で1.5倍に増加。若手のインサイドセールス担当者も、型化されたナレッジを学ぶことで早期に戦力化し、組織全体の営業力が飛躍的に向上しました。
6.まとめ:
今こそ、マーケティング部が「営業の設計者」に進化する時
BtoB製造業における営業のブラックボックス化は、インサイドセールスの導入を阻む大きな要因でした。しかし、この課題を乗り越え、「人がいなくても回せる仕組み」を構築することは、企業にとって持続的な成長を実現するための重要な経営戦略です。
マーケティング部門がリード供給の役割に留まらず、インサイドセールスや営業と密に連携し、上流プロセス全体を設計する「営業の設計者」となることで、組織全体の営業力を根本から強化できます。
今回ご紹介した3つの再設計ポイントは、インサイドセールス人材が不足している状況でも、着実に成果を出すための実践的なアプローチです。
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