USP (ユニーク セリング ポジション)とは、顧客に対して「なぜ、この商品を買わなければいけないのか?」を理解してもらえるような、自社だけの特別な強みのことです。
例えば、以下のようなUSPは、商品の印象を人々の記憶に残し続けます。
- FedEx : 「絶対に、確実に一晩中到着しなければならない場合。」
- メトロポリタン ライフ: 「会いに来てください。お金はかかります。」
- サウスウエスト航空: 「当社は、THE 低運賃航空会社です。」
コモディティ化が激しい今のような時代、各プロダクトのUSPを見極めて、マーケティングに活用していくことは、より重要になっています。
本記事では、USPとは何か、USPを活用している事例、USPをマーケティングに活かすステップを解説していきます。
USP(ユニークセリングポジション)とは
USP(Unique Selling Position:ユニークセリングポジション)とは、1940年代前半に、米国のテレビ広告業界の気鋭のクリエイター、Rosser Reeves(ロッサー・リーヴス)氏が、提唱した概念です。
考え方と発展の背景
USPとは、自社あるいはそのプロダクトだけが持っており、他社がもっておらず、顧客が求めている価値のことを指します。
USPはコンセプトであり、マーケティングに使用する際はテキストや画像などに表現のスタイルは変化します。リーブス氏は、しばしば、USPをスローガンとして用いて多くのクライアントの広告効果を上げ、売上げに貢献しました。
例えば、売上げを3倍にした頭痛薬アナシンのCM 「早い、信じられないほど早い救援だ」や、M&M のCM「手でとろけるのではなく、口の中でとろける」などが有名な実績です。
(出典:YouTube)
1980年代になると、世界的なコンサルティングファームMcKinsey & Company(以下、マッキンゼー社)の研究者たちから、USPとほぼ同義の「バリュープロポジション」が提唱され、現在も経営やマーケティングに活用されています。
このことからも、USPが本質をついた普遍的なフレームワークであることがわかります。
(参考:adpulp.com/、Https://karolakarlson.com/advertising-rules/)
USP(ユニークセリングポジション)を活用してマーケティングしている例
SaaS業界はコモディティ化のスピードが速く、差別化が難しい業界のひとつです。特に上位ツールとなるといずれも高機能であり、ユーザーとしてもどれを選んでも問題ないような印象を持つでしょう。
そのような環境で、HubSpotがUSPをどのように活用してマーケティングを行っているのかを分析してみます。
HubSpot CRM、Salesforce、MicrosoftDynamics
HubSpotのCRMプラットフォームは、Marketing Hub、Service Hub、Sales Hub、CMS Hub、Operation Hubの5つのプロダクトで構成されています。単体でもカスタマイズして使うことができます。
HubSpot CRM

HubSpotがCRMを手がけたのは2015年と、この領域では後発ですが、TrustRadiusのMarket SHare of Top CRM Software in 2021では、シェア第4位につけています。1位、2位は「Salesforce」「Microsoft Dynamics」です。
上位2ツールとHubSpotのCRMをざっくり比較してみましょう。
ざっくりまとめると、以下のようになります。
- Salesforce:高機能、多機能、エコシステムが充実、大手企業のニーズのさまざまなニーズに応えられるカスタマイズ性、高価格、無料トライアル期間が1カ月
- MicrosoftDynamics:高機能、多機能、世界中の企業が使うOfficeと連携する強み、比較的高価格、無料トライアル期間が1カ月
- HubSpot CRM:有料版の機能は上記2社には劣るが、価格はリーズナブル。しかも、「完全に無料のCRMパッケージ」がある。直感的に使いやすい。
HubSpot CRMのUSPは?
