「既存顧客からの商談がなかなか生まれない」「カスタマーサクセスは顧客の課題を深く知っているはずなのに、なぜか営業貢献につながらない」
インサイドセールスの慢性的な人材不足が叫ばれる今、このような悩みを抱えるカスタマーサクセス部門のマネージャーの方は少なくないのではないでしょうか。
特に、新しい顧客の獲得を最優先とするインサイドセールスのチームは、既存顧客へのアプローチまで手が回らず、せっかくのアップセルやクロスセルの機会が埋もれてしまうケースが頻繁に発生しています。
「提案は営業の仕事」という固定観念にとらわれ、貴重な顧客との接点を"守り"の業務だけで終えてしまっては、大きな機会損失です。
しかし、これは同時に、カスタマーサクセスが自社の成長を牽引する主役となるチャンスでもあります。
本記事では、インサイドセールスが不足する時代だからこそ、カスタマーサクセスが攻めに転じ、自ら商談を生み出す組織へと進化するための具体的な設計方法を、明日から実践できるレベルで解説します。
目次
1. なぜ今、“商談を生む”カスタマーサクセスが求められるのか?
かつてのカスタマーサクセスは、顧客のオンボーディングや課題解決といった「守り」の役割が中心でした。しかし、SaaSビジネスが成熟し、プロダクト間の競争が激化する現代において、その役割は「売上貢献」へと明確にシフトしています。
経済産業省の調査でも、SaaS企業がLTV(顧客生涯価値)を最大化することが重要であると指摘されており、既存顧客からの収益拡大は事業成長の生命線です。
一方で、多くの企業がインサイドセールス人材の採用に苦戦しています。
- 新規顧客の獲得競争: 市場が拡大するほど、新規顧客を獲得するための競争は激化し、営業リソースは新規開拓に集中せざるを得ません。
- 既存顧客のニーズ多様化: 顧客の利用期間が長くなるにつれ、追加の機能ニーズや他部署への展開など、カスタマーサクセスが掴む情報がそのまま営業の起点になる局面が増加しています。
2. 【現場の課題】なぜ、せっかくの商談機会が埋もれてしまうのか?
「商談を生むカスタマーサクセス」を目指す上で、多くの企業が直面する課題があります。自社の状況と照らし合わせながら読み進めてみてください。
1. インサイドセールスが既存顧客に手が回らない
インサイドセールス部門が少人数体制の場合、新規案件の獲得を最優先とするため、どうしても既存顧客へのアプローチが後回しになりがちです。その結果、カスタマーサクセスがキャッチした顧客の潜在的なニーズや、追加提案の機会が埋もれてしまうことが多々あります。
2. 「提案は営業の仕事」という思い込み
多くのカスタマーサクセス担当者は、顧客の課題やニーズを深く理解しています。しかし、「提案は営業の仕事」という役割分担の意識が強く、その情報を営業に連携したり、自ら提案の糸口を探したりする行動が生まれにくい傾向にあります。これは、組織としての営業貢献の妨げになっています。
3. 営業との連携方法が曖昧で属人化している
「気づいた人が営業に報告する」という属人化された連携フローでは、情報連携のタイミングや質が担当者によってバラバラになります。これでは、せっかくの商談の種を拾い上げても、再現性やスケールに乏しく、組織全体としての成果につながりません。
3. マネージャーが設計すべき「攻めのカスタマーサクセス」
3つの設計ポイント
これらの課題を解決し、再現性高く商談を生み出すカスタマーサクセス組織を構築するには、マネージャー主導での組織設計が不可欠です。現場任せではなく、仕組みとして商談を生み出すための3つの設計ポイントを解説します。
1. 情報連携の仕組みを設計する
カスタマーサクセスが顧客との対話から得た商談の種を、営業チームに効果的に連携するための仕組みを構築します。
SFA/CRMでの情報可視化を徹底する
まずは、顧客との会話内容や利用状況を記録するSFA(Sales Force Automation)/CRM(Customer Relationship Management)を、営業貢献につながる「情報の宝庫」に変えることから始めます。