正直、機能のみの比較では他の2ツールのほうが高度で、多機能で、拡張性に優れています。しかし、HubSpotのみが保有しており、競合ツールは持っておらず、顧客が欲しているUSPの要素に以下があります。
- 完全に無料のCRMを軸としたオールインワンのマーケティングプラットフォーム
- 直感的に使いやすい操作性があり、初心者のハードルが低い
- 有料プランも予算の少ないスモールビジネスに適した価格設定
マーケティングへの活用
HubSpotのマーケティングを見ると、1の「無料のCRM」をかなり強調しています。
Googleで何かしらCRMについて検索すると、しばしば表示されるのは以下のようなスポンサー広告です。
「まずは無料のHubSpot」「永久無料のHubSpot CRM」
タイトルは、無料CRMを強調しているものが多く見られます。
公式サイトのCRMページでも、有料版へのアップデートを強く推す雰囲気はあまりなく、無料CRMを強くアピールしており、「無料で気軽に始めよう」というスタンスです。説明ページでは、「無料」という言葉が、合計23回使われていました。
(出典:HubSpot)
YouTubeでも、公式サイト内でも、このような動画を展開しています。「無料CRMでできること」という、タイトルだけで、見込み客層は十分、強い関心を持つでしょう。
HubSpot の無料CRMについて、開発担当者は「広く適用できる「簡単な約束」という条件を満たしている」と表現しています。お客様との約束こそ、まさにUSPです。
また、無料CRMを提供するメリットとして、「よりスマートな見込み客への障壁を取り除く最も簡単な方法は、CRM を誰でも無料で利用できるようにすることでした」と語っています。このように、完全無料CRMというUSPは、HubSpotのデマンドジェネレーションを強力に促進するツールでもあります。
HubSpot Marketing Hub, Adobe Marketo Engage(旧Marketo), Marketing Cloud Account Engagement(旧Pardot)
次に、Marketing HubのUSPを見てみましょう。Marketing Hubとは、HubSpot CRM プラットフォームの一部として構築されている、マーケティング オートメーション ソフトウェアです。
(出典:HubSpot)
競合ツールにはAdobe、Salesforceなどがあります。元々、マーケティングソフトウェアからスタートしたHubSpotにとってはホームの市場であり、ブランド力も浸透しています。
3ツールの特徴を比較すると以下のとおり。
(参考:G2)
- Adobe Marketo Engage:強力なリードマネジメント機能を持つマーケティングソフトウェア。リードの管理、自動処理、コンテンツ、各種分析などアカウントベースドマーケティングの力を結集したソリューション。
- Marketing Cloud Account Engagement(旧Pardot):リードジェネレーション、リードナーチャリング、リードスコアリング、およびセールスとの協業に重点を置く。リードの管理や分析機能が豊富で、カスタマイズ性に優れる。
- HubSpot Marketing Hub:インバウンドに特化したオールインワンマーケティングプラットフォーム。BtoB、BtoCともに対応。多機能でありながら低コスト。無料ツールがある。
Marketing HubのUSPは?
この中で、HubSpotが持っていて他社が持っていない、かつ顧客が喜ぶUSPは以下です。
- インバウンドに特化したオールインワン マーケティング プラットフォームであること。トラフィックを増やし、リードを変換し、ROIを示すインバウンドマーケティング戦略を成功させるために必要な、すべての機能がある
- 無料ツール(期間限定なし)があること
USPの活用は?
各Serviceの単独ページでは、以下のように競合との比較記事を1社ずつ掲載しています。
具体的に「HubSpotとMarketoの比較」「HubSpotとPardotの製品比較」とツール名を出して、費用比較、機能比較、G2やガートナーなどの第3者の評価も記載し、HubSpotの費用対効果の良さや顧客満足度の高さを伝えています。多少機能に違いはあっても、どちらが特別に優れているとは言い切れないというスタンスです。
機能比較、価格比較、G2をはじめとしたレビューサイトの評価を見て、判断はユーザーに委ねています。
検索エンジン広告もこのような感じです。
ただし、説明ページではオールインワンであることと、使いやすさを強調しています。
(出典:HubSpot)
次に、Service HubのUSPを見てみましょう。
HubSpot Service Hub, ZenDesk, FresHdesk
HubSpot Service Hubは、カスタマーサービスソフトウェアであり、同じくCRMプラットフォームの一部を構成するプロダクトです。
(出典:HubSpot)
競合するのは、Zendesk、FresHdesk。3ツールの特徴は以下のとおり。
(参考:G2、HubSpot、Zendesk、Freshdesk)
- Zendesk:この領域の先駆者であり、多機能で柔軟性に優れたツール。ベストカスタマーサービス製品部門第1位のSaaS。14日間の無料期間。
- FresHdesk:小規模ビジネス向けの直感的で操作しやすいUI、多機能ながら柔軟な価格設定で顧客満足度が高い。21日間の無料期間あり。
- HubSpot Service Hub:カスタマーサポート、チケット管理、ライブチャット、FAQ管理、顧客満足度調査、チームコラボレーション、顧客情報管理などの機能を提供。無料ツールがある。
この領域では、競合の2社とも柔軟で使いやすく、比較的リーズナブルで、顧客満足度も高いツールを提供しており、HubSpotの強みとかぶる部分があります。
Service HubのUSPは?
- HubSpot Service Hubは、カスタマーサポートとチームコラボレーションに特化しておりオールインワンのプラットフォームであること。
- 期間限定なしの無料プランがあること。
USPの活用:
HubSpotが打ち出しているのは「統合機能」「スムーズなコラボレーション」「顧客体験」です。
公式サイトでは動画も活用。Service Hubを導入することで、全ての顧客データとコミュニケーションチャネルを一元的なCRMプラットフォーム上で管理できるようになると、顧客体験が向上することを伝えています。
「HubSpotとZendeskとの製品比較」「HubSpotとFresHdeskとの製品比較」ページでは、
このようなレビューを紹介しています。
さらに、2021 Customer Service Management Report(英語)においてService Hubが「Leader」および「Gold Medalist」として高く評価されたことを伝えています。
(参考:G2、HubSpot、Zendesk、Salesforce)
USP(ユニークセリングポジション)をマーケティングに活かすステップ
ここでは、USPをマーケティングに活かすステップを解説します。
ステップ1:USPを作成する
USPを作成します。USPは各プロダクトごとに異なるので、それぞれの領域で、自社がもっており、競合他社がもっておらず、顧客が求めていることを抽出しましょう。
以下のステップで進めます。具体的な作り方はこちらの記事をご参照ください。
- 競合企業の強みをリストアップする
- 自社の強みをリストアップする
- 顧客が求める価値をリストアップ
- 自社にあり、他社になく、顧客が求める要素をピックアップする
- 言語化する
- 完成させる
ステップ2:USPをマーケティングに活用する
次に、できたUSPを、製品のネーミングや広告のコピーなど、各種マーケティングに活用します。
USPの表現は、広告、動画、Webサイトなど使う場所のフォーマットに合わせて変化させることができます。広告なら短いキャッチコピー、Webサイトは多少長いテキストでも問題なく、動画なら映像で伝えることもできるでしょう。大切なのはコアのコンセプトを伝えることです。
- Webサイト:キャッチコピー、製品ページの箇条書き
- 広告:キャッチコピー 、検索エンジン広告のタイトル
- ブログ、動画:活用方法などのコンテンツ
- プロダクト:ネーミング
ステップ3:強いUSPを特定していく
企業のUSP、プロダクトのUSPは、一つだけでなく複数あります。ただし、マーケティングに活用する際は、一つのUSPを強調すると記憶に残りやすくなります。特に広告のように限られたスペースで発信する際は、この点に留意しましょう。
USPが、顧客の心にどの程度響くかは、実際に使ってみないとわからないため、活用しながら検証する必要があります。その上で強いUSPを特定していきます。
ステップ4:強力な USP は使い続け、そうでなければアップデート
強力なUSPを作ることができたら、使い続けることが大切です。USPはブランドを形成する要素。マーケティング活動を通じてUSPを強調し続けると、第一想起されるポジションになっていくでしょう。
また、もし当初、非常に効果があったUSPが徐々に今ひとつの反応になったり、市場や顧客のニーズが変化して、USPがUSPではなくなってしまったら、USPをアップデートしましょう。
(参考:Unique selling point-optimizely.com、Https://karolakarlson.com/advertising-rules/)
まとめ
USPはシンプルでありながら非常に実効的なフレームワークです。時代がどのように変わろうとも、マーケターが顧客に伝えるのは、「だからうちの商品を買う価値がある」というメッセージにほかなりません。
他社より特別すぐれている要素がないと感じる場合でも、多少なりとも他社より優れている要素を組み合わせることによって、自社なりのUSPの要素が浮かび上がってきます。
自社のプロダクトの価値を再認識したら、そのUSPに光をあてて、積極的にマーケティングプロモーションに使っていきましょう。