【記録すべき具体的な項目例】
- 顧客の基本情報: 担当部署、利用部門の人数、利用率など。
- 利用状況: ログイン頻度、利用機能、未利用機能、利用が進んでいない理由。
- 対話履歴: 顧客からの質問、ヒアリング内容、潜在的な課題、顕在化したニーズ。
- 商談トリガー: 別部署からの問い合わせ、他社製品との比較検討状況、既存機能の利用拡大、部門横断プロジェクトの立ち上げなど、アップセルやクロスセルにつながる明確なきっかけ。
これらの項目をSFA上でカスタマーサクセスが入力・更新することで、営業は必要な情報をいつでも確認でき、情報が埋もれるのを防ぎます。
トリガーベースの自動通知を設定する
ただ情報を記録するだけでなく、重要な情報が入力された際に自動で営業に通知する仕組みを導入します。
【具体的な設定例】
「商談トリガー」のチェックボックスにチェックが入った瞬間、SlackやTeamsに「【商談機会あり】○○社の△△様より××の追加利用について相談あり」といった通知が自動で送信されるように設定します。これにより、連携漏れがなくなり、営業はタイムリーにアクションを起こすことができます。
週次ミーティングの有効活用
カスタマーサクセスと営業のマネージャー、担当者間で定期的なミーティングを設け、商談の種になり得る情報を持ち寄る場を設けます。
【週次ミーティングの具体的なアジェンダ例】
- 営業からの情報共有: 既存顧客で進行中の大型案件や、今後提案予定の企業の情報共有。
- カスタマーサクセスからの情報共有: 「顧客からの生の声」の共有。
- 連携案件の進捗確認: 連携した商談のその後の進捗確認とフィードバック。
- 成功事例の共有: 最近連携して受注につながった事例の共有。
2. 行動を促す評価と教育の仕組みを設計する
「商談を生み出す」という新しい役割を浸透させるには、担当者の行動を後押しする評価制度と、必要なスキルを身につけるための教育が必要です。
KPI設定の見直し:行動を評価する
担当者の行動評価に「営業への接続件数」「アップセルトリガー発見数」といった新しいKPI(重要業績評価指標)を組み込みます。重要なのは、実際に提案した件数や受注金額ではなく、「連携につながった発見の質・量」を評価することです。
【KPI設定の考え方】
- 提案件数や受注額ではない理由: カスタマーサクセスは商談化の起点を作るのが役割であり、受注はフィールドセールスやインサイドセールスの担当領域です。そのため、カスタマーサクセスの評価指標に含めると、担当者のモチベーション低下につながる可能性があります。
- 「連携」を評価する理由: 「商談の種を見つけ、営業に連携する」という行動自体を評価することで、担当者は積極的に顧客との対話からヒントを探すようになります。
営業提案につながるナレッジを体系化する
「提案は営業の仕事」という思い込みを払拭するため、マネージャーが中心となり、営業貢献につながるスキルを体系化します。
【教育・ナレッジ設計の具体例】
- ヒアリングシートの作成: 「顧客の組織図」「利用部署以外の部署」「部門間の課題」「現在の予算」など、アップセルのきっかけを探るためのヒアリングシートを作成し、担当者全員が同じレベルで情報を引き出せるようにします。
- トークスクリプトの共有: 「製品の利用状況確認」から「潜在的な課題の深掘り」「他部署への展開」に繋げるためのトークスクリプトを共有します。
- 勉強会の開催: 営業や製品開発チームを巻き込み、製品の最新情報や、他社製品との比較優位性に関する勉強会を定期的に開催します。
3. 「攻めのカスタマーサクセス」文化を醸成する
最後に、マネージャーがリードして組織全体に「カスタマーサクセスも売上貢献にコミットするという文化を根付かせることが重要です。
成功事例の「ストーリー」を共有する
単なる連携件数ではなく、「どんな会話から始まり、どんな情報がきっかけで、誰に連携し、最終的にどうなったか」というストーリーとして成功事例をチーム全体に共有します。これにより、担当者は「自分もできるかも」と具体的にイメージでき、モチベーションが高まります。
部門横断的な連携を強化する
- ジョブローテーションの推進: 営業部門からカスタマーサクセス部門への異動、あるいはその逆のジョブローテーションを積極的に行うことで、お互いの役割理解が深まり、よりスムーズな連携が生まれます。
- 共同での顧客事例発表会: カスタマーサクセスと営業が共同で顧客事例発表会を開催し、成功体験を共有します。これにより、部門間の壁を取り払い、一体感を醸成します。
4. 【ケーススタディ】
「商談を生むカスタマーサクセス」の理想的な連携モデル
インサイドセールスとカスタマーサクセスの連携は、企業の組織体制によって最適な形が異なります。ここでは、代表的な2つのモデルをご紹介します。
モデルA:インサイドセールスが既存顧客も担当するモデル
このモデルは、インサイドセールスのリソースに余裕があり、既存顧客へのアプローチもインサイドセールスが担うケースです。
- カスタマーサクセスの役割: 顧客の利用状況を深く理解し、アップセル・クロスセルの「トリガーを発見する専門家」としての役割を担います。
- 連携フロー:
- カスタマーサクセスが顧客との対話でアップセル・クロスセルの「トリガー」を発見する。
- カスタマーサクセスがSFAに詳細を記録し、営業に連携する。
- インサイドセールス/フィールドセールスが顧客に提案し、商談を進める。
メリット:
- 役割分担が明確で、担当者が自分のミッションに集中できる。
- 営業が商談に集中できるため、受注率を高めやすい。
デメリット:
- インサイドセールスが新規開拓に忙しい場合、既存顧客へのアプローチが後回しになりやすい。
モデルB:カスタマーサクセスが既存顧客をすべて担当するモデル
このモデルは、インサイドセールスが新規開拓に特化し、既存顧客へのアップセル・クロスセルはすべてカスタマーサクセスが起点となるケースです。
- カスタマーサクセスの役割: 顧客の「拡張提案の推進役」としての役割を担います。単にトリガーを発見するだけでなく、簡単な提案や他部署へのヒアリングも自ら行います。
- 連携フロー:
- カスタマーサクセスが顧客との対話でアップセル・クロスセルの「トリガー」を発見する。
- カスタマーサクセスが顧客の課題やニーズをさらに深掘りし、簡易的な提案を行う。
- 顧客が前向きに検討段階に入ったタイミングで、インサイドセールス/フィールドセールスに引き継ぎ、商談を進める。
メリット:
- 営業リソースを新規開拓に集中できる。
- 顧客との関係性が深いカスタマーサクセスが提案することで、顧客は安心して話を進めやすい。
デメリット:
- カスタマーサクセス担当者に、提案や営業に関する知識が求められる。
あなたのチームの状況に合わせて、最適なモデルを検討してみてください。
5. まとめ:
インサイドセールス不足は、カスタマーサクセスが主役になるチャンス
インサイドセールスの人材不足は、企業にとっての課題であると同時に、カスタマーサクセスが自社の存在意義を高め、事業の成長を牽引するチャンスでもあります。
「提案は営業の仕事」という固定観念を捨て、顧客との対話から得られる情報を組織の財産として活かし、自ら商談の糸口を創出する。 この新しい役割を担うカスタマーサクセス組織を構築できるかどうかが、今後のSaaSビジネスの競争力を大きく左右するでしょう。
本記事でご紹介した3つの設計ポイントを参考に、ぜひあなたのチームでも「商談を生み出すカスタマーサクセス」への変革を始めてみてください。
ビズブーストでは、インサイドセールスとカスタマーサクセスが連携し、既存顧客からの収益を最大化するための組織設計や体制構築を支援しています。
